TURN.18「頂上決戦!煉獄の黒騎士【トリニティ】!!(その2)」


 黒騎士トリニティは新たな姿を見せる。

 第二形態。最早英雄としての面影は一切ない巨大な怪物だった


 体全体を覆う無数の触手。風船のように肥大化していく肉体はメトロポリスを一口で丸のみ出来るほどのサイズへと成長していく。

 その姿は最早災厄そのものだった。祟りが、絶望が、この世界の最後がそのまま姿形となったような化け物だった。


「デカすぎる……!」


 一歩ずつ。一歩ずつ怪物が迫ってくる。

 一本の触手が……ユーキへと向けられている。


「ユーキッ!!!」

 悪寒が走った。黒騎士の攻撃に気が付いた。

 その頃にはホッパーは飛び出していた。

「あっ……」

 ホッパーは“見えない何か”に胸を撃ち抜かれた。

 痛みこそない。なぜならばこれはゲームだからだ。

 しかしHPバーは一瞬でゼロになる。

 ただでさえ高い攻撃力のみならず弱点へと一撃。戦闘不能の印として、目の前の映像が真っ暗となり意識が途絶えていく。

(あぁああっ……またかっ、俺っ……)

 真っ暗で血のような赤い暗雲の空が目に入る。

 フワっと浮き上がる体。不思議と感じる風通しはまるで本当に心臓を撃ち抜かれたような感覚だった。

 突如化け物から放たれた光線一発でホッパーの体はステージ場外へと吹っ飛ばされていく。誰の手も届かないその場所で意識が途絶えていく。


 ----作戦エリア外。

 ホッパーは誰の手も届かない場所で、一人戦闘不能となった。


「……ぁああッ! カケルゥウウウウッ!!!」

 呆気に取られていたユーキ。状況に気が付いたユーキはゲームであろうと思わず声を上げてしまう。

 撃たれた。友人が撃たれた。一瞬の油断をしているうちに……攻撃に気づいた彼がユーキの身を庇って戦闘不能になった。

「そんなっ……私がっ! 私がボうッとしてたからッ!!」

 その感覚はゲームというにはあまりにもリアルすぎて。

 ユーキはのように、叫んでしまう。

「待ってて! 今助けに行くからッ!! 絶対に助けるからァッ!?」

『ユーキぃ! 危ない!』

 ホッパーのもとへ行こうとするが、そうはさせまいと怪物トリニティは攻撃を再度仕掛けていく。それに気づいたエイラはユーキを背負い、ジェットブースターで戦場を駆け抜ける。

「エイラさん! カケルがッ! 私のせいでカケルがぁあっ……!!」

『わかってる! 助けに行きたいけど……!!』

 エイラは戦場を確認する。

 突如変貌した黒騎士トリニティはかつてない総攻撃で戦場を支配する。前衛組後衛組はその攻撃で一気に分断されてしまい、反撃の手段を見失ってしまう。

 怪物トリニティは体から生やす無数の触手全てから光線を放っている。それだけではなく巨大な口から濁流を放ったり、意味不明な高威力魔法を連射したりとやりたい放題のステータスで蹂躙してくる。

「もはやメチャクチャだ……!」

「勝てますの!? これ!?」

 攻撃をいれようとすると……またも“ノーダメージ”の表記が現れるのみ。

 またギミックが発動したようである。何かしらの攻撃化手段をとらなければ、一切ダメージが通らなくなる面倒な仕掛けが。

『弱点は、おそらくアソコだけど……!』

 頭と思われる場所。そこにはがある。

 攻撃するたびに光っているのを確認する限り、あそこに何かしらの攻撃をいれなければ止める手段なないと思われる。

『まずは安全地帯を探す……ホッパーを助ける瞬間もそこで探そう!』

 エイラはユーキを連れ、安全地帯を探す。

「カケル……! ごめんっ……!」

 作戦エリア外で倒れているホッパー。

 その姿は湧き上がる砂ぼこりのせいで次第に隠れて見えなくなってしまった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


(ああ……また、やっちゃった)

 かすれていく視界は中途半端に世界を映し出す。

 そうだ、このイベントは負けて即ゲームオーバーというシステムではない。

 残りコンティニュー回数がゼロになるか。あるいは自身で復活するか、誰かに回復アイテムで復活させてもらうまではずっとそのままだ。

 チームメンバー・コンティニューの最初のカウントダウン。それはホッパーの死亡により動いてしまう。

(また、皆の脚を、引っ張っちゃったな……)

 仲間を守れたとはいえ自身はやられてしまった。

 コンティニュー回数は減れば減るほど全員の成績に響く。同じギルド仲間、そしてお世話になっている叉月のギルド、そして他所のギルドやオフィシャルの攻略組……二十四人による変則ルールのミッションという事もあり、今までにない迷惑をかけてしまった。

(あーあ……ほんっとうにカッコ悪いなァ……)

 カッコ悪い。こうして悪者に何度も倒される。

(どうして肝心なところでいつも、いつもこうなるんだろう)

 リアルでの生活も思い出す。

 どれだけいじめっ子や不良に挑んでも返り討ちにあい続ける。どんなに頑張っても勝てないまま、結局ユーキ達の助けが入る

(俺のせいだ。いっつも俺のせいでこうなってる)

 その肝心のユーキ達も魔の手の標的になっている。

 それをどうにもすることが出来ない自分にイライラする毎日。そのもどかしさが、このゲームに通じてホッパーの心中を再び抉ってくる。



 こんなにカッコ悪い姿を晒したままでヒーローなんて一生無理だ。

 なれるはずもない……こんなんじゃヒーローになれるわけがない。


 やはり、諦めるべきなのか。

 こんな未熟者にヒーローは無理だと決めつけるしかないのか。




(いや、駄目だ)

 ホッパーはコンティニューのメッセージバーへと手を伸ばす。

 復活アイテムはまだ持っている。彼はまだ戦える。

(諦めたら、本当に終わりだ……守らな、きゃ!!)

 皆の声が聞こえる。怪物の雄叫びが聞こえる。

 皆、未知なる敵を前に奮闘している。自分だけが眠っているわけには行かない。ホッパーはただその想いで起き上がる。

(今度は……俺が……!!)

 -----復活を承認。

 その危険地帯から一秒でも早く抜け出し、皆と合流しなくてはならない。

(俺が、俺がやらないとッ……いや、俺がやりたいんだッ!!)

 皆に加勢する。そしてあの怪物に勝つ。

 その一心で、彼はコンティニューボタンへと手を伸ばしたのだ。



「今度はァアッ! なんだぁああああーーーーッ!!!」


 -----負けたまま。

 ----諦めたままの惨めな自分にはなりたくない。そんな一心だった。





「……ん?」

 聞きなれた効果音。ホッパーはメッセージウィンドウを開く。

「このタイミングで……?」

 NPCからのメール。

 このゲームのイベントなのだろうかとホッパーはそのメールを開いた。


「……ッ!!!」

 ホッパーは一人、暗闇の中で動揺を隠せなかった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 少しずつだがトリニティの頭の髑髏へと攻撃するメンバーはいる。

 だがあまりにも一方的な攻撃の包囲網にメンバーは次々と消耗されていく。ベテラン組が揃うRED EYESはおろか、オフィシャルの攻略チームですら泡を吹いて卒倒しかけないほどの難易度。


 このままでは全滅する。

 運営が用意した最高難易度の招待状。突破することは出来ないのか。


「エイラさん……まだ近づけますか!?」

『なんとか、いってみる!』

 エイラに担がれたユーキはガンブレードで少しずつ髑髏を攻撃する。

「ユーキちゃん!」

 二人の姿を視認したメグも己の危険を顧みずに後方支援を続ける。

 クリアする。このステージを何としてでもクリアする。

 これだけのメンツ。これだけのメンバーがいるのだ。


 負けたくない。

 負けず嫌いなユーキの一心が、声を上げる。


「絶対にっ、クリアするんだぁああッ!【ダークネス・ブレイク】ぅうう!!」

 ユーキの拳銃から数発の弾丸が髑髏に向けて放たれた。

 しかし、音は空しく響くのみ。

 外してしまった。動揺してたが故に、弾丸は怪物の頭上を通過する。

「ダメ、なの……!?」

 銃を下す。ユーキの体から気迫が抜けていく。

 この上ない絶望で彼女は押しつぶされそうになっていた。





『諦めるな』

「……えっ?」

 外してしまった弾丸の軌道の先には暗闇の霧に覆われた漆黒の空。

 -----一筋の光が空を奔っている。

「流れ、星?」

 このステージのエフェクトなのだろうかとユーキは首をかしげる。

「……違う」

 いや、違う。

 流れ星なんかじゃない。

「あれは」

 ----見間違いじゃなければ、それは人だった。

 

 突如空に現れた一筋の光は空で体を捻る。

 ユーキの放った弾丸に……蹴りを入れたのだ。

 弾丸はさっきの数倍以上のスピードでトリニティ目掛けて飛んでいく。


「----行くぞ」

 弾丸はトリニティの後頭部に命中。当然ダメージはない。

 しかし……ノックバックが入った。あの巨体が仰け反ったのだ。

 人型の光はそれを確認すると猛スピードでトリニティへと接近する。



 ----白のヒーロースーツに黒い機械装束がところどころに飾られる。

 頭にはヒーローの仮面らしきものが飾られている。

 大人びたヒーローとの見た目にしては、まだ何処か子供っぽさのあるその姿。


「【ブレイク・ウェイブ】」

 蹴り技。それはヒーローのものではなく……のものだ。

 まるで隕石のように。それこそユーキの言い放った流れ星のように。

 一筋の光となったヒーローは一直線に第二形態のトリニティの後頭部に突っ込んでくる。鋭く尖るように、それこそ姿勢もシチュエーションも……誰もが憧れるヒーローのように美しく、迫力のある、カッコのついたものだった。

「あれはっ……!!」

 遠めでもユーキはその人型の光が。

 突如空に現れた謎のヒーローがなにものなのか直ぐに理解できた。

 皆もすぐにわかった。あの真っすぐすぎる眼差し、純粋無垢な真面目さ。

 そうだ。あのスーパーヒーローの名は-----






 



 【ホッパー】だ。








[XAAAAAAAAAaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa]

 怪物トリニティの悲鳴がこだまする。

 蹴りはトリニティの後頭部を貫き、その脳裏を粉々に破壊する。

 一撃必殺だった。今まで皆が死に物狂いでダメージを蓄積させていたのも影響しているのかもしれない。ホッパーはその頑張りを繋いだのだ。


 スーパーヒーローの衣装を身に纏ったホッパーが着地する。

 その後方でトリニティは光と共に消滅していく。



 ----暗闇が晴れていく。

 同時、上空には『MISSION CLEAR』の文字が光と共に現れる。


 文字通り晴れ舞台。

 ただ一人……ホッパーは何も言わず、空を見上げていた。

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