第98話 戦利品
「ヒロ、なかなか大漁だよ。見てよ。マテリアルカードに蒼石もある!」
ジュードが漁っていたバルークの懐から結構な物が出てきたようだ。
こっちはイマイチだ。袋に入った銃用のマテリアルと思われるものが、20Mくらいしかない。
もう一人の方も似たような物だった。やはりスラムだからこんな物なのだろうか。
バルークは吐血で服が汚れてしまっていたから触りたくなかったんだよな。
まあ、後で山分けだから別にいいけど。
しかし、喜々として亡骸を漁っている俺達だが、これは倫理的にどうなんだろうと思ってしまう。
こういったことに反発を覚えるかもっと思っていたジュードであったが、意外にも死体から物を漁るのに抵抗はない様子だった。
「このまま放っておいても消えていくだけだからね。僕達が使ってあげる方が絶対良いに決まってるさ」
流石スラムの住人。主人公っぽく見えても、こういったところは、荒んだ生き方をしてきているから出てくる発想なのだろう。
「ヒロが綺麗に殺してくれたから助かるよ。僕も血がべっとりついたズボンは遠慮したいし。この人のなんか長さ的にちょうどいいかな」
と言いながら、銃を使っていた青銅の盾のモブのズボンを脱がしているジュード。
自分のは膝下をラビットに破られたし、かなりの量の血を吸ったみたいだから、取り換えるつもりのようだ。
おいおい。それには俺の方がドン引きするぞ。
まあ、スラムだから衣服が貴重品なのは分かるけど。
「流石に下着は取らないけどね。せっかくだから有効利用させてもらうよ」
正に身ぐるみを剥ぐだな。なんて荒んだ世の中なんだ。
あと残っているのは・・・あのグレーのコボルトか。
「ジュード、あのコボルトさ。マスターが死んだら動かなくなったけど、そういうものなの?もう1体は敵討ちみたいな感じで襲いかかってきたのに」
「ああ、それはきっとマスターロスト時の指示の有無だと思うよ。狩りの時に見たことがある。従属されている機械種は目の前でマスターが殺されると、特に指示が無かったら、初期化されちゃってマスター認証待ちになってしまうそうだよ。そのまま何もしなかったらスリープするらしいけど」
「へえ。ということは、俺に襲いかかってきた方のコボルトは、自分を殺した相手に復讐しろって事前に命令を受けていたのか」
「そういう命令を事前にしておくマスターは多いみたいだね。他にも自分が死んだ場合の次のマスターを指定しておいたり、形見を拠点まで持ち帰るようにしておいたりできるらしいよ」
かなりフレキシブルな対応が可能のようだ。
俺が死んだら白兎はどうしようか。
足元の白兎に目線を落とすと、白兎が新しい命令かとばかりに俺の顔を見上げてくる。
コイツには随分苦労をかけているから、俺が死んだら、コイツには自由に草原を駆け回ってもらいたいな。
ふと、そんな感傷的なことが頭に浮かんでくる。
「このコボルトはヒロが従属しなよ。盾役を欲しがっていただろう?」
「ああ、まあそうだね。そうするか」
倒れているコボルトに近づいてみる。
レッドオーダーのコボルトとは違い、薄いグレーのスッキリとしたデザインだ。
顔はアヌビスを彷彿とさせるシャープな造形。
両手には5cm程の爪が生えそろっていて、これを機械種のパワーで引き裂いてくるのだから、軽量級といえど油断はできないだろう。
目にはほんの薄っすらと青い光が灯っているように見える。
おそらくスリープ状態なのだろう。どうやって解除するのかな。
しゃがんでツンツンと頭辺りを突いてみるが反応は無い。
コイツ、いきなり起き上がってきて、襲いかかってきたりしないよな。
実はスリープした振りをして、隙を狙うように指示を受けていたりしたら・・・
立ち上がって、コボルトと一定の距離を取る。
スリープの解除の仕方が分からないし、機械種の知識もないから、どうやっていいのかも不明だ。それに万が一、解除の仕方に集中している時にコイツが攻撃してきたら躱せないかもしれない。あの爪で目で突かれたらヤバいかも。
「ヒロ、どうしたんだい?何か問題でもあったの?」
俺の行動を不信に思ったジュードが近づいてくる。
「ジュード、スリープの解除の仕方って分かる?」
「へ、いや、僕もあんまり機械種には詳しくなくて・・・」
なら仕方がない。こういった場合に頼りになるのは・・・
「じゃあ、白兎、頼んだぞ」
俺の突然の命令を受け、ピクッと耳を立てて俺の方を見つめてくる。
また、俺っすか?
とでも言ってそうな目だ。
「ええ!なんで!?」
驚きの声を上げるジュード。
それを無視して、俺は非情にも白兎に無茶な命令を下す。
「白兎、お前ならできるはずだ。このコボルトのスリープを解除してくれ」
ごめん。なんか、こう動かないと思っていたのが、急に動いたりするのが苦手なんだ。それに万が一のこともあるし。さっきのジュードみたいに奇襲されてりするかもしれないって考えると、もう白兎に任せるしかないんだ。
マスターの無茶ぶりに健気に応える白兎。
トコトコとコボルトに近づいて、頭の辺りとぺチペチと前足で叩きはじめる。
帰ったらたっぷりマテリアルをあげるから、情けないマスターを許してくれ。
白兎で無理だったら、頭を切り離して持って帰ることにしようか。
「ヒ~ロ~、それはあんまりじゃないか?」
俺のあまりの傍若無人な振る舞いに、呆れた顔のジュード。
「いや、多分大丈夫だって。白兎ならやってくれるさ。それよりお宝はどうだった?」
「・・・はあ、まあいいけどね。マテリアルカードは6000Mくらい入っているよ。あと、蒼石は4つ。多分9級2つと8級が1つ、7級が1つ。これだけでもかなりの財産だね」
「これは俺達で分けてしまってもいいのか?」
「まあ、これが僕らのへそくりの原資だからね。チームには晶石を収めておけばいいし」
そうだな。他のチームと交換するか、襲撃でもしないと手に入らないような物だ。そう滅多にあるものではないんだろう。
「はい、ヒロ。僕に貴重な薬を使ってくれたんだから全部貰ってくれないか」
といって、全部俺に渡そうとするジュード。コイツはもう少し欲深くなる必要があるな。お前はサラヤを救うためにマテリアルを貯めないといけないんだろ!
「いや、これは山分けにすべきだろう。報酬を独り占めなんて良くない」
「でも、青銅の盾を倒したのは、ヒロが1人でだよ。全部貰っても当然だと思うけど」
「・・・そうだな。じゃあ、蒼石だけ貰うことにしよう。マテリアルカードはジュードが貰っておいてくれ」
「いいのかい?結構な量のマテリアルが入っているよ」
「俺に今必要なのは蒼石だからな。こういった報酬の分配はキチンとしておいた方が良いし」
ジュードは俺がそう言うと諦めた様にマテリアルカードを自分の袋に仕舞い、蒼石を袋ごと俺に渡してくる。
「強くて、頭も良くて、優しくて、誠実で。残念だよ。ヒロ以上の相棒なんて僕はもう絶対に持つことができないだろうな」
「そうかな。世界は広いはずさ。もっと素晴らしい仲間にも出会える機会があるはずだ」
「僕はね、前にヒロとダンジョンを探索した後から、ヒロを相棒にして狩人をしてみたいなってずっと思ってたんだ。今考えると、僕の力量じゃヒロの相棒は力不足だろうけど」
それは楽しそうだな。俺の力がもっと弱かったらその選択肢もありだったかもしれない。でも、俺とジュードの力の差は大き過ぎる。これではきっとジュードは俺の相棒として見られるのに苦しむこととなるだろう。
いっそ、皆と一緒だったらどうだろうか。
それならば今の関係と変わらない。サラヤもナルも、トールもザイードも、デップ達も、テルネやイマリ、ピアンテ、子供達。
皆一緒に狩人をする為、チームで活動したらどうなるのだろう?
*******************
頭に浮かぶのは、超大型のトラックに乗ったチームトルネラの姿だった。
運転席に座る俺。隣にはナルとテルネ。
ナルはひっきりなしに俺に話しかけ、テルネは膝の上で編み物をしている。
後ろのコンテナはバスの内装のようになっていてチーム全員が座れるようになっていた。
サラヤが騒ぐ子供達相手に奮闘し、ジュードが手伝おうとするが全く役に立てない。
ザイードは一番後ろで機械種をいじっており、イマリがそれを甲斐甲斐しく手伝っている。
デップ達は何やらピアンテを言い争いをしていた。どっちが次の狩りで活躍するかの勝負をしているみたいだ。
次は狩りの場面。
驚いたことに、ジュード、デップ達、ピアンテが外に出て、機械種相手に戦っていた。
ジュードは自分の相棒らしいヒューマノイドタイプの機械種と背中合わせになって敵陣の中で奮戦している。
デップ達は遊撃のようだ。3人ともウルフに騎乗し、戦場を走り回って銃をぶっ放す。
ピアンテは3体のラビットに攻撃の指示を出して、2体に自分の身を守らせながら後方で指揮をしている。意外な才能だ。
俺はどうやらイザという時の為に待機している様子。
確かにいつも俺が前面に出ていたら皆が成長しないからな。
そして、夜の場面。
狩れた獲物に満足しながら夕食を囲んでいる。
寸胴鍋で煮られているのはライスブロックとリーフブロックとミートブロック、そして、俺が召喚した調味料。
まだ、俺が出した食料は全員が食べられない。味が濃すぎたり、ブロック以外の食べ物を食べるのに嫌悪感があったり等、なかなかに難易度が高い。
ジュードやナルは気にせず俺と同じ現代食を食べることが多いが、サラヤやザイードなんかはまだ無理らしい。
ちなみにデップ達は初めから全く気にせずに全部平らげている。
あと、カレーは難しそうだ。これを出したときの、あのみんなの表情が忘れられない。
そして・・・
俺にしなだれかかるナル。
サラヤがジュードとくっついているのだから、これは必然だろう。
多分、食われたのは俺の方だ。
しかし・・・
ナルとは反対側で俺に寄り添ってくるテルネ。
2人は俺を挟んでいるが、それに何の違和感も感じていない様子。
え、俺、2人とも手をだしちゃったのか?
そりゃハーレムを目指していたけど・・・
ナルは右手を、テルネは左手を掴んで離そうとはしない。
ああ、駄目だな。この2人以外に手をだせるわけがない。
どうやら俺は幸せな墓場へ入り込んでしまっているようだ。
まあ、こんな人生も幸せじゃないかな。
うん。いいかもしれない。
でも、これは俺が進まないIFの話だ。
*******************
ガタッ、ガチャ、ガタッ
白兎がいじっていたコボルトが立ち上がった。
どうやらスリープが解けたらしい。
ジュードが眼を剥いて驚いている。
ほらみろ、俺の白兎はただのラビットじゃないんだぞ。
この俺が見出した第一号の機械種なんだ。
「本当にヒロには驚かされっぱなしだよ」
ジュードは俺の慧眼に脱帽したようだ。
まあ、俺も半分冗談気分だったんだが、思いのほか上手くいったようだ。
タタッと白兎が俺の元に戻ってくる。
よしよし。お前は最高だよ。そんなお前に『偏将軍』の位をくれてやろう。
『白兎偏将軍』。なかなか格好良いじゃないか。
「ヒロ、早くマスター認証しないと・・・」
俺と白兎とのじゃれ合いを邪魔するジュード。
まあ、仕方がない。早くしないとまたスリープしてしまうかもしれないし。
コボルトは立ち上がったままの状態だ。
その目は青い光を点滅させている。
コボルトの近く行こうとした時、ふと、思いついたことがあった。
立ち止まり、しばらくその考えに没頭する。
「ヒロ?どうしたの?」
よし、試してみるか。
俺に話しかけてきたジュードに向き直って、思いっきりの笑顔を見せてやる。
「ジュード、お前がマスター認証してみないか?」
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