第5話 新しい場所で

転校し、高校2年生になった。幸い友達はすぐできた。その高校も英語に力を入れている高校で、住んでいる自治体の中では少ない、英語科があった。私はその英語科に入ることができた。

偏差値を5下げているので、成績はどの教科もトップに近かった。特に英語においては、他の生徒とかなり点差があったようで、同級生たちからは一目置かれていた。授業も簡単で、理系科目においてはちょうどよいくらいの進度だった。課題は前の高校の10分の1くらいだった。

私はその高校に順応し、高校生活を楽しんでいた。恋愛感情はなかったが、水泳部の同級生とカラオケに行ったりもした。彼は気さくで、同級生からも人気があった。彼が私をどう思っていたかは知らないが、思わせぶりな態度もとっていた。ただ私は彼を友達としか見ていなかった。


英語部があり、英語部の友達とはたまにだが休みの日に遊びに行ったりもした。前の高校にも英語部はあったが、前の高校のはかなりレベルが高く、熱心な子ばかりが入部していた。私も入ろうかと思ったが、体験入部の段階でも始発のバスで登校したり、帰宅が22時になったりすることもあるということを知り、入る気が失せていた。この高校の英語部は、早朝の活動はなく、ちゃんと定時で終わるようだった。英語を純粋に楽しむという雰囲気が好きで、私はその部活に入った。体調が小康状態だったこともあり勉強もはかどり、プライベートも充実していたので、ようやく青春らしい青春が送れる…と思っていた。


当時の私の志望校は、前の高校の上位層が行く旧帝大だった。その旧帝大にこの高校から合格した生徒は5年で1人くらいだった。この高校に入った最初の日、職員室に押しかけ、その旧帝大に行きたいから頑張ると言ったら、先生たちに驚かれた。その旧帝大を卒業した先生がいて、その先生に進路のことはなんでも相談していた。


同級生は、そんな私のことを知っていたので、「なんでこの高校にわざわざレベルを下げたのか?」と最初は好奇心でよく聞かれたものだ。課題が少ない学校を選ぶなら、この高校よりも偏差値が2高い、つまり前の高校よりも偏差値が3低い高校があるので、せめてそっちに行ったほうがいいのでは?と言われた。ただその高校は理系科目に強く、医学部に行くような生徒が多かったので、行かなかった。


上位層は地方国公立大学または関関同立(関東ではMARCHにあたる)を第一志望としていた。前の高校では、ほとんど全員が地方だろうと国公立大学を第一志望にしていた。私立大学は、たとえ難関校でも、国公立大学が不合格だった生徒が行く大学、という認識が先生にも生徒にもあった。私もそうだった。その旧帝大に落ちたら、関関同立のどこかに行くだろうと思っていた。この高校では英語科や英語部があったこともあり、私立の外国語大学に行く人も多かった。


しかし、その生活が送れたのは、夏休み前までのことだった。


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