第443話 花火



『ヨクモオレカラ【ユメ】ヲウバッテクレタナ!!』




 とカッコ良く決めたつもりなんだけど………


 首を狙ったつもりが、軌道がズレた。


 学者が展開していた空間障壁を倚天の剣で切り裂き、その勢いで首をも一刀両断!

 とならず、右腕を切り飛ばすだけに留まった。


 空間障壁を切り裂く際、複数回抵抗を感じたような気がした。

 まるで何枚も壁があったかのように………



 倚天の剣を構えながら、学者の様子を確認。

 


 右腕を切断され、驚いた表情を見せる学者。

 その断面図を見つめ、呆然と呟く。


「吾輩の多重空間障壁を切り裂いた………、発掘品か? まさか空間を切り裂く剣だと? 馬鹿な!」


 自分の身に起こったことが信じられないように、声を荒げる。



 多重空間障壁………

 やはり複数の障壁を展開していたのか。


 コイツはどう見ても非戦闘系機種だ。

 とても近接戦ができるとは思えない外見。

 だからより堅固な多重障壁を身の周りに張り巡らせていた。

 

 多重障壁の展開は難易度が高い。

 さらに多重障壁を張ると防御力は格段に上昇するが、その状態で身動きすることが非常に難しくなる。

 戦闘中で機体を動かしながらの制御がほぼ不可能だからだ。

 しかし、もとより近接戦闘を想定しない学者であれば、そのデメリットの意味合いも薄くなる。


 倚天の剣だけを持ち、素の技量でしかない今の俺の腕では、複数の障壁ごと相手の部位を正確に狙うのは難しい。

 どうにかして空間障壁の何枚かを破れる手段があれば………



 チラリと足元の白兎を見る。

 


 俺の指示でいつでも飛びかかれる戦闘態勢を取ったまま。


 白兎であれば空間障壁を破れるだろうが、白兎には白兎にしかできない役目がある。


 相手から飛んでくるかもしれない空間攻撃を迎撃すること。

 相手が空間転移で逃げ出そうとした場合に妨害すること。


 どちらも欠かせない大事な役目。

 

 だから学者を仕留めるのは俺の方で何とかしなければならない。



 それに………


 

 先ほどまで学者に戦いを挑むなら七宝袋の中にいるベリアルを取り出そうと思っていたが、俺の手で仕留めてやりたいという気持ちも大きい。


 何より俺の手でブチコワシテやらないと気が済まない。


 だが、多重空間障壁を抜くには手が足りない。

 現状、俺の手の内で空間系の攻撃ができるのは倚天の剣のみ………




 グルルゥ………




 その時、俺の脳内に響いた獣の唸り声。


 俺の太腿のレッグホルスターに収められた『高潔なる獣』。


 その唸り声とともに脳裏に浮かぶのは4つ目の獣の牙。


 力を求める俺に新たなる銃弾の存在を示してきた。

 




「………ほう?」




 思わず頬が緩む。


 己が犠牲になることによって、幼い幼女を助け、友人達を守った。

 そして、悪辣なる高位レッドオーダーとの一騎打ち。

 

 先ほどからの俺の行動がどうやら『高潔なる獣』のお気に召したらしい。

 その名の通り、高潔な振る舞いを好むようだ。



 ………俺の夢云々ってのはどうなんだろうね。

 もしかしたら、『獣』だけにハーレムとか二股三股はオッケーなのだろうか?

 

 まあ、それはともかく。



 示してくれた力は間違いなく俺の役に立つモノ。

 ぶっつけ本番で試すには少々勇気がいるが、コイツを使えばあのクソ忌々しい学者に一泡吹かせることができるかもしれない。



 俺の手でアイツをぶっ潰す!


 

 心の中でそう呟くも、ほんの少しだけ、臙公である学者の晶石、臙石だけは手に入れなければという思いもある。

 『俺の中の内なる咆哮』が叫んでいる状態ではあるけれど、直接的にウバワレタ訳ではないので、その衝動は薄く、まだまだ物欲も残っている状況。


 ここまで散々な目に遭って、何も手に入らないなんて在り得ない。

 せめてコイツの臙石を手に入れなくては気が済まないぞ!


 俺の中の内なる咆哮による破壊衝動と、タダで帰れるものか!と憤る物欲とのバランス。

 手にした『倚天の剣』と『高潔なる獣』の新たなる力を使い、俺にとって最もベストな結果を出す方法は一体何だ?




「さて、どうしてやるか………」



 俺が何気なしに自問を口にした時………



「わははっははははっはははっはははっはははははっはははははっ!!!!」



 盛大な哄笑が辺りに響き渡った。


 笑い声の主はもちろん学者。



「なるほどなるほど! 君が悠然と構えていた理由がようやくわかったよ。その手にした発掘品の為か! 確かに凄まじい切れ味だ。吾輩の空間障壁をここまで鮮やかに切り裂くとは信じられない程に!」



 ツカツカと足を動かし、その場を行ったり来たりしながら歩き回る学者。

 しかし、絶えず口は動かしたまま、己の衝動の赴くままを並べていく。



「ふむふむ! 吾輩を近接戦が不得意な機種と見たのだろう。全く持ってそれは正しい。故に奇襲さえできれば、初太刀で破壊できると思ったのも無理はない。だが! 甘い! 甘すぎる! 吾輩の機体は近接戦には不向きな上、非常に臆病なのだ! だからこうして障壁を何枚を重ねているのだよ! 残念だったな! 君は我輩の用意周到さに負けたのだ! 今ほど、吾輩の用心深さに感謝したことは無いぞ! わははっはははははっはは!!!」



 何1人で笑っているんだ?。

 コイツ、やっぱり、どっかおかしいな。

 そう言えば、結局、何の機種だったのかね?

 多分、魔人型なんだろうけど。

 学者、研究者、博士みたいな外見というと………


 待てよ、博士と言えば………

 


「……………そこは『こんなこともあろうかと……』って言うべきじゃないか?」


 

 つい、思いついた言葉を口にしてしまう俺。


 その言葉は漫画やアニメで万能なる科学者が良く口にするセリフ。

 はてさて元ネタはなんだったっけ?



「ふむ? …………ほうほう! それはなかなかに良い言葉だな。『こんなこともあろうかと……』 良いな! これは良い! 『こんなこともあろうかと……』 わはははっははははははははは、これは良いセリフを教えてもらった! ぜひ使わせてもらおう! わはははっはははっはっは………」


 

 俺の助言を手放しで称賛する学者。

 歓喜の余韻に浸るように俺を前に大笑いを続けていたが………



「ふむ、もう結構。それではしばらく眠っていたまえ」



 唐突に笑いを止め、こちらへ向けて残った左腕を向けた。



 その瞬間、周りの空気が一変。





 ピシッ





 俺の視界が白一面で埋まった。


 それは以前にもぶつけられたことがある超冷気。

 絶対零度に極限まで近づけた何者をも凍り付かせる極寒の洗礼。

 俺の身体の表面も含め、周囲の水分が一瞬で凍結。




「用があれば解凍してやろう。だが、その剣は危険だからまず処分だな」




 俺に耳に入る学者の言葉。

 

 続いて俺の右手に衝撃が走り、手の中の倚天の剣がナニカに引っ張られるような力を感じた。



「ふむ? 砕けない? ここまで冷凍すれば脆くなるはずだが………」



 どちらも重力操作による圧力。

 冷凍した俺の腕を砕き、拳ごと剣を持ち去ろうとしたのだろうが………



 ああ、コイツ、俺の倚天の剣を………

 俺の大事な宝貝を………

 俺の手からウバオウトスルナンテ!!!!


 具体的な行動を受け、瞬時に俺の中の内なる咆哮が吼えた!


 血液が沸騰する程の熱い激流。

 心の奥底から狂おしいばかりの衝動が駆け巡る。

 残っていた何もかもを押しのけ、怒号とともに破壊の権化が姿を現した。




「カアアアアアアアアアアァァ!!! オレカラウバウナアアアァァ!!!」




 バキンッ!!!



 力尽くで体の表面に張り付いた氷を砕く。


 すぐさま胸ポケットから火竜鏢を取り出して、全身に炎を纏わせた。



 ボフォオオオオオオオオオオオオオオ!!!!



 灼熱の炎が俺の身体を包み、一瞬で残っていた氷を蒸発。



「ハハハハハッ! マタ! オレカラウバオウトイウノカ!」



 炎の中から学者に向けて嘲笑。



「イイゼ! オノゾミドオリ! ブチコワシテ、ブチコロシテ、ブチマケテヤル!!」



 倚天の剣を片手に学者へと足を進める。



「ひっ! ま、まさか………、この波動も……なぜ?」



 怯えたような態度の学者。


 炎を纏い、狂喜の笑みを浮かべた俺は悪鬼のように見えたのだろう。



「で、出ろ! 吾輩の身を守れ!」



 学者は残った左手を上に、ナニカへと命令。



 ズルッ

 ズルッ ズルッ ズルッ

 ズルッ ズルッ ズルッ ズルッ ズルッ ズルッ

 ズルッ ズルッ ズルッ ズルッ ズルッ ズルッ ズルッ ズルッ ズルッ

 ズルッ ズルッ ズルッ ズルッ ズルッ ズルッ ズルッ ズルッ ズルッ ズルッ ズルッ ズルッ ズルッ ズルッ ズルッ ズルッ ズルッ ズルッ ズルッ ズルッ ズルッ ズルッ ズルッ ズルッ ズルッ ズルッ ズルッ


 

 すると赤黒い部屋の天井や壁から現れる黒いナニカ。

 その形は蛸や烏賊にも似た黒い触手型機械種。


 その数、何十、何百…………


 まるでエイリアンの大群に囲まれたような不気味な光景。


 

「は、はははっ………、いかにお前が強者でも、どのような発掘品を持とうとも、この数には………」


 学者は顔のパーツを歪ませ、器用に引き攣った表情を見せている。

 この場所は向こうのホームなのだから、このような伏兵を忍ばせていてもおかしくはないか。




「ああ、確かにその数は面倒臭いな」




 ならばここはアイツの出番か。


 七宝袋からスリープ中の機体を取り出して即起動。

 あの数を相手に、周りの被害を気にしなくて良いこの異空間内であれば、正しく適任。



「おい、ベリアル。起きろ」


「おはよう、我が君………、いつもながら、目を覚ませば騒がしい場所ばかり……」


 俺に流し目をくれつつ、蠱惑的な笑みを浮かべるベリアル。


「たまには愛を語り合えるような静かな所に呼んでもらいたいな」


「そのセリフ、2度目だぞ」


「ええ! そうかな………、え? そうだっけ?」


 キョトンとした顔のベリアル。

 普段の冷徹、且つ、嫣然とした美少年から想像もつかない幼い表情。

 大変珍しいモノを見たのかもしれない。


 まあ、どうでもいいが。



「さっさと片づけてくれ」


「むっ、あの汚らしい有象無象を? 僕に相応しい仕事ではないね。でも、どうしてもって言うなら我が君の………」


「うるさい、やれ」


「………我が君の意の通りに」


 俺の有無を言わせぬ言葉に、いきなり素直になって返事するベリアル。

 俺の顔を見て、要らぬ戯言は厳禁と悟った様子。

 今はじゃれ合いをする気分ではないのだ。



「では、僕の力をお見せしよう………見ておけよ、クソウサギ」


 ベリアルはチラリと俺の傍で待機している白兎へと視線を飛ばし、白兎はそれに応えるように耳をフリフリ。

 

 それを見て、少しだけ相好を崩し、笑みを深くするベリアル。



「ふふふっ…… さて、始めようか」



 そのまま俺の前に出て、黒い津波のように集まった黒い触手へと立ち向かう。


 その光景は黒い災害への生贄に捧げられようとする王子様か、それとも黒き異形を討伐せんとする貴公子か。


 だが、その顔に浮かんでいるのは、絶望でも、戦意でもなく、恍惚とした微笑。

 

 俺の命令を受けて、敵を殲滅する。

 マスターの役に立てる。

 従属機械種として、これ以上無い喜びを噛みしめているのだろう。




「消えろ」




 ベリアルが呟いたその一言で、



 

 ピカッ




 辺りは白に包まれた。





 爆億の光が舞い、あらゆるモノを消滅させる熱が顕現。


 静かに、それでいて激しい純粋なる閃熱。


 たかが、臙公に従う有象無象など、瞬時に蒸発して消え去る以外に道は無い。



 数秒後に残ったのは、元の赤黒い異空間の部屋と、



「ああああああああ!!! なぜ、なぜ、なぜ、なぜ? 魔王型が!」



 幾分、機体を破損させた、喚き散らす学者の姿。

 下半身を中心に溶けかけているが、それでも人の形は残っている。

 特に顔から上は破損が見当たらないことから、なんとか自分の晶脳だけは守ろうとしたのだろう。


 学者だけに重要なのは頭だけ。

 ゆえに頭部には念入りの防御手段を張り巡らせていると見て良さそうだ。



「まさか! 緋王まで! そんな…………」



 ベリアルの方を向いて、驚きを隠せない様子。

 半場、眼鏡をずり落としながら驚愕の表情。



「………空間障壁で堪えたか。フンッ! もう一発行くか。次は耐えられまい」



 そんな学者に苛立ちながら指を向けるベリアル。

 格下の機種を一撃で仕留められなかったことに屈辱を感じている様子。


 その芸術的とも言える繊手を学者に向け、美しく整えられた爪先に白い光が集まり始めた時、



「お待ちを! これ以上、ここで貴方が力を振るえば、この異空間が崩壊しますぞ! さすれば、そちらのマスターも………」



 慌てたよう学者が叫ぶ。



 ギュギュギュ………

 

 

 その内容を裏付けるかのように、異空間の壁から軋むような音が響き出す。

 赤黒い壁がひび割れ、より黒いモノが隙間から見え隠れしている。



「むっ! ………随分と脆いね」



 俺のことを出されては、流石のベリアルも手を降ろさざるを得ない。



「ここがどこだかわからないのに、崩壊したらかなり面倒臭いことになりそう………おい、そこの! 座標を寄越せ」

 

「ご冗談を………、御身は緋王であったとは言え、今は忌々しき白き鐘に従われているのでしょう? 渡すとお思いですか?」


「へえ? ならその晶脳を引きずり出してやろうか?」


「はははははっ、何と恐ろしい。流石は魔王型。吾輩などその指先一つで捻り潰されますな。ですが、力では勝てずとも………」


 

 フッ……と、その学者の機体がその場から消えた。


 まるでヨシツネのような鮮やかな空間転移。

 やはり、機体自体の能力が低い分、空間系の能力に長じているのだろう。

 ベリアルを前にして、逃げおおせることができるくらいの。


 

 だけど、この場にいるのはベリアルだけでなく………





 ドゲシッ!




「わあああ!!! な、な、何事?」



 

 一瞬、姿を消した学者が、その場にポンと現れる。


 まるで見えない場所から蹴り出されたように。


 それを成したのはもちろん…………



「フンッ、僕がクソウサギの見せ場を作ってあげただけだよ」



 ピコピコ



 同じく、ピョコッと何もない空間から突然現れた白兎。

 ベリアルの物言いに、耳を揺らして少しばかりクレーム。



「合図したのは僕だろう? なら僕のおかげさ」


 パタパタ


「??? アシストは認めるが、ゴールしたのは自分? ………ああ、サッカーの話か。この間、我が君が映像で見ていた………。君は選手と言うよりは蹴られているボールの役の方が似合っていると思うね。丸っこいし。」


 フリフリ


「!!! 誰が万年ベンチ入りの補欠だ! よくも言ったな、クソウサギ!」


 パタッ! パタッ!


『やるか! ラビットシュートでゴールに叩き込むぞ!』とばかりにその場でキックの素振りをする白兎。



 喧嘩を始めそうな2機を前に、当の学者は混乱の真っ最中。



「なぜ? ラビットが……しかも、空間転移を妨害………」



「なぜって、言ったろ? 俺の白兎は最強だって」



 倚天の剣を片手に学者へと歩み寄る。


 

「と言う訳で、お前はここで終わりだ」



「………緋王を従属して、なお且つ、あのような奇妙な機械種をも従えている。ひょっとして、貴方は………」



「知るか。俺は俺だ」



「お待ちを! 吾輩は役に立ちます! だから吾輩を貴方の仲間に………」



「要らねえ」



「なぜ?」



「なぜ? そりゃあ………オレカラウバッタカラニキマッテイル!」



「ああああああ!!!!」



 喚く学者へと倚天の剣を振り下ろす。



 シャンッ



 ただし、切り裂いたのは展開する多重空間障壁のみ。


 幾重に張られた次元を分かつ断層も、倚天の剣の神秘の前には紙切れ同然。


 だが、多重空間障壁によって隔たれた微妙な隙間が俺の距離感を狂わせる。


 だから、障壁のみを切り裂いて、トドメを差すのはこの………


 

 倚天の剣で多重空間障壁を切り裂いた瞬間、



 ダンッ!



 刹那のスピードで一歩踏み込む。

 

 それと同時に右手をレッグホルスターに回し、0.001秒未満のクイック・ドロウ。


 『高潔なる獣』の銃口を人間の限界を超えた銃捌きで、学者の顔面に突きつける。


 すでに俺の思考は加速状態。

 音が消え、俺だけが時間の隙間へ突入。

 0と1の間が無限に引き伸ばされ、辺りの景色が色を失う中、銃口を突きつけられた学者の目の光がほんの少し瞬いたような気がした。



 コイツ………

 俺の超スピードを認識している?

 時間操作で己の知覚だけを加速しているのか?

 戦闘タイプではないから、機体までは無理なのだろうが………

 


 いつの間にか顔から眼鏡が失われており、両目の赤い光の瞬きが幾分強く見える。

 学者の目の中の光に宿るのは『安堵』。

 まるで突きつけられた銃を脅威と感じていないように………

 


 フン!

 やはり頭部だけは厳重に空間障壁で防御しているようだな。

 


 おそらくは自分の前に多重空間障壁を展開し、さらに頭部を包み込むような特殊な空間障壁を張り巡らせている。

 これを以って、頭部だけはベリアルの超高熱の攻撃を防いだのだ。

 銃など恐れるに足らずと思っているのだろう。

 


 さて、それはどうかな? 

 俺の『高潔なる獣』をそんじょ其処らの銃と一緒にしてもらっては困る。



 トリガーに指をかけ、引き金を引く。


 撃ち出す弾丸は『虎爪弾』。


 射程距離はかなり短いが、虎の爪のごとく空間障壁を引き裂く特殊弾丸。

 まるで俺の為にあるような性能。

 そして、コイツを黙らせるには、思い知らせるには、十分以上の破壊力を秘める。

 倚天の剣のように複数の空間障壁をぶち抜くのは難しいが、頭に纏わせた程度の障壁なら一撃だ。






 精々、汚い花火をブチマケロ!




 ドガンッ!!




 臙公の顔の前……超々至近距離で放たれた『高潔なる獣』の銃弾は、張り巡らされた障壁ごとその頭部を爆砕。


 『高潔なる獣』が撃ち出した虎の爪は隔たれた次元の壁さえ切り裂き、不遜なる学者の頭を粉々に砕いたのだ。




 ざまあないな! 学者よ!

 結局、機種名も分からないままだったが……

 お前にはそれが相応しい。

 俺の記憶に名も残さず消えていけ!



 

 超加速状態を脱し、周りの景色が色を取り戻す。


 そんな俺の視界に入ってきたのは、飛び散る鉄片、鉄紛に混じり、深い赤色のキラキラした粉塵が宙を舞う光景。



「ふむ………、汚い花火を言ったが、なかなかに綺麗じゃないか? 臙石一つが紅石と同じ3000万Mとするなら………」



 チラリと横目で白兎とベリアルに視線を移す。


 

 白兎はピコピコと耳を振り、『たまや~』とかやっている。


 ベリアルは俺の方を見つめ、蕩けるような表情を浮かべていた。

 


「一発30億円の花火か。豪勢だな。他のメンバーにも見せてやりたいモノだ」



 俺が感想を述べると、それを不服とするかのように



 ドサッ



 頭部を失った学者の機体が倒れ込んだ。










 

 キラキラと舞っていた臙石の欠片が全て床に落ちた頃。


 主を失った異空間に残っているのは2機の機械種と1人の人間。



 困ったように耳をパタパタさせている機械種ラビットと、


 何とも言えない微妙な表情をした機械種ベリアル。



 そして、




「ぎゃあああああああああああ!!! さ、30億円がふっとんだあああああ!!!」



 今更ながら自分の手で破壊した価値の大きさに床を転げまわる俺だった。








※ストックが切れました。

 またしばらく書き溜め期間に入らせていただきます。

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