第75話 兎
草原をダッシュで駆け抜ける俺。
その後を追従してくる白兎。
おそらく俺は今、時速40キロ前後で爆走しているが、白兎は遅れることなく追走できている。流石機械種といったところか。
草原で時間を忘れて白兎と戯れていた結果だ。
昼過ぎには帰ってきてくれって言われてたのに、スマホが示す時間はもう13;30。隠蔽陣を展開した上で、白兎を腹の上に乗せて昼寝しかけていた俺は殴られてもいいかもしれない。
普通の人がこの機械種ラビットを腹の上に乗せたら、重さに押し潰されて、とても寝られる状況ではないだろうが、俺的にはちょうどいい重さで、なんか大型犬を抱きしめているような感じだったんだ。
とにかく急いで拠点に帰ろうとしている俺達。
しかし、あと少しで草原を抜けるというところで、別のラビットに遭遇してしまう。
というか、草原に潜んでいたラビットに躓いて盛大にずっこけてしまったのだ。
危うく頭から地面に突っ込みそうだったが、なんとか体を捻って地面への激突を回避する。
ザザザザザー
勢い余って草むらの上を体を横にした状態で滑っていく。
15mくらい進んだところで勢いは止まるが、そこへラビットが襲いかかってくる。
ヤバッ
体勢を整える暇が無く、咄嗟に両手で顔を庇う。
ガチン!!
金属同士がぶつかり合う音が響く。
俺の目の前で黒と白のラビットが交差した。
スタッと黒いラビットを弾き飛ばして俺の前に立つ白兎。
白兎に弾き飛ばされたが、これまた見事な着地をみせるラビット。
白と黒のラビットがにらみ合う展開。
なぜか庇われる姫ポジションの俺。
おお、なんか恋が芽生えそうなシチュエーション!
あまりの白兎のイケメンっぷりに思わず惚れてしまいそう。
いや待て、いかに俺が見出した白兎とはいえ、相手は全く同性能のラビットだ。
勝率が50%だとしたら、たとえ勝てたとしても白兎の方も満身創痍になってしまう。
白兎の玉のお肌(?)に傷をつけるわけにはいかないな。
せっかくの初戦場だったかもしれない白兎には申し訳ないが、最近の流行は守られる姫ポジションが実は強かった展開が主流なんだ。
ここは俺が前に出るとしよう。
「白兎、ここは俺がやるから下がれ」
白兎に指示を出して、ラビットと対峙する。
白兎と同じ機械種とは思えない人間の不快感を刺激する外観。
俺が何度も狩ってきたラビットだが、ブルーオーダーするだけで、白兎のように愛くるしく変化してしまう。蒼石さえあれば白兎と同じような存在にすることが可能なのだ。
ひょっとして何かに使えるかもしれない。
いつものように頭をねじ切ろうと思っていたが、もう少し損傷が少ないように仕留めた方がいいか。
七宝袋に手を突っ込み、莫邪宝剣を引き抜く。
その動作を攻撃と取ったラビットが俺の足目がけて突っ込んでくる。
シュッ!
ほぼ抜き打ちに近い動作の一閃でラビットの首を正確に刎ね飛ばす。
勢いのまま頭と胴体が別々に俺へと飛んでくるが、頭は手元の七宝袋の中へ吸い込ませ、胴体は足の裏で一度受け止めて、これも同じく七宝袋へ収納。
莫邪宝剣の光の剣身を発現させたのは一瞬。
万が一、遠くで誰かが見ていてもほとんど何をしたか分からないであろう。
これで損傷がほとんどないラビットを手に入れることができた。
これくらいならザイードが修理できるかもしれない。あとは蒼石さえあれば、タートルと同じように従属させることができる。
俺はこの白兎がいるから、チームの誰かがマスターになってもいいし。
選択肢は多い方がいいだろう。チームの為にできることは今のうちにやっておかないと後悔するかもしれない。
白兎が俺の傍に寄ってくる。
下から見上げる青い目が俺の次の指示を待っているように見える。
俺の今の一連の行動はコイツからはどう見えたのだろう。
光の剣閃の一撃でラビットの首を刎ね、絶対に入らない大きさのものを一瞬で収納してしまった。
ボスのように話すことができれば、色々尋ねたいこともあるんだけど。
残念ながらラビットには発声器官がないようだが、会話させるようなオプションは無いのだろうか。
でもザイードなら何か知っているかもしれない。
早く拠点へ戻るとしよう。
スラムに到着した俺は、七宝袋からナップサックへと獲物であるラビットを移し替える。
パンパンに膨らんだナップサックを背負い、ラビットをお供に拠点へと進む俺を、スラムの通行人達は遠巻きに注目しているようだ。
ラビットを従属させているのが珍しいのか?
でも、ラビットくらい複数でなら簡単に倒せるんだと思うんだけど、そんなに珍しいのか。
確かにこのスラムであからさまに機械種を従属させて歩いているようなところは見たことが無い。
街ではよく見かけた光景がスラムでは全く見当たらない。
やはりこのスラムでは機械種を従属させるような余裕のあるヤツがいないということなのか、若しくは他に理由があるのか。
ジロジロと見られているのはちょっと落ち着かない。
白兎を見られないよう偽装している時間もなかったから仕方が無いか。
でも、機械種を従えた者がチームトルネラに増えたということをアピールするには良い事なのかもしれない。
今度、タートルと一緒にスラムを練り歩いて、自慢しまわってやるのも面白いかもな。
しかし、計らずも兎と亀がそろってしまった。どこかの童話のようだな。
まあ、俺の白兎は勝負の途中で居眠りなんてしないけどね。
親馬鹿ならぬ、飼い主馬鹿って言葉はあるんだっけ?
くだらないことを考えながら、おかしいと思われないくらいの速度で拠点に向かう。
時間はもう14時過ぎ。昼過ぎって何時くらいまでを指すんだろう。
とりあえず、しれっとした顔をして、白兎を連れて行こう。
サラヤが従属された白兎を見てびっくりしている間に、その場を切り抜けるとするか。
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