第258話 食事


 結局、天琉の指導役・・・というか、教育係を白兎に一任することにした。


 元々後輩の指導役の役目を白兎に振っていたこともあり、俺の改めての依頼に、『もちろん、任せて!』と力一杯のやる気を見せてくれている。


 天琉も『はくとせんせぇ!よろしくぅおねがいしますぅ~』と早速白兎を先生と仰いでいた。


 対する白兎は、『ど~れ』とばかりに時代劇の用心棒っぽい仕草で出てきて、『エイヤ!』とばかりに刀を振るう真似。


 いや、白兎。それ、違う『先生』だろ!


 廻斗も切られたポーズをしなくてもいいぞ!


 よく分かっているんだか、分かっていないんだか・・・

 


 とにかく我が悠久の刃の集会はこれで終了。

 ずっとエンジュ達をほったらかしにして外にいるのも申し訳ない。


 ヨシツネと豪魔は七宝袋へと戻し、白兎、森羅、天琉、廻斗を連れ、車へと戻る。


 果たして、俺のチームが全員一緒に行動できる日はいつになるのだろうか?









 潜水艇のリビングルームで夕食を取る。

 リビングルームにいるのは俺と、エンジュとユティアさんだけ。


 白兎達は外でボルトと一緒に見張りについてもらっている。

 天琉は警戒スキルを持っていないから、あまり見張りには役に立たないのだが、白兎が無理やり引っ張っていた。


 どうやら実地訓練をさせるらしい。

 やはり白兎は感覚派で実践派のようだ。



 機械種の主な役目の一つに、人間が無防備でいる間の見張りが挙げられる。


 睡眠中は完全に無防備だから警戒するのが当たり前なのだが、食事中は意外と抜けやすい。

 しかし、間違いなく食事中は人間が油断してしまう時間帯だ。

 それに張り詰めていた気を和らげるリラックスタイムでもある。


 そういった時間を守ってくれる機械種がいるのというのは、非常にありがたいモノだと実感する。


 今は白兎達に感謝しながらエンジュ達との食事を楽しむことにしよう。

 



 3人一つのテーブルを囲みながら椅子に座っての食事。


 エンジュとユティアさんは思い思いのブロックを手に取り、2人で分け別けしながらパクついている。


「こうした方が色々食べられますものね」


「うん。ヒロも分け別けする?」


 いや、そのごった煮のような食べ方はちょっと・・・

 オムレツと、すき焼きと、ギョーザを交互に食べるのは勘弁してほしい。


 俺はレストラン経営ルートの経験を活かし、かなり手の込んだものを仕上げている。

 グラタンブロックにライスブロックを混ぜ合わせ、チーズブロックの欠片を追加。

 その上にバタードロップとソルトドロップをほんの少し足したドリア風ブロック混ぜを作り上げた。

 

 調理系ブロックだけだと、どうも一味足りないのだが、こうやって調味ドロップを追加することで本来の味に近いモノが出せる。


 欠点と言えば、温かくないことだな。


 ブロックを温めて出すのは全く一般的ではない。

 レストランでも試してみたが、温かい食べ物というモノを受け入れられることはなかった。

 温かい飲み物はあるくせに、食べ物が温かいと駄目なんて一体どういう理屈だ?

 辛うじてスープ系は温めて出しても、変わった飲み物として受け入れられることはできたのだが・・・



「ヒロさんは色々組み合わせていますけど、ひょっとして調味士のご経験があるのですか?」


 俺のブロックの組み合わせを見て、不思議そうな顔で質問してくるユティアさん。



 アンタができなかったからだろ!

 それ以前に、調味系ドロップで足し算引き算するのを止めろ!

 砂糖が多すぎたからって塩を入れても元に戻らないんだよ!


 ・・・いや、このユティアさんに怒っても仕方が無いのは分かってるが。



「ヒロさん。ソレ、ちょっとだけ分けてもらっても構いませんか?」


 上目遣いで目をパチパチさせて、両手を組んでのお願いのポーズ。

 どうやらユティアさんはかわいこぶりっ子でおねだりしているようだけれど・・・


「駄目です」


「え!な、なんで駄目なんですか!」


 断られるとは思ってなかったユティアさんは驚きの表情。


「人の食べ物を強請るのは止めてください。あと、その歳でそのポーズは似合いません。もう少し年相応の振る舞いをしてほしいものですね」


 わざとらし過ぎて狙いが見え見えだ。

 古い世代のアイドルでももう少しマシな演技をするぞ。


 それに・・・


 いつもいつも人の食べているモノに興味を持って・・・

 勝手にお客さんのテーブルで一緒にご相伴したり、奢ってもらったり・・・

 で、変な客に絡まれたら、俺が出て行く羽目になるのだ。


 いい加減二十歳を超えたのなら、落ち着きを覚えろって・・・


 ・・・いや、今のユティアさんは18歳だったな。



 イカン。また、未来視の記憶とごっちゃになってしまっている。

 まあ、訂正するつもりは無いけれど。


 



「えーん、酷いです。エンジュ~、ヒロさんがイジメますぅ」


「あははは、しょうがないよ。ヒロが自分で作ったんだから。そんなに欲しかったんならユティアが自分で組み合わせればいいじゃない。さっき手順は見てたんだし」


 おい、エンジュ。

 それは地獄の蓋だ。


「そう言えばそうですね。ブロックを組み合わせて、ドロップを入れるだけだったら私にもできそうです。やってみましょう!」


 エンジュに乗せられてやる気十分のユティアさん。

 それができないのは、俺の未来視で確認済みだぞ。


「ふふん!ヒロさんよりもっと美味しい組み合わせを見つけちゃいますから!」


 大きな胸を反らしてなぜか自信満々。


 ああ・・・、この時点ですでにオチまで見えた。

 もう好きにしてくれ・・・









 

 色々あった後・・・本当に色々あった後、俺は先にリビングルームの風呂で一汗流し、自分の今日の寝床である車に戻った。


 エンジュから一緒にリビングルームで寝ようと誘われたが、やっぱり女の子達と同じ部屋は落ち着かないので断った。


「まあ、1人の時間くらいほしいからな」


 誰もいない車内で1人呟く。

 元々、前の世界では営業車でずっと一人ドライブが多かったから、車の中だとつい独り言を呟いてしまう。


 スマホを取り出して時間を見ると、もう夜の11時。

 前の世界だったら、ネット小説を読み漁っているか、スマホでソシャゲをしている時間帯だ。


「・・・ネット小説も読めず、ソシャゲもできなくなって早3週間近く。随分慣れてしまったモノだ」


 初めはそんなことを考える余裕も無かったが、最近は環境も整い、戦力も増えてきた。

 何より自分自身の無敵っぷりを実感できたことが大きい。


「だが、100%俺が安心だという証はない・・・」


 俺自身、戦闘力だけで言えばこの世界でもトップクラスだろう。

 

 全く傷つくことが無いこの体。

 超重量級機械種とですら力負けをしたことが無いパワー。

 数々の不可思議な仙術、それに発掘品を上回る性能を秘めた宝貝。

 

 この世界で最高峰の実力を誇る紅姫とて、俺の前では赤子扱い・・・はちょっと言い過ぎか。

 それでもまともに戦えば俺の方が勝つのは確実。

 なぜならあらゆる攻撃が俺の前では無力なのだから。


「・・・ただし、空間系の攻撃を除く」


 それだけがネックだな。

 流石にこれは迂闊に試すことはできない。


 ヨシツネに聞けば、最も威力調整が難しい攻撃らしい。

 指先で試そうとして、腕まで吹っ飛んだらショック死するかもしれん。


「それに自傷にも気をつけなければな・・・」


 なぜか自分の身体を傷つけることは容易にできてしまう。

 そして、宝貝を使った場合も。


 思い出されるのは、初めて造りだした宝貝 莫邪宝剣を、テンションアゲアゲのまま振り回し、自分の足を切り落としてしまった苦い思い出。


 宝貝は攻撃手段に乏しい俺を補ってくれる頼もしいモノ達だが、俺を傷つけるかもしれない武器と化す可能性もあるのだ。

 一番警戒しないといけないのは、宝貝を誰かに奪われてしまうことだろう。


「やはり、不用意に使用するのは気をつけなければならないな」


 そして、急がなくてはならないのは戦力の拡充。

 上位の機械種をそろえ、俺が前に出て戦わなくても良い体制を作り上げること。


 その為には・・・




 コン、コン、



 突然、運転席の窓ガラスが叩かれ、そこには濡れ髪のままのエンジュの姿。

 どうやら風呂上がりのようだけど・・・


 潜水艇の壁にかけられた白鈴からの白い光が、エンジュの赤い髪を浮き上がらせる。


 俺の提供したシャンプー&リンスにより艶のある光沢を見せる赤い髪。

 白い光に反射して薄紅色に輝いて見える。


 白の光に照らされて、夜に浮かぶ赤い髪の少女。


 その場面を切り取れば、そのまま絵画にでもできそうな可憐さがそこにはあった。

 

 思わず、俺は目を『奪われ』・・・おっと、危ない危ない。


 俺の心の奥底から出てこようとしてきたモノをギュッと抑え込む。


 もうお前の扱いにも大分慣れたようだ。

 

 

「ヒロ・・・、ちょっといいかな?」



 そんな一人芝居じみたことをしている俺に、窓越しに声をかけてくるエンジュ。


 その目に宿るのは、期待と不安。

 そして、その奥底には俺への・・・

 

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