TURN.13「イン・トゥ・ダークネス(その2)」


「ふっ! ホァアッ!」

 ツインショーテルで黒い甲冑騎士と戦闘を繰り広げるヴィラー。

 攻撃を弾き返したり、その身で受けたり……勝負はほぼ互角のようにも思える。あの黒甲冑騎士の攻撃パターンは人間プレイヤーと近い動きをするため、対人戦専門プレイヤーであるヴィラーにとっては戦いやすい相手ではあった。

「ほっほ! これはこれは、とんでもないモンスターが配置されたものだっ!」

 一進一退の攻撃の中、引きさがったのはヴィラーの方だ。

「自分で言うのもなんだけどねぇ~。僕は叉月と同様メトロポリス3では有名なプレイヤーでっ。掲示板でも要注意人物と乗るくらいには腕利きのはずなんですぜぇ~。だというのにこれはこれはどういう事か……ッ!?」

 レジスト。レジスト。レジスト。

「そんな僕ちゃんの攻撃がのはどういう事なんだァアア!!」

 全ての攻撃が無力化されている。どれだけ強力な物理攻撃で甲冑を殴り続けてもそのダメージ表記は無情にもゼロを連続で表示するのみ。ヴィラーの連撃は甲冑騎士相手に一切何の被害も与えていなかった。

「ヴィラーさん! その甲冑は一切攻撃を通さないんです!」

「おっと? メグちゃんはこのモンスターと戦ったことがあるのかい?」

 この返事。どうやらヴィラー・ルーは初戦闘のようである。この甲冑とは。

「それはこの前のイベントで……」

「ほうほう……大体把握した。コイツ、例の噂のヤベェやつって事~?」

 ヴィラーはそっとサングラスをずらす。

「モンスター退治のイベントはスルーしておりましたからねェ。僕は参加していなかったんだがぁ……確かにコイツはヤバい。調整ミスじゃねぇの?」

 そういった情報はある程度目を通しているようだ。

 どのような攻撃をしてもダメージを通さない絶対無敵の甲冑モンスターの存在は頭に入っているようだった。

「となれば……やはり何かのイベント! ですかねぇ!?」

「うわぁ!?」

 向こう側から声が聞こえる……ユーキだ。

 今も尚、殺意を現したまま攻撃を続けるホッパー。ユーキの静止の声など聞くはずもなく、気が付けば彼女のHPバーが一割程度にまで追い詰められていた。

「カケル君! ユーキちゃん……!!」

 メグは慌てて、ユーキに回復魔法を送る準備をする。

「どうしたら! どうしたら止まってくれるの!?」

「……まぁ、おそらく方法は二つ」

 ホッパーとオーヴァーの様子がおかしくなった原因はもしかしなくてもあの黒い甲冑モンスターが原因だろう。となれば思いつく方法は二つ。

「一つはあの黒い甲冑モンスターを倒す。或いは……かのどちらか。後者の方が楽だけど、一つ問題があってね」

 一瞬、ヴィラーは様子のおかしい二人へと視線を向けた。

「二人とも以前と比べて明らかに戦闘力がダンチで違うんだよね」

 プレイヤーキルを仕掛ける二人の戦闘力は……数分前と比べ、バフを盛り付けられたように凶悪な強さと化していた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「【パラサイトハンド・ウロボロス・クラッシュ】!!」

 変形する右腕が巨大な怪物へと姿を変える。オーヴァーの攻撃は無数の影を食らい尽くしてく。

「なんだ? それといって強くないぞ、コイツラ……数は多いけどさ?」

 どれだけ倒しても影のモンスターは現れる。経験値らしきものも表示されず、倒しても倒しても無意味な連戦が続いている。

(おかしい)

 影に応戦する中、ホッパーは違和感を覚える。

(バグじゃないのはわかったけど……このモンスター。どれだけ倒しても意味がないように思える)

 見覚えのない戦闘演出やモンスター。経験値も表示されない謎の戦闘。

 ホッパーとオーヴァーの二人にこれといった不具合が表示されている様子はない。回復アイテムなども問題なく使用できるようだ。

 異常なくゲームが進んでいるこの状況。しかし戦闘が終わる様子が一切ない。このイベントの不自然さにようやく反応を示し始める。

(……開かないステータス、味方との音信不通)

 考える。今、自分の身に何が起きているのかとホッパーは考える。

(緊急だけとはいえログアウトも出来る)

 一部機能が遮断されている割には何事もなく緊急ログアウトが出来るようになっている。

(戦闘、よく分からない戦闘……この妙な感覚)

 考える。考える。考える。脳裏からあり得る事象をなんとしてでも捻りだす。

(……まさか!? そういうことなのかッ!?)

 そして、一つの推測へと辿り着く。

「オーヴァー!!」

 影と今も戦闘を続けるオーヴァーへと叫ぶ。

「何でもいい! “自分に状態異常回復のアイテム”を使うんだ!」

「あぁ!?」

 影を薙ぎ払い、言われたとおりにオーヴァーはアイテム一覧を確認してみる。

「回復なら必要ないしっ、猛毒とかそんな状態異常にもなってないぜェ~? こんなザコ相手にヒットポイントが減ることもないだろうしよォ~、まだ大丈夫だっての! 心配してくれるのは嬉しいけどよォ~!?」

「違う! もしかしたら! もしかしたらなんだっ……!」

 一部機能を使用できないこの状況。不具合でなければ何なのか。ホッパーが行きついた答えがこれだ。

「俺たちは既に何らかの異常が起きているのかもしれないッ!! 俺たちが知らないうちにっ! 何かしらヤバい状況にッ!!」

「……なるほどなぁ? まぁ、試してはみるかってな!!」

 ホッパーが辿り着いた答え。

 “これは状態異常による演出なのではないか”と。

「万能薬でいいよな!? どんな状態異常かもわからねぇし!」

 ログアウトや戦闘などが通常通り行え、ゲームが進行していることを考えると……可能性はあり得る。

「もちろん! 早く飲め! もう勢いよくガブっと!」

「一気飲みだァアアアアアーーーーッ!!」

 どの状態異常だろうと回復するアイテムを表示。二人は同時腰に手を当て、風呂上がりの牛乳を飲み干す勢いで状態異常回復のアイテムを口に含み飲み込んだ----


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「……っ!!」

 一瞬だった。そこから暗闇の景色が消え去ったのは。

「あ、あれ……? ユー、キ?」

 振り上げている脚、そしてその目の前にはボロボロのユーキ。何者かによって追い詰められているユーキの姿がそこにはあった。

「あ、あれ……もしかして、?」

「目が、覚めた?」

 ユーキからの不意な質問。最初こそ意味は分からなかった。

 だが次第にホッパーの顔色が青ざめている。今まで戦っていた無数の黒い影、その幻影の正体が何なのか……この状況も見て、次第に体が震えだす。

「も、もしかして、俺、ユーキを……?」

 予想もしなかった光景を前にホッパーは尻餅をついてその場に座り込んだ。

「おっ、とぉお……ふぅ。どうやらホッパーの予想は的中したみたいだな! 元に戻れたようで何よりってところだぜ!!」

「オーヴァー、やっと起きた。この、寝坊助が」

「って、おお!? おいシラタマ! お前ともあろうものがボロボロじゃねぇか! 誰にやられたってんだよ? お前をボコした野郎がユーキ以外にいるってんなら是非ともこの目で拝みたいもんだぜ!」

「お前だ、お前。お前にやられてたんだよ。バーーーーーーーカ」

「ハァアアア!? 俺ぇええーーーーーッ!?」

 片方でも同じような状況が起きていた。オーヴァーが目を覚めた頃、目の前にはボロボロのシラタマがいた。

 一体何が起きたのか。ホッパーもオーヴァーも未だに状況を把握できていない。


「むむっ!? お、おいちょっとぉ~!?」

 二人の意識が戻ったと同時の事だった。

「……急に現れたり消えやがったりしやがってねぇ~?」

 ヴィラーと交戦していた黒い甲冑モンスターが急に姿を消した。

「さんざん搔きまわしてくれちゃって! 迷惑ったらありゃしないよねぇ~? そう思わないかい~、メグちゃ~ん?」

「……何だったんでしょうね……さっきのって」

 イベント終了。

 何処に隠れたのかとヴィラーは辺りを見渡すがその気配は一切感じられなくなっていた。黒の甲冑騎士は消え、ホッパー達も元に戻った。


 結局この日。何が起きたのか全員理解出来ずにいた----

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