第35話 説明


 サラヤとの話が終わると、約束通りトールがザイードとの仲介をしてくれた。


 1階の物置のような部屋でトール立会いの元、ザイードと向かい合うこととなった。


 部屋の大きさは7、8畳くらい。

 棚が所狭しと幾つも並べられている。

 まるで自動車工場の部品庫のようにも見える。

 



 おおっ!

 でかい亀の甲羅みたいなものが置いてある。あれは盾なのだろうか?

 あっちにはドリルっぽい部品が転がっている。これは一度探索してみたい………


 いやっ! これから機械種についてザイードに教えてもらうんだろ。童心に帰ってどうする!




 椅子の代わりの木箱に座って、お互いが向き合う形だ。

 トールはやや離れた位置に座り、俺達の様子を見守っている。



「えっと。ヒロです。時間を取ってくれてありがとう。ザイード君だね。サラヤから機械種に詳しいって聞いたんだ。色々機械種について教えてほしい」



 目の前に座るザイードはちょっと座り気味の目で俺を見つめている。


 色の薄いやや灰色に見える黒髪、背はデップ達と変わらない。

 あんまり日に焼けておらず、色白で不健康そうな感じ。

 目つきが鋭くなければ陰キャラのオタクのイメージだったろうな。



「僕に美味しい物をくれた人ですよね」



 おお、覚えていてくれたか。やっぱりあそこで振る舞っといて正解だった。以前はギッって睨まれたけど、今は少し視線も柔らか目だ。



「僕に分かることでしたら、答えますけど。でも、ヒロさんって中量級の機械種も狩ったんですよね。そんな人に僕が教えられるようなことがあるのかなあ」


「いや、結構運が良かったんだよ。それに俺は全くっていい程機械種について知らないんだ。さっきの中量級っていうのも今日、ボスから教えてもらって初めて知ったくらいだよ」



 俺の発言にちょっと訝し気な雰囲気で顔を顰めるザイード。そんなに目を寄せると余計に鋭さが増してしまうぞ。

 とにかく質問をしよう。



「まず、教えてほしいんだけど、機械種って一体何? なんで人を襲うの?」


「えっ………」



 俺の質問にザイードが面食らったような顔。


 ああ………、これは絶対、何言ってんだコイツって思ってるな。

 この世界では常識かもしれないが、俺が知らないんだからしょうがないだろ!

 いつか聞かなきゃならないことなんだ。今この機会に聞いてしまおう。



「ヒロ、ちょっと待って」



 俺の後ろに座っていたトールが声をかけてくる。



「ひょっとして、ヒロって、『赤の帝国』とか、『白色文明』とか知らないのかい?」


「お恥ずかしながら、全く聞き覚えがございませぬ」



 振り返ってトールに頭を下げる。

 知らないことは知らないんだ。

 多分、前の世界で『江戸時代ってなに?』『織田信長って誰?』とかをいい大人が質問してきたようなものなんだろうな。



「うーん。ザイード、その質問だったら僕が説明するよ。いいかい、ヒロ?」


「お願いし申す。トール殿」


「大丈夫? さっきから言葉遣いがおかしいけど……コホン、まあ、とりあえず、簡単に歴史を説明すると、まず、300年程前まで白色文明と言われる非常に人類が栄えた時代があったんだ。人間が多くの機械種を従えて、正に地上の楽園だったとも言われている。でも、ある日を境にそれが崩壊した」



 そこで言葉を区切ってトールは俺の反応をみる。


 大丈夫。全く知らないことだ。そのまま続けてくれたまえ。


 俺に促されて、トールは話を進める。



「赤の女帝が生まれたんだ。それがどのような存在なのかは分からない。でも、彼女はあっという間に自分に従う機械種を作り出し、人類に戦いを仕掛けた。当然、人類側も機械種をもって抗戦したんだけど、人類側の機械種の大部分が赤の女帝に寝返ってしまい、戦線は崩壊。瞬く間に蹴散らされて、白色文明は終わりを迎えてしまう。残された人類は周辺に散り散りになって、今では小さな国レベルの集落が乱立しているような状態になってしまった」



 赤の女帝とやらが魔王みたいなもんか。多分、原因はコンピューターの反乱だとは思うけど。



「赤の女帝は大陸の中央に自分達の帝国を作り上げた。それが『赤の帝国』さ。そこには人類は一人もいない。赤の女帝の人類を抹殺せよという威令「レッドオーダー」に従う機械種が何億体もひしめいていると言われている」



 レッドオーダーか。

 なるほどね。赤の女帝とやらからの命令で機械種は人間を襲っているのか。

 でも、なぜこの街で見た機械種は人間を襲わないのか。



「ヒロ、今なんでこの街にいる機械種は人間に従っているのかって疑問に思ってるね。それには理由があるのさ。赤の帝国から発せられるレッドオーダーは大陸に隈なく届いているけど、人類はそれに対抗する手段を作り出した。それがこの街の中央にそびえ立つ『鐘』と、レッドオーダーを打ち消す『蒼石』、そして、レッドオーダーを上書きすることのできる「感応士」だ」



 『鐘』、『蒼石』、『感応士』か。

 全部前に出てきた単語だな。

 特に『蒼石』について詳しく教えてほしい。



「まあ、僕からはここまでかな。ここからは僕より詳しいザイードが説明しました方がいいね」


「あ、はい。えっと、『鐘』と『蒼石』、『感応士』について説明すればいいですか」


「おお、ここからはザイード先生からのご講義でござるな。よろしくお頼み申す」


「なんかしゃべり方が気持ち悪いんですけど。えー。鐘はですね、正式名称は『白鐘』っていいまして、レッドオーダーの影響を受けた機械種が近づけないようにする装置です。強い機械種ほど、白鐘の影響を強く受けるので、白鐘を設置した街は強い機械種が近づけなくなります。それだけじゃなくて、この『白鐘』の影響下では、ブルーオーダーの機械種も意味のない破壊活動や、相手を殺すような攻撃ができなくなるそうです」



 なんと!そのような仕組みになっていようとは。

 確かに、何の制限も無しに、あんな暴力の塊みたいな機械種がひしめき合っていたら、普通の人間は怖くて近づけないよな。

 おかしな奴が自分に従っている機械種に『この場にいる人間を皆殺しにしろ』なんて命令したら、それだけで大量虐殺の現場になってしまう。



「人が集まっている集落には必ず『白鐘』が設置されています。これがないとあっという間に機械種に侵略されてしまうので」



 なるほどね。これが街に壁が無い理由になっているのか。



「ただし、白鐘にも弱点があって、弱い機械種には効果が薄いんです。その為、超軽量級の機械種、まあインセクトなんですけど、割と街の近くまで出現します。あと、維持に大量の晶石が必要となります。そして、機械種が作る『巣』に周りを囲まれると白鐘の影響力が減少し、最終的には無効化されます。そうなったら街は機械種に襲いかかられて壊滅してしまうので、これらを何とかするのが、狩人の仕事なんです」



 ここで狩人の仕事につながるのか。


 しかし、『巣』ねえ………

 なんかダンジョンみたいなヤツなんだろうな。絶対に最下層にはボスがいるに違いない。



「えー。白鐘についてはこれくらいです。専門じゃないので、一般的な常識レベルの話でしたけど、こんなんで良かったでしょうか?」


「十分十分。次の蒼石についても頼むよ」


「はい、蒼石ですけど、これは晶石によって作られる対レッドオーダーの兵器みたいなものです。効果はレッドオーダーを打ち消して機械種の素の状態に戻すことができます。これをブルーオーダーっていいます。気を付けないといけないのは人間に従っている機械種にも有効だということです。他人の所有する機械種のマスター登録を抹消してしまうこともできるので、非常に扱いが難しいものなんです」



 これだな。一番聞きたいことは。



「ねえ、ザイード。機械種を従わせるには蒼石を使ってブルーオーダーした後、マスター認証が必要だって聞いたんだけど……まず、蒼石ってどうやって使うの? あと、マスター認証についても教えてほしい」



 俺が説明を遮ってしまったので、ザイードは少し黙り込んでしまう。


 あ………、話の途中を遮られると怒るタイプだったのかな。


 うお、睨まれた! 怒った? 

 いや、目つきが悪いだけ? どっち?



「ヒロさん。蒼石を誰に使うつもりなんですか? もし、ボスを狙っているんだったら、僕が許しませんよ!」



 えっ、何それ? いや、流石にそこまでは考えていないぞ。


 でもザイードは両手を膝の上でギュって握りしめながら俺のことを睨みつけている。



「あー。大丈夫だよ。ザイード。ヒロはそんな人じゃない」



 トールが間に入ってフォローしてくれた。相変わらず気の利くヤツだ。



「でも、トールさん。前にもいましたよね。チームに潜り込んで、ボスに蒼石使おうとしたヤツ」


「いたねえ、そんな人。だけど、ヒロはチームに大きく貢献してくれているんだ。そんな人と比べちゃ失礼だよ」


「油断を誘うためかもしれませんよ」


「油断を誘うためにハイエナや兎を狩ってくるのかい? そりゃボスの値打ちを考えたら分からなくもないけど、リスクに見合っていないと思うね。油断を誘うためなら虫や鼠で十分だ」


「早く成果を上げてボスに会う為じゃないですか?」


「もうボスに会ってるよ。ヒロは。そもそも、ボスを狙っている人が、僕やザイードに機械種の従わせ方を聞くかい? ちなみにボスにも同じ質問をしたそうだよ、ヒロは」



 これ以上反論が見つからないらしいザイードは、口をへの字に曲げてうつむいてしまった。


 うーん。ここまで警戒されちゃったか。聞き方が不味かったかな。

 ここは素直に謝ろう。

 


「ザイード。ごめん。誤解されるような聞き方をしちゃって。俺さ、狩人になりたいって思っているんだ。でも、全く機械種とかの知識が無くて、それで詳しい人を探してたんだけど。もし、ザイードが俺を信用できないからこれ以上教えられないというなら諦めることにするよ」



 ザイードに向かって頭を下げる。まあ、ここまで全面的に謝罪をしたら、『お前を信用できないから教えない』とはならないだろう。



「……すみません。ヒロさん」



 ボソッと聞こえるかどうか分からないくらいの声でザイードが謝ってくる。



「ごめんね。ヒロ。ザイードはボスの整備もやってくれているから、人一倍ボスのことを大事にしているんだ。許してやってくれないか」


「あ、いや、俺の方こそ、言い方が悪かったから……」



 トールの相変わらずのフォロー。コイツ絶対先生とかに向いているだろう。

 ああ、一応言質だけ取っておかないと。



「ザイード、また時間が空いたら機械種についてもっと教えてくれないかな?」


「……はい」



 元気が無いな。雰囲気もあまり良くないし、今日はこれくらいで終了か。







 部屋から出て、3人で会話もなく男子部屋に戻る。


 デップ達はまだ2階の部屋から出てこれないようだ。

 ミートブロックは食べられたのかな?




 毛布を下にひいて寝っ転がる。

 電気が消されるまで、あと1時間くらいはありそうだ。


 ああ………、もうネット小説を5日も読んでいない。

 アレとかアレとかアレの更新はどうなっているんだろ。

 5日も空けると前話の内容を忘れてしまって、また、一から読み直ししなきゃならないんだけどなあ。

 せめてスマホの電波がつながっていれば読むことができたのに。


 そういえば、ゲームアプリのログインもしていない。

 クソッ! 連続更新途切れちゃったじゃないか。どうやって遅れを取り戻すんだよ。

 漫画やアニメも見ることができない。こんな人類が滅びかけた世界じゃ娯楽もほとんどないだろう。


 前の世界に比べて、良い点って若い女の子と付き合えるかもしれないってことくらいか。

 前の世界で40才っていったら、相手も若くて30代になっちゃうからなあ。

 今なら若返っているし、経験できなかった10代の恋愛を楽しめるかも………


 しかし、相手は慎重に選ばないと。場合によっては俺の力も教えないといけないかもしれないし。妥協して後で後悔するのも嫌だから、最初は出来るだけグレードの高い娘を狙おう。


 サラヤくらいの年齢で、もちろんサラヤ以上の顔とスタイルはほしい。

 性格はおとなしい感じで、清楚且つ、可愛い系が希望。

 ちょっと欲張り過ぎか。

 いやいや、あくまで理想なんだから高い方がいい。


 年齢とスタイルを除けば、あのテルネって子は近い感じだな。

 でも、最近、ナルの癒し系もいいかなって思いつつあるし………



 おいおい! なぜチーム内に絞ろうとするんだ。

 世の中にはもっと美少女がいるはずだ。ここは所詮スラムだぞ。

 こんなところで妥協してどうする?



 いかんな。「遠くのバラより近くのたんぽぽ」というが、どうしても身近な女性に惹かれてしまう。

 気を付けないと手近なところで妥協してしまいかねない。


 やっぱり早めにチームを出た方がいいのかも。

 そろそろ、夕食でブロックを食べるのも辛くなってきたし。

 狩りに出ている昼しか美味しい物を食べられないのが痛すぎる。


 おっと、そうだ。明日は狩りじゃなくて、トール達の護衛だったな。 

 まあ、相手が人間だったらどうにでもなるだろう。

 今日の死闘に比べれば大したことはないはずだ。



 というか、今日は色々あり過ぎた。ウルフの集団に襲われるわ、持ち物は壊されるわ、自分の足を切断してしまうわ。


 しかし、得るものも非常に多かった。



 風吼陣、隠蔽陣

 宝貝 莫邪宝剣

 宝貝 七宝袋

 変化の術



 最初はチート無しで異世界生活かとも思ったが、十分にチート能力と言えるものが備わっていたようだ。

 もっと検証してできることを増やしていこう。


 俺の豪華生活+メイド+ハーレムの為にもがんばらねば。



「そろそろ、電気消すよ」



 トールによって、部屋の電気が消される。

 もうそんなに時間が経っていたのか。


 やはり、今日は色々あり過ぎて精神的に疲れていたのか、周りが暗くなってすぐに眠りにつくことができた。

 

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