TURN.14「D.R.E.A.M.s(その2)」
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「あぁあ……時間食ったな。こりゃ遅刻だわ」
釣りは終わり、ホッパーと別れを告げた叉月は頭を掻きながら時計を確認する。
今日はギルドハウスで集会の予定があったのだ。例の寄り道によってかなりの大遅刻。サブマスターからカミナリものの説教が来るなと頭を痛める。
「まぁ別にいいけどよォ~。なりすましジジィの説教垂れなんて慣れちまったしな。それくらいドンと来いってんだ……ん?」
ボイスチャットのメッセージが届く。相手はオーヴァーからだ。
もしかしなくても……遅刻の件について、サブマスターから彼を呼び出すよう頼まれたのだろう。面倒なおつかいをさせてしまったものだと溜息をもらす。
『おい! 今どこにいやがるんだッ! 集会始まんぞッ!!』
「わかってるよ。もう着くからガミガミ言うなって。ここに来る前にガラの悪い連中にカラまれたから追い返してやってたとこなんだ。ちゃんと遅刻の理由はあるんだから変に叱るなっての」
『ケッ! わかりやすい嘘をつきやがってよォ~』
どうせ嘘だと言わんばかりのオーヴァー。付き合いも長いせいか、叉月が嘘をついてるかどうか見え見えのようだった。
『……あざっした。ホッパーの事』
「何のことだよ」
『俺も次の日、学校でアイツに声かけるんで……ってことだ! とっとと来やがれ! クソがッ!!』
オーヴァーは逆ギレ気味にボイスチャットを切った。
「……慕われてんねぇ。坊主ってば」
叉月はやれやれと首を横に振り、説教に備えて軽い準備運動を終えてからギルドハウスへと向かっていった。
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叉月との釣りも終わり、二人との約束を思い出しギルドハウスへと戻っていく。
……項垂れると視線は下を向く。
下を向けばそこに広がるのはヒーロースーツなんかではなく、アグレッシブに動きやすい構造のダンス衣装。
「なんていうか。もうこの服も見慣れちゃったというか。着慣れちゃったな」
ダンサーが嫌いというわけじゃない。
ただヒーローになりたいという意思が強すぎるだけ。ただそれだけ。別にこの衣装に深すぎる嫌悪感があるわけでもないのだ。
似合う、と言われた。似合ってる、と何度も言われた。
別にその言葉にも嫌悪感はない。
「素直に喜べることでもないってのが、ちょっとつらいんだよ」
ただ、その『似合う』という言葉が、『お前にヒーローは無理だ』という意味にもとらえられてしまう。
一生この服装のままなのか。自分が夢見たヒーローという職業には一生追いつけないのか。そんな焦りだけが胸を刺激してくるのだ。
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小さい頃、スーパーヒーローに憧れていた。
強くて格好よくて、皆に頼られて……たくましい男になりたいと夢見ていた。
幼い頃の俺は“病弱”だった。
周りの子供たちと比べて運動神経もそれほど高くなく、いじめっ子達に追い掛け回されるのがいつものことだった。
もしも、自分がヒーローだったなら。
こんな悪者達、あっという間に倒すことが出来るのに。
苦手なスポーツでも一等賞になれるのに。
その想いだけが毎日募っていた。
どれだけ劣等感が募っても、いつも目にするヒーロー番組だけがその荒みかける心を元気づける唯一の仲間だった。
強くなりたい。強い男になりたい。
その想いを募らせるだけで……周りから『ガキっぽい』と邪魔されるし、『子供だなぁ』と馬鹿にされるのだ。
みんなも子供なのに。みんなもガキなのにと何度も思った。
時が経ち、ユーキと出逢いメグとも知り合った。大五郎とも友達になった。
ヒーローを目指す事を否定しない友人。俺の将来の夢を堂々と応援し続け、一緒に夢に向かって着いてきてくれる大切な友達だ。
……結果、三人も周りから後ろ指をさされるようになった。
あんなガキっぽい男と一緒にいるのが馬鹿みたい。馬鹿は馬鹿らしく、馬鹿同士で集っているのがお似合い。
ユーキは何でもできる、メグは勉強が出来る。大五郎は……喧嘩が強い。うん。
三人には正面から挑んでも勝てるわけがない。だから、俺を良い材料にしていじめっ子達は陰で蔑むようになったのだ。
なんで……皆も馬鹿にされないといけないんだ。
あんなに良い人達なのに。
プライドの高い連中は何としてでも奴らを蹴落とそうとフザけた方法をとる。
まるでヒーロー番組に登場する悪役みたいに。
……強くなりたい。
ユーキ達が馬鹿にされないために。俺自身も馬鹿にされないために。
ヒーローみたいな男なりたい、と。その想いは日が経つごとに強まっていた。
『今度は俺が、ユーキや皆を守るんだ』
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スターライダーのギルドハウスへと到着する。
多少服が濡れているが時間が経てば乾く様にグラフィックは設定されている。気にするべきは気持ちを整理する時間が思った以上に長くなってしまったことだ。
現に今もスッキリしきったわけではない。
叉月からの後押しのおかげで多少は気持ちが落ち着いてはいる。でも不安は今も潰し忘れたタバコの火のように残ったままだ。
(ヒーローになれる、かぁ……本当だと嬉しいけど)
そっとノックをする。中から声が聞こえたのを確認すると扉を開いた。
「た。ただいま、で~す……」
中に他のメンバーがいることも考えて、そっと丁寧めの挨拶にした。
「あ! カケル、おかえり~!」
「おかえり、カケル君!」
扉を開けると、開口一番に帰ってきたのは聞き慣れた挨拶だった。
「……だ~か~ら~!!」
ユーキとメグ、二人の頬をそれぞれつねる。
「ホッパーだって、言ってるだろ!!」
相変わらずのツッコミ。手加減こそしているが声のトーンだけは本物。本名ぶっ放しをやめるようにと叱責する。
「あひゃひゃ、よかった、ちょっとは元気出たみたいだね」
「えへへ……良かったぁ~」
頬をつねられながらもユーキは笑っている。その横でメグも安心したように笑っているようだった。
『相変わらず、仲が良いね』
ギルドハウスにはエイラがソファーに腰かけている。
彼女だけじゃない。暗日にゴースト、JACKとスターライダーの面々が総集合している。
「久々に全員集合だね」
そしてリーダーのスノーハイト。
珍しく休みだったのだろうか。それといった疲れ切った声を上げることもなく我が子を見守るような笑みを浮かべていた。
「あれ、全員集まってる?」
「ホッパー君、今から時間あるかい?」
ホッパーに時間が近づいていないかスノーハイトが聞いてくる。いつもなら宿題をするためにログアウトをする時間なのだ。
「えっと、少しだけなら大丈夫ですけど……」
「了解。じゃぁ手っ取り早くやってしまおう!」
ギルドハウスのテーブルに用意された巨大モニター。
そこに表示されたのは……“近日公開予定の大型アップデート”。
「全員参加型の高難易度協力ミッション……【黒騎士・トリニティ】の作戦会議!」
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