第139話 異能
「ヒロ、大丈夫?ぼんやりしているみたいだけど・・・」
ああ、この声はアテリナか・・・
いつの間にか隣に立っていたアテリナが、俺に声をかけてくれたようだ。
ここは『魔弾の射手』の来賓室。
前に座っているのは、そのリーダーであるアデット。
俺は雪姫からの救援要請の件で疑いを持たれていたが、交渉の結果、その疑いを晴らすことができたのだが・・・
そこで気が抜けてしまって、少しぼーっとしてしまったようだ。
「流石に疲れましたか。少し休憩時間を取りましょうか?」
アデットが俺を気遣ってくれている。
「いや、大丈夫。雪姫が無事と分かって、ちょっと安心して・・・」
「おや、大陸に威名を鳴り響かせる白の教会の代理、鐘守たる雪姫さんを呼び捨てとは・・・」
「あ、いや、その・・・つい・・・」
「ははは、まあ、聞かなかったことにしておきましょう。貴方が雪姫さんを心配しているのは、見ていてよくわかりましたから。しかし、貴方も勇気がある人だ。鐘守へ思いを寄せるなんて。そして、その思いゆえに危険な紅石の輸送という引き受ける。なかなかできることではありません」
褒められているのか?それとも馬鹿にされている?
なんかアデットから少しばかり憐みの視線を感じるぞ。
それだけスラムの少年と、鐘守には身分の差というものがあるのだろうか。
「そんな愛しの雪姫さんからの依頼を受けられたヒロさんには、我が『魔弾の射手』から助力になるものをお渡しするとしましょう」
「え、何を・・・」
「シティへ行くのでしょう?では、そこまでの足が必要となるはずです。こちらからは車を用意しましょう。1、2日いただければ、準備を整えておくようにしますよ」
おお、すげえ。車をポンとくれるんだ。
チームトルネラとは比べ物にならない程裕福なんだな。
「あと、これは一応確認なんですが、雪姫さんからの依頼を『魔弾の射手』に譲ってくれるということは・・・」
「それは無い。これは俺が請け負った仕事だ。誰であろうと譲るつもりは無い」
俺は雪姫の遺体をシティへ連れていく。
それは決定事項だ。それを邪魔するなら、誰であろうと切り捨ててやる。
きっぱりと否定した俺の返事を受けて、苦笑で返すアデット。
まあ、本気ではなかったのだろうけど。
「仕方がありませんね。でも、できたら届け先くらいは教えてもらっても良いでしょうか?こちらも白狼団に報告しないといけないので」
う、マズイ。これについてはいい加減なことをいう訳にはいかない。
調べれば分かる嘘はつかない方が良いんだ。
・・・これは回答を拒否するしかない。
「うーん。悪いけど、それはちょっと・・・」
「そうですか。それでは仕方がありませんね」
あっさり引き下がるアデット。
思ったより簡単に引いたな。しかし、それはそれで不安材料だ。
ある程度に濁しておく方が良いか。
それとなく情報を渡して、勝手に判断してもらおう。
「ああ、そう言えば、全然関係ないことを聞くんだけど、『鐘守』の人って、名前に『白』が入ることになっているの?」
「・・・ええ。その通りです。白の教会の鐘守は、それぞれ『白』にちなんだ称号を与えられておりますね。雪姫さんはなぜかその称号で呼ばれるのを嫌っていたようですが」
知ってる。それについては誰よりも。
だからその称号をチーム名にしているんだ。
それを知ったのは随分後のことだけど。
「ふう。ありがとうございます。あとはこちらで上手くやっておきますよ」
「さあ、何のことか分からないね」
これで紅石をシティにいる『鐘守』の誰かに渡すという設定が生まれてしまった。
まあ、本当に設定どおりに渡すかどうかは、その時に考えよう。
ああ、そうだ。もう一個俺には課題があったな。
「あのアデット、実はちょっと頼みがあるんだけど・・・」
「おお、それはそれは。いいでしょう。『魔弾の射手』ができる範囲内であればお引き受けしますよ」
ニコニコと愛想の良いアデット。
「えらく簡単に引き受けるんだな。何も言っていないのに」
「ヒロさんは色々借りができましたし、そんな無茶なお願いをするような人でもないようですからね」
「なんだよ。その謎の信頼感。まあ、別に無茶なお願いというわけでもないけど。実は雪姫さんから、見えない機械種の監視者の存在を聞いていて、ダンジョンに潜って、監視者の目を誤魔化そうとしていたんだけど。でも、ちょっと不安になってきてね。俺に監視者の目がついていないかどうか調べることってできないのかな?」
俺の言葉に、アデットは少しの間、黙り込んでしまう。
え、そんなに考え込むようなことを聞いたのか?俺。
そして、10数秒考え込むと、アテリナの方にチラッと目を向け・・・
「いいよ。大丈夫。・・・ヒロ。私が保証してあげる。ヒロに見えない機械種の監視者はついていないよ」
「アテリナ・・・」
「だから大丈夫って。兄貴の心配性。・・・ごめん、ヒロ。何のことだか分からないよね。私って実は感応士なの」
「ええ!!」
これは驚いた。アテリナが感応士・・・
これは予想外、いや、そうでもないのか。俺のヒロイン候補として挙がっている以上、それなりの能力を持っていても不思議ではない。
なんとなく、感応士は雪姫のような超然とした・・・外見だけは・・・というイメージを持っていたから、普通の少女っぽいアテリナがそうだとは思わなかった。
そう思うと、アテリナにも雪姫と似たような雰囲気を感じるような気が・・・
「アテリナ。嘘はいけません」
アテリナの告白を即座に否定する兄のアデット。
え、何それ?
思わず椅子から転げ落ちそうになったぞ!
「いいじゃない。ちょっとくらい感応士って名乗っても。似たようなモノなんだから」
ちょっとふくれっ面のアテリナ。
いったいどっちが正しいんだよ。
「あはは、ごめんね、ヒロ。正確に言うと、私は感応士の成り損ないなの。機械種を従属させることはできないんだけど、機械種の存在を察知することができるのよ。詳しい人が言うには、受信はできるけど、発信ができない、だったかな」
「ヒロさん。感応士の扱いはご存知の通り、非常に難しいものです。たとえ中途半端な能力でも警戒されてしまうくらいに。このチームでもアテリアの能力を知っている者は片手くらいしかおりません。だから他言無用でお願いします」
「まあ、気づいている人はいるかもしれないけどね。勘が良いって済ませるには精度が高すぎるから」
真剣な表情のアデットとは違い、アテリナはあっけらかんとした感じ。
なるほど。この能力があるから、アテリナは『魔弾の射手』にいるのかもしれない。
アデットは完璧主義且つ、実力主義者だ。たとえ妹でも能力に劣る者をチームには入れないだろう。
このアテリナの能力があるからこそ、彼女の護衛として女性パーティを作ったのだ。
そうでもなければ、わざわざスラムチームに女性だけのパーティ等作る訳が無い。
これがもっと栄えた街ならば、上流階級の女性の為の護衛として需要があったかもしれないが。
「中途半端な感応士の成り損ないだけど、機械種の察知だけは、誰にも負けないつもりよ。数百mくらいの範囲なら、ぼんやりとだけど察知できちゃうの。ダンジョンから追いかけてきている機械種がいたら、絶対に見逃さないわ」
ふむ。この件については絶対の自信があるんだろう。
さっきまでの、のほほんとした感じではなく、真剣な表情で断言してくれている。
俺の心配も、若干被害妄想的なものでもあったし、アテリナがここまで言ってくれているのだから、これ以上は気にしなくてもいいか。
「ありがとう、アテリナ。俺の為に秘密を打ち明けてくれて。これで安心して拠点に帰ることができる」
「駄目よ。まだ帰っちゃ!私との勝負が残っているんだから」
え、それまだ諦めてなかったの?
別に君の身体には興味は無い・・・わけじゃないけど、その引き換えで絶対『魔弾の射手』に引き込まれるだろう?
抱いたら絶対に情が湧いてしまうだろうし、そうなったらズルズルと滞在を引き伸ばされて、いつの間にか『魔弾の射手』の一員にされてしまいそう。
俺、絶対この実力主義チームと相性が悪い気がするんだ。
だからそれは遠慮したいところなんだけど。
助けを求める為、アデットに縋るような目を向けてみるが・・・
「まあ、アテリナもこう言っていますので、お手数をかけるのですが、少し付き合ってもらってくれませんか?」
ニッコリとした微笑みとともに返されてしまった。
イカンな、コイツも俺をチームに引き込みたがっている。
俺に味方はいないのか。
いや、別にアテリナを勝負で負かして抱いたからといって、それが即『魔弾の射手』へ入団というわけではないことくらい分かっているんだけど。
「ヒロさん、安心してください。別に報酬は用意しますよ。欲しい物を言ってください。紅石の輸送を頼まれるほどの人への依頼に、報酬がアテリナの身体だけでは申し訳なさすぎますからね」
「ああ!!兄貴、酷ーい!」
アテリナが、自分につけた兄のあまりの評価にクレームをつけている。
うむむ。報酬か。
確かジュードも、アデットから必要な物を獲物と交換したりして、手に入れていると言っていたな。
これほど裕福なチームなら、ある程度の物を要求しても大丈夫そうだ。
俺が今欲しいモノっていうと・・・
そうだ!アレがあったな。
「よし。その勝負、受けた!報酬はラビットをブルーオーダーできるくらいの蒼石を、たくさんで頼む!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます