第538話 司書



 3機のメイドを手に入れた俺は、そのまま2階を探索。

 

 白兎達がざっとお浚いしているが、機械種だけだと蒼石やスキルを入れる為の翠石を認識することができないから、どうしても取りこぼしが出てしまう。

 故に、人間である俺が青石や翠石がありそうな場所を見て回るのだ。

 

 通常、蒼石や翠石は木箱に仕舞われていたり、封灰布に包まれていることが多い。

 また、貴重な品であることから金庫や棚の奥に隠されていたりする。


 そういった場所を白兎達がある程度目星をつけてくれており、俺はその確認をするだけだ。




 結果、見つけた蒼石や翠石の数々。


 蒼石は準2級が2個、3級が1個、4級が3個。


 ちなみに現在の俺の手持ちの蒼石は準1級が1個、2級が3個、3級が1個。


 バランス良く集まってきたのだが、今のところ使う予定なのが、機械種エルダードラゴンロード(準1級)に、ボノフさんに修理を依頼している四鬼(準2級)。


 ( )内が適正級だから四鬼を適正級でブルーオーダーするには準2級が2個足らない。

 かといって、ワンランク上の2級を使うのも勿体無い。

 

 その下の3級が2個あるから3割チャレンジしても良いのだが………


 

 

 翠石の方は大量だった。


 【剣術】『大剣術』『長剣術』『細剣術』『二刀流』等の剣術シリーズ。

 【射撃】『小型銃射撃』『中型銃射撃』『大型銃射撃』等の射撃シリーズ。

 【近接格闘】『拳術』『蹴撃術』『組締術』『投倒術』等の徒手戦闘シリーズ。

 

 計14個。

 しかも全てが上級。

 それぞれが一つの箱に1つずつまとめられていたのだ。

 これだけでもう一財産と言えるほど。


 ちなみに【 】が言わば総合スキルで、『 』が専門スキルと呼ばれているモノだ。


 基本的には総合スキルの方が上位。

 例えば、【剣術】スキルであれば長剣、短剣、大剣、細剣等の種類を問わないが、『大剣術』スキルだけだと大剣だけしか扱えない。

 では、専門スキルが完全に下位互換かと言われるとそうでもない。


 【剣術】スキルを持つ機種に『大剣術』スキルを入れると、大剣の扱い方が上手くなる。

 だから総合スキルに追加して細分化された専門スキルを入れることにより、機械種の強化につなげることができるのだ。

 もちろん等級が上であればある程、その効果も大きくなる。


 スキル枠に余裕があるなら入れておいて損の無いスキルと言えよう。



 また、知識系スキルも大量。


 『戦術』『戦略』『指揮』『輜重』等の軍事系スキル。

 『護衛』『指導』『交渉』『管理』等の社会系スキル。

 『医学』『生理学』『植物学』『心理学』等の学術系スキル。

 

 計12個。

 これも全て上級。



 『戦術』スキルは言うまでも無い。

 これが無いと戦闘時の連携にすら影響が出るほど。


 『指揮』スキルは戦場において部下を率いるなら欠かせないモノ。


 『戦略』、『輜重』は猟兵団ぐらいの規模でないとなかなか出番が無いが、いずれ必要になるかもしれない。


 『護衛』スキルの上級は珍しい。

 これを入れておけば、マスターが危ないと言う理由だけで先制攻撃を行うことができるだろう。

 

 また、『指導』や『交渉』、『管理』なども地味ではあるが役に立つ。


 『医学』、『生理学』といったスキルは俺の知識には無いモノだ。

 名前から医者の真似事でもできるのだろうか?


 『心理学』は人間の心に精通するスキル。

 人々と密接に関わるのであれば、入れておいて損は無い。


 『植物学』というのも聞いたことが無いスキル。

 植物はこの世界で唯一の人間以外の生き物だ。

 持っていれば何かの役に立つことがあるかもしれない。

 

 

 

 あと、制御系スキルの翠石も見つかった。


 『燃焼制御』『冷却制御』『発電制御』の基本制御系。

 『生成制御』『錬成制御』の物質制御系。


 計5つ。

 もちろん全て上級。

 

 メンバーにはマテリアル機器を持つものの、制御スキルが低い面子もいる。

 例えば、急成長した天琉がその筆頭とも言えよう。

 これ等のスキルを入れることで、それぞれのマテリアル術のコントロール精度を上げることができる。

 

 他のスキルとともに、メンバー強化に役立ってくれるのは間違いない。


 

 

「よし! こんなものだな」



 この遺跡にあるモノは、ほとんど回収できた。

 次にこの遺跡に訪れた者が、落胆のあまり涙する光景が目の裏に浮かんでくるほど。


 

「しかし、武器の類がほとんどなかったな」



 手に入ったのは生活に潤いを出す為の贅沢品がほとんど。

 即戦力増加につながるような銃や近接武器など武器が全くと言ってよいほど見つからない。


 まあ、この城の遺跡は『軍事施設』ではなく、『貴人の住居』と言うべきものだ。

 お宝の傾向的に贅沢品に偏るのは当然とも言える。

 もちろん、この遺跡のどこかに隠されている可能性はあるけれど。



「防具は幾つか見つかったけど…………」



 貴人の住居だけに、装飾品の形をした人間用の携帯バリア発生装置を3つ発見。


 指輪とネックレスと腕輪。

 どれも美術品としてだけでも価値があるだろう品々。



「白露に渡すなら、これがベストだろうな」



 身を守る品は幾つあっても困らない。

 

 問題はこれのどれかにするべきかなのだが…………

 


「指輪は地雷だな。俺は良く知っているんだ」



 実にありがちなパターン。

 これ以上、誤解を深めてどうする。



「無難にネックレスにしておこうか」



 このネックレスは白露に進呈することに決定。

 できればあともう1個くらいは用意してあげたいところだな。



「残りの2つは…………」



 残ったのは指輪と腕輪。

 フリーサイズなのであるが、あくまで人間用のモノ。


 こういった発掘品の自動でバリアを発生するような機器は、機械種と相性が悪い。

 機械種自身の晶脳と連動している訳ではないから、相互に干渉し合って思うような効果を発揮しないことがあるらしい。

 特に高位機種になればなるほど、自身の防御反応と噛み合わず、逆効果になることの方が多いと言う。



「腕輪は俺が装備しよう」



 流石に空間攻撃には効果が無いだろうから、実質役に立ちそうにない。

 だが、俺の無敵っぷりを隠す為にはちょうど良いカモフラージュとなる。


 自動浮遊盾と組み合わせれば、対人相手であれば鉄壁とも言える防御陣を形成できる。

 人の目から俺の秘密を守る為には、こういった工作も必要であろう。


 残りの指輪はとりあえず保管しておくことにするか。

 



「さて、あとは回収し損ねたモノが無いかどうかを調べないと。多分、隠し部屋とか絶対にあるだろうし…………」



 独り言を呟きつつ、部屋の隅に並ぶ従属させたばかりのメイド3機へと視線を向ける。



「お前達にこの遺跡の情報は無いんだな?」


「はい、申し訳ありません、ドラ」

「遺跡の中であるということしか分からないガオ」

「マスターのお役に立てず、申し訳ない……チュン」


「ぐっ!……………」


  

 聞く度に心にさざ波が立つ。

 美しく可憐なメイド達であるがゆえに、その口から漏れるフザケタ語尾の違和感が半端ない。


 イカン、イカン。

 彼女等を責めても仕方がない。

 悪いのはこんな設定をした白の民なのだ。



「ふう……………、この遺跡にまだ調べていない所があるのなら…………」



 普通であれば、何日、何週間と滞在して隅から隅まで調べ尽くすのが遺跡探索だ。

 白の民によって巧妙に隠されたギミックは、一度調べただけでは見つけられないことが多い。

 故に遺跡探索は長期戦になりがちであり、人手と時間をかけて探索を続けていくのがセオリー。


 だが、俺の超常の力を以ってすれば、一瞬でこの遺跡の全てを暴くことができる。



 七宝袋から取り出すのは、青みがかった1冊の本。

 これぞ、中国戦国時代の思想書『墨子』を元ネタとする俺の宝貝。



「『宝貝 墨子』よ! この遺跡を解析せよ!」



 あらゆる建造物を解析する調査型の宝貝。

 建物から地下のダンジョンまで洗いざらい調べ上げる。

 いわば完全自動マッピングデータ作製機。

 この宝貝の前には隠し部屋だろうが、迷宮だろうが全てが丸裸。



「…………………やっぱり隠し部屋があるな。しかも地下室」



 皆と一緒に1階へと降りて通路を進み、建物の内側にある中庭に出る。


 何百年も手入れをしていない割には整っているように見える。

 誰も水をやっていないにも関わらず、芝生は青く茂り、草木が並ぶ庭園。

 

 雨が定期的に振るエリアなのか、それとも地下水の関係だろうか?



「この辺りなんだけど……………」



 脳裏に浮かぶ地図にはこの下に教室2つ分程の地下室が描かれている。

 ただし、入り口とはっきり分かるのようなモノは見当たらない。

 

 何かにスイッチで壁や天井が開閉するような仕組みであれば、墨子だけでは見抜くのは難しい。

 力尽くで地面に大穴を開けるのは簡単だが、その場合下手をすれば地下にあるお宝にまで被害が及ぶ可能性がある。


 地下室がある以上、必ずどこかに入り口があるはずだ。

 それを調べようとするなら、この遺跡中を探してその手がかりを見つけないといけないのかもしれないが…………


 しかし、俺にはこういった時の為に役立つ宝貝がある。 


 墨子を七宝袋へと収納し、代わりに取り出したのは2対の葉の形をした銀細工。



「『宝貝 掌中目』よ! 隠されたモノを暴き立てろ!」



 元は天地を見通す千里眼の一種。

 両手で握れば隠されたモノを見つけ出し、片方ずつ持てば離れても通信機として使える能力を秘めた宝貝。


 今は両手で一つずつ持ち、この庭に隠されているモノを強制的に暴く天の目として利用。

 


「そこだ。白兎!」



 俺の目に輝いて見える地面の一点。

 『宝貝 掌中目』によって暴かれたモノ。


 その場所を指差し、白兎へと命令。



 ピョンッ!!



 すぐさま俺が指差した地点へと駆け寄り、ガッガッガッ!と前脚の爪を立てて地面を掘り返し始める。

 10秒も経たないうちに、数メートル地面を掘り抜き、


 

 カチッ!



 と音がしたかと思うと、



 ドドドドドドドド………



 地響きと共に現れる地下への扉。

 地面が左右に割れて2m近い金属製の扉が出現。

 ただし、白兎が掘った穴の近くではなく、庭園の隅の方。



 ピコピコ


 白兎が掘った穴からピョンと顔を出し耳をフリフリ。


 どうやら、堀り進めた穴の底にボタンがあったので押してみたそうだ。



「地下への道を開くボタンと、実際の入り口が離れているのか。これは分かりにくい…………」



 おそらく扉の方を先に見つけても簡単には開かないのであろう。

 力尽くで開けようとすれば、何かしらの仕掛けが作動したかもしれない。



「胡狛!」


「はい、お任せください」



 地面から露われた扉に近づき、罠を調べる胡狛。

 ストロングタイプの罠師系、トラップミストレスを持つ胡狛であれば、どのような罠であっても発見、解除することができる。



「強引に開けようとすると地下室が爆発する仕組みのようです。ハクトさんが開閉ボタンを押しましたので、もうその心配はありません」



 胡狛は一分少々で詳細を見抜き、俺へと報告。

 どうやら先に扉を見つけていたら、危ないところであった。



 ギイィィィィ



 扉が開き、その奥に地下への通路が現れる。


 これぞ隠し部屋。

 この奥に遺跡にあった調度品を越えるお宝があるに違いない。



「森羅、お前はメイド達とここで待機。念のために見張りをしておいてくれ」


「承知致しました」


「残りでこの奥へと進むぞ」



 白兎、秘彗、毘燭、剣風、胡狛の5機を連れ、隠されていた地下室へと侵入。


 白の遺跡だけあって、壁や天井自体が薄く輝き、部屋中を照らしてくれている。

 どうやらそこまで広くない造り。


 はてさて、いったいここにどんなお宝が…………


 期待に胸を弾ませながら、部屋の奥へと進み、 


 その奥にあったモノは…………


 



「これは……………白式晶脳器か!」




 

 部屋の奥にデン!と置かれた白い筐体。

 白の遺跡から稀に見つかるパソコンに似た機能を持つ晶脳器。

 白色文明時代の情報を引き出すことのできるデータベース。

 ストロングタイプに職業を追加することのできる転職神殿。

 


「これで見つけたのは3度目か…………」



 1度目は天琉と豪魔を見つけた堕ちた街の地下で発見。

 その時は何なのかが分からずにそのまま放置。

 

 2度目はエンジュとユティアさんの旅の途中で発見した白の遺跡の隠し部屋。

 ユティアさんが操作してくれて、ここを含めた遺跡の地図データを抜き出してくれた。


 そして、俺の目の前に現れた3つ目の白式晶脳器。


 これを十全に扱うことができれば、この世界の秘密を知ることができる。

 さらには俺のメンバーである秘彗を始めとするストロングタイプを強化することも……………



 ただし、それには『司書』のスキルとそれを十分に活かせることのできる知力に優れた機械種が必要。

 中央ではストロングタイプの学者系に『司書』のスキルを入れて白式晶脳器を扱わせていると言う。



「まだコイツを誰に入れるのか決めてないんだよなあ………」



 七宝袋から『司書』のスキルが入った翠石を取り出し、手の平の上に置く。


 

 これは行き止まりの街で、チームトルネラのボスから別れ際に貰ったモノだ。

 

 下位スキルである『司書補』ならそれなりに市場に出回っているが、『司書』は非常に貴重な品で大きな街でのオークションぐらいしか手に入る術は無い。

 

 ちなみに『司書補』は機械種が晶脳器を扱うことができるようになるスキル。

 機械種はこのスキルを入れないと晶脳器を操作することができないのだ。

 


「………………折角見つけたのだから、この場で職業を追加したいんだけどなあ」



 知力に優れた機種なら秘彗に胡狛、毘燭達がいる。


 だが、3機ともストロングタイプ。 

 いずれ白式晶脳器で職業を追加する予定…………というか、この場で行うかもしれない。


 しかし、『司書』スキルが一つしかない以上、入れてしまったメンバーは職業が追加できなくなる。

 自分で自分への職業追加ができないから。

 となるとストロングタイプの全員は対象から外れてしまう。


 森羅だと格が足りず、豪魔や輝煉は大きさ的に不可能。

 白式晶脳器で情報を引き出すことを考えれば、ギギギとしかしゃべられない浮楽は不適格。


 ベリアルは…………ちょっと危なっかしくて任せられない。

 何をするか分からないし、引き出した情報を改ざんしかねない怖さがある。


 ヨシツネは…………間違いなくアイツの苦手な分野だ。

 パソコンデスクの前に座ってポチポチやっている姿が想像できない。

 

 どうしてもというと白兎になるのだろうが、アイツの手………というか前脚ではキーボードが…………


 いや………アイツ、裁縫とか器用に仕上げるし…………

 そもそも機械種整備だってやってのけるし…………

 でも、あんまり白兎に役割を集中させるのも…………

 

 

「主様、どうなされましたかな?」


「んん? 毘燭か。このスキルを誰に入れるのかを考えてた」



 翠石を手の平の上で転がしならが、毘燭へと見せる。



「ほう? 拙僧には認識できませんが、ひょっとして『司書』スキルが入った翠石ですかな?」


「ああ、そうだ……………、そうか、お前には見えるわけないか」



 先ほどの2階の探索でもそうだが、機械種は翠石を認識できない。

 これはこの世界のルール。



「随分と貴重な翠石をお持ちですな。流石はマスター」


「ははは、手に入れられたのは偶然だけどな。昔、世話になった人………、じゃない、機械種ドワーフから貰ったんだ」


「……………ふむ? 翠石が認識できないはずの機械種から渡されたと? これまた不思議な話ですな」


「………………あれ?」



 思わぬところから飛んできた毘燭の指摘より、思い出される過去のシーン。


 確かにチームトルネラのボスは、直接手渡して『司書』スキルの入った翠石を渡してきた。

 

 その時は特に違和感を感じなかったが……………


 

「あれ? あれ?」



 さらに思い出していけば、俺がその時に寄付した機械種キマイラの晶石。


 チームトルネラのボスは驚きながらも、それを両手で受け取っていたはず。 


 機械種ドワーフの源種であり、数十年もの間、チームトルネラを守ってきた守護神。

 聞けば、チームを創設した初代トルネラが連れていた従属機械種だと言う。


 いかに長年稼働し続けた機械種であっても、白色文明時代に造られた源種であっても、晶石や翠石を認識できるわけがない。


 少なくとも、例外があるなんて聞いたことが無い。

 

 これは一体どういうことなのであろうか?


 何かボスには秘密があるのだろうか?


 そう言えば、ボスのスキル構成は秘密ということで結局知ることができなかった。

 もしかしたら、この『司書』スキルのように晶石や翠石を認識できるようなスキルがあるとか……………



 

「マスター?」


「………………いや、何でもない」



 少しばかり混乱したが、今考えても仕方がないことに気づき、一度思考をリセット。


 毘燭の問いかけに軽く手を振りながら返事。



 まあ、いずれ行き止まりの街に里帰りした時にでも聞けば良いか。


 今は俺の目の前にある白式晶脳器と『司書』スキルを誰に入れるのかが重要だ。


 どうしても知りたければ打神鞭の占いで調べることもできるし………


 

「あ…………、そうだ。打神鞭の占いで誰に『司書』スキルを入れたら良いのかを聞けばいいか」



 俺がそう独り言を呟いた途端、



「ひっ!」



 秘彗が小さく悲鳴を上げて泣きそうな表情に、

 胡狛もやや眉を顰めて緊張気味、

 剣風は特に反応を見せず、

 毘燭は『ほう?』と興味深そうに呟いた。


 

「さて、打神鞭。この『司書』スキルを扱うのに最も適したメンバーは誰だ?」


 

 七宝袋から打神鞭を引き抜いて占いを行使。


 白兎が耳を楽し気に揺らしながら占いの様子を見つめる中、今回執り行わねばならない占い方法は………………





『西瓜割り』だった。





「…………………なぜに?」


『さあ? 』



 自分はただ決められたことを言っただけとばかりの打神鞭の答え。


 

「西瓜って……………、スイカブロックのことか?」


『スイカブロックで西瓜割りはできないでしょ』


「……………………ぐっ!」



 分かってはいるが、コイツに正論で言い返されると、めっちゃ腹が立つ。



「どうやって西瓜を用意するんだよ!」


『え~、知恵と勇気?』



 手にした打神鞭に詰め寄ると、フザケタ答えを返してきやがるった。



「この野郎…………、それは俺が一番持っていないモノだって知ってるだろ!」


『じゃあ、【闘神】と【仙術】で』


「………………闘神はともかく、仙術でか……………」



 西瓜を生み出す仙術……………


 流石にそれは聞いたことが無い。


 だが、幾つかの条件を組み合わせれば…………



 思い出すのは行き止まりの街を出た直後に遭遇した緋王バルドル戦。


 何物をも通さない無敵の身体を貫くのに使ったヤドリギの矢。


 それは俺の現代物資召喚で呼び出したプリザードフラワーを五行の術で変化させたモノだ。


 西瓜そのものは呼び出せなくても、それに近いモノがあれば変化させることができるはず。


 ならば、俺の部屋に持ち込んだことがあるモノを呼び出すことができる現代物資召喚で…………




 胸ポケットに指を突っ込み呼び出すのは、スーパーなどで野菜果物コーナーで並んでいるカットフルーツ。


 人差し指が突き刺さった状態で出てきたカットされた西瓜を前に口訣を唱える。



「よし! これを…………、『木行を以って命ずる。西瓜の欠片よ。復元せよ』!」


 

 5cm程の大きさしかなかったカットされた西瓜はみるみるうちに膨らんで、元の緑の黒の縞模様を取り戻す。

 

 直径40cm程のまん丸い西瓜。

 これなら西瓜割りにもばっちり。



「ふう………………」



 自分で復元させた瑞々しい西瓜を見ながらため息。


 戦闘では役に立たないものの、こういった意外な使い方ができるから、五行の術も馬鹿にはできない。

 最近は頼りになる仲間がいるせいで、あまり仙術について深く考察していないが、突き詰めればもっと色々なことができるかもしれない。


 まあ、今は他に優先するべきことが多すぎてそこまで手が回らないけれど。


 

「…………で、誰が西瓜割りをやるんだ?」



 自分の成果を手に、打神鞭に問いかける。


 すると、返ってきた答えは、





 


 

 

 ピコピコ

『剣風! 右斜め前だよ! …………行き過ぎ行き過ぎ!』


「ケンプウさん! もっと左です!」


「もうちょっとだけ前へ!」


「半歩踏み出しなされ、そして、そこから2歩進んで………」


「違う! もっと左………、ああ、また西瓜が動いた!」




 白色文明の遺産。

 失われた技術が残る白の遺跡に隠されていた地下室。


 その中で行われている奇妙な儀式。

 見る人が見れば分かる『西瓜割り』。


 白の遺跡を人生を賭けて追い求めている狩人達が見たら激怒するだろう状況。


 やっている俺達も全く以ってやるせなくなってくるのだが、それでも必要とあらばやらなくてはならない。



 パタパタ

『前へ、前へ進んで!』


「もう少し、もう少しだけ前に!」


「右です、右に9…………ぐっ!、数字は駄目でしたね。では、ゆっくりと右に振り返りながら…………」


「やや! また動きましたな。ケンプウ殿! 後ろに下がってくだされ!」


「剣風! 空振ったフリをして打神鞭を思いっきり地面に叩きつけてやれ! 俺が許す!」



 今回の犠牲者は剣風。

 手には打神鞭を持ち、ご丁寧に手拭で顔をグルグル巻きにされた状態。

 10m程先に置かれた西瓜を目隠しした状態で叩き割るのが今回の占い方法。



 

 なんで、ストロングタイプを4機も揃えて、西瓜割りをこんなに真剣にやらなきゃならないんだよ!


 打神鞭め! こういう時だけ訳の分からない『力』を使いやがって!




 剣風が通常の状態であれば、たとえ目隠しされていようが1秒以内で床に置かれた西瓜を叩き割っていただろう。

 しかし、手に持たされた打神鞭が剣風の聴覚以外の知覚を極限にまで制限しているそうなのだ。


 さらには剣風へと情報を伝える俺達にも制限が課せられている


 まず、1人が連続して声をかけてはならない。

 聴覚以外を封じられた剣風への指示は俺達1人ずつ順番に行わねばならない。


 そして、具体的な数字で伝えるのは不可。

 機械種なら視覚でミリ単位の距離を測ることができるから。

 1歩、2歩とかなら許容範囲らしいのだが、34cmとか、角度92度とかは制限に引っかかってしまう。


 これ等は打神鞭が行使した仙術によって強制的に制限された。

 制限を無視して口に出そうとしてもできないのだ。

 これは俺や白兎を含めた全員が。


 そう。

 白兎のボディランゲージも制限されているのだ。

 

 コイツの意味不明な伝達方法は俺でも理解できないと言うのに!


 全く以って腹の立つ打神鞭の無駄な力の使い方。


 普段、怠けまくっている癖に、こういう意味の無いイベントだけ全力で取り組みやがって……………


 コイツの性格の悪さは折り紙付きだ!

 他の宝貝は皆良い奴ばかりなのに、なぜコイツだけこんなに性格が悪いのか!



「また、動いた。あと少しだったのに!」



 おまけになぜか床に置かれた西瓜は一定時間で動くのだ。

 これも打神鞭の仕業。

 だからゆっくり時間をかけることすらできない。

 


「あああ!! クソッ! あとで絶対に痛い目にあわせてやるからな!」




 そうして、俺達は30分間という長く不毛な時間を消費しながら西瓜割りを達成。

 剣風が持つ打神鞭が床に置かれた西瓜を叩き割った。



 そして、真っ二つに割られた西瓜の中から出てきた紙1枚。



 そこに書かれていたのは



 『廻斗』



 であった。



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