TURN.16「スターズ・オンステージ(その1)」
あれから大型アップデートまでの一週間。ホッパー達はレベル上げやスキル獲得などで残った時間を全力で尽くしていた。
運の良いことにアップデート日の後日などに学校のテストなども控えていないし、ユーキも部活動が忙しくなることはない。暇となるこの期間、三人はデイリーミッションに経験値大量ミッション。エイラやゴースト達の協力も得て……ついに三人のレベルは100にまで上がった。
-----そしてついにアップデート初日。
黒騎士トリニティ戦のイベントが始まろうとしていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
黒騎士トリニティは全パーティ合同の協力系のミッションである。
パーティは最大で四人まで。それを最大六組……“合計24人”のチームで挑むことになる。
「おっじゃましまーす!」
こんなに大掛かりなステージミッションは今回が初となる。
処理落ちなどの問題もあって、こういった大人数のミッションの実装は少し遠くなると運営からはお知らせされていたが……どうやらその問題は解決したらしく。ついにその日はやってきた。
スタート地点。出撃メンバー全員が揃うまでは専用の飛行艇の待機場で待つことになる。
『私たちが一番乗りみたいだね』
「八人でミッションに行くの楽しみなので! 私! ワクワクします!」
スター・ライダーの面々総出。八人は四人一組でそれぞれパーティを組んで、黒騎士トリニティのミッションへと参加する。
「運営からの挑戦状と来たもんだからね。久々だよ。こうして本腰入れて攻略とかいろいろ考えちゃうの」
「ここ最近は仕事の事ばかり考えていましたからなぁ~」
「暗日ィ~。今日くらいは忘れさせてってば!」
スノーハイトをリーダーとしたパーティは暗日とゴーストとJACKの四人パーティだ。
「全員本腰入れちゃってねぇ~。まっ、私たちも人の事言えないけどさ」
「そうだなぁ~。ゴーストってば『ガキ共が頑張ってるのに脚は引っ張れない』って意気込んでたもんねぇ~? 俺達もまだガキに近いってのに」
「へっ。そういうお前もレポートささっと終わらせて本腰入れてた癖によ」
スノーハイトが後方支援に回り、前衛にて暗日とゴーストがサポートに回る。JACKはこの日に備えてジョブをボマーから【バックパッカー】という後方射撃支援型のジョブへと変更している。
『みんな気合十分だね。君たちも結構準備をしてたようだけど』
エイラは中学校組三人のリーダーとしてミッションに参加。
「モチのロン! レベルはたっぷり上げましたとも!」
「私だって!!」
エイラは後方支援の【ガンスナイパー】として参戦。前衛のサポートへと回る。
マジカルフェアリーであるメグは状況によって前衛と後衛をうまくスイッチで切り替える。当然、ユーキは前衛に回る。
『んで、ホッパー君は……』
この一週間。やれるだけのことはやった。
気合十分であったホッパーのジョブは……。
「ぶーーー……」
トリックダンサーのままであった。
口で言わずとも最早お約束となったお似合いの衣装。ミッションの待合室となる飛空艇の中、体育座りでいじけているホッパーがいた。
『……間に合わなかったんだね』
「はい……すみません。僕はダンサーのままです。はい……」
結局、期間内でスーパーヒーローの解禁は叶わなかったという。
一部ダンサーのジョブレベルは既にマックスにまで到達している。後は特別上級職解禁のための隠し条件をクリアすればOK。解禁は目の前までに到達していたのだ。
「うーん、スーパーヒーロー解禁の条件……攻略サイトには書いてなかったのかい? ある程度のジョブの解禁方法は先駆者達が書いてくれたりするけど」
「スノーハイト殿、拙者も色々調べてみたのでござるが」
暗日はスノーハイトの疑問に応える。
「スーパーヒーローを解禁したのは今のところ32人。ですが誰も隠し条件を分かっていないのですよ。何個か予想と思われる条件が掲示板に書かれていたのですが……どれが正解か分からなくて」
「まだ条件が確立してないってことかぁ……」
特別上級職の解禁条件となる隠しミッションの厄介なところが条件は一つではなく複数存在する可能性があるというものだ。
何よりスーパーヒーローとダークヒーローの二つは最近のアップデートで追加されたという事もあって、情報がまだ確立していないという。
ホッパーは片っ端から色々試してはみたようだが……解禁されることはなかった。
「なぁ? ダークヒーローってよ、スーパーヒーローと同じヒーロー職だろ? 何か分からないのか? 似たような条件かもしれねーぞ」
ゴーストがユーキに聞いてみる。
「うーん……分からないんですよね~。気が付いたらメールが届いてて。それを開いたらこの職業になってましたから……バトルとか諸々の条件はたぶんあってると思うんですけど」
ダークヒーローは近距離戦特化のジョブをある程度極めていると発生する特別上級職であり、こちらもまた隠し条件の情報が定まっていないのだ。
解禁前に何をしたのか。気が付いていたらなっていたというユーキもあてにならない。結局、スーパーヒーロー解禁の条件は分からないままにこの日を迎えたというわけである。
「どれが条件なのかねぇ……やっぱヒーローっぽいことをやるとか?」
「それが分からないし、それっぽいことやってもダメだったからダンサーのままなんだろーが。話聞いてたのかイカレポンチが!」
JACKの指摘に対し、ゴーストは鎌で殴るという豪快なツッコミを返していた。
「まぁ、このミッションの間に解禁される可能性もある。元気出せって! 坊主!」
「……ぶーーーー」
体育座りのままいじけるホッパーにその言葉はただの火に油であった。
「見慣れた名前の連中がいるからもしやと思ってきてみれば」
控室の飛空艇内に……他の面々が参加する。
メンバー募集は“誰でもOK”と表示し、オープンにしていた。待ち時間の数分、多少の雑談をしている間に他のパーティがやってくる。
「よぉ、ホッパー。相変わらずイジけてんな~。キッヒッヒ~?」
短髪のボロボロミリタリー服。変異しかけている右腕をぶら下げる男。
「……ユーキ、見つけた」
そしてその横では布地の少ない毛皮の衣装を身に纏う獣人の少女。見慣れたコンビがホッパーとユーキの前に立つ。
「オーヴァーにシラタマちゃん!?」
オーヴァーとシラタマの登場。メグは思わず声を上げる。
「コイツは偶然にも揃いも揃って」
そんな二人の背中からも見慣れた顔が現れる。
東洋の衣装。暗殺者を思わせる風貌と中性の顔立ち。それはヒーローを目指す彼が尊敬しているという悪党の男。
「叉月さん!?」
「よっ。これから大仕事だってのにヘコタレやがって。褌締めろっての」
対人戦メインであるはずの叉月がオーヴァーとシラタマのパーティのリーダーとしてこの飛空艇に現れたのである。
「僕もいますよ~」
その後ろからはシルクハットをずらして軽く会釈をするヴィラー・ルーの姿もあった。
「珍しいですな。モンスター退治のミッションに参加とは」
暗日は叉月の登場にはギリギリともかく、ヴィラー・ルーの登場には意外だと感想を浮かべていた。
彼らはプレイヤーバトルを楽しむためにこのゲームをやっている。モンスター退治や日常ゲームの参加には消極的であることを知っていたために、暗日は思わずヴィラー・ルーの登場を二度見している。
「いやぁ、僕も興味はなかったんだけど……ボスが参加しろというのでね~」
ボス。ヴィラーは少し気だるそうに後ろを見る。
「……むむむっ!?」
一斉に向けられる視線の先。
飛空艇の控室の奥にその人影がある。
「とても賑やかな事ですね。ワタクシ、気分が高揚してまいりますわ」
-----黒い影。漆黒の花嫁衣裳を身に纏う謎の少女。
折りたたまれたオシャレな傘を室内であろうと関係なく差しているために素顔は見えない。
「あ、あの人が叉月さん達のリーダー……!?」
「初めて見たっ……!!」
叉月ともヴィラー・ルーとも違う異様なオーラにメグは息を呑む。
頭上のレベルも“175”とかなり高め。周りの従者たちも叉月達よりも更に上の150代である。
「ふふっ。貴方達が叉月ちゃんの弟子達ね。話は聞いてるわ」
「「「こっ、こんにちは……!!」」」
相当な上級プレイヤー。 とんでもない猛者が現れたことに、中学生三人組は緊張すら浮かべ始める。
「ふふっ、そんなに固くならなくてもいいのに」
花嫁衣裳の少女は笑みを浮かべるとスター・ライダーの面々へと近づいてくる。
「……お久しぶりですわ、スノーハイト。お仕事の方はどうかしら?」
スカートを掴みそっと上げて一礼。人形のような仕草でスノーハイトに挨拶を交わす。
「やぁ、【アンジェリカ】。久々だね、そっちもどう?」
「愚かな人間社会に溶け込むなど造作もないわ……なんてね」
何処にでもあるような雑談。白と黒、対照的な衣装と雰囲気の女性二人が盛り上がっている。
「おかげさまで地獄の29連勤目に突入よ。何なのあの職場? 残業時間になったらタイムカードを切れとか言い出したし。休日出勤も当たり前でしかもその日は給料出ないし? なんか上司の引越しの手伝いとかも呼び出されたし? そのうえクソハゲな上司からは当たり前のように下ネタ吐かれるし。何なの、あれ? セクハラじゃないの? 触らなければ何でもいいとか思ってない? アレ? ねぇ?」
「アハハハ、君も大変だね……君ほどじゃないけど私も20連勤はあったかな。最近は忙しいシーズンじゃないけど労基どうなってるんだよと思えてくるよ。ホッパー君達の前ではあまり言わないようにはしてたけど……私、今年中には絶対転勤するから。うちのブラックぶりを仲間と一緒にかき集めてるところだから。しっかり証拠掴んで退職して新しい職場を探してやる……見てろよ上司共、アハハハ……」
「「フフフフフ……アハハハハハッ……はぁあああ~……!!!」」
リアルの話で。大盛り上がり。
似た者同士の二人は凄く沈んだ空気で肩を落としていた。
「お互い、大変でござるな」
「暗日も元気そうね。久しぶりに顔を見れて嬉しいわ」
「仕事が忙しくて引退気味とは言っていますが、まだまだ現役でございますな~。合間を縫って掲示板やら情報は集めていたのでしょう?」
高レベルのRED EYESリーダー。アンジェリカを前にしても、それといって畏まった対応をすることもなく自然と頭を掻きながら暗日は挨拶を返す。
「久々に。どっちのギルドが一番乗りか競い合うのもいいかもね」
「よろしいですわ」
「いざ!」
気が付けば、三人の合間には火花が飛び散っていた。
「……あの二人、本当に何者なんだろう」
スノーハイトと暗日。
エンジョイ勢を自称する二人の不思議なパイプ関係……ホッパーはまたも二人との距離が不思議と離れちゃったような気がした。
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