第257話 教育


「ヨシツネ、マテリアルは足りているか?街でマテリアルカードを入手できたから、補充しておこうと思うんだが」


「申し訳ありません。ご面倒をおかけしまして・・・」


 幾分言いにくそうに補給を申し出るヨシツネ。

 やはり前回補給していた10,000Mではまだまだ足りないようだ。


 それに開拓村では姿を消して見張りをしてくれていたし、この堕ちた街ではグリフォン2体と空中戦をしてくれていたはず。

 

 ヨシツネには最後の切り札として、全員を連れての空間大転移をしてもらう可能性もあるから、ある程度余裕を持たせないといけないな。


 とりあえずヨシツネに手に入れたばかりの14,500Mを補給する。


 

 さて、次は・・・



「森羅、先日の巣攻略では色々と活躍してくれたが、マテリアルの減り具合はどうだ?」


「はい、紅姫戦で少し矢を錬成し過ぎましたが、まだ3分の2程度は残っております」


 3分の2か・・・

 しかし、森羅は表に出せる護衛として、ずっと出しておかないといけないし。

 せっかくだし、ここで補給しておくか。


 森羅に補給していくと、1,700Mで満タン。

 つまり、森羅の最大容量はだいたい5,000Mくらい。

 森羅を満タンにするには日本円にして約50万円が必要になるということか・・・

 これからのことを考えると、頭が痛くなってきそうだ。 




 さて、あと、他に給油?をしておく必要があるのは・・・


「豪魔、お前はどうだ?」


 百体近いオークとゴブリンの群れに大技を使っていたみたいだが。


「問題・・・ありませぬ。元々、満タン状態でありました・・・、それに重力器や空間器を・・・使っておりませんので」


 豪魔が言うには、マテリアル燃焼器や冷却器、放電器であれば、それほどマテリアルは消費しないらしい。

 その代わり機体が大きいこともあり重力器や空間器・・・特に空間器は消費が莫大らしいから、これを使わせる時は注意しないといけない。



 あと、聞いておかなければならないことがもう一つ。


「今回お前は結構な数のレッドオーダーを殲滅したが、レッドスクリームの影響は大丈夫か?」


 自分で質問しておいて何なんだが、この辺りは自分で分かるモノなのだろうか?

 レッドスクリームの汚染具合なんて自覚症状があったら逆に怖いだろうに。


「それについても・・・問題ありませぬ。この身はある程度の・・・対策済み・・・もう2、3百倒しても・・・大丈夫かと」


 ほう…、それは助かる。

 どうしても機械種相手の集団戦は、それがあるからかなり運用が大変なんだ。

 しかし、いずれどこかでずっと連戦しないといけない戦場を経験するかもしれない。

 どこかの街の白鐘の恩寵内で休ませる必要がある。

 これは忘れないように覚えておくことにしよう。






「他にマテリアル足りない者はいるか?」


 俺の質問に手を上げたのは・・・・・・天琉?


「おい、天琉!お前はさっき注入してやっただろうが!」


「あ~い~?でも、てんるも何か入れてほしい!」


 両手をバタバタさせておねだりしてくる天琉。

 全く、コイツは!子供か!


 周りの人がされているのを見て、自分もしてもらいたくなるなんて・・・

 行動が人間の幼児と同じレベルだ。

 これは何とかしないとなあ。



「はあ…、お前には・・・そうだな。これを入れてやろう」


 取り出したのは機械種グリフォンの晶脳からユティアさんがサルベージしてくれた緑石『高速飛行(中級)』。


 白兎とヨシツネはこれより上位のスキルを保有している。

 森羅はそもそも飛べる機能を持っていない。

 

 あとは、豪魔か、天琉か、廻斗の三択なのだが、ここは最も保有スキルが少ない天琉に入れておくべきだろう。


「ほれ、晶冠開封だ」


「あ~い~!」


 俺に頭をズイッと突き出して頭部をパカッと開ける天琉。

 首の後ろから後頭部が跳ね上がる仕組みになっている様子。


 翼が無ければ人間にしか見えない天琉の頭の中が覗き見える光景。

 少しばかり引いてしまいそうになる構図だ。


 さっさと終わらせたいとばかりに緑石を晶脳へと押し込む。

 

「あ~い~!はいった~!」


「閉じて良いぞ」


「あい!」


 パチンと閉じて晶脳閉鎖。


「どうだ?スキルの調子は?」


「むぅ~う~・・・」



 天琉はしばらく手で自分の頭を抑えながら、投入されたスキルの具合を確かめているような素振り。


 そして・・・


 天琉の身体がフワリと浮かび上がり、空へと上昇していく。


「あ~い~!なんか飛べそう!」


「じゃあ、ちょっと飛んでみてくれ」


「あい!」


 俺の指示に従い、天琉は空中2、30m辺りでグルグルと旋回し始める。


 ただの『飛行』ではなく『高速飛行』のスキルだけになかなかのスピードだ。

 多分相性が良いせいもあるのだろう。

 天使型は元々飛行が得意な機種でもあるし。


 今までふわふわと浮かぶことしかできなかったマテリアル重力器の新たな使い方。

 これで天琉は射撃ユニットから飛行ユニットへとクラスチェンジができたのだ。

 空を飛べない相手への空中からの射撃は、絶対的な優位を確保できるだろう。


 ただヨシツネと違い、空中戦をできるようになったわけではないので注意が必要。

 まあ、空を飛べる相手と戦闘になったら逃げ出せばよいのだ。

 自重の軽い天琉ならかなりのスピードを出せるはず。

 


「天琉!最高速度はどれくらいだ?」


「あ~い!全速力ぅ~!いくよ~」


 空にいる天琉に声を届ける為、大声で質問を投げかけると、天琉から返ってきたのは空中からの『全速力』宣言。


 いきなり夜空の彼方に向けて、ギュンっとスピードを上げて飛び去って行く。

 

 あっという間に雲の合間に消えていきそうになり・・・



「イカン!白兎、天琉を連れ戻せ!」



 あのままのスピードで飛び去られたら、気づくことなく俺の従属範囲から出てしまうぞ!



 白兎は了解とばかりに耳をピンっと立てたその直後。



 ビカッ  



 白兎の身体が眩い白い光を放つ。

 それは白兎の中に秘められし、混沌からの漏れ出る残光。


 一瞬にして、その場から飛び立ち、そのまま白い流星となって俺の目の前から消え去る。



 そして・・・



 ビュウウウウウウウゥゥン




 30秒も経たないうちに、白兎は子猫を咥えて運ぶ親猫のように、天琉の襟首を咥えて戻ってきた。

 


「あ~い?」



 プラプラと襟首を持ち上げられて揺れている天琉はキョトンとしたまま。

 まるで何が起こったのか把握できていない様子。



「ふう…、助かったよ、白兎」


 俺が礼を述べると、白兎は天琉の襟首を咥えたまま、嬉しそうに耳をパタパタと動かした。



「こ、ここまでとは・・・機械種ラビットの身でありながら、ここまでの能力を・・・」


「ふむ。流石は・・・我がマスターの筆頭従属殿」


「キィ、キィ!」


 白兎の能力の一端に驚きを隠せない森羅、豪魔、廻斗。

 白兎の実力を知るヨシツネは満足そうに頷いているだけだが、初めて目にした3体にとっては驚天動地であったのだろう。

 

 図らずも白兎の実力を見せる良い機会となったか・・・



 







 まあ、それはともかく。


 先ほどのことは俺の指示が悪かったとはいえ、天琉の軽挙妄動は頭の痛いところだ。


 これは早急に天琉への教育が必要だろう。

 

 機械種への教育。

 それは普通ではスキルを追加することなのだが・・・


「もう俺の手持ちには天琉に有用そうな緑石は無いしなあ・・・」


 チームトルネラのボスから貰った『司書』というスキルの緑石はあるが、これを天琉に入れるのは『猫に小判』だろう。


 七宝袋には山のように機械種の頭を収納しているから、それを取り出してユティアさんにサルベージしてもらうことが、緑石をそろえるには一番手っ取り早い。

 しかし、レッサーデーモンであれほど驚いていたのに、それ以上の機械種の頭を見せたらどうなってしまうのか?

 下手をしたら次の街で別れるのだから、あまり俺の情報を渡すわけにはいかない。


 もし、渡すことができても1個か2個が限界だな。

 それも紅姫や、機械種ロキは不可。貴重過ぎて大騒ぎしそうだ。

 逆にオークやゴブリンなんかは等級が低すぎるから意味が無い。

 ストロングタイプのパラディンやビショップは修理して従属するつもりだから、スキルは抜きたくないし。

 ダンジョンで倒した巨狼・・・多分、機械種オルトロスは頭だけでもデカすぎる。


 やはり、堕ちた街で倒した機械種ソルジャーくらいが適当か・・・




「かいと~、またおちた!キャッ、キャッ!」


「キィ!キィ!」


 んん?


 天琉は白兎と廻斗に囲まれながら、何やら楽しそうに遊んでいる様子。

 どうやら白兎の背に廻斗が乗ることができるのかを試しているようだ。

 白兎の背中は馬のように乗れる造りになっていないから、廻斗が乗っては滑り落ちている模様。

 それを見て天琉はケラケラと笑っている。


 廻斗が白兎の背中に乗るのは形状的にちょっと難しいぞ。

 足も短すぎるから、腿で挟むこともできないし。


 それでも、廻斗はめげずに白兎に乗ろうとして滑り落ちており、白兎も一生懸命支えようとしているが、なかなかに苦労している様子。


 白兎・・・、何がお前をそうさせるんだか・・・

 後輩を自分の背に乗せようとするなんて、普段は上下関係が厳しいのに・・・



 俺が疑問の目を向けると、白兎は俺に向かって返事をするように耳を揺らす。



 ピコピコ



 え・・・、これから自分は『白の赤兎馬』・・・、いや、『白兎馬』を目指したいって?



 何それ?白兎馬って何だよ?

 俺が橋を渡り切るときに『赤兎馬』に例えたからか?

 しかし、何で廻斗を乗せることにしたんだ?

 


 ・・・なになに?廻斗が関羽っぽいから、背に乗せくなったって?



 廻斗のどこが関羽っぽいんだ?類似点なんて欠片も無い・・・



 すると廻斗は胸のネクタイを持ち上げて口の下に当てる仕草。

 


 ・・・ひょっとして、そのネクタイを髭に見立てているのか?



 ピコピコ


「キィ、キィ」



 どうやらドンピシャらしい。



 ・・・まあ、いいか。


 別に困ることではないし、白兎達も楽しそうだ。

 それに仲良きことは美しきかな・・・だ。


 白兎、天琉、廻斗。


 3体とも俺の予想を外した行動を取る、突拍子もないことをしそうなイメージ。

 どこか思考が似通ったグループとも言える。

 我が悠久の刃の魔訶不思議なゆるふわキャラグループといった所かな。


 





 

「なるほど、流石レジェンドタイプ。等級が高いとそんなことまで・・・」


「消費が激しいところがネックですが、イザという時は使用は躊躇えません」


「ふむ。我の・・・空間制御では・・・そこまで細かい操作は・・・不可能」



 あちらでは、ヨシツネ、森羅、豪魔がお互いの能力について情報交換をしている様子。

 内容的に空間制御スキルの話かな。

 参謀ポジションである森羅的には、何ができて何ができないのかを把握するのは重要なのだろうな。



「やはり、当面の課題は安定的なマテリアルの補給ですね」


「その辺りは拙者の苦手な分野です。マスターと森羅殿に任せるしかないのが申し訳ない」


「ふむ。マスターさえ・・・お許しになるなら・・・街の外の人間を襲えば・・・・奪えるのではないか」


 おい、こら、豪魔。

 物騒なことを言うな。

 悪魔か、お前は。

 まあ、悪魔なのだけど。


「いえ・・・、我の記憶ベースには・・・、荒野で強盗を働く不届き者がいると・・・、そのような者達を討伐すれば」


 ああ、なるほどね。

 野賊であれば、そこそこマテリアルとため込んでいるだろう。

 

 それに悪い奴等だったら、奪っても良心はあまり痛まないし。

 結構真面目に考えてくているのだな。


 

 ヨシツネ、森羅、豪魔。


 いずれも理性的に物事を判断してくれて、俺も安心して仕事を任すことができる。

 こちらは優等生な生真面目グループと言うべきか。

 


 いつの間にかグループ分けができる程人数が増えたんだよなあ。

 白兎とヨシツネの3人で結成した『悠久の刃』の人員がもう倍になった・・・





 ・・・いやいや、今は天琉への教育の話だ。


 すぐに緑石は手に入らないから、天琉に指導役兼お目付け役を付けるべきだろうか?


 思い出すのは雪姫の従属していた機械種キキーモラのモラ。


 主人である雪姫に対し、ビシバシと小言を飛ばしていたから、あんな感じで指導してくれる者をつければ、天琉も少しは大人しくなるかもしれない。


 となると、次は指導役の候補だが・・・



 『白兎』or 『森羅』の2択だろう。


 ヨシツネや豪魔は普段七宝袋に収納している。

 廻斗では力量不足。


 となれば、白兎か森羅のどちらかにお願いするしかない。


 さて、どっちが良いのだろうか?



『白兎』

・主にスキル方面を伸ばす。

・共に遊び共に学ぶタイプ。

・でも上下関係に厳しい。親分と子分みたい?

・情緒面の成長は難しいかも。

・しかし、意外なスキルを覚えたりするかもしれない。



『森羅』

・主に情緒面、情操教育を重視。

・公私をきっちり分けるタイプ。

・正しく家庭教師と教え子のような関係に。

・スキル成長は期待できない。

・でも礼儀作法を覚えて、言葉遣いがきちんとなる可能性が。



 戦力面から言えば、白兎一択だ。

 白兎は仲間となった機械種ラビット達にスキルを伝授したこともあるし、高速飛行も持っているし、回避も上級だ。警戒や追跡スキルも有用だろう。

 しかし、やや特殊なスキルも多く、場合によっては天琉が他には見せられないスキルを覚える可能性がある。戦力で言えば間違いなく強くなるのだろうけど。


 普段使いで言えば森羅という選択肢もある。

 スキル成長は期待できないが、情操面、情緒面について、森羅の落ち着いた態度は天琉にぜひ参考にしてほしい所。

 また、ロード種という指揮機能に優れた森羅の手にかかれば、幼児そのものの天琉の行動を改めさせることも可能かもしれない。


 どっちにしてもメリットがあるし、苦手な分野もある。



 うーん、悩ましいが・・・


 やはり今は戦力拡充が急務だな。

 それに以前、白兎に後輩指導を任せると言ってこともあるし、ここは白兎に任せることにするか。


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