第424話 銃使い



「どうにもピンとくるモノがない」



 機械種売り場から出て本来の目的であった装備品売り場へと移動。

 防具やその他のアタッチメントが並ぶコーナーにて、ガンベルトの見本を腰に巻いてみるが、どうしても違和感が拭えない。



「これじゃないんだよなあ………」



 これではないと俺の中のナニカが訴えてきているような気がしてくる。

 すでに5本くらい試着をしているが、どれも自分の腰に巻くのに相応しいとは思えないのだ。



「でも、銃を装備するのに必要だし…………」



 私服警官のように脇の下に吊るすショルダーホルスターもあるが、俺の場合、銃を持っていると周りに見せるのが目的。

 隠し持ってしまっては意味が無い。



「うーん………どうしようか? もう我慢するしか………でも、なあ………」



 ガンベルトが並ぶ棚の前でひらすら悩む。

 白兎や森羅、秘彗が心配そうに見てくるが、こればっかりは俺の内心の問題だ。

 俺が決めるしかないのだ。


 

 そんな時………


 

「あ! ヒロ。こんな所で会うなんて奇遇だね」



 ガンベルトを持ったまま立ち尽くす俺にかけられた若い男の声。

 


「え………、アルスか」


「やあ、昨日ぶり。こんな連日でヒロと出会えるなんて、すっごく珍しい。何か良いことがあるのかも」


 俺をレアポップキャラ扱いすんな。

 あいにくと俺には出会えたキャラの幸運値を上げる能力なんて………あるけど。


 

 薄い金髪にやや童顔に見える端正な顔。

 武骨なコンバットスーツを着込んでいても、どこか浮世離れした王子様っぽい雰囲気がまとわりついている。

 いつも浮かべている柔和な笑顔がマイナスイオン風にさわやかなオーラを振り撒いているからかもしれない。



「お前こそ、今日はハザンと一緒じゃないんだな。朝は一緒だったんだろ。ガミンさんが言ってたぞ」


 アルスと会った時はいつもハザンが後ろに控えていたが、今日は1人だけ。

 前回会ったノービスタイプの機械種バトラーであるセインもいない。


「あはははは、朝一でちょっと予定の確認をしていただけだよ。今日はお互い別行動。彼とはよく狩りをいく仲だけど、いつも一緒にいるわけじゃない」


 ひょいっと肩をすくめるアルス。


 そして、俺の足元の白兎に屈みこんで挨拶。


「やあ、ハクト君。今日も元気そうだね」


 ピコピコ ポン


 嬉しそうに耳を揺らして、アルスが差し出した手に前足を置く白兎。


「それから………」


 チラリと俺の後ろに立つ2機に目線を向けるアルス。


「ああ、そうか。前に会った時、紹介していなかったな。えっと……機械種エルフロードの森羅に、機械種ミスティックウィッチの秘彗だ」


「マスターからご紹介に与りましたシンラです」

「同じくヒスイと申します」


「シンラさん、ヒスイさんね。僕はヒロの同僚のアルスだ。よろしく」


 ピッと右手を胸の前に当てる仕草。

 それはこの世界での挨拶時の簡略した礼儀作法なのであろう。


 貴公子めいた挙動。いちいち動作が華になる。

 一挙一動が洗練されていて、まるで一流の俳優………アルスの歳であればアイドルのような……と言うべきか。

 とにかく他の人とは違う存在感の強さが感じられる。


「そう言えば、ヒロ。随分とお悩みの様子だったけど、どうしたの? そのガンベルトを買うか買わないかで迷っているのかな? ヒロの稼ぎなら気にする額でもないと思うけど」


「……………どうにもしっくりくるのがなくてね。前回、槍を取り上げられたから、せめてそういった時に銃で武装できるようにしたいんだが………」


「ああ、そうだったね。あの鮮烈な槍裁きが目に焼き付いて忘れていたよ。でも、ガンベルトが気に入らないんだったら、レッグホルスターにしたらどうだい?」


「レッグホルスター?」


「うん。えっと…………あ、これこれ」


 アルスはガンベルトが並ぶ棚の2つ隣の棚をゴソゴソ。

 何かを見つけて取り出し、それを俺に見せてくる。


「ホルスター………、太腿に巻くタイプか?」


「そうだよ。腰のベルトに吊るして、こっちのベルトを太腿で固定するんだ。抜き撃ちには向かないけど、こっちの方が扱いやすいって言う人も多いよ」


 うーむ………


 アルスに勧められて、レッグホルスターをベルトに吊るし、太腿に巻き付けてみる。

 

 そして、軽くステップを踏んだり、スクワットしてみたりして付け心地を確かめること1分少々。



「いいな、コレ。おかしな感じもしないし………、よし、コレにしよう!」



 先ほどまで感じていた違和感もどこかへいってしまったかのよう。

 やはりベルトではないだからだろうか?

 レッグホルスターは良くて、ガンベルトが駄目なのかは謎だが、これで俺の懸念の一つは解消できた。

 


「ありがとう、アルス。助かったよ」


「どういたしまして。お礼を言われるほどのことはしていないけどね。昨日のヒロの活躍からしたら、返し切れない程の恩が貯まっているよ」


 心地良ささえ感じる軽やかな受け答え。

 輝くばかりのさわやかイケメンスマイル。

 無条件に人を引き付けるカリスマ。


 正しく王道主人公そのものだ。

 果たしてアルスはこの世界からいかなる役割を与えられているのだろうか?


「それより、先にそのホルスターに銃が入るのかどうかを確かめた方が良いよ」


「おっと、そうだな」


 空間拡張機能付きバックから発掘品の最上級の銃、『高潔なる獣』を取り出して、ホルスターに収めてみる。


「ピッタリだ。これで決まりだな」


 ニンマリとした笑みが自然と浮かんでくる。

 これで普段の俺の装備に銃が追加されたのだ。


 ここまで銃が溢れている世界なのに、俺だけずっと銃を装備しないままだった。

 今まで銃を持つ必要性が薄かったからなのだが、これからはそうはいかない。

 先へと進めば、いずれ銃が必要になる時が来る。


 …………問題はその銃を使いこなす腕が俺には無いことか。


 


「………凄い銃だね。上級?それとも………、そんな凄い銃を持っているってことは、ヒロは槍だけじゃなくて、銃の腕も凄いんだ?」


「いや、全然」


 俺は何の臆面もなくアルスの問いかけを否定。


 あまりの取り付く島もない返答にやや面食らったような顔をするアルス。


「…………本当? そんな凄い銃を持っているのに?」


「ホントホント。銃はあくまで威嚇用だから………」


「……………勿体ない。でも、銃の腕は練習すれば上手くなるよ」


「でも、師匠から銃の才能は無いって断言されたぞ」


「断言されたんだ? …………うーん、師匠かあ………」


 そこで腕組みして何かを考え込むアルス。

 しばらくしてから、俺と俺の持つ銃を見比べながら、決心したように口を開く。


「ヒロ、知っているかい? この街の、若い子達に銃を教えている有名な銃使いのこと?」


「銃使い? 引退した狩人か猟兵なのか?」


「ふふふ、違うんだな、これが」


 アルスは意味ありげに微笑み、ゆっくりとその銃使いの名を告げた。


「人間じゃないんだよ。機械種なんだ。機械種ガンマンさ」






 





 

 アルスに連れられて、町外れへと向かう。

 銃の教官をやっているという機械種のことが気になって。

 

「機械種ガンマン………、どこかで聞いたことがあるような………、でも、そんな機種、図鑑にも載っていなかったなあ」


「本人がそう名乗っているだけで本当に機械種ガンマンなのかは知らないけどね。でも、銃の腕は確かさ。それに教導の腕も」


 アルスがここまで自信あり気なのだから、相当な腕なのだろう。

 

 機械種が銃の教導をしているなんて驚いたのだが、それよりも驚いたのが、その機械種ガンマンにマスターがいないということ。


「まさかファントムがこの街にいるなんてビックリだ」


「まあね、僕も最初は驚いたもんだよ」


 通常機械種はマスターを失うと、マスターロストの状態となる。

 その後の行動はマスターロスト時の設定にもよるのだが、大抵はマスター消失状態となりスリープ状態へと移行する。

 これが白鐘の恩寵外であれば、すぐに赤の威令に汚染されレッドオーダー化してしまうし、恩寵内であれば次のマスターと契約するまで眠り続けることとなる。


 マスターと従属機械種の間には一定の絆が結ばれており、近距離であれば従属機械種はマスターの死を感じ取ることができる。

 逆に距離が離れていると、すぐにマスターの死を感じ取れず、マスターが死んだことを知らずにしばらくそのまま稼働を続けることになる。


 だが、それも時間が経てば、いずれマスターロストの状態となってしまう。


 この期間は機械種の格にもよるが、だいたい数週間から数ヶ月、長いと数年くらいと言われている。

 マスターとの絆を断たれた上で、その位の期間、何の連絡も取れないままだと従属機械種はマスターがいないことに耐えきれなくなってしまうのだ。

 故に従属機械種と長い期間、かなりの距離をとって離れる場合は、機械種をスリープ状態にしておく必要がある。


「…………その機械種はマスターがいなくなってから何十年も稼働しているんだよな」


「そう聞いているよ。しかもマスターの死を認識している上でね」


 従属機械種にとって、マスターの存在は絶対だ。

 そのマスターが死んだのを知って正気でいられる機械種はほとんどいない。


 だが、極稀にマスターの死に耐える機械種が存在する。


 それが主無きブルーオーダー、ファントムだ。



「よく狙われないな。囲まれて蒼石をぶつけられたら一発だろ」


「かなりの高位機種みたいなんだよ。それに特殊な位置にいる機械種でね。この街の領主ともつながりがあるし………何より加害スキルの一つ、『成敗』を持っているんだ」


「げ! 加害スキル! それも成敗って………」


「うん、悪いことした奴を懲らしめることができるスキルだよ。これで何人もの悪漢連中を帰り討ちにしているのさ。それに治安維持にも貢献していてね。街ではちょっとした有名人」


 うーん、ますます興味が湧いてきた。

 一体どんな機械種なのだろう。









 辿り着いたのは、閑散とした墓地。

 簡素な造りから、おそらくは下層階級の者達の墓標が集まっているのだろう。


 

 バンッ! バンッ!

 バンッ! バンッ!



 少し離れたところから聞こえてくる銃声。

 一定の間隔で響いていることから、銃の練習であることが分かる。


 

「ヒロ、あっちだよ」



 アルスの声に従い進んでいくと、目に入ってきたのは数人の子供が銃を構えて宙を舞うデコイを狙い撃っている風景。



 バンッ! バンッ!

 バンッ! バンッ!



 子供達はその姿からあまり裕福な層でないのは明らか。

 しかし、その手に持つのはいずれもスモール下級クラスの銃。

 1丁最低3,000M、日本円にして30万円もするから、子供が持つには些か不釣り合い。

 


 もしかして、貸し出しているのだろうか?

 そんなことをすればすぐに持ち逃げされそうなものだけど。



 ふと、子供達の射撃風景に目を向けながらそんなことを考えていると……




「なんダ、アルスか。ストロングタイプを連れている奴がいるかラ、久しぶりのカチコミかと思ったゾ。灰色蜘蛛の連中がついに本腰を入れたのかとナ」



 こちらにかけられた少々滑舌の悪い男とも女とも分からないしゃがれた声。


 振り向いてみれば、そこに現れたのは人型機械種。

 薄汚れたトレンチコートと西部劇でみるようなテンガロンハット。

 さらにその上からポンチョらしき布きれを被っている。


 テンガロンハットの下から覗くのは顔全体を覆う包帯。

 まるでミイラ男のように顔が包帯でグルグル巻きだ。

 言わば、ガンマンの恰好をしたミイラ男と言うべきか……


 コイツが機械種ガンマンなのか?

 姿形だけ見れば、西部劇のガンマンにも見えなくもないが………

 何なんだ? その包帯姿……

 人にも見せられないような酷い顔なのだろうか?



「あ、教官。今日は新しい生徒候補を連れていましたよ」


「ふうん………、槍使いカ? 相当な腕だナ。それもストロングタイプの魔術師系やエルフロードを従属していテ、わざわざ銃が必要だとも思えんがネ」



 こちらへと視線を向けてきたのが分かる。

 俺を値踏みするような視線。

 ブルーオーダー特有の青く輝く光。

 その光は顔全体を覆う包帯の隙間から漏れていた。

 

 

「む………」



 ほんの少しだけ、その異様な雰囲気に気圧されるような感覚に陥った。

 瀝泉槍を持っていなければ、ブルっていたかもしれないほどの威圧感。


 アルスの言う通り、コイツが凄腕なのは間違いない。

 おそらくはストロングタイプ並み……若しくは、それ以上の格を持った高位機種。


 だが、見た目はガンマンのコスプレをした包帯男。

 怪しいことこの上ない。

 

 こんな怪しい奴が銃の教官をしているのか?

 見れば見るほど、胡散臭い感じが………



 ………あれ?

 なぜかどこかで見覚えがあるような………


 


 その時、俺の脳裏に浮かび上がる光景。


 銃を持った白兎がこの機械種ガンマンを師匠と呼び、銃を習っている様子が泡沫のように浮かんでは消える。


 そればかりか、俺やミランカさんもこの機械種に銃の師事を受けており、銃の構え方や撃ち方、手入れの仕方や銃撃戦での立ち回り方まで教わっている映像が見えてくる。

 

 それはどこか懐かしさを感じるシーン。

 夢と希望に燃え、充実した日々を過ごしている場面。



 なんで?

 この機械種とは初めて会うはずなのに………



 チラリと横目で白兎を見てみるが、特に変わった様子は見られない。

 目の前の機械種ガンマンよりも、射撃訓練をしている子供達のことが気になる様子。



 俺だけか?

 俺だけ、コイツとの出会いの記憶を持っている?

 ひょっとして、自分の知らないうちに未来視でも発動させていたのだろうか………




「ふム………、どうしタ? 君程の使い手が私の面相に怯えている訳ではあるまイ」


 しばし、ぼうっと突っ立っている俺に機械種ガンマンが再び声をかけてきた。


「いえ………、その、ヒロといいます。アルスに銃を教えてくれる教官がいると聞きまして、こちらに顔を出させてもらいました」


「ほウ………、槍は達者でも銃は苦手ト? まあ、こちらはマテリアルを払ってくれるなら誰でも大歓迎だがネ」


 おどけた様に肩をすくめる機械種ガンマン。

 よく見ればコートの端から見える手足にも同じような包帯。

 外見からは本当の機械種名を探るのは不可能のようだ。


 なぜデジャブを感じてしまったのかは謎だけど………



「ヒロ、教官の銃の腕はこの街一番……辺境でも一番だよ。正しく辺境一の射撃の名手ってね。その名手に教わるんだから、きっと上手くなるはずだよ」


 アルスがまるで自分のことのように嬉しそうに機械種ガンマンについて話す。


「おいおイ、アルス。辺境一の射撃の名手は言い過ぎだナ。せめて辺境一の銃使いにしてくレ」


 なぜか、機械種ガンマンはアルスの説明を一部修正。

 その視線をほんの少しだけ別な方向に向けたのが気になった。


 あの方角は………確か白の教会がある所か。

 ひょっとして、白の教会を守護しているレジェンドタイプの射手のことを慮ってか?


 流石にレジェンドタイプには劣るということか。

 それとも………



「それデ………、ヒロと言ったナ。どうすル? ここで私の指導を受けていくカ?」


 機械種ガンマンからの確認。

 自らを辺境一の銃使いと名乗る機械種。

 非常に珍しい存在と言えるマスター無きブルーオーダー、ファントム。

 外見は西部劇のガンマン衣装に身を包んだミイラ男。


 怪しいことこの上ない相手ではあるが………


 

「…………よろしくお願いします」


 初めて会ったはずの機械種ガンマンに教えを乞う為、頭を下げた。


 彼は信頼できる。


 根拠は無いけど、なぜかそう思えた。











「才能が無いナ」


「結論、早い!」


 機械種ガンマンから渡された銃を持ち、子供達の横で宙を舞うデコイを撃ってみたところ、20発も撃たないうちに見込みなしの宣言を受けてしまった。


「ちょっと判断が早すぎません?」


「訓練すれば上手くなるとかというレベルではなイ。動体視力と予測、さらには身体の動きが全く噛み合っていないんダ。まるで反射神経を弄ったばかりの改造人間並み……だが、見た所、お前に改造の跡は見られなイ。だとしたらもう才能が無いとしか言いようがないナ」


 きっぱりと言い切る機械種ガンマン。

 

 あまりにも真正面から告げられて二の句が付けられない。


 思わず絶句してしまう俺だが、そこへアルスが割って入ってくる。


「教官、ちょっと待ってください! 噛み合っていないのであれば、訓練すれば噛み合うようになるのではありませんか?」


「まあ、普通はそうなんだが、コイツの場合は少し違ウ」


 努力しても無駄のような言い方がアルスの気に障ったのだろう。

 食ってかかるような雰囲気のアルスに、宥めるような口調で言葉を続ける機械種ガンマン。


「標的を定めて、狙いをつけて、撃ツ。銃を撃つにはこの3つの動作が必要ダ。そして、その3つの動作の間隔は人それぞれで異なル。当然、標的は常に動いているかラ、その間隔を予め予測した位置に弾丸を命中させようとすル。ここまでは良いカ?」


「あ、はい」


 標的を定めている間にも、狙いをつけている間にも標的は動いている。

 自分のその間隔を見越した上で、標的の動きを予測して撃つということだな。


「だが、コイツのその間隔はバラバラなんダ。達人並み………いや、高位機械種以上に素早い時もあれバ、素人レベルに遅い時もあっタ。通常、人間の反射神経はこれほど急激に変動しなイ。どれだけ鍛えても0.06秒より縮まらないし、機械に置き換えても0.004秒以下にはならない…………マテリアル時間器で時間操作をしていなければ」


「いや、俺にそんな機能ありませんよ」


 時間操作を行う機械種。

 噂には聞いたことがあるが、出会ったことは無い。

 空間操作よりも遥かに希少性の高い能力だ。

 所有しているのは間違いなく超高位機種か、特殊個体であろう。


「当たり前ダ。時間操作を持つのは高位機種でも滅多にいなイ。そうではなく、お前の反射スピードがどこかおかしいと言うことダ。これ程間隔がバラバラなのだかラ、どれだけ訓練しても上手くなりようがなイ。それでも銃の腕の上達を望むのであれば、せめてその反射スピードを一定するような訓練を先にすべきだろウ」


 告げられてしまった俺が射撃が苦手な理由。

 おそらくこの現象は、俺が危機に陥った時に現れる時間が止まったような感覚、思考速度の上昇のせいだろう。

 

 イマイチ自分でも把握しきれていない能力だ。

 これが気がつないうちに発動しているのであれば、止まっている的には当てられても、動いている的には当てられないのが良く分かる。


 近接戦であれば、自分の腕を振るっているから問題は無いが、発射された弾丸速度まで把握するのは不可能。

 つまり俺の銃手としての未来はここに潰えてしまったのだ。



「はあ…………せっかく、コイツを手に入れたのに………」



 思わず太腿のホルスターに収納した発掘品の銃『高潔なる獣』へと手を伸ばす。

 ホルスター越しにその重厚なグリップに触れた時………



「!!!  お前………それハ………」



 ビクッと肩を震わせる機械種ガンマン。

 今まで悠然とした態度を取ってきた姿からは思いもよらない反応。



「あ、すみません。別に銃を抜くつもりでは………」



 向かいあった状態で銃のグリップに触れるのはマナー違反だ。

 親しい間柄ならともかく、会ったばかりの相手からすれば、戦闘行為とも取られない行動。


 だが、別に俺の行動について咎めたわけでは無いようで………



「いや、違ウ。それは…………どこで手に入れた物ダ?」


「え………、その………」


 紅姫を倒して手に入れた物だが、それをこの場で言うのは少し憚れる。

 

 俺が何と言おうかと逡巡していると、機械種ガンマンは先ほどの言葉を翻す。


「すまなイ。余計な詮索だっタ」


「いえ、別に構いません。こちらも不作法でしたので」


「………もし、良かったらその銃を見せてもらったも良いカ?」


「はい?………まあ、いいですよ。どうぞ」



 自分の銃を会ったばかりの者に預けるのは在り得ない。

 しかし、なぜか違和感なく、そうすることが当たり前のように思えた。



 俺から銃を受け取った機械種ガンマンは、しばし見分するようにあちこちを触っていく。


 実に慣れた手つき。

 まるで自分の愛銃を触るような手慣れた………そして、大事なモノに触れるような柔らかさえ感じる動作。



「ふム………、撃ってみても構わないカ?」


「……………どうぞ」


 五秒程考えての返事。

 なぜなら1発撃つと1,000M。日本円にして10万円が吹っ飛ぶから。

 でも、これくらい授業料と考えれば安いモノか。



「では、向こう行こうカ」


 

 機械種ガンマンに連れられて、少し離れた所に移動。

 

 こちらは全く人気のない場所。

 ただ空き地が広がっているだけ。



「デコイ………錬成………出でヨ」



 機械種ガンマンがしゃがれた声で呟くと、そのすぐそばに現れる30cm程の楕円形の物体。


 それは先ほど射撃場で飛び回っていた浮遊する標的。



「行ケ」



 短くそう命令すると、ふわっと浮かんで30m先へと移動。

 その後はまるでこちらを挑発するように不規則な速度で宙を舞い始める。



 どうやらあのデコイを銃の標的にするようだけど、一体何を見せてくれるつもりなのか………



 俺と白兎、森羅と秘彗、そしてアルスが見守る中、機械種ガンマンはゆっくりと『高潔なる獣』を構える。

 

 それは堂に入った片手撃ち。

 見惚れるほどに綺麗にまとまったフォーム。

 一片のブレも無く、ただまっすぐに突き出された腕は銃と一体となって銃座と化す。

  



 

 バンッ!




 銃声とともに放たれた弾丸は………






「え?」





 全く明後日の方向に飛んでいき………





 ギュンッ





 突然弧を描いて急カーブ。





 ドコンッ!!






 宙を舞うデコイの1機に命中。

 1弾のもとに完全破壊。






 

「………なんで? 曲がった?」






 まるで誘導ミサイルのように標的を仕留めた弾丸。






「これは『高潔なる獣』が備える特殊弾丸の一つ、『猟犬弾』ダ」






 何でもないように機械種ガンマンはそう呟いた。


 


 

「コイツにはまだまだ手札が隠されている。それを引き出したければ、コイツに主は俺だと認めさせロ! 発掘品の中でも、使い手を選ぶという聖遺物にナ」

 


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