TURN.17「超絶山場!究極のミッション!!(その2)」


 高難易度ステージ。その名は【瘴気の谷ロスト・ヘルズ】。

 魔界の入り口ともいえる恐ろしいステージだ。ここには今までの高難易度ステージとは比べ物にならない並ならぬ凶悪なギミックが幾つもあった。


 まずはHPが減り続ける瘴気。

 一部エリアにてアイテムが腐敗し、使用不可能になるというアクシデント。

 何より驚いたのは道中のボスラッシュだろう。なんとこのステージのザコ敵は全て、今までストーリーミッションやイベントミッションで戦ってきたボスの大群なのである。軽い挨拶のデモンストレーションとか言ってるがそれどころじゃない。


 すでに多くのプレイヤーの悲鳴による阿鼻叫喚が始まっている。想像を絶する高難易度に早くもギブアップが現れているようだ。


「ここがボス部屋みたいだね……かぁああっ流石に疲れたぁああ……」

「我々の手にかかればこの程度の事……くっ! ボスに入る前にコレッ……運営め。確実に殺しにかかってる!文字通り集大成!! 一つのシーズンのターニングポイントって事ね……!」

 スノーハイトとアンジェリカのパーティは何とか突破したようだ。

 もとよりプレイヤースキルは高く、6パーティの中でも一番レベルの高い面々だった。お互いパーティ同士上手く連携を決めて此処まで辿り着いた。

「全員が到着するまでは入れない仕組みのようですな」

「回復アイテム足りるといいんだけど……俺、ポーションなんかほとんど丸のみしちゃったよォ~?」

「アンジェリカとこのメイドがヒーラーじゃなかったらヤバかったぜ、マジで……本当に死ぬかと思ったぞ」

 ゴーストとJACKの二人は血反吐を撒き散らしながら高レベルの周囲に振り回されていたようだ。上級者様々だと観音様をあがめるように感謝している。

 

「おぉ! 他のパーティは到着していたようです! いやぁ! さすがはベテランの皆様は違う!遅れてしまって申し訳ないッ!!」

「宴に選ばれし者たちのその力……ふむ。見事と言っておこう」

 武本ロビンソン率いるオフィシャルパーティも到着、それに同行していた中二病ギルド・マニアクスのチームも無事到着したようだ。

 さすがに有名実況チームとだけあって攻略情報は入念に集めていたご様子。視聴者の期待を裏切らない結果を出してみせたのだ。マニアクスの面々も相当な腕のようだった。

「あとは叉月達……そしてあの子達か」

 残すはホッパー達の到着を待つのみである。

 叉月とヴィラーが一緒とはいえ平均だけでみると彼らの班は一番レベルが低い。こういった高難易度ステージには慣れていないホッパー達がうまくついていけているかどうかに不安もある。

「……あ、きた!」

 そんな心配を浮かべていた最中、彼らもやってくる。

「おっと、最下位か」

「おーーーい!!」

 叉月とヴィラーのパーティもご到着。その後ろでは元気よく手を振るユーキ達の姿も確認できている。

 皮肉交じりに残念がっていながらもひとまず道中を突破できたことにホッと一息吐いているのは叉月だ。こういったモンスター退治の緊急ミッションは久々だったために少しばかり気を張っていたようである。

「うん、皆無事、」

 スノーハイトが到着したパーティメンバー全員を見渡す。

「……ではないようだね」

 元気いっぱい。ボスを前に気合十分のメンツの顔が見られると思っていた。

「はぁ、はぁ……」

「ぜぇ、ぜぇ……!!」

 杖を突きながら喘息気味の吐息を撒き散らすホッパー。その横では精神的ダメージによる不安定のせいか不規則な変異を繰り返す右腕を晒すオーヴァーの姿。

 互いにHPこそマックスにはなっているがスタミナは底を突きかけている。

「お疲れ様でござる……その、もうボスはそこでござるが休憩は?」

「必要ないです! と言いたいところですが……ごめんなさいっ、3分くらい時間をいただけると嬉しいですっ……死ぬっ……!!」

 この協力ミッションは実にプレッシャーのかかる要素が一つある。

 それは……コンティニューできる回数が“全員共有”で設定されているのだ。

 合計で10回まで。つまりそこらの雑魚モンスターのようにポコポコ死ぬことは許されない。蘇生アイテムの持ち込みによるゴリ押し対策と言ったところだろうか。

「ほら、しばらくここで座って。二人とも本当によく頑張ったね」

「「あざーーーっす……」」

 黒騎士トリニティ戦ではどういったギミックや戦闘が待っているか分からない。貴重なストックを消費するわけには行かないとホッパーとオーヴァーの二人は懸命に働いていたのだ。先陣を切ってしまったが故の男のプライドを守り抜くために。

「カケル、大丈夫?」

「ホッパー……だって、言ってる、だろ……!」

「う、うん。ツッコミにキレがあるから大丈夫と信じたい」

 ツッコミを入れる元気はあるようだ。

「大丈夫ですか? その、本当に厳しかったら時間ギリギリまで休憩しても」

「いや、それは結構……っす。大丈夫なんで……ふぅうう……!!」

 そんな情けない真似をしてたまるかとオーヴァーは言い返す。

 同年代の女性メンバーに後れを取るなんて男性として恥ずかしい以外何物でもない。そんなのに甘えたら人生に名を残す恥となってしまうと言わんばかりにオーヴァーは気合を入れなおしている。


「……俺も、大丈夫です」

 握っていた杖代わりの枝を放り投げるホッパー。

「こんなところで挫けたらヒーローなんて程遠いから……!!」

「……」

 まだ焦っているように見える。そんなホッパーの姿を叉月はじっと眺めている。

「それじゃあ、行こうか」

 ボスの扉が開かれる。しばらく続くのは雑魚モンスターも何も現れない謎の山道。黒騎士トリニティが控えていると思われる山頂を目指して、二十四人の戦士は歩き出した。


「おい、ガキ」

 休憩するつもりはないと言いながらもやはりスタミナが影響しているのか最後方を歩いているホッパーのもとへ叉月がそっと駆け寄ってくる。

「無理してねぇか? いや、絶対無理してるだろ。お前」

「いえ、これくらいなら大丈夫です……」

 体力は徐々に回復している。その面に関しては問題ない。

「気負いすぎんな。人生そんなだと早死にするぞ。ちょっとくらいは大人に甘えろ」

 叉月が気にしているのは“精神的”な部分だ。

 焦っている。やはり心の何処かではまだ整理がついていないような気がしてならなかった。数日前のあの一件のことが。

「……ありがとうございます。叉月さん」

「まっ、せいぜい頑張りな」

 一言だけ言い残し、叉月は最前列へと戻っていった。

「……まっ。お互い踏ん張ろうぜ。ここまで来たらな」

 オーヴァーはホッパーの背中をトンと叩いた。

「ありがとう」

 -----一同は身構える。

 巨大な大広間ステージ。広大な更地の大地。漆黒の渦の中。

 そのド真ん中に巨大な剣を手に取った黒い甲冑の騎士が佇んでいる。


「黒騎士トリニティのおでましだ……!!」


 【黒騎士トリニティ】。

 【レベル250】【属性・無】。


 今まで不明であったはずのステータスが頭上に表示。

 その瞬間が……未知の強敵との“戦闘開始”の合図であった。

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