TURN.14「D.R.E.A.M.s(その1)」
-----数分後、ホッパー達は街へと帰還する。
帰る途中でヴィラーがある程度調べていたらしいが……六時のアップデートを終えた途端、特定のエリアにて黒い甲冑モンスターの出現が確認されたらしい。
そしてホッパーやオーヴァー同様に何名かのプレイヤーが突然味方を襲い始めたのだという。
いろいろな推測が飛び交っているが状態異常回復のアイテムで元に戻った事で、新しい状態異常の実装ではないかと言われている。
推測では“洗脳”。その考えが妥当であると考えた。
ヴィラーはシラタマとオーヴァーの二人を連れてギルドハウスへと帰って行った。このことをギルドの掲示板などに書いたりなど報告をするらしい。
ホッパーとユーキとメグは街中を歩く。
これからどうしたものかとユーキとメグの二人は話し合っている。
「……」
そんな中、一人だけホッパーは無言だった。
「ねぇ、カケル! 今からギルドハウスに戻ろうと思うんだけど」
「あ、ああ……」
いつのまして迫力がない。
いつもだったらこのタイミングで『ホッパーと呼べ!』と突っ込むはずである。最早お約束となった本名ぶっ放しへのツッコミをしないのだ。ただ元気のない返事が戻ってくるだけである。
「ごめん。二人で先に帰っててくれ、俺、ちょっと消化しないといけないミッションがあるから」
「そう? なら手伝おうっか?」
「いや、いいよ。一人で出来る簡単なやつだから……」
まるで遠ざける様にホッパーは二人から離れていく。駆け足で、その場から逃げ出したいと言いたげな背中を見せながら。
「もしかして、さっきの事気にしてる?」
「!」
長い付き合いだ。当然、ユーキもメグも気が付かないはずがない。
例えゲームであれユーキをプレイヤーキルしようとしたのだ。どのように彼女を攻撃していたのか、その詳細は一同の気遣いで曇りのある言い方で流そうとはしていたが……それが余計にホッパーの気を悪くしてしまった。
「気にしなくていいのにさ~! 私は気にしてないから気にすんなって!」
ユーキはドンと胸を叩き、ホッパーを元気付ける。
「……ちゃんとギルドハウスには来てね? 約束破ったら明日の給食少し貰う!」
「わ、わかった。わかったから! ちゃんと戻りはするから!」
一人になって気持ちを整理したい。ユーキはホッパーのその気持ちを受け入れた。
「それじゃ! ちょっといってくる!」
「何かあったらちゃんと言えよ~。相談には乗るからね~?」
考えすぎないように。思いつめないようにと同時に釘もさしてくる。
今日のログアウト前には一度ギルドハウスで反省会をしようと約束をし、そこで一旦別れを告げた。
「……とは言ったものの~。うーーーん……大丈夫かな~、カケルくん」
メグはやはり心配でならなかった。
項垂れる表情。微かに曲がった背中。落ち込んでいる彼の姿はあまりに悲壮感が漂っていた。放っておいても大丈夫なのかと不安にもなってくる。
「大丈夫大丈夫!」
ユーキはホッパーの背中が見えなくなるまで見守っている。
「一生へこたれる程、アイツは弱い奴じゃないよ。私、知ってるからさ」
「……うん」
二人はギルドハウスへと向かっていく。
約束の時間までお互いに心を落ち着ける時間を迎えることとなった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
街中の噴水広場。ホッパーは一人でベンチに腰かけている。
「……あぁああ~。気ぃ遣わせたぁ~……余計凹むわぁああ……くっはぁ、流石に今日のは色々応えたぁあああ」
例えゲームであろうと、助けてあげるはずのユーキ達の脚を引っ張った。
「いつにもましてカッコ悪ぃいい、俺ぇ……」
不意な出来事であり、まだ情報一つリークすらされていなかった新イベントでもあったために対処のしようがなかったのも事実ではある。あれは完全なる事故だった。
「ダメだなぁ……これじゃああ……」
でも、それでも考え込んでしまう。
あの時慎重になっていれば、その例のモンスターに気づいていたのではないだろうかと。誰よりも早く対処に回れていたのではないのかと。
「どうしてこうも上手くいかないものか……ユーキみたいにバシッと決められないんだろうか」
ヒーローを目指していた男が敵キャラの罠に嵌り悪の手先になる。
とんだ笑い話である。情けないったらありゃしない。ヒーローアニメでもよく見かける三流キャラクターのお約束をそのまま迎え、惨めな気分になってくる。
「ヒーローなんて程遠い。これじゃ噛ませ犬のほうがお似合いじゃねーか……」
本当にヒーローなんてなれるのだろうか。
頑張って踊り続けても、そんな夢のある将来がやってくるかどうか……あまりの喪失感が少年の胸を抉っていた。
彼はそれだけ純粋なのだ。
ゲームであろうと深く考え込んでしまうほど真面目で真っすぐなのだ。
ゲームでさえも上手くいかないのなら。もう無理なのではないかと考えるほどに。
「お~い、何してんだ~_」
ベンチの後ろから声をかけてくる。
「こんな時間に一人って珍しいな。友達はどうしたよ?」
叉月だ。デュエルの申し込みもいつでもOKと頭上に表示。堂々と人だかりの多いエリアでうろついていた彼が声をかけてきたのである。
「叉月さん……」
顔を上げると、ホッパーは涙を流していた。
意識のシンクロ、それはここにまで表示されてしまう。悲しいという感情を読み取りこうして涙まで再現させてしまうのだ。
「……もしかして、喧嘩したか? 何か嫌な事でもあったか?」
前の方へと回り込み、叉月はホッパーの涙を拭う。
「違うんです、あの……ごめんなさいっ! ちょっと、あのっ」
「よしっ!」
涙を拭い終えると叉月は立ち上がる。
「やることないならちょっと付き合えよ」
「……?」
ホッパーはただ、涙で赤く染まった顔をかしげていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「……釣り、ですか?」
その後、二人がやってきたのは釣り堀のエリアだった。
「そうだ釣りだ。話をするにはここが一番ちょうどいいし、落ち着くだろ」
カジノやスポーツ、そしてこういった釣りなどの娯楽ゲームも用意されている。プレイヤーバトルやモンスター退治など、そういった派手なバトルが苦手な人に対してもこういったゲームが用意されている。
老若男女問わず、こうして人気が高い秘訣もここにあるのだ。
「ふむふむなるほど……」
ホッパーから軽く事情を聴く。
「はぁ~ん、なるほどねぇ~? そういうことだったわけか」
事情を聴き終え、叉月は釣り竿片手に笑っている。随分と手の込んだゲリライベントを用意したものだと彼は楽しんでいるようだった。
このゲームはこういったハプニングイベント的なサプライズを用意しているから楽しみで仕方ない。刺激を求めている叉月にとって、この上ない娯楽の一つであった。
「……笑い話じゃないんですよ」
「悪い悪い。ちょいと今後が楽しみになってな。そうか……おっと! 食いついてんじゃねぇか! おらよっと!」
叉月は一言詫びを入れると、釣り糸を引き上げる。いつの間にかヒットしているようだった。ボラをゲット。
「へっへぇ。けっこうデケェの連れたじゃねぇか~」
「……意外です」
「何がだよ」
でっかいボラを持ったまま叉月が降り返る。
「叉月さん。こういう釣りとかにも興味あるんだ~、って」
「おい。まるで俺が喧嘩にしか興味ないみたいな言い方だな?」
「いつも、ヴィラーさんと一緒にいるから……人を痛めつけるのが趣味なのかなと」
「俺をあんなリアルでもサイコパスな野郎と一緒にするな」
この上ない悪口だった。だがリアルでも互いにそう言いあえる関係のようだ。
それくらい仲は良いようである。それでも多少のオブラートには包むべきだとは思うが。
「まぁ、プレイヤーバトルが好きなのは事実だがな。競い合うってのは純粋に楽しいだろ。勝負に勝つっていう快感は何度味わってもいいもんさ」
喧嘩は嫌いじゃない、と叉月は語る。
「でもこういう何気ないゲームもしたくなるもんだろ」
ただ純粋な日常を楽しむ。ゲームの世界だというのにこうして日常風景を楽しむことも出来る。非常に興味深いゲームであると叉月は語っていた。
「……」
「今日の事がそんなにショックだったかよ」
ヒーローらしくない失態を犯した。そのうえ味方まで傷つけた。
あまりに程遠く感じるようになってしまった夢。こんなことで本当にヒーローになれるのだろうかと落ち込んでいるようだった。
「失敗はヒーローにだってあるだろうよ。完全無欠の英雄なんていやしねーんだから。ほら、番組とかでもヒーローが出てくるころには結構な被害が出てるもんだろ? 何もかも上手く行くってのは相当難しいことさ」
「……そう、かもしれないですけど」
目指せば目指すほど遠くなる。夢は追いかけると逃げていく。
「叉月さん。ユーキやテレビ番組のヒーローみたいな人に。カッコよくて誰もが憧れる素晴らしいヒーローってどうなったらなれるんでしょうかね」
本当に辿り着くことが出来るのだろうか。
努力の先に本当にゴールがあるのだろうかとホッパーは不安を吐露した。
「この際だからよ。大人から子供に一つだけ忠告しといてやるよ」
彼の質問に応えるべく。
叉月は“大人”として、少年と向き合う。
「……ヒーローは目指してなるもんじゃねぇよ。そんな考えじゃ、いつまで経ってもなれねぇよ」
堂々と言い切った。
「そういうのにはいつの間にかなってるもんだ……ヒーローは名乗った地点でもうヒーローじゃねぇんだよ。自分を正義だと言い張る野郎共なんて見てて頭が痛くなる。応援もしたくねぇ。それが俺の素直な意見だ……おっ、またヒット」
結構な大物が引き上げられる。叉月は釣り上げた魚を近くのクーラーボックスの中へと放り込んだ。
「将来の夢って目指してなるモノじゃないんですか?」
「まぁそうなんだけどよ……やっぱ、こう。ヒーローってのは少し違うんだ」
ボックスの蓋を閉め、中の大物が暴れてボックスを変な位置に動かされないようにとそれを椅子代わりに使うことにする。
「俺から言わせれば、ヒーローは職業じゃねぇしな」
釣り針に新しい餌をつけ、再び池の中へ糸を垂らす。
「目指したらいけないって……じゃあ、どうやってなるんですか」
「ガキのお前にはまだ分からないよ。説明してもな」
質問の答えにまるでなってない、とホッパーは肩を落とす。
余計に落ち込んでしまったようだ。叉月から言い渡されたのは……“ヒーロー失格”にも近い烙印だったのだから。
「そうガッカリすんなよ」
叉月はドンと背中を叩いた。
「うわわっ!?」
そのままホッパーは池の中へと落ちてしまった。
加減無し、何気ない表情を浮かべている叉月。何の罪も浮かべていないような彼は池に落ちたホッパーを眺めている。
「ぷふっ……何するんですか!」
「今からいうのは嘘でもお世辞でもなんでもねぇ。だから、ちゃんと聞いとけ」
池の中から見上げるホッパーへ。迷える少年へ叉月は言い放つ。
「お前はヒーローになれると思う。多分だがな」
ニヤつく笑顔。馬鹿にする表情というよりは……賛辞を与えるような笑顔。
「根拠は説明できないが……悪党の俺が言うんだ。間違いねぇよ」
そういって、叉月はホッパーに手を伸ばした。
「大人になれば分かるさ。ヒーローになることの意味はさ」
「……」
分からない。それは不安になるはずの答え。
今の状況からしてもどうしてもお世辞や嘘に聞こえてしまう。気遣って口にしただけのあてずっぽうではないかとも思えてしまうはずなのに。
「まっ、悪党の話を信じるかどうかは任せるがな」
叉月のその言葉は少年の心に。消えかけていた炎に、微かな炎を注いだ。
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