第304話 正義
「俺達はさ、ここから少し離れた所に拠点をもっている集団なんだ。ボスはめっちゃ凄い人で、その人の下で俺達は動いているんだぞ!」
「そうだよお。それで強い機械種使いを探していてねえ。君の腕なら大歓迎、ぜひ参加しようよお」
予想外のお誘いを受けている俺。
色々な集団に誘われたことはあるけれど、野賊から誘われたのは初めてだ。
もちろん野賊に入団するつもりなんて雀の涙ほども無いけど、そのめっちゃ凄いボスという人が気になるな。
ひょっとしてその人が『鍵』なのであろうか?
この男達も野賊かと思ったけど、実はこの辺にある街の兵だとか。
あんまり堅気には見えないが・・・
もう少し情報を聞き出さないといけないかな。
「えっと、貴方達はこの辺りの街の方ですか?」
「ん?街?いやあ、まだ街じゃないな。うーん、何て言うか・・・」
「その辺は秘密なんだけどねえ。でも、君には特別に教えてあげようかあ」
ダミ声男の代わりにキンキン声男が答えてくれる。
「俺達の集団は機械種使いだけの国を造ろうって動いているんだよお」
「はあ?」
意外や意外。
まさかそんな答えが返ってくるとは・・・
「あははは、そんな顔するのも仕方が無いけどねえ。でも、それくらいのことができる程、ボスが凄い人だってことなんだよお」
「そうそう、うちのボスは凄い人なんだから!参加するなら今の内だぜ!」
2人してドヤってくらいのドヤ顔だ。
それほど2人の言うボスは凄い人なのだろうか・・・
ボス、ボスっていうと、どうしてもチームトルネラのボスを思い出しちゃうけど、機械種じゃないよね。
「ちなみにそのボスって人は人間?」
「ん?何言っているんだ?当たり前だろ」
「まあ、そうですよね・・・、あははは」
そりゃ当たり前だな。
しかし、まさかの建国ルートにぶつかるとは思わなかった。
打神鞭が示した占いの結果はこのことであったのだろうか?
街の有力者になりそうなというのには間違いないのだろうが、現時点ではどうなのだろう。
確かにエンジュは機械種使いだし、ユティアさんも仙丹を与えれば機械種使いになれる。
この集団に参加することが本当にエンジュ達の幸せにつながるなら、それもありなのだろうが・・・
「お前さん、どこかの団にでも所属しているか?」
「いや、今はフリーだけど・・・」
「なら、問題ないじゃないか。お前程の腕なら女もマテリアルも選り取り見取りだぞ!」
「あーあ、なるほど。車にいる自分の女ことを気にしているのかなあ。でも、大丈夫。君の所有なら他の奴も手を出さないよう」
所有?
女の子を物みたいに言うのはちょっと・・・
俺がキンキン声の物言いに少しばかり眉を顰めた時、
「助けて!」
突然、かけられた助けを求める女性の声。
思わずその方向を振りむけば、道横の岩壁からこちらに駆け寄ろうとする黒髪の女性が1人。
目に飛び込んでくるのは真っ白な肢体。
程良い大きさの胸。
細くくびれた腰。
スラリと伸びた手足は引き絞った縄のごとく引き締まってアスリートのようだ。
ただし、身体のあちらこちらに小傷や青痣が見受けられ、全体的に薄汚れた印象。
なぜ、ここまで分かるかと言うと、その女性は服を着ておらず全裸だったから・・・
「お願い、そこの人!助けて・・・きゃあっ!」
俺に助けを求めてきた女性は、後ろから出てきた機械種エイプによって引き倒される。
「いや・・・いや・・・」
俺の目の前そのまま押さえつけられてしまっている女性。
しかし、なんとか顔だけを上げ、縋るような視線をこちらに向けた。
目の色は俺と同じ黒。
少し切れ長の目は、こういった状況でなければクールな印象を俺に与えていたかもしれない。
顔には殴られたような痕が残っているが、それでも美人と断言できる容姿。
年齢は今の俺より少し上くらい、17,8歳ではないだろうか。
あれ?この女性も、機械種エイプもどこから出てきたんだ?
方向的に岩壁しかないけど・・・
いや、そんなことよりも早く助けねば・・・
俺はすぐさま瀝泉槍を構え、女性を押さえつけるエイプに向かおうする。
だが、その前に立ちはだかるのは、先ほどまでやり取りをしていた男達。
「おい、ちょっと待った。誤解があるようだが、この女は俺達の仲間だぜ。少し悪いことをしたからお仕置きの最中だったんだ!」
「そうだよお。あくまで仲間内のことだから、他所の人間は口出ししないでほしいかなあ」
そんなことを宣う男達の顔は、ほんの少しバツの悪そうな色を浮かべていた。
「・・・そうは言いましても、流石にこの状況では男だったら見逃せないのでは?」
瀝泉槍の穂先を向けながら、先ほどまで他愛のない話を弾ませていた男達へ厳しい表情で問いかける。
多分、俺の心の内に落胆もあったのかもしれない。
少し話しただけだけど、面白い人達だなと思っていたのに・・・
「フンッ、正義の味方気取りか!女が言うことの方を信じるのかよ!」
「お互い何も見なかったということで、このまま別れるのはどうだい?無駄な争いは避けたいし、君にとっても俺達と争うメリットは無いと思うけどねえ」
ダミ声男が面白くなさそうに吐き捨て、キンキン声の男がこちらへ無難な提案してくる。
確かに無駄な争いは避けたいとは思うけど・・・
こちらも守らないといけない人を抱えているし・・・
それに『鍵』ことについても不明なままだ。
男達のことなのか、それとも、現れた女性のことなのか・・・
悩む。
決められない。
いつもならこういった場合は・・・
ズン
その時、瀝泉槍を握る右手を通じて俺へと流れ込む強い意思。
まるで秘境に佇む泰山ごとき重厚を持った波動。
それは俺の中の正義感を強く刺激する。
・・・あのような姿の女性を放っておくわけにはいかないか。
俺には力がある。
それは牙無き人々を救う為。
平和に生きようとする人々を守るためのモノのはず。
ぐっと瀝泉槍の柄を握り絞めて、戦闘態勢に移行する俺。
そんな俺の様子を見て、森羅達も男達を敵と見なし構え始める。
向こうもそれに対応するように、機械種オックス、機械種エイプ2体が前に出てきた。
「ふう…、やっぱり戦闘は避けられないのかねえ。あーあ、信じてもらえないってツラいなあ」
俺に残念そうな表情で訴えてくるキンキン声男。
その厭味ったらしい言い方に、つい反論してしまう。
「いや、それは無理があるでしょう・・・・・・それに、むさ苦しい男と美女のどちらを信じると言われたら、そりゃ美女の方でしょ。しかも裸で助けてと言われたら・・・」
男の本能として、女性を助けるのは当たり前だ。
それが美女ならなおさらだろう。
「ああ!それは分かる!俺でもそうなるな!裸の美女だったら当たり前だ!」
「そう言われると、確かにそうだねえ。美女に助けを求められるっていうシチュエーションなんて、物語の中だけだと思っていたけどねえ。機械種使いの才能があるって分かった時は、そんな出会いもあるかなって夢想していたけどお・・・」
俺の発言に、なぜか激しく同意する2人。
「やっぱり裸っていうのが大きいな。そんな出会い方、俺もしたかったぞ・・・、なんでこうなっただろうな」
「もう今更生き方は変えられない・・・、いや、変える為にボスに従うことにしたんだけどねえ」
しみじみと人生について語り合っている。
そんなしんみりしている場面でもないだろうに。
「えーっと、やっぱり貴方達が悪漢で、助けを求めている女性の方が正しいと言うことでオッケー?」
「おう!その通り!さあ、女を助けたくば、俺達を倒してからにするんだな!」
「あーあ、やっぱりこうなっちゃったねえ。まあ、仕方ないけどお」
先ほどの態度を一変させてノリノリとなるダミ声男。
そんな相方を見て、残念そうな表情を浮かべるキンキン声男。
「戦い方はどうする?オールか、それともセレクト?ワンオンでもいいぞ!」
ダミ声男の問いかけに、すぐに意味が分からず、しばし逡巡してしまう俺。
『オール』、『セレクト』、『ワンオン』
その単語、機械種使い関連で聞いたことはあるけれど、実際に当事者となったことがないので、思い出すのに時間がかかる。
未来視で得た記憶の底をさらい、ようやく出てきたのは、機械種使い同士での勝負方法であったこと。
『オール』は文字通り総力戦。機械種使いが自分の従属する全ての機械種をぶつけ合う。
『セレクト』は2対2、3対3、5対5等の選別した機械種を出すチーム戦。
『ワンオン』は1対1のタイマン勝負。最も勝率の高そうな機械種を出す個人戦。
これに交代制である『タッグ』が追加されたり、『ハンデ』によって数を調整されたり、『バインド』と呼ばれる武器制限が付いたりすることがある。
中央の一部では娯楽として機械種同士の戦闘が見世物にされており、そうした戦闘を面白くする為の競技ルールみたいなモノだ。
ダミ声男は自信満々のようだが、それはこちらの機械種を見誤っているということもあるだろう。
森羅を通常の機械種エルフ、ディアをただの機械種ウルフと見ているに違いない。
実際はそれらの上位機種だから、全く持って見当違い甚だしい。
まあ、一番の見当違いであるのは廻斗で間違いないだろうけど。
「『ワンオン』なら俺のブオーを出すぞ!」
「まあ、それが無難だねえ」
ブオー?
ああ、その機械種オックスのことか。
その呼び名から上位機種のブルオックスなのだろうな。
たとえ機械種ブルオックスであったとしても、森羅なら遅れは取らないだろうが・・・
いや、重量級と中量級の差は大きいか。
特に前衛がいなければ森羅の射撃能力を十全に生かすことができなくなる。
しかも、戦場が荒野や森ならばともかく、隠れようのない道のど真ん中では明らかに森羅が不利だ。
勝てない敵ではないが、戦場をここに限定すれば分が悪いと言える。
かといってディアでは、もっと厳しい。
スピードで攪乱はできるだろうが、6m越えの巨体と分厚い装甲を持つ四足獣型を仕留めるには攻撃力が足りない。
いい勝負は出来ても、勝ち残るのは難しそうだ。
こちら側で確実に勝てる機械種と言えば、白兎、ヨシツネ、豪魔を除けば、天琉くらいだろう。
飛行しての上空からの絨毯砲撃でハチの巣にするのは容易い。
まあ、こんな所でアイツを出すつもりは無いが・・・
さて、どうしようか?
こちらは後方に守らなくてはならないエンジュ達を抱えている。
であれば戦場を限定してくれる提案に乗らない手は無い。
そして、あの女性のことをどうするか?
こっちが勝ったからといって素直に渡してくれるの馬鹿正直に信じるわけにはいかない。
そりゃ、助けてあげたいとは思うけど、絶対にあのままだと人質にされるだろうな。
そうなると当然こちらの危険は大きく増す。
エンジュ達や俺の仲間の安全と比べれば最悪は・・・
ズン
・・・いや、出来うる限り救う手段を考えるべきだ。
傷ついた女性1人救えなくてどうする。
その為に俺の闘神スキルや仙術スキルがあるのだから。
考えろ。
頭を巡らせ。
使うの俺の力だけでなく、皆の力を合わせれば・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
自分の記憶にある追い詰められた時の逆転方法。
人質奪還作戦。
敵の死角をついた電撃戦。
様々なパターンを頭に描き、必要な陣立て、取るべき選択肢を研磨していく。
あの重量級相手に確実に勝利をもぎ取れるこちらの手札。
ある程度時間を引き伸ばしつつ、向こうの視線を釘づけるする意外性。
この場合の最適解は・・・
「マスター!よろしければ私が・・・」
「・・・いや、今回は俺が出る。『ワンオン』で勝負といこうか!」
後ろから立候補してくる森羅を制し、俺が手を挙げることにした。
「おいおい!いくらお前が腕が立つとはいえ、こっちは重量級だぞ!」
「大岩を割ったからといって、猛スピードで突っ込む重量級に通じるとでも思っているのかい?」
「さあね。でも『ワンオン』では一番強いモノを出すのがセオリーだろ。なら、この中で一番強いのは俺なのでね」
この中どころか、多分、俺は世界中で最も強い人間なのかもしれないんだ。
「そのブオーと言う機械種を倒して、女性を救い、正義を成す。悪いが悪役としてアンタ達には退場してもらおう!」
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