第431話 攻略2


 ピコピコ


「む! 来たか?」



 俺達の前を進む白兎の耳が揺れた。

 白兎から発せられたメッセージは『敵、接近』。

 

 白兎に先導されながら、巣の中を進む事30分近く。

 しかし、距離にして300mも進めていない。

 罠を警戒しながらの探索行。

 これまで一度も稼働中の敵には遭遇していない中、ようやく初戦闘になりそうだ。


「ヒロ、ハザン。まずは射撃。遠距離からできるだけダメージを稼ぐよ」

「デカいのを一発かましてやろう」


 アルスが腰からスモールの銃を抜き、ハザンが背負ったミドルの銃を構える。


 このレベルの巣であれば、まだまだ射撃の方が出番は多い。

 離れて敵を倒せるなら、絶対にその方が安全。

 重量級が出て来れば話は別だが、この巣なら中量級以下の機種がほとんどだろう。


 見るに、アルスの銃はスモールの中級。

 ハザンの銃はミドルの下級。


 どちらも辺境ではあまり見られない高級品。

 特にアルスの銃は中央でも良く使われる武装。

 この辺りで出てくるゴブリン程度なら胴体に命中させれば、ほとんど1発で片が付く。


 それにハザンの持っているライフル銃に似たミドルの銃は、その仕様によって、ライフル弾、散弾、フルメタルジャケット弾、ソフトポイント弾、ホローポイント弾を使い分けできるのだ。


 今、ハザンが構えているミドルの銃に装填されているのはソフトポイント弾。

 弾頭が柔らかい金属でできており、当たると潰れて運動エネルギーをそのまま内部へと浸透させる仕様。

 貫通力に欠けるが、その衝撃力は装甲からでも内部にダメージを与えることができる。

 また、外れた時も壁に当たって跳弾する可能性が低いので、巣の中やダンジョンような閉鎖環境でよく使われる弾丸だ。



「さて、銃での初戦闘か……」



 右手から左手へと瀝泉槍を持ち替え、右手でレッグホルスターから『高潔なる獣』を引き抜く。

 


「威力は絞っておこう。ここであの破壊力は無駄だし………」



 先日の銃の訓練の際、『高潔なる獣』の威力を抑えられるのが判明した。

 もちろん、機械種ガンマン……教官のおかけだ。


 1発1,000M、日本円にして10万円から、1発100M、1万円にまで節約できる。

 威力も10分の1まで下がってしまうが、この巣で出てくる敵であればこれで十分のはず。



「秘彗、万が一、危なくなるようだったら援護を頼む」


「はい、お任せください!」



 ここで秘彗の力を振るうのは、余りにも勿体ない。

 この巣で出現する敵を倒しても、精々1体3,000~6,000Mでしかない。

 下手をすれば、秘彗の数回の攻撃で赤字になる可能性だってあるのだから。

 しかし、危なくなればそうも言っていられないから、準備はしておいてもらわないと。


「さて、何が出てくるのか………」





 迎撃態勢を整えた俺達の前に現れたのは、1機の機械種オーク。

 30m先のT字路の曲がり角からヒョイと出てきて、こちらのに顔を向けてくる。


 160cm程の背丈、幅100cmの横に広い体型。

 凶悪な豚面。大人の2倍はある太い腕。腹回りの分厚い装甲。


 ヒューマノイドタイプの中位機種だが、腕力、防御力、耐久力に優れ、たとえゴブリンを容易く葬れる狩人であっても決して油断できる相手ではない。

 接近され組つかれたらそのまま絞殺されるし、その剛腕の一振りを受ければ吹っ飛ばされる。

 

 さらに離れたまま倒そうとしても、この辺境でよく見られるスモールの下級の銃ならば、倒すまでに10発以上撃ちこまねばならない。

 アルスのスモール中級の銃であっても、頭部にきちんと当てないと一撃というわけにはいなかない。

 ハザンのソフトポイント弾でも活動停止に追い込むには、胴体に2,3発当てる必要があるだろう。


「撃つのは引きつけてからだよ。10mまで引きつけてから一斉に」


 アルスから指示が飛ぶ。

 今の俺の腕だと動いている敵の急所に当てようと思うと5mでも厳しい。

 だが機体のどこかに当てるだけならなんとかなりそう。


「さあ、来い………」


 初めての銃での戦闘に力が籠る。

 たかが機械種オークにここまで緊張するとは思わなかったけど。



 

 機械種オークはそのでっぷりとした機体をこちらに向け、赤い目の光を強く輝かせる。

 人間である俺達を発見し、その晶石の奥から発せられる破壊衝動に身を震わせているのだろう。


 そして、一歩足をこちらに向けて踏み出した時……




 ピコピコ




 機械種オークの視線が、俺達のすぐ前で耳を揺らす白兎を捕らえた。

 

 現れた機械種オークにも怯んだ様子すら見せない小さな機種。

 草原で散歩をしているような気軽さで、鼻をヒクヒク、耳をフルフルしているだけの機械種ラビット。

 機械種オークにとっては踏みつぶせば終わるだけの障害物でしかない……のだが。




 その直後、




 クルッ!

 ダダダダダッ!!




 こちらへと突進してくると思われた機械種オークは突然、身を翻して背中を向けて逃走。

 背後から撃たれるとかも全く気にしない全力疾走。


 俺達の前に現れた機械種オークは、一目散に逃げて行ってしまった………



「あれ? 逃げた………」



 銃を構えたまま、思わず呆けたような声が零れた。



「え? なんで?」



 アルスも呆然として呟く。

 アルスにしても、好戦的な機械種オークが逃げ出すなんて予想外のことだったのであろう。



「………初めはこちらを襲おうとしていたはずだ。しかし、何かを見て態度と変えたような………」



 ハザンは冷静に状況を見ていた様子。

 だが、その何かについては思い当たる物もなく、困惑したような表情。



「……………」



 俺は無言で白兎に近づいてしゃがみ込み、その耳元でアルス達に聞こえないように小声にて質問。



「おい? あのオーク、お前を見て逃げたみたいなんだけど?」



 フリフリ

『討ち漏らしかなあ………』


 耳を振って、小首をかしげて答える白兎。

 買い物に行って、牛乳を買い忘れた程度の軽い口調。


 コイツ……、

 あそこまでレッドオーダーを怯えさせるって、どれだけ無慈悲に大暴れしたんだよ!


 ………まあ、それを言っても仕方ないんだけど。



「アルス、どうする? 追いかけるか?」


「ヒロ、それは止めておこうよ。指揮されたレッドオーダーは偶に釣り……囮で引き寄せて大群で迎え撃つような作戦を立ててくることもあるし」


 それは開拓村の巣で、レッドオーダーであった森羅にやられたな。

 追いかけて行ったら、機械種トロールに待ち伏せされていた。

 

「それに、追いかけて行っても所詮はオーク。僕達が目指しているのはそれじゃない」


 そう言うと、アルスはポケットからMスキャナーを取り出し、画面をポチポチ。


「さっきからオートマッピングを走らせていたんだけど、そろそろ下への階段が見つかりそうなんだ。多分、そこを左……かな」


 オークが逃げて行った方向とは逆の道。

 アルスの持つMスキャナーの画面を覗き込むと、そこには今まで俺達が進んできたルートと、巣の主へ辿り着く道筋の予想が示されている。


 

 ピコピコ


 白兎が耳を揺らして『あってる』との言葉。

 

 この巣の最奥まで辿り着いた白兎だから、すでに道順は把握している。

 その白兎の先導で進んできたのだから、最短ルートで間違いない。


 だが、白兎に頼りきりなのも良くないので、アルスがマッピングをしてくれていたようだ。

 進んだ距離と方角、傾斜角度を計算して、およその下への階段を予想するプログラム付きで。


 随分と便利そうな機能だなあ。



「いいな、それ」


「うん? ヒロは持っていないの?」


「Mスキャナーはあるんだけど…………」


 IP●Dみたいでいろいろな機能はありそうなんだけど、こういった電子機器って苦手なんだよなあ。

 説明書もないし、下手に弄って壊れたら困るし………


 それを正直に言うと、アルスは大笑い。


「あはははは、まるでお年寄りみたいだね………でも、まあ、ヒロにはヒスイさんがいるから無理して使わなくてもいいんじゃないかな」


「はい、マスター。私が晶脳内に地図を控えていますので…………それに………」


 秘彗がチラッと視線を俺の胸ポケットへと向ける。



 うん? 何だ?

 

 …………ああ!

 そうだ、よく考えたら、俺には宝貝墨子があったな!

 あれがあるから、俺にはマッピングが必要ないんだ!



「僕もセインがいる時は任せているけどね。巣の攻略はマッピングしないと始まらないから」


「俺もそういったことは苦手なんだ。だからアルスに任せている」


「ハザンはそう言うけど、本当は2人で並行してしないといけないんだよ。万が一、マッピングしている人ごと罠とかに引っかかっていなくなってしまったら、巣の奥底で迷子になっちゃう」


「ぬう……、やはり俺も覚えた方がいいのか?」


「そりゃあそうさ。苦手かもしれないけど、覚えておいた方が絶対にいいよ」



 アルスとハザンの2人のやり取りを聞きながら、改めて自分の力のチートさを実感する。


 狩人なら避け慣れぬ課題であるマテリアルの消耗も、地図作成の苦労も気にしなくても良い。

 世の狩人達が俺のチートを知れば、怨嗟の声をぶつけてくるに違いない。











 ピコピコ


 しばらく進んだところで、又も白兎が耳を揺らして警戒を促す。


「今度は何だ?」


 フリフリ


 耳を器用に前方へ向けて矢印のように指し示す。

 

 その動きにつられ、通路の先に目を凝らすと………



「うぇっ………」



 思わず呻き声が出るほどの気持ち悪い光景。


 先の通路の床を這う、黒いヘドロのような粘着性の物体。

 所々に赤い光が灯り不規則に内部で動いている。

 まるで異形のエイリアン染みた醜悪さ。

 それらはウゾウゾと蠢きながら、群れを成して通路全体を通せんぼする形で立ち塞がる。


「………機械種スライム。多分、残骸を処理しているんだね」


「げっ! スライムか………」


 アルスが看破したあの物体の正体に、思い浮かべるの国民的RPGの代表的雑魚モンスター。

 しかし、あの可愛らしいとも言えるドロップ型ではなく、目の前にいるのは正統派ファンタジーの流動性の高いスライム風。

 

「………初めて見るな。割と有名なのに………」


「そう? 人の出入りが多い巣なら偶に見かけるよ。ああやって巣の中の残骸を片付けているって言われているね」


「残骸を片付けている………か」


 足元の白兎へとチラリと視線を投げかける。

 

 多分白兎が大暴れして破壊したレッドオーダー達の残骸なのだろう。 

 もう少し原型を留めていればいくらかにはなったかもしれないが、あの様子では回収するような価値もあるまい。



「ヒロ、気をつけろ。アイツ等の機体は様々な特性を秘めている。砂鉄の塊だったり、強酸を含んでいたり………」


 じっと機械種スライム達を見つめる俺へハザンからの忠告。


「あの不規則に動く赤い光が弱点だが、不用意に武器を突っ込めば溶かされるぞ」


 それは怖い。

 砂鉄でこそぎ落されるのか、それとも強酸で溶解させられるのか……


「あはははははっ、一度、ハザンがそれで武器をオシャカにしたね」


「フンッ、二度は無い。今度は銃を使うからな」


「そうだね、あのドロドロに僕の『風蠍』を突っ込むのは遠慮したいや」


 そう軽口を叩き合いながら、銃を構える2人。

 

 あの機械種スライムの粘液部分をいくら攻撃しても無駄だと言う。

 仕留めるには粘液の中を常時移動している赤く発光しているコアの部分を破壊しなければならない。



 ………結構速いスピードで動いているな。

 あれを銃で狙撃するのは難しそう。



 レッグホルスターに手をやるも、射撃目標であるコアに当てられる目算が全く立たないことに気が付いてしまう。



 瀝泉槍で突く方が絶対に早いだろうが………



 あのドロドロの中に突っ込むのは俺も嫌だ。

 多分、瀝泉槍も嫌がるに違いないし………



「やるしかないか………」



 『高潔なる獣』を引き抜き、アルス達の横に並び構える。

 今度こそ銃を用いての初戦闘だ。



「ちょっと、数が多いかな………」


 俺が隣に来たのを確認して、アルスが呟く。


「ヒロ、奥を見て。目の前の奴等だけじゃなくて、かなりの大きな群れのようだ」


 アルスに言われて、薄暗い通路の奥へと目を凝らすと……


「うおっ! 気持ち悪い! まるでヘドロの海だ………」


 俺達の前にいる機械種スライム達の奥には、さらに大きな群れが存在している。

 赤い光一つが機械種スライム1機と数えるなら、その数は少なくとも50機は居そう。


「攻撃を加えると、一斉に襲いかかってきそう。これは回避した方が良いね。引き返そうか?」


「せっかくここまで進んだのだがな………仕方あるまい」


 アルスの提案に、同意するハザン。

 これが少しでも価値がある敵なら、リスクを負ってでも狩りつくす選択があったかもしれないが、このスライムの群れの価値は皆無。


 機械種スライムを倒しても得られるモノはほとんどない。

 ドロドロの粘液には価値が無いし、肝心の晶石は弱点である赤い光を放つコア。

 そこを破壊するのだから、残る物が何も無いのだ。

 そんな敵キャラ相手にリスクを負うのは馬鹿らしいと言える。



 しかし、引き返すのか。

 またも、銃での初戦闘が………

 それに、折角白兎の言う最短ルートだというのに………



 今、どの辺なんだろう?


 

 アルス達に気取られぬよう胸ポケットに指を突っ込んで、宝貝墨子に触れる。


 解析するのはもちろん今攻略中である巣の構造。


 地下2階。

 敷地面積98,356㎡

 延べ床面積153,933㎡


 ………………


 

 このルートをずれるとかなり遠回りになるな。

 ここは多少強引にでも突破したい。


 俺の金鞭でも火竜鏢でもイケるし、白兎の白天砲でも一掃できるが、アルス達の前で使うわけにはいかない。


 ならばここは………



「秘彗、やれるか? できるだけ消費を抑える形で」


「はい、粒子加速砲の多重砲撃であれば、それほどマテリアルは消費致しません。多少、撃ち漏らしがあるかもしれませんが………」


 俺の質問に淀みなく答える秘彗。

 この場を極冷気で凍結させることも、超高熱で沸騰させることもできるが、コアのみを打ち抜く収束制御による粒子加速砲が最も効率良いのだろう。


「ヒロ! ヒスイさんを使うの? 勿体なくない? 価値ゼロのスライムだよ!」


「ここで引き返す時間がもったいない。それに別ルートで同じような状況にぶつかる可能性だってあるだろ。なら、ここで使ってしまった方が良いって……」


 おそらく通常の狩人であればアルスの意見の方が正しいのだろう。


 機械種の行動には常にマテリアルが消費される。

 その行動に対し、リターンが無ければ赤字になりうる。

 それを計算しながら従属機械種にどのような行動をさせるのかを選択する。


 従属機械瞬の行動によって消費されるマテリアルと、倒したレッドオーダーの価値。

 さらにそこへ獲物を運搬する労力が加わり、最終的に黒字か赤字かが確定する。

 それが普通の機械種使いの狩人なのだ。


 俺も杏黄戊己旗が無ければ、今頃マテリアル消費を抑える為に四苦八苦していたはずだ。

 全員起動しての巣の攻略なんて、かなり無理筋な話であったに違いない。

 このことを確認できただけでもアルス達の攻略に同行した価値があったのかもしれない。


 だから後は攻略あるのみ!


 

「これは秘彗の運用を試したい意味でもあるんだ。だからマテリアル消費は今回の分配に計算しなくてもいいよ」


 正直な所、機械種スライムごときで時間を消費させられるのは勘弁してほしいと言うのが本音だ。

 

「…………ありがとう。ヒロに頼ってばっかりだけど、お願いするよ」


「すまない。この埋め合わせはいずれ………」


 俺に向かって頭を下げるアルスとハザン。


「まあ、良いって。街に帰ったら飯でも奢ってよ」


 そう言えば、一回アルス達の飯の誘いを断ったことがあったっけ?

 そんな俺が自分から言い出すんだから、随分と気安くなったもんだ。









「撃ち抜け! シューティングスター!」


 秘彗が唱えた呪文……マテリアル機器の発動。

 構えた杖の周りにパチンコ玉くらいの大きさの光弾が浮かび上がり、流星と化して飛んでいく。


 その数、百近く。

 

 眩い光の尾を引きながら高エネルギー体である光弾が一斉に、床を這う機械種スライム達に降りかかる。



 バシュッ! バシュッ! バシュッ! バシュッ! バシュッ! 

 バシュッ! バシュッ! バシュッ! バシュッ! バシュッ! 

 バシュッ! バシュッ! バシュッ! バシュッ! バシュッ! 



 赤い光源が撃ち抜かれ、黒い粘液が弾け飛ぶ。

 

 光弾1発1発の威力は低いが、最低ランクでしかない機械種スライムのコアを貫くならこれで十分。


 1機に対して、2、3発くらいの光弾が命中し、一度の掃射で半分以上が掃討された。


「すみません、12機を打ち漏らしました。第2射行きますか?」


「いや、もう十分だ。後は俺達で仕留めよう。アルス、ハザン!」


 秘彗の申し出を断り、アルスとハザンに声をかける。


「オッケー! 任せてよ」


「これくらいなら俺達でも片づけられる」


 2人は俺の声を受けて、すぐさま構えた銃の引き金を引く。


 俺も負けじとばかりに『高潔なる獣』をこちらへと向かって来るスライム達に向け、トリガーに指をかけた。


 ようやく回ってきた銃の出番。

 最低でも1機は倒したい!




 バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ


 ドンッ   ドンッ   ドンッ 


 バンッ          バンッ        バンッ



 三者三様の銃声が響く。

 

 片手撃ちで連続して赤く光るコアを撃つ抜いていくアルス。

 腰に構えた銃で1体1体を確実に仕留めていくハザン。

 

 それに対し、じっくり狙いをつけているにもかかわらず、1体も仕留められない俺。


「これは………当たらんなあ………」


 半分諦めていたが、やっぱり当たらない。

 これは威力を絞らずに最大火力で吹き飛ばした方が良いのかもしれないが………

 

「まあ、俺が当てなくても問題ないし………」


 銃で消費したマテリアルは杏黄戊己旗でも回復しない。

 ここで最大火力でぶっ飛ばすのは流石に勿体なさすぎる。


「よし! 掃討完了」


 アルスの声が通路に響く。


 見れば、もう動くモノが一機も無く、残るのは黒い粘液に浮かぶ粉々に砕けた晶石の欠片のみ。

 床に這いまわっていた機械種スライムは全て打ち倒されていた。


「これで前に進めるね!」

「いい調子だ」


 アルスとハザン。

 2人して良い笑顔で初勝利を喜んでいる様子。


「俺だけ撃墜ゼロ………」


 そんな中、1発も当てられなかった俺は少しばかりブルー。

 聖遺物である『高潔なる獣』に認められるには、やはり実戦で使っていかなくてはならない。

 だが、こうも当てられないと、認められるまでどのくらい時間がかかってしまうのか?


「………まあ、所詮はスライムだし。俺の銃を用いた新戦法はもっと強敵相手でないと意味が無い。せめて俺の全力の7割程度が振るえるような………そのくらいの強敵がどこかにいないかなあ……」



 俺の負け惜しみ混じりの呟きに…………


 

 フルフル



 応えるように、耳を震わせた白兎の姿が視界の片隅に映ったような気がした。

 


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