第11話 自転車とグラタンと寿司
先にも述べたように体力がないので、私は5分自転車で走ったら休み、10分走ったらしゃがんで休んでいた。そうしてなんとか30分くらい走っていた。
流石に疲労が限界に達していた。どうせ死ぬので休憩などする必要もないかもしれない。それでも、せめて最後には美味しいものが食べたい。そう思い私はコンビニに入った。
「いらっしゃいませ」当然コンビニの店員は私が何を考えているかなど知らない。コンビニの中はとても温かかった。たまたまイートインスペースもあるところだったので、私は大好きなグラタンを買った。そして手がかじかんでいたので、ホッカイロも買った。
人間とは案外単純なものなのかもしれない。私はホッカイロで手を温め、美味しいグラタンを食べている間に、死にたいという気持ちはうすれていった。
そのとき、なんで持ってきたのかさえわからないが、スマートフォンが鳴った。親からの着信だった。「こんな寒い日にどこをほっつき歩いてんの!まったくあんたって子はしょうがないんだから…。もし1時間以内に帰ってこなかったら、警察に捜索願を出しますからね!警察は必ずあんたを見つけるからね。家出しようとしたって無駄よ。第一お金も大して持ってないからすぐ底を尽きるでしょう…。そして、もし帰ってきたら、夕飯があるからね。」親は怒っていた。
もちろん、親もなぜ私が家を出たか知らない。「と、図書館にいるって言ったやん…勉強のキリが悪くて…」言いかけた言葉を親が遮った。「図書館にあんたいないじゃないのよ。自転車も停まってないし、なにより自習コーナーにいないじゃないのよ。」
この電話をしているときには死にたいという思いが和らいでいたので、素直に帰宅することにした。今いる場所は言わなかった。出ていった理由も言わなかった。帰るといったら、そこは詮索しないでくれた。
ちなみに、親はあの日私が家を出ていった理由をいまでも知らない。
家で私を待っていたのは大好きなお寿司だった。
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