第47話 道
「あと、一個質問。さっきの話だと、前はカランと一緒に狩りに出ていたんだよね。そのカランは誘わないの?」
俺の問いかけに、サラヤとジュードは同時にお互いの顔を見合わせる。
そういう息の合った仕草を俺に見せつけるのは止めてほしいなあ。
何か暗黙の了解でもあったのだろうか?
その質問についてはジュードではなく、サラヤから説明が入る。
「カランはね。狩りに出るのを止められているの。バーナー商会と他のチームに」
サラヤの説明では、理由は2つあって、1つはカランが女だから。
昔はカランも髪を短くしていて、女とはバレなかったけど、思春期を超えたあたりで、声変わりもせず、咽喉仏もないことで女だと周囲に分かりはじめ、狩りに出ている他のチームからやたらと絡まれるようになったそうだ。
狩りは男の仕事なのに、女が出しゃばるなってとこか。
「カランも罵声や陰口を聞き逃せない性格だったから、相手に突っかかっちゃってね。よくケンカになったりしたんだ。僕も巻き込まれたりしたなあ。カランは近接戦闘ではかなり強いから、相手をボコボコにして、結構恨まれたりしたんだよ」
ジュードが昔を懐かしがるように付け加えてくる。
で、他のチームから狩りにカランを狩りに出させないでくれって要請があった訳か。
「ヒドイと思わない? あっちから絡んできたくせに。メンバーが抑えられないからってカランが割を食うことになっちゃったのよ。まあ、その代わり、強い女の子がいるって噂がバーナー商会に伝わるようになって、カランが護衛の仕事を任されるようになったけど。時々出張でバーナー商会に出向いたりするよ。でも、そこでバーナー商会の幹部の奥さん方に気に入られちゃって、カランが傷つくような狩りには行かせないことになったの」
バーナー商会から出張の仕事が出るんだ。
他にはどんな依頼が出るんだろ。
とにかく宝貝を作る為の高級品がほしいから、俺にも回してほしいなあ。
「バーナー商会からの仕事は、昔は結構依頼があったんだけど、最近めっきり少なくなっちゃって。今じゃ、カランの護衛依頼と、マリエル姉さんの同伴依頼くらいね」
知らない人の名前が出た。
姉さんってつけるということはサラヤよりも年上の人なのかな。
チームでは見たことが無いが。
「ああ、ヒロは会ったことないわよね。10日前くらいから幹部の人の同伴で他の街に行っているの。とっても綺麗で素敵な人よ」
同伴って所謂愛人扱いなのか、それ。
あと、女の子が他の女の子を褒める言葉は信用しないことにしているんだ。
これも俺の元の世界の経験談。
男の意見を聞いてみようとジュードに視線を向ける。
「ヒロ、本当に綺麗な人だよ。マリエルさんって。優しくて、落ち着いていて、スタイルが良くて、色気があって……痛い!」
案の定、隣のサラヤに足を踏みつけられるジュード。
コラ、イチャイチャすんな!
まあ、俺が仕向けたんだけど。
「もう! どうして男の人っていつもそうなの! どうせ私は落ち着きがありません! マリエル姉さんにはスタイルや色気では勝てません!」
まあ、これは男の本能みたいなものだからな。
ジュードがサラヤを宥めようとするが、ツーンと向こうを向いたまま話を聞かないサラヤ。
そのうち、今すぐに宥めるのを諦めたジュードは、お怒りモードのサラヤを避けるように、話をまとめようとする。
「じゃあ、ヒロ。コボルトを一緒に狩りに行ってくれるということでいいかな?できれば早い方がいいから明日でお願いしたいんだけど」
「ちょっと強引だな。まあいいよ。俺にもメリットがある話だし。他に聞きたいこともあるから、ダンジョンへ行く道中に色々教えてくれ」
「ありがとう。必要な装備は僕の方でそろえておくよ。さっそく鉄パイプを用意しないとね」
と言って立ち上がって逃げるように応接間を出ていくジュード。
サラヤは何も言わずちょっとふくれっ面でジュードを睨みながら見送くる。
これくらいのやり取りは揉め事にも入らないじゃれ合いみたいなものだろうな。
ん? 鉄パイプって言っていたな。
いつもジュードが持っているヤツか。必要なの、それ?
まあ、いいか。俺も用が無くなったし、出ていくか。
立ち上がって応接間を出ていこうとした時にサラヤから声がかかる。
「ねえ、ヒロ。ちょっとだけお話いいかな?」
え、これ以上何かあったっけ?
サラヤは立ち上がって俺の方に近づいてくる。
ちょうど俺の手が届くか届かないかくらいの距離だ。
「今日はごめんなさい。私の勘違いで勝手に機嫌悪くなっちゃって」
ああ、さっきのことか。
食堂で話しかけた時から態度がおかしかったから、何かあったのかと思ったけど。
「……ヒロ、今日、トールから色々聞いたでしょ。私のこと」
「まあ、それとなしに、なんというか、その……」
サラヤが真正面から俺をじっと見つめてくる。
そして、ナニカの覚悟を決めたような表情で口を開いた。
「このチームの男の子達は色々頑張ってくれているから、私たち女の子がちょっとでも元気を与えらるように……違うね。私は自分の体を餌にして、チームの男の人に働いてもらっているの。と言ってもこのチームで年頃なのはジュードとトールとディックくらいだけど。私は全員と寝たことがあるよ」
直球だな。
しかも直接言われると破壊力が半端ない。
そうだろうなとは思っていたけど。
「でも、ヒロとだけはまだ寝ていない。今、このチームが持ち直せたのはヒロの力が大きいわ。そのヒロとだけ寝ていないって不公平だと思うの。だからヒロが私と寝たかったらいつでも言ってね」
「サラヤは俺のことが好きなの?」
また、余計なことを言ってるな、俺。
このまま立ち去るか、据え膳とばかりに抱いてしまうかすればいいのに。
「もし、サラヤが俺のことを好きなら、俺は君を抱きたいと思う。そして、君のことを全力で守ると誓うよ」
目を大きく開いて俺の言葉に驚いているサラヤ。
でも、俺の言っている意味が分かったのか、その瞳にわずかばかりの悲しさを滲ませる。
もう、その目だけで十分わかっているんだけどなあ。
ああ、ヤバい俺の方が泣きそうになってきた。
お互い無言の時間は10秒くらいだった。
先に口を開いたのは俺の方。
「俺はもう寝るよ。じゃあね。おやすみ、サラヤ」
もう振り返らない。
道は違えた。もう交わることはない。
バタン
応接間の扉が閉まる音。隔てられた俺とサラヤ。
その間の距離は果てしなく遠い。
チームを出よう。やり残したことが全部終わったら早々に。
別にサラヤのことが嫌いになったわけじゃない。
良い娘だし、ぜひジュードと幸せになってほしい。
だから、まずチームの安全を確保しないとな。
さて、頭を切り替えて、明日をがんばりますか。
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