TURN.18「頂上決戦!煉獄の黒騎士【トリニティ】!!(その1)」


 “?”で覆いつくされたHP。表示される黒騎士トリニティの名。

 たった今----ボス戦が開始された瞬間。

「総攻撃だ!! 全員構えて!!」

 ご挨拶、まずは相手が攻撃を仕掛ける前にスノーハイト達が動く。

「バフは出来る限り仕込んだはずだ! 後方支援組は詠唱短縮を利用して高威力の魔法を放ち、ガンナーは全弾斉射だ! 前衛組は無理をしすぎないように! 危なくなったら直ぐにスイッチを切り替えるように!!」

 魔法使い、遠距離射撃組。後方組による一斉放火で黒騎士トリニティへ総攻撃。

「行きますわよ! スノーハイト!!」

「ああっ! 久しぶりに昂るとしようか!!」

 スノーハイトとアンジェリカによる超高火力の黒魔術。

「「宇宙の彼方より飛来せよッ! 孤独な蒼空に眠る異界の扉! 無限に続く銀河の果てより目覚めし未来の記憶! 我らの手の中で踊れ……一斉灰燼! 絶滅招来! 星の生誕を心より祝福せよ!! 【クロニクル・レクイエム】ッ!!」」

 二つの巨大な魔法人が空より飛来。空を覆う暗闇が門開く。

 黒騎士トリニティに降り注ぐは……宇宙の彼方より降り注ぐ神々しい光の槍だ。

 二本の巨大な槍は身動き一つとらない黒騎士トリニティへと襲来する。

「す、すごいッ……とんでもない迫力! 本当にアニメみたいっ!」

「我々も負けられんな! キク! 我に続け!」

「うん! お姉ちゃん!!」

 マニアクスの面々にも魔術師は二人いる。スノーハイト達に続くように超高性能の最強魔法の発射準備に入る。

「よっしゃ! 俺達も前に出るぜ!」「承知! ニンニン!」

「我々も突っ込みますよ! いざーーーー!!」

 それはオフィシャルチームも同様だった。魔法使い二名に後方支援を任せ、残った前衛面々が突っ込む。武本ロビンソンはマニアクスの前衛と自身のチームメンバーと共に最前線へ。

『JACK! 派手にブッ放すよ! くえら!【エンド・ミッション】!!』

「そらそらそらッ! 木端微塵確定の爆撃雨霰のお時間ですよーーっと!! 全弾斉射の【ジャック・クラッシュ】だぁああーーー!!」

 後方支援型へとシフトしたエイラとJACKもありったけの重火器の一斉放火を叩き込む。ミサイルとグレネードの雨霰が降り注ぐ。

(凄い攻撃の連続だ……これならいけるんじゃ……!?)

 後方支援の攻撃がやんだその瞬間、前衛がトドメに入る。その流れが暗黙の了解となっていた。

 そこらのボスだったら瞬殺レベルの総攻撃だ。このゲーム初の二十四人パーティだからこそ可能とした嵐。その場一体、画面を炎で覆いつくす無法地帯となる。

 最初のNPが切れるその瞬間まで撃てるだけの魔法を撃ち続けた。


「……ふーん。やっぱりか」

 スノーハイトが冷や汗を流し、口元を怪しく歪めた。

「効いてない、ですわね……!!」

 最大火力の魔法を撃ちこんだはずもノーダメージに終わったことを覚えている。そのことを踏まえたうえでもまずはモノの試しにと一斉攻撃を仕掛けてはみたが……。

『おいおいおい。これだけやっても効かないって相当だな』

 やはりダメージは通っていない。全くのノーダメージ。

 これ以上の攻撃はNPを無駄にするだけだ。スノーハイトの行動を見た残りの支援組も一度攻撃を停止する。

『やはり攻撃を通すには何かのギミックがあるようだ』

「となれば、それを探るのは我々の仕事ですな!」

 暗日は武器であるクナイを取り出す。

 何の対策もなしでは”遠距離攻撃による一斉掃射”では死なないように設定されている。となればその攻撃が通るようになるための仕掛けが用意されているはずだ。

「よっしゃ、行くとするか! おいヴィラー!」

「この間は取り逃がしましたからねぇ! いきますぞぉ、叉月さぁああん!!」

 それを調べる為には前衛組の手を借りるしかない。暗日が一歩前に出たのを合図に残りの前衛の面々も前へと出始める。叉月とヴィラーが二番手だ。

「前のカリを返してやるぜ……! 俺を無様な目に合わせた仕返しだァアッ! このハナクソ野郎がよォオオオオッ! 」

「ユーキには絶対負けない。お前にも負けない……!」

 オーヴァーも前回の失態を取り返すために叉月とヴィラーの後に続く。シラタマもユーキとの喧嘩を邪魔されたことを根に持っているのか前方に出始める。

 皆が次々と一歩ずつ前に出始める。

「行こう。カケル!」

 ダークヒーロー・ユーキはホッパーの方を見向く。

「……だからホッパーだって言ってるだろ! 行くか!!」

 そう返しつつもユーキとハイタッチ。お互い無事で済むように軽い合図を送ったのちに前衛のメンツへと混ざっていく。

「頑張ってね……私! フォローするから!」

 二人のフォローはマジカルフェアリーであるメグがカバーを入れる。

「頼んだからね! メグ! 滑舌練習しまくってるのちゃんと見てたから!!」

「絶対噛まないから! 頑張って!」

「よっしゃぁあ! 突っ込めぇええーーーー!」

 ユーキとホッパーは前衛メンツと共に黒騎士トリニティへと飛び込んだ。


「皆さん! 例の状態異常についてはご存じで!?」

 オフィシャル攻略組である武本ロビンソンが確認を入れる。

 例の状態異常。それは今回で初めての搭載となる“洗脳”だ。

「大丈夫です!!」「了解!」

 攻略班の調べたデータによれば、洗脳にかかったプレイヤーは他の味方プレイヤーからの回復や支援などの対象に選ばれなくなり、完全な敵キャラとして認識されるようになってしまう。そして洗脳を受けた側も状態異常を治すまでは永遠と敵を倒し続ける幻覚を見せられる。

「【邪狼雑滅掌じゃろうぞうめつしょう】ッ!!」「【滅死の術】ッ!」

「【エンドレス・キラー】ァアアアッ!」「【ドリーム・リーパー】ァッ!」

「【ストレート・パンチ】ッ!!」

「【グレネイド・フィスト】ッ!!」「自慢のナイフ投げ! ささっ!!」

 治す方法は幻覚内で死亡する。或いは敵キャラとなった味方キャラに討たれて一度死亡したのちに復活させてもらう。或いは“自分の力で回復する”のどちらか。

「【パラサイトハンド・カオスイート】ォおおーーーッ!!」

「【カッティング・エッジ】! 無様にやられてしまえ……!」

「【ダークネス・ブレイク】! ショットオォオオーーーッ!」

「【クライシス・イン・ザ・ステップ】……ッ! 踏み込めぇええーーッ!!」

 当然、その情報はここにいる面々は全員頭に入れている。黒騎士トリニティは洗脳攻撃を行う際には“目を光らせて黒い何かを飛ばす”という特定の行動をとることも情報がある。

 そう簡単には魔の手には陥らないとロビンソンに全員返す。大丈夫だ。

「……くっ!?」

 全員の近距離攻撃を浴びても尚、トリニティは一歩も動かない。

 しかもヒットポイントに変動もない。無傷のまま佇んでいる。

[殲滅、スル] 

 黒騎士トリニティが攻撃動作をとる。

 情報通り、洗脳の状態異常攻撃であると思われる黒いモヤも飛ばしてくる。

「洗脳攻撃だ! 回避をっ!!」

 前衛組はその圧倒的火力と特異な状態異常に引っかからないよう各自回避行動をとって、黒騎士トリニティへと再度攻撃を仕掛けようとする。

「こいつ、本当に攻撃が通らねぇ……やっぱバグか何かじゃねぇのか!?」

 オーヴァーは叫ぶ。ここまで理不尽な敵は初めてなものだったから。

「そんな意地悪はさすがにしないと思う。仮にそうだったら性根が腐ってる」

 最初は誰もがそう思っていた。しかし本格実装となった今をもってしてもこのノーダメージ設定のままなのは信じがたいというのがシラタマの意見だった。

 何か方法があるはずである。ダメージを通すための条件というものが。

「どうする!? 集めた情報かたっぱしに試してみるか!?」

「迂闊にやりすぎるなよ……多分、あの剣に触れるだけでも大ダメージだからな!」

 ステージにギミックがあるのかと前衛の数名はあたりを確認する。

 バリアのような何かが張られている可能性がある。だがその発生装置らしき物体は愚か、この大地は真っ新で障害物も何もない。

「何か方法はないか!?」

 どうすればよい、のか。

 どのような攻撃をいれれば。何をすれば黒騎士に攻撃が通るのか。

 困惑する。前衛は後方による回復支援や能力上昇の恩恵を受けながらもその広範囲の攻撃や魔法弾乱射の餌食となる。一方的に減らされるHPバーに気を取られながらも攻撃方法を模索する。






「……頭」

 その中で一人、ホッパーは何かを思い出す。

 一回だけ……この黒騎士トリニティに“デバフ”が通ったのを思い出す。

 その時に攻撃を仕掛けた個所は“頭の甲冑”だった。

「頭を、狙う……!」

 その一瞬、攻撃を終えた隙を狙ってホッパーが飛び込んだ。

 あの時のデバフが気のせいでなければと願うしかない。

「【ブレイク・ウェイブ】……ッ!!」

 相手に防御力ダウンや麻痺などのデバフを通す蹴り技。

 ダンサー職の中で唯一ヒーローっぽい蹴り技。他の技と比べてコンボ数の稼ぎにはならないが、その一発の攻撃力は高くダメージを与えれば相手の能力を下げる。

(これでダメなら俺は終わりかもしれない……でも! 賭ける価値はあるッ!!)

 ぶつけてみる。頭への一撃。

 攻撃が通るか否か……その答えが証明される。






 ----麻痺状態。

 黒騎士トリニティの動きが鈍くなった。

「通ったッ!!」

 デバフが入った。そしてダメージも微かだが入った。

 頭だ。黒騎士トリニティの弱点は頭。ダメージ表記は二桁と少ないが攻撃を通すことが出来るようになる仕掛けは間違いなくこの頭にある。

「やったなホッパー! デカしたぞッ!!」

 続いてホッパーから目を離さないでいた叉月が両腕を構え彼のジョブ特有の技である暗殺拳法を叩き込む。

「【滅虎掌めっこしょう】!!」

 当然、相手次第ではデバフのおまけつきだ。

 ……やはりダメージは少ないがデバフは通る。次々と、黒い甲冑騎士の能力が下がっていく。

「大活躍じゃねぇかホッパー……俺だってやってやるッ! くらって地獄に落ちろってんだよ! 【パラサイトハンド・オブスキュアレイ】ィイーーッ!!」

 オーヴァーも右腕を変形させ巨大なレーザー砲を作り上げる。ホッパーと叉月に続き、その頭に特大のレーザーキャノンをぶちこんだ。

「ユーキ遅い!」「そんなことはないよ!」

 シラタマも両手のクローを、ユーキは両手のガンブレードを突き立てる。

「「【カッティングエッジ】ィイーーッ!」」

 爪と刃。鋭い斬撃が命中する。

「我々も続くぞ!」

 他のメンツも攻撃の隙を見かけては頭へ攻撃を仕掛ける。

 一発一発、確実にダメージとデバフを与えていく。





 そして、ついに。

 その瞬間は訪れた。






【-----攻撃が通るようになりました】

 全員のメッセージバーに現れた通告。

 黒騎士トリニティを守っていた仕掛けが解除された証。あのバカみたいな防御力も消えてなくなり、ついに魔法などの一斉砲撃に耐え切れない体となった合図が!

「よし! 皆、離れてくれ!」

 今から叩き込む魔法と砲撃の嵐はかなりの威力。後方組の一斉砲撃の第二波の準備は既に完了というわけだ。

「だそうだ! 戻るぞテメェら!!」

 前衛組は後方組のもとへと戻っていく。逃げ遅れがないようそれぞれフォローをいれながら、全員の離脱を無事確認!

「撃てぇええーーーッ!!」

 再び一斉砲撃。超火力の雨が黒騎士トリニティへと降り注ぐ。

 シャレにならないダメージ表記。魔法使い組が軒並みレベルが高いということもあり、一行に減る気配もなかったトリニティのHPバーが一瞬でゼロになっていく。

[せん、めつ、。せ。えん・め。、ち----]

 赤いゲージが真っ黒に。

 黒騎士トリニティの戦闘不能を確認。一時的にバトルフェイズが終了した。

「や、やった……!」

 ユーキが一歩前に出る。

「「「勝ったぁあああーーーーッ!!!」」」

 他の面々も片手をあげて喜び始める。

 膝から崩れ落ちる黒騎士トリニティ。この世界の英雄と生まれながらも……魔物として復活してしまった哀れな戦士の苦痛な姿が一同に晒される。





「……ん?」

 ホッパーはただ一人、トリニティから目を離していなかった。



 ----震えている。

 黒騎士トリニティはひざまずいたまま震えだしている。


「おいおい……!」

「まだ何かあるのか? ウソだと言ってくれよ……!?」

 両手を天に掲げ、黒騎士トリニティは神へ祈りを捧げるかのように立ち上がる。

「もしかして、まだ」

「いや待て……アイツ、死んでいくぞ……?」

 崩れていく。黒騎士トリニティの肉体が崩れ落ちていく。

「……?」

 終わる。これで終わる。

 最初こそ、そう思っていた。

「いや……だっ!!」

 このゲームを長く経験している面々は……“嫌な予感”を浮かべていた。



 ------その予感は的中する。

 黒騎士トリニティとの戦いはまだ……






 終わっていない。






 崩れていく黒い甲冑。

 そこから現れるのは“半透明の黒い触手の怪物”。

 甲冑の内側から現れた何者かが、英雄の甲冑を飲み込み……成長していく。かつてない巨大モンスターへと変貌していく。

「やはりあったか……!」

 高難易度ミッションではお約束と言ったところか。

ッ!!」

 黒騎士トリニティの頭上にまた、?マークで覆われたHPバーが表示された。

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