第302話 渓谷


 遺跡から出発して、次なる目的地へと進む俺達。


 打神鞭の占いで描かれた地図。

 家のマークから最も近い鍵のマーク。


 家のマークの位置には、俺達が先ほどまでいた白色文明の遺跡があった。

 俺の事前の予想では、最終目的である『街の有力者の縁者』に関係があるモノが遺跡内にあるのではと思っていたが・・・


「それらしいモノはなかったしなあ・・・」


 一応、エンジュやユティアさんが日用品の発掘品を見つけていたが、あれが何かイベントのキーになっているとは考えづらい。

 ひょっとしたら、家のマークは単なる目印でしかなかったという可能性もある。


「でも、次の印は『鍵』。であれば、何かしらの手がかりがあると考えるのが自然だ」


 ピコピコ


 助手席の白兎が俺の呟きに応えて、耳を揺らす。


「白兎もそう思うか?そうだよな。必ずそこに鍵となるナニカがあるはず・・・」


 白兎にも肯定され、次なる目的地に手がかりがあることに自信を深める俺。


 ちなみにいつも助手席が定位置のエンジュは潜水艇で作業中。

 車内には白兎が1体だけだ。


「あと、2時間くらいで到着するだろう。白兎、引き続き警戒を頼むよ」









 目的地に近づくにつれ、草原が姿を消し、代わりに岩場が目立つようになってくる。


 そして、目的地目前まで来ると、そこはもう渓谷道。

 左右には切り立った岩壁が立ち、道幅は場所によってまちまちで、広ければ道幅20m以上、狭ければ車2台分程度の広さしかない。

 どう考えても主要道路では在り得ない。


「こりゃあ、知る人ぞ知るという抜け道か何かかな?」


 道路状況から見るに、全く車が通らない道では無さそうだ。

 地図を見れば確かに辺境を抜ける為には、主要道路を通るよりも近いルートを辿る模様。


「でも、こういった場所って、奇襲でもくらいそうな・・・」


 左右の崖から岩でも落とされそうな感じのシチュエーション。

 もしそうなったら、豪魔でも呼び出して庇ってもらうくらいしか対策が無さそうだ。


「あともう少しなんだよなあ・・・いや、もう着いていてもおかしくないのか?」


 地図の寸借がいい加減だから、細かいところまでは分からない。

 それに鍵のマークという曖昧なモノだから、この場所に何があるのかも不明なのだ。


「この辺りに何かあるはずなんだけど、特に変わったモノも見当たらないし・・・、白兎の方はどうだ?」



 しかし、白兎は俺の言葉に答えることなく、耳をピンと立てて窓の方を見つめていた。 


「どうした?白兎・・・・・・え、誰かが監視している?」


 フリフリ


「・・・機械種か。どこか分かるか?・・・・・・もう離れていったって?」


 ポンポン


 前脚で助手席の座布団を叩く白兎。

 こちらが気づいたことに気づかれて、相手は逃げ出したようだ。


 ふむ。

 単なる野良のレッドオーダーなのか、それとも誰かに従属されている機械種なのかで対応が異なるな。

 こっちが察知した瞬間に逃げ出したことから、おそらく軽量級のすばしっこいタイプだろう。

 もし、斥候だとすれば、何かしらのアクションがあるはず。

 それが敵対的接触か、友好的接触になるかは今の段階では不明だが。



 ピカッ ピカッ



「・・・、んん?リビングルームからだ。何だ?」


 運転席のスピーカーの上についたランプが点滅を繰り返す。

 その後に流れてくるのは、少しばかり緊迫した色を含んだ森羅の声。


「マスター、先ほど外・・・機械種の反応が・・・」


 うむ、森羅も感知したのか。

 森羅の警戒スキルも白兎と同程度だから、発見したのも同じタイミングということか。


「了解。こっちでも白兎が感知した。そっちも警戒を続けてくれ。万が一、襲ってくるような素振りがあれば、屋根に出て天琉と一緒に銃で反撃を頼む」


「承知・・・ました」



 大抵の敵であれば、森羅と天琉の射撃でどうにかなる。

 また、銃撃を受けたとしても、ある程度なら天琉のAMFで無効化できる。


 ただし、粒子加速砲やこちらの射撃を潜り抜けて接近されると途端に厳しくなってしまう。

 戦闘になった場合は、森羅、天琉を潜水艇の屋根から砲台の役目。

 白兎、ボルト、ディアは敵を近づけさせない為の盾役になってもらう必要がある。 

 そして、敵に切り込むのは俺の役目になるだろう。


「うーん・・・・・・、従属機械種を前に出して、俺が後衛になれるのはいつの日なんだろうね」


 俺のビルドが前衛向きなのが悪いのだ。

 無敵の防御力に無限の体力、無双の近接武器が3つに、短距離瞬間移動もできる。

 どれも前衛でこそ生きる能力と言える。

 中距離攻撃手段は電撃、重力、炎の3つあるけど、どれも範囲攻撃だから後衛からだと味方を巻き込む可能性があって使いにくい。

 唯一の単体射撃攻撃である気賛は命中率が悪い。

 さらに俺は銃が下手で、指揮官適正も無くて・・・


「あれ?俺って後衛にいてもすることが無いんじゃ・・・」


 ピコピコ


「んん?親分は後ろでドンッと構えているのが仕事だって?まあ、いずれそうなりたいと思うけどね。白兎やヨシツネ並みの機械種があと2,3体増えてくれたら、そのポジションで楽をさせてもらうことにするよ」


 助手席に手を伸ばして、白兎の頭を一しきり撫でまわす。

 いつものように俺の手を鼻でフンフンしてくる白兎。


「はははは、白兎、くすぐったいぞ・・・・・・さて、この先何が出てくるのやら・・・」



 そして、五分程進んだ後・・・




「ああ!アレ!おい、えっと、46725号!止まれ!」


「了解しました。停車致します」


 俺の指示に従ってその場でゆっくりと減速し、停車する車両。


 前方約50m先の道が巨大な岩で塞がれていたのだ。


「・・・・・・あーあ、これって間違いなく・・・」


 車両を障害物で足止めしてってどう考えても野賊のやり口だろう。

 だとすれば、先ほどの機械種の反応は斥候であった可能性が高い。

 どこからか奇襲をかけてきてもおかしくは無いが・・・

 

「白兎、警戒に引っかかるモノは無いか?」


 ピコッ ピコッ


 珍しく自信なさげに揺れる白兎の両耳。


 ニュアンス的には『反応はあるのだけれど・・・絞り切れない』だ。

 

 白兎の警戒スキルは中級。

 辺境であればこれで十分であるが、絶対を保証できるものではない。

 相手の機械種に高いレベルの『隠身スキル』、若しくは気配を消す装備等があれば誤魔化されてしまう。


「うーむ、どうしたものか・・・」


 運転席で腕を組んで頭を悩ませる。


「どうもこうも車から降りて、あの岩をどうにかするしかないのだけれど・・・」


 あれくらいの岩なら俺1人でどうにかなる。

 それに俺1人で外に出て、囮になれば相手も姿を現すかも・・・


 


 ピカッ ピカッ


 またもスピーカーの上のランプが点滅。


「おや?また、森羅かな?」


「どう・・・たの?目的地に・・・いた?」


 スピーカーから響いてきたのはエンジュの声。

 急に車を停車させたから気になったようだ。


「ごめん、ちょっと前の道が塞がっているみたい!エンジュ達はそのまま部屋に居ててよ。俺がちょっと降りて調べてくるから」


 マイクのスイッチを入れてエンジュ達へ連絡した後、白兎と一緒に車を降りる。


「白兎、お前はこの場所で待機。もしも時の為だ。エンジュ達を守ってやってくれ」


 ピョンピョン


 白兎にエンジュ達の護衛を命じ、前方に立ち塞がる巨石に向かおうとしたところ、


「ヒロ!ちょっと待って!」


 背後から聞こえたのはエンジュの声。

 振り返れば、潜水艇の扉から身を乗り出すエンジュ。


「1人じゃ危ないよ。せめてシンラ達を連れて行って!」


 俺に対する心配でエンジュの表情は不安げに揺れている。

 先ほどの機械種の反応もあって、この先に危険があるかもとエンジュも覚っているのだろう。


 ・・・まあ、仕方ないか。

 確かに俺1人より、森羅を連れていく方が敵を発見しやすい。

 それにエンジュ達の護衛には白兎を置いていくんだし。




 結局、このまま道を塞ぐ巨石に向かうのは俺と、森羅、廻斗、ディアの3機。


「マスターの安全は私がお守りします!」


 久しぶりのマスターである俺の護衛とあって気合が入っている森羅。

 

「ウォン!」


 護衛はお任せくださいとばかりに張り切って一吼えするディア。

 ディアにとっては初の任務だから意気込みも強い。


「キィキィ!」


 空中に浮かぶ廻斗も、岩を動かすなら任しとけ!といった感じでドンと自分の胸を叩く。


 この面子での行動は初めてだな。

 森羅、ディアは警戒スキルが高く、戦闘力もそこそこだ。

 空を飛べる廻斗は万が一の時の連絡用。

 また、通常機の10倍のマテリアル重力器の力を持ってすれば、俺達の誰か1人くらいなら持ち上げての空中移動も可能。

 重力制御を持っていれば、天琉のように念力みたく離れた相手を持ち上げることもできるのだけど、ただの飛行スキルだけでは廻斗が抱える必要が出てくる。

 重力制御はかなりレアなスキルだが、見つけたら廻斗に入れてやりたいな。

 



「よし!では、皆で道を塞ぐ原因を取り除くぞ!」


 バックから瀝泉槍を引き抜き、クルッと一回転させて、ビタッと穂先を巨石に向けて号令。


「はい」

「ウォン!」

「キィ!」


 三機三様の返事が辺りに木霊した。


 








 さて、やってきました道を塞ぐ巨石の前。


 俺の身長よりデカい岩が道の真ん中に鎮座している。


 高さ2m近く、幅4m、奥行き6m程。

 重さにすれば何十トンになることやら。


「この大きさになりますと、このまま動かすのは困難ですね。細かく砕く必要がありそうです」


 森羅は岩に手を置いて、早速分析している様子。


「キィ~」


 廻斗はうーんっと力と込めて持ち上げようとしているが、流石に重すぎて動かない模様。


「ウォンウォン」


 ディアはココ掘れワンワンといったように岩が置かれた地面の方を掘り返す。


「ディア、無理をするな。そのペースだと何時間もかかってしまうぞ」


「ウォ~ン」


 俺の制止に悲しそうな声をあげるディア。

 ちょっとばかり感情豊かになったような気がするな。

 これも白兎道場の成果なのであろうか。


「マスター、どういたしましょう?私だと爆裂弾を何十発も撃ち込む必要がありますが、テンルの粒子加速砲なら・・・・・・マスター!」


 突然、森羅が緊迫した声を放つ。

 森羅が身を翻して銃を構える先は、道横の岩壁。

 その前にいつの間にか何人もの人影が・・・


「よぉ!ご同輩。そのエルフに物騒なモノを仕舞うように言ってもらえないかい?」


 馴れ馴れしくこちらに投げかけられたダミ声。


 現れたのは人間が2人。

 機械種が3体。


 人間の方はどちらも30過ぎの男達。

 機械種は重量級の猛牛型1体に、軽量級の猿型が2体。



 おかしい!

 こんなに接近されていたのに森羅もディアも気づかないなんて・・・


 俺は手に持った瀝泉槍を構え直す。


 森羅とディアは俺の前に移動。

 廻斗は少しだけ上昇して、他に敵がいないかを警戒。


 ここで俺達に接触してきたと言うことは、コイツ等が打神鞭の占いが示した『鍵』なのであろうか・・・

 

 臨戦態勢のまま、じっと現れた男2人に険しい目を向けた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る