第464話 取引3



「おお! そなたであったか! 白ウサギの騎士、ヒロ!」


「…………また会いましたね」



 俺が会うのを了承すると、すぐに部屋に入ってきた17,8歳の青年が1人。

 そして、護衛のストロングタイプの剣士系、機械種ソードマスター。

 また、その後ろに2人の侍従らしき男が控えている。


 どうやら扉の前で待ち構えていたようだ。

 秘彗が察知していたのはコイツ等あろう。

 道理でスネイルが後ろを気にしていたはずだ。



「えっと……『指揮者(コンダクター)』のレオンハルトさん」



 交流会で出会った、征海連合所属の狩人。

 アルス達とアスリン達の揉め事を、見事に仲裁してのけた傑物。

 17.8歳程の若さで、いかにも才気煥発といった感じ。

 容姿にも優れ、自信に満ち溢れた、アルスとは別の意味で俺とは正反対の人物。

 


「レオンハルトで良い。私も君のことをヒロと呼ぶからな。ははははははっ」



 そう言って鷹揚に笑う様は、上流階級、且つ、金持ちの余裕を感じさせる。

 噂では征海連合の超エリートで、トップ層の一族出身であると聞いている。

 確かにこのレオンハルトであれば、超貴重品『銀晶石』を持っているのも頷ける。



「ん? そちらの女性はヒロの付き添いの方か?」


「ああ、今回、ここに連れてきてもらったんだ。藍染屋のボノフさんだよ」


「おお! この街で唯一の独立した女性の藍染屋として有名な!」


「そこはこの街でも腕利きの! って言ってもらいたいね、ハンサムさん」


「これは失礼しました、マダム。私は征海連合所属のレオンハルトと申します。貴方のお噂はかねがね………」


「ふんっ! どうせ、そっちの傘下にいる藍染から聞いた噂だろう? ロクな噂じゃなさそうだ」



 軽くお互いの面子を紹介し合う。

 と言っても、レオンハルト側は自分だけで、後ろの侍従は紹介しようとする素振りさえ見せない。

 また侍従達もこの場にいないように振る舞ってる。

 多分、それが上流階級でのマナーなのだろうな。


 俺としては、侍従はともかく、護衛の機械種ソードマスターとは交流してみたかったけど……… 



 ピョンピョン



 とか思っていたら、白兎が床をピョンピョン跳ねながら、俺の前に出てきて、レオンハルトに挨拶。



 ピコピコ


 

「おおっ、其方はヒロが連れていた機械種ラビットであるな? 先日の交流会での雄姿は主に引けを取らぬ程見事であったぞ」



 パタパタ



「はははははっ、なかなかに良い反応だな。流石は白ウサギの騎士の相棒だけはある! 私の名付けに間違いはないようだ!」



 レオンハルトの賛辞に、白兎は気を良くして耳をパタパタ。

 わざわざ挨拶しに前に出てくるあたり、白兎は随分とレオンハルトのことを気にいっているようだ。

 


 そう言えば、お前のせいでもあるんだよな。

 白ウサギの騎士の二つ名を広めやがったのは。

 白兎が喜んでいるから、俺も面と向かって文句を言うつもりはないが。

 


「おや? その後ろにいるのは………ヒロの従属機械種か?」


「え………、ああ、俺のだ。紹介するよ」



 レオンハルトは目聡く後ろにいる森羅と秘彗に気づいた様子。

 

 なら、この機会に紹介して、俺もレオンハルトの機械種ソードマスターを紹介してもらうとするか。



「こっちが機械種エルフロードの森羅。そして、こっちがストロングタイプ、機械種ミスティックウィッチの秘彗だ」



 俺に紹介されて、森羅と秘彗はレオンハルトに向かって軽く頭を下げる。

 

 やや固い様子なのは、レオンハルトの背後にいる機械種ソードマスターを警戒してのことだろう。


 向こうも自然体で突っ立っているように見えるが、右手がいつでも剣を引き抜ける位置に置かれている。

 また、万が一の時は、一瞬でマスターの前に飛びだせるような体勢を維持。

 

 お互い初対面であるし、こちらの秘彗とは実力も伯仲。

 マスターの身の安全を一番に考える機械種であれば当然のこと。



「…………なるほど。ヒロは槍の腕だけではなく、従属させている機械種も一流か。まさかストロングタイプの魔術師系とはな」


 

 レオンハルトの目の光に鋭さが混じる。

 先ほどまで鷹揚に構えていた雰囲気に少しだけ剣呑さが滲み出てきた。


 自分と同じストロングタイプを従属させていることに、ライバル心が芽生えたのかもしれない。

 お互いに獲物がかち合う可能性がある狩人なのであるから、こういった反応も仕方がない。

 

 


「………ふむ、やはり、銀晶石と引き換えにしても赭娼を手に入れたのは正解であったな」



 レオンハルトが漏らした独り言。

 自分の選択に間違いが無いことを確認したようだが、その言葉に少し疑問が湧いたので尋ねてみる。



「一つ聞いていいか? なんで銀晶石を手放したんだ? 価値から言えば、多分、レオンハルトの方が損をしているんじゃないか?」



 従属させている機械種に使えば、その能力を2、3割増しにできる銀晶石。

 俺ならさっさと使っていただろうし、たとえ今使わなくても絶対に使う時が来るまで保管していたと思う。


 赭娼は貴重とはいえ、さらに貴重品である銀晶石と引き換えにしても手に入れる必要があったのであろうか?



「うむ、そんなことか。それは、一言で言えば君とアルス達のせいだな」



 俺の質問に、レオンハルトは苦笑しながら答えてくれた。



「私と同期、さらには私より年下の若者が赭娼の巣を一踏一破したのだ。負けてられんと思うのは当然であろう。私に必要なのは、今の戦力を2,3割増しにすることではない。目指す所は倍以上なのだよ………リスクはあるがね」


 

 なるほど。

 そこの機械種ソードマスターに使っても、100が120~130になるだけだ。

 しかし、赭娼を丸ごとに手に入れられたのなら、200にも300にもなる可能性がある。

 将来のことより、今の戦力の早期拡大を目指したと言うことか。



「それに滅多に見ない女性型。ブルーオーダーすればさぞかし美しい姿を見せてくれるに違いない。造形の美しい機種を傍に置きたいというのは、男であれば自然なことだと思うがね」


「でも、多分、頭は蛇だぞ」


「顔が美しければ問題あるまい。それにあの見事なボディラインを前にしたらつまらない些事だな。大きな胸はそれだけで様々な欠点を吹き飛ばす」



 指で前髪をピンッと弾きながら、『フッ……』と気障な感じで笑みを浮かべるレオンハルト。


 カッコつけているみたいだが、そんなセリフを口にしながらでは、全く似合ってないぞ!


 だが、レオンハルトは気にする様子も見せず、さらに持論を展開。



「君も見ただろう? あの横たわりながらも形崩れしない見事な双丘。まさしく男であれば一度は辿り着きたいと思う天の頂であろう。そして、それを従属させて傍に侍らせるのは至福の一言。まさに天を手にしたに等しい!」



 レオンハルトは陶酔するように自説を滔々と語る。

 まるで詩を朗読しているようだが、内容は破廉恥極まりない。



「それと比べれば、銀晶石など取るに足らないな。アレは祖父に頂いた大事な品であるが、全く後悔はしていないさ…………だが、流石にバレるとタダでは済まないので、このブラックマーケットを利用したんだ。フフフッ………若干、勢いに身を任せてしまったことは否定しないがね。このレオンハルト、巨乳には些か弱いのだよ」



 うわっ!

 コイツ、堂々と言いやがった。


 貴公子然としてやがるのに、人前で自らの嗜好を晒すは、なかなかに強者だな。

 まあ、半分くらいは同意するけど。



「ヒロの方こそ、あの機種を手放したのが信じられないくらいだが………そちらの可憐な魔女殿を見るに、なるほどと理解できた」



 ほんの少し後ろの秘彗に視線を飛ばしたレオンハルト。

 何やらニヤリとこちらを揶揄うような笑みを浮かべて意味深なセリフを口にする。



「んん? 何のことだ?」


「いや、卿は良い趣味をしていると言う話だ。成熟した大人の魅力を持つ美女よりも、幼い容姿の美少女を近くに置くという君の好みが良く分かった」


「おい! 別にそんな意味で、秘彗を置いている訳じゃ………」


「皆まで言うな。分かっている。人の趣味はそれぞれだ。私の嗜好とは正反対だが、そんなことで君のことを否定なんてしないさ。私が女性の大きな胸に惹かれるように、君も少女の慎ましやかな胸に焦がれているのだろう?」



 レオンハルトは手をひらひらさせて、こちらへと理解の理解を示そうとする。

 だが、その理解は水たまりの底よりも浅いものでしかない。


 

「馬鹿言うな! 違う! 勝手に決めつけるな!」


「あまりムキにならない方が良いぞ。人は本心を告げられた時ほど動揺すると言う」


「お前が変なこと言うからだろうが!」


「大丈夫だ。君も私も決して変ではない。人生における選択肢の判断基準の中に、女性の胸の大小が入っているだけさ」


「それはお前だけだ! クソッ! 会話が噛み合っていない…………」



 コイツ………

 全く人の話を聞いていないな。

 自分で一度確信するとそれ以外耳に入らないタイプか!


 ヤバい!

 誤解を解くのが凄まじく難易度が高い!

 このままでは在らぬ俺の噂が………


 

 さらに愕然とする俺の耳に、ボノフさんの呟きが届く。



「そうか………、やっぱりヒロは…………、道理でアスリンへの反応が鈍いわけだねえ………」



 慌てて振り返ると、ボノフさんは腕組みしながら困った顔。



「こればっかりは仕方がない。人の嗜好は変えようが無いし。アスリンは歳の割りにスタイルが良いからちょっと無理だろうねえ」


「いや! 違いますって! 俺は………」



 思いっきり『おっぱいが大きい女の子が大好きです!』と力説しかけて、一瞬躊躇。

 自分の嗜好をレオンハルトみたいに人前に口に出すのは躊躇ってしまう。



「ほうほう? ヒロ様は幼い容姿の子が好みと………」



 そんな俺を冷静な目で見つめながら、スネイル手元のメモに何やら記入。



「ちょっと待って! 変なことをメモしないでくださいよ!」


「顧客情報の収集は重要な仕事ですので」



 抗議する俺を一蹴するスネイル。

 ニヤッと人の悪い笑みを浮かべてながらメモの続きをカキカキ。

 

 コイツめ!

 絶対にさっきの商談の意趣返しのつもりだ!



 さらには………



「あの………マスター。私、できるだけ今の容姿を維持したいと思います! もう背が高くなりたいなんて言いませんから!」



 俺にかけ寄ってきて来たかと思うと、トンデモナイことを宣言する秘彗。

 両の拳を胸の前でギュッと握って、上目遣いで見上げてくる。


 

 コラッ!

 追い打ちをかけるな!

 誤解が広がるじゃないか!



 ………イカンッ!

 俺の味方がいない!

 

 いや、こういう時こそ、俺が頼りにするのは………




 ピョンピョン


 俺の思考を呼んでいたかのように、床を軽やかに跳ねながら小さな白い機体が現れた。




 おおっ!

 白兎、もうお前だけだ! 

 助けてくれ!




 だが、俺の願いも空しく………



 フルフル

『そう言えば、エンジュ師匠も幼い容姿で華奢な体形でした。もう言い訳の必要もないのでは?」



 白兎………

 お前もか………




 バタンッ!




 絶望のあまり、その場に倒れ伏す俺だった。












 そんなこんながありつつ、ブラックマーケットでの取引は終了。


 ボノフさんと別れ、ガレージに戻ると、中にいたメンバーを七宝袋へ収納し、すぐさま街の外へと繰り出す。


 

 すでに時間は真夜中だ。

 白鐘の恩寵が薄れる街の外ではブンブンと機械種インセクトが飛び回っている時間帯。

 無垢なる白光を放つ白鈴をかざしながら、白兎、森羅、秘彗ともに人目の付かない場所まで移動。


 

「この辺りでいいか」



 瀝泉槍の石突きで地面へと大きな円陣を描く。

 俺のチーム全員を入れてもなお余る広さを確保。



「よし、隠蔽陣を張るぞ」



 円の内側に白兎達を入れてから隠蔽陣を発動。


 完全に外から覗き見られる可能性を除外してから、七宝袋に収納していたメンバー達を取り出した。




 この場で行うのは、機械種グレーターデーモン、豪魔への銀晶石の投入だ。


 赭娼メデューサと引き換えに手に入れたこの銀晶石は、従属させている機械種をパワーアップさせる効果がある。

 場合によってはランクアップさえすることがあるという。

 

 今回の対象を選ぶのに少々悩んだものだが、俺が選んだのは豪魔。


 この銀晶石の効果上、高位機種であればあるほど効率が良いと言える。


 俺が従属させている機械種の中で高位と呼べるのは6機。


 白兎、ベリアル、ヨシツネ、豪魔、浮楽、天琉。


 この中で誰に使うかを悩み、まずそれぞれの将来性と性質を考慮に入れながら、1機ずつ対象から外していった。



 まず天琉には必要ない。

 経験を積めば自動でランクアップしていく素種だ。

 わざわざ超貴重品である銀晶石を使わなくても良い。



 そして、白兎。

 俺の中では優先度は高いのだが、如何せん純粋な機械種とは言い難く、宝貝も兼任し、中身に混沌が詰まっている機体で本当に効果が出るか全くの不明。

 それにコイツなら勝手に成長していくし………という考えもあり、選択肢から削除。



 また高位と言えば、現状最も高い格を持つのはベリアルなのだが、これ以上強化すると制御が難しくなるという難題を抱えている。

 ただでさえチーム内に不和を引き起こす要因となっているのだ。

 今の面子が成長するまではもう少し今のままにしておくべきだろう。



 残りはヨシツネ、豪魔、浮楽………


 この中で唯一の超重量級である豪魔を選ぶことにした。


 他の2機はどちらも中量級であり、ボノフさんのお店で強化改造ができるが、超重量級である豪魔は入庫させること自体が難しい。

 この街でも超重量級を整備できるのは2つしかなく、それ等店へのコネが無い。

 ボノフさんに頼めば紹介してくれるかもしれないが、当然、ボノフさん程の信頼性を求められない。

 伝説でしか語られない機械種グレーターデーモンを持ち込んだ時の騒動を考えれば容易に取れない選択肢でもある。



 故に豪魔なのだ。

 中央に辿り着いたとしても、豪魔を見れるような藍染屋があるかどうか分からない。

 

 また、豪魔は我がチームの中の唯一の重量級以上の機械種として、皆の盾となってくれるケースが多い。

 野賊の本拠地では囮となり、かなりの被害を負ったことも記憶に新しい。


 ここで豪魔の強化をすることは、チーム全体の防御力を向上させ、安定度を増すことになる。

 それが俺の基本方針である安全第一に適う道。

 来るべき暴竜戦、空の守護者テュポーンとの再戦においても、皆を守る盾として、豪魔の強化は必須なのだ。

 



 


「それじゃあ、投入だ」



 豪魔はすでに晶冠開封状態。

 胡坐をかいた状態で後頭部を開いている。


 中を覗き込めば、銀条が縦横に張り巡らされており、まるでジャングルジム。

 その中心部にバスケットボール大の晶石が鎮座しているのが分かる。



「よっと………」



 豪魔の後頭部の中へと上半身を滑り込ませる。

 右手に持った銀晶石を落とさないように慎重に行動。


 ………というか、結構高い所だから、かなり怖い。

 たった地上から7、8mの位置でも高所恐怖症の俺にとっては、足がすくむ高さだ。




「ますたー、大丈夫?」



 背後から聞こえるのは、俺をここまで持ち上げてくれた天琉の声。


 八方眼で確かめれば、天琉はすこし不安そうな顔で見つめてきている。

 俺の怯えを感じたのだろう。

 空中に浮かびながら、俺の様子を伺っている。




「………おう、これくらい平気平気。それより、これを投入したらすぐに脱出するから受け止めてくれよ。頼りにしているからな」


 

 努めて空元気を見せてやる。

 内心はブルっているが、そんな様子を幼げな子供には見せられない。



「あい! まーかせて!」



 俺に頼みごとをされて元気になった天琉を確認すると、俺はゆっくりと身体を奥へ潜りこませる。

 そして、手が届く位置まで移動し、手の中にある銀晶石を豪魔の晶石に押し当てた。



 スルッ



 晶石同士がぶつかる硬い音が鳴ると思いきや、何の抵抗もなく晶面に吸い込まれていく銀晶石。



「よし、 完了!」

 


 すぐさま、両腕を使って身体を後退。

 バタンッと豪魔の後頭の開閉部を閉めてから天琉へと呼びかける。


 

「天琉!」


「あい!」



 豪魔の後頭部から飛び出す俺を、天琉の重力操作の網が受け止め、そのまま自分ごと地上へと俺の身を運んでくれる。



 フワッ



「ひえっ!」



 体全体に感じる無重力感。

 下腹部をヒュンっとさせながらも何とか無事に地面へと降り立った。

 


「ふう…………、どうだ? 豪魔の様子は………」




 ビカッ!!




 そう呟いた瞬間、目の前にそびえる豪魔の巨体が輝き出した。




「おお………」




 全長10mを越える豪魔の機体が真っ白に染まる。


 まるでその身を太陽と化したかのように鮮烈な光を放ち続ける。


 ただ、その光からは熱を感じない。

 純粋に視界中に白を映し出すだけの眩い光。



 やがて、全身光の像となった豪魔の身に異変が起きる。



 まずは背中の翼がより大きく広がり、


 その巨躯が2周りも大きくなり、


 頭部には空に向かってまっすぐ伸びるドリル状の角が2本生えた。




「ゴオオオオオオオオオオオオオオ!!!」




 月夜に大悪魔の咆哮が轟く。




 豪魔の身を包んでいた光の膜が消し飛び、現れたのはさらに巨大となった悪魔の姿。


 以前は10m強であったのが、今は明らかに15m以上はありそうだ。


 装甲がさらに分厚くなり、青白い機体に群青色の鎧が追加されたかのよう。


 両手の爪はさらに凶悪さを増し、恐竜のごとき尾はより太くなった。


 肉食獣のような獣面から、オリンポスの巨神に似た力強い男性の顔へと変化。


 龍の翼、巨人の身体、その2本の突き出した角と合わせ、まるで物語に出てくる魔神の風格。




「マスター………、この度の強化、ありがたく………」




 今までより高い位置から降りてくる豪魔の重低音。




「ああ……、その様子だと、ランクアップしたみたいだが………」



「はい………、機械種アークデーモンへと………ランクアップ致しました」


 

 

 機械種アークデーモン!!!


 その機械種名は聞いたことが無いが、ゲームなどでは良く聞く名称。

 間違いなく悪魔族の最高峰。

 最高ランクの敵として登場するケースが多い。

 おそらくはグレーターデーモンの上位機種なのであろう。



「フンッ! デーモンタイプの最上位か。炎の戦車無しだと、少し厳しいね」



 腕組みしながら、面白くなさそうに呟くベリアル。


 珍しく聞くベリアルの悔しさを滲ませた言葉。

 それほどまでに豪魔はパワーアップしたということか。



 元々、豪魔の力量は白兎、ベリアル、ヨシツネに次ぐ第4位。


 しかし、この度の強化でおそらくはヨシツネの戦闘力を越えただろう。



「お見事です、豪魔殿。これで我が陣営も一層強固となりましたね」



 ヨシツネはそんなことも気にする様子も見せず、同僚の強化を喜んでいるようだ。


 まあ、ヨシツネはあまり他のメンバーに嫉妬するような性格ではない。

 自身をも駒と割り切って役割に徹することができる奴だ。


 それに戦闘力と言ってもヨシツネの能力はジャイアントキリングに向いたモノ。

 空間転移に空間攻撃は格上殺しにはモッテコイ。

 さらに発掘品のロケット砲、『貫き還るモノ』も保有している。

 どのような敵にも勝ち目を持つのがヨシツネなのだ。


 

 

 ピコピコ

「あいあい!」

「キィキィ!」

「ギギギギッ!」



 深夜の荒野に響くお騒がしい声。

 もうすでに白兎達お騒がし組はさらに大きくなった豪魔の機体に縋りついて昇り始めている。



「アイツ等………」


「まあまあ、ゴウマ殿も喜んでおられるようですし」



 叱りつけようかと思ったが、森羅から宥められて一旦収める。


 確かに豪魔は上りやすいように手を貸してあげているようだ。


 これもお騒がし組のある種のコミュニケーションの1つなのだろう。


 

「……………」



 ふと、同じお騒がし組である秘彗を見れば、うずうずとした様子で白兎達の様子を見つめていた。



「秘彗も昇りたいのか?」


「!! ………いや、そんな………、ゴウマさんに失礼な事は………」



 とんでもない! というような感じで首をブンブン横に振る秘彗。

 しかし、その目はチラチラと白兎達の方へと向けられている。


 興味はあるけど、プライドと羞恥心が邪魔をするというところか。 


 どうやら全身どっぷりお騒がし組に浸かっているわけではなさそうだ。

 でも、いつまで耐えられるのかどうか………




「スキルは増えましたかの?」


「うむ………、虚数制御(中級)が追加された。既存では、結界制御が(特級)、空間制御と、燃焼制御、冷却制御が(最上級)に………、また、放電制御、生成制御、錬成制御が上級。そして、飛行が中級………」



 毘燭が早速豪魔のスキルを確認している。

 

 最近、豪魔は毘燭と話をしていることが多いし、碁や将棋をしている姿も良く見かける。

 まだそれほど時間は経っていないのに、同じ真面目組として良好な関係を築いているみたいだな。

 


 剣風、剣雷も傍で豪魔と毘燭の話を黙って聞いている。


 この2機はどちらも寡黙……と言うか会話機能は無いが、それなりに他のメンバーと交流している。

 同じストロングタイプとして、毘燭、秘彗と一緒にいることが多いが、ベリアルを除く、全員と分け隔てなく接触しているようだ。

 最近は白兎やヨシツネにしごかれているのをよく見かけるな。




「チーム内の関係も良好。豪魔も強化された………」




 これで次のステップに進むことができる。

 目指すは次の紅姫の巣の攻略。




「その時には豪魔、お前の力を存分に発揮してもらうぞ!」


「承知! 新たな我が力をお見せ致しましょう………」


「ああ、楽しみにしている…………、結構背が高くなったな?」


「はい………3.7m、………いえ、角も入れますと5.3m高くなりました」




 あれ?

 確か借りているガレージの高さは大丈夫か?

 たとえ豪魔が座っていても、あの角が天井に当たりそう………




「ご安心を…………、引っ込みますので」



 豪魔がそう告げると、頭から突き出た角がスルスルと中へと引っ込んでいく。

 まるで車の左前についている自動伸長式コーナーポール。

 


「それ、縮むのかよ!!」



 思わず大きな声で突っ込んでしまった。


 そりゃあ、機械なんだからおかしいわけじゃないけど、なんか納得いかないぞ!


 


 こうして真夜中の一大イベントは俺のツッコミで幕を下ろした。

 


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