TURN.19(最終話)「輝きは君の中に」


 大切な人を守りたい。

 自分の世界を守りたい。

 そう願う一心。

 その正義の心を持つ者に応えてくれる……かもしれない。


 スーパーヒーロー解禁の推測。

 一般掲示板に書かれていた一文の一つである。


 臭いポエムではある。

 特撮の見過ぎ、ヒーロー番組を見すぎているメルヘンチックな誰かが書き込んだ内容であっただろう。


 解放条件の一つ……その推測にこう書かれていた。


 “何度か仲間を守ったら出てくるんじゃないの? ヒーローっぽいし”。


『仲間を数回庇う』

 今も尚、明確にはされていない解放条件であった。


 -----着陸した白い人影はミッションクリアの効果音に気付く。

 頭に引っかけていたヒーローのお面は気が付いたら仮面になっていた。まるで龍をイメージしたような仮面はそれこそヒーロー番組らしいデザインのものだった。

「……俺、もしかして」

 ホッパーは仮面を覗き込む。

「ヒーローに……なれた……?」

 いまだ実感を持っていないような顔。

 スーパーヒーローとなったホッパーは自分の今の状況を理解できていなかった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 ミッションが終わり、スターライダーの面々はギルドハウスへと戻った。

 ギルドメンバー全員での超高難易度ミッション。そのクリア記念にパーティと言ったところである……だがそれよりも記念すべきことがある。

「というわけで!!」

 スノーハイトは両手を叩き、笑顔を浮かべる。

「『ホッパー君!』」

 巨大なケーキを乗せたテーブル。

「「ついに!!」」

 それを取り囲むのはクラッカーを手に持ったスターライダーの面々達。

「「スーパーヒーロー、解禁おめでとーーーっ!!」」

 そして主役の両サイドには……その活躍をずっと見届けていたユーキとメグ。

 全員が一斉にその主役にクラッカーを鳴らした。


「ありがとうございますっ……!!」

 ホッパーがついにスーパーヒーローとなったのだ。

 全ダンサー職のレベルをマックスにし、隠し条件をすべてクリアしたことで特別上級職であるスーパーヒーローを解禁することが出来た。高難易度ミッションのクリアよりもスターライダーの面々はそれをお祝いすることを優先したのだ。

 これは皆は勿論、本人にとっても喜ばしい事だった。

「な、長かったけど……頑張りました。皆さんの応援とか、説教とか。何もかもが嬉しくて、それで……本当に、ありがとうございますっ!!」

 相変わらず不慣れな態度であったが、素直にホッパーもお礼を言っている。

 長年の夢がかなった瞬間。我がことのようにギルドメンバーの全員が喜んでいた。

「いやぁ、長かった長かった……!」

『なんというか息子の成長を見ているようで泣けてきそうだよ……私まだ独身なわけだけど、なんか家族のような温かさを感じちゃって……』

 暗日とエイラも我がことのように涙を流している。エイラはマシナリーであるため泣いている声が聞こえてくるのは違和感でしょうがない。

「これでようやくダンサーともおさらばだね。おめでとう」

「よかったじゃないの! お兄さんたちも嬉しいよ!」

 ミッションの協力に何度も手を貸してくれたゴーストとJACKもレポートの時間を少し削ってお祝いに参加してくれていた。

「……んで、それはいいんだけど」

 しかし、そんなお祝いムードの中。

 スノーハイトは首をかしげて主役であるホッパーへと視線を向ける。



「どうして、ヒーローの衣装を脱いでいるんだい?」

 頭上に表示されている職業はスーパーヒーロー。

 しかし、彼の衣装は……へそ出しのキャミソールにブカブカのズボン。頭に巻かれたスカーフと引っかけられたヒーローのお面。職業こそ変わっているがのだ。

「そうだよ~、折角ヒーローになったのに~?」

「もしかして、衣装があまり気に入らなかったとか……?」

「えー? そんなはずないよー? 絶対カケル好みの衣装だよォ、あれさ~?」

 何故元通りの見た目になっているのかをユーキとメグの二人も理解できないでいた。特に理解できないでいたのはユーキの方だ。

 何せ、あの衣装はホッパーが最も好んでいるタイプの衣装であるからだ。

「……ヒーロー職を手に入れたのは嬉しかったです。でも」

 ジュースの入ったコップを片手にホッパーは理由を話す。

「まだヒーローには程遠いかな……って。なんかワガママですけど」

 不安、不力。その本音を仲間に漏らす。

「まだ皆に守られてばっかりだし、まだ足を引っ張っているし……ヒーローを名乗るのはまだ早いって思ったんです」

 苦笑いというべきなのだろうか。

 少なくとも彼の表情は冗談とは違う不安の溢れた笑い方だった。

「だからもう少しだけ……いや、俺自身が納得できるようになるまでは……あの衣装はお預けにしようって。それだけ特別なものだから」

「……そう」

 スノーハイトはそっと笑みを浮かべる。

「わかった! 君がそうしたいのなら私達は何も言わないよ」

「うむ! ホッパー殿の思う本当のゴールが見えるまで……応援するでござるよ~! ファイトでござる!!」

 大人達は彼の言うことには口を挟まなかった。スノーハイトと暗日も二人揃ってグッと握りこぶしを作る。『ファイト!』と言いたげに目を輝かせていた。

「私たちはあの衣装の似合う男には成長したとは思うけどね~?」

「そうそう! こんなに立派になっちゃって!」

『ねぇ、やっぱ泣いていい? もう泣いてるけどもっと泣いていい? やっぱ感極まっちゃって……ヤバい。バイザー壊れないかな、コレ……?』

「感動か。確かにちょっとしてるかも」

「引っ込み思案なところはまだまだだが! 昔よりは全然気合入ってるよぉ?」

 大人、大学生の面々は素直に彼の成長を喜んでいるようだった。

「そ、そうです、か……?」

 実感が湧いていない。自信もないのだろう。スノーハイト達の言葉に対し、ホッパーは謙遜とは違う感情を浮かべている。


「うん!」

 誰よりも。誰よりもずっと一緒にいたユーキが声を上げる。

「カケルは強くなった! 最初にあったあの時よりも……凄く頼れるようになった! 一人前の男になったねって! そんな感じさ!」

 ユーキはホッパーの肩に手をのせ微笑み返す。

「それに! 私も何度も今のカケルには守られてるからね!!」

「私もだよ!」

 メグも両手を握りしめて、屈託のない言葉をホッパーへ。

「最初に会ったあの日から、ずっと!」

「だから自信持ってよ! カケル!」

「二人とも……」

 一瞬、ほんの一瞬、目頭が熱くなる。

 男は泣いてはならない。そんな一心でホッパーはその感情を押し殺した。

「俺! もっと強くなるから!」

「うん! 私はずっと応援するし手伝うよ!」

「私も!」

 中学生三人組は握手を交わす。

 最初に会ったあの日のように、友人同士笑いあっていた。

「じゃあ! このパーティが終わったら、その職業の試運転にでも行ってみる?」

「そうですな! 二次会はそうしましょう!」

 今日は休み。普段はこのゲームに長く滞在できないスノーハイトと暗日ではあるが……今日ばかりは彼のお祝いにと時間を割いてくれるようだ。

『二人も付き合ってくれるよね?』

「うーん、大学のレポートが……まぁいいか! 今日くらいはさ!!」

「よしっ、レポートは二人仲良く徹夜と行こうぜ~!」

 少し迷ってこそいたがゴーストとJACKの二人もホッパー達をお祝いしたいという気持ちはあるようでその二次会の参加表明を快く受けていた。

「皆さん……ありがとうございます!」

 我慢し続けていた涙であったが。

 その一瞬だけ……一滴だけがホッパーの片目から溢れていた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 スターライダーの面々はミッションを受けるために街中へと移動する。

 フルメンバーで移動。ギルドメンバー水入らずのミッション探し、昔を思い出すと大人の面々は笑いあい、ゴーストとJACKの二人は相変わらず口喧嘩。

 ホッパー達もスーパーヒーローがどのような職業なのかと楽しみで心が躍っている。全員周りも気にせず大笑いしていた。


「謙虚なヤロウだよ。お前っていうガキはさ」

 そんな彼らの姿を、遠目で眺めている人影が一人。

 叉月だ。彼もまたギルドメンバー全員で街中を出歩いていたようである。

「本当。もっと胸を張ってもいいだろうにねぇ」

「……ヒーローなんだよ。お前ってやつはもう既に、さ」

 相当な朴念仁なのか。それとも単に自信がないだけか。

 戯れる少年少女。仲睦まじい光景を見て笑っている年長者達。


 ----その中心にいる少年。ホッパー。

 叉月はニヤついた表情で彼らを眺めていた。


「おーい、これからミッションか~!?ヒーローになったとかどうかでウカれてんじゃねぇのか~!? お前にヒーローってやつはまだ早いんじゃねぇのよォ? 俺が試してやってもいいぜぇぇえ~~!?」」

「ユーキ、逃がさない」

 騒ぎ声が大きかったせいか、オーヴァーとシラタマがホッパー達の下へと向かっていく。いつもみたく喧嘩を売りに行ったようだ。

 ----気のせいか、二人も何処か喜んでいるような口調だった。

「やれやれ。止めに行かないといけないっすかねぇえ。ボス~?」

「いいわよ。今日くらいは……貴方も行ってきたら?」

「ホッホッホッゥウウーー! では言われたとおりに遊んできまぁあああっす!!」

 ボスであるアンジェリカから許可をもらったヴィラーもステップをしながらスター・ライダーの面々のもとへ。ヤる気満々マンだった。

「では私たちも参りましょうか? 今日はこれで終わりなんて物足りませんでよ」

 アンジェリカもまた、ヴィラーの背に続いて一同のもとへ。


「……はっ。せいぜい頑張りな。小さなヒーローさんよ」

 叉月もまた悪役らしい不敵な笑みを浮かべながら一同のもとへと向かっていく。


「次のミッションは?」

「捕獲ミッションだって。これくらいの大きさのぺんぎんを数匹保護するとか何とか……なんか捕まえたぺんぎんはペットとして連れていけるらしいよ!」

 ゲームのグラフィックとは思えない綺麗な夕暮れの輝き。

「よっしゃぁあ! それじゃっ! 行こうッ!!」

 何気ないゲームの中で。

 楽しく人生を謳歌している面々を----明るく照らしていた。



        

      ~ お し ま い ~

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M.V.P.s ヒーローになるには経験が足りないのでダンサーを極めてます。 九羽原らむだ @touyakozirusi2

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