TURN.11「戦え!我らがダブル・ヒロイン!(その2)」
「メグ! 回復お願い!」
「任せて!」
メグがマジカルフェアリーを解放してからというものの、三人組の戦闘力は目に見えて向上した。
……ちなみに衣装は以前の魔法使い衣装に着替えてる。あんなのを着て外に出るなんて変質者としか言いようがないと何度も言っていた。
「メグ! 後ろにいるよ!」
「『歪め、そして裂け。空の因果を! 【スライドエア】!!』」
機動力とスタミナが向上したことによりメグの近距離戦の対応が見る見るうちに変わったという事。前衛と後衛のシフトを素早く切り替え、近くの敵も殲滅する。
メグはリアルでは運動能力こそ高くはないが頭の回転はホッパーとユーキの二人よりも断然早い。マジカルフェアリーの性能も一夜でマスターし、こうしてユーキと肩を並べて敵を殲滅している。
「メグ! 次が来るよ! バフをお願い!」
「『先の道を穿て、無限の闘士よ! 【バルサーク】!!』
すり寄ってくる敵キャラを殲滅しながら高速詠唱でカバーを続けるメグ。彼女が次にはなったのは攻撃力アップと機動力アップのサポート魔法だった。
「うおおおおおーーーっ! 力が湧いてくるぞぉおーーーー!!」
「ユーキちゃん突っ込みすぎ! 置いてかないで!」
文字通り猪突猛進。頭に血が上った猪のように突っ込んでいくユーキのもとへ慌てて駆け寄っていくメグ。二人は次々とモンスターを倒していく。
「……」
二人の活躍を遠目。体育座りでホッパーが眺めている。
今回はメグのマジカルフェアリー試運転タイムだ。二人のみで戦闘し、危ないと判断したらホッパーが介入し援護する。要は監視員である。
「互いに肩を並べて戦う美少女ヒロインコンビかぁ~。そうかぁ~」
ダークヒーローと妖精のように戦う美少女戦士のコンビ。
「ヒーローっぽいよなァ~? 例のアニメみたくかわいらしくてカッコいいよなぁ~? 互いに肩を並べるなんて相棒感強くていいよなぁ~? えぇ~?」
二人の戦いはまさしく女の子版ヒーローそのものである。二人の光景を眺めながらホッパーは呪詛のように何かつぶやき続けている。
「さぁ、メグ! 次も頑張ろう!」
「うん! 『歪め、そしてしゃけ、』」
「お約束はいいからァアアア~~!?」
詠唱失敗。あっという間に隙ができ、敵の攻撃を許してしまう。例のドジはまだ引っ込むことはないようだ。
「いいもん。うらやましくねーもん! ふんだっ!」
「カケルゥウウ! 不貞腐れてないで早く助けに来てぇーーー!!」
ホッパーはハリセンボンのように頬を膨らませる。明らかにいじけていながらも、二人のピンチに颯爽とかけつけていった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
試運転の戦闘が終了して数分後の事。
「お疲れ!」
「おつかれさま……ごめん。相も変わらずドジってしまいました……あはは……」
初めての試運転。前線の戦闘ということもあって緊張が解けたのかメグはそっと身を降ろした。反省しながら。
ジャングルの中、ミッションが終わった今はフリーステージとなっている。
その領域から離れれば再びモンスターとの戦闘が始まるし、用意されたワープホールに入れば街へと戻ることが出来る。
「まぁ覚悟は決めてたし? お約束ってことで」
「そんな覚悟決めてほしくないし、お約束にしないでもらえる!?」
「でも前よりは劇的に強くなったよねぇ。さすがは特別上級職っ!」
軽い休憩がてら、ユーキとメグはその場で座って互いの戦闘を讃えあっていた。軽いディスり合いも含めながら。
「カケル君もありがとう。何度も助けてくれて」
「……ホッパーだって」
そんな二人に対し、そっぽを向きながらツッコミを入れるホッパー。
「……カケル君、怒ってる? 私がドジをしたから? 名前間違えたから?」
「メグに先越されたのが悔しいんだよ」
「うぐっ!!」
図星を容赦なく。地雷原をマラソン感覚で突っ切るユーキの発言がホッパーの胸を強く抉る。
「……キえええええええィッ!!」
思わず効果音を口で言う。歯ぎしりをしながら目を赤くし睨みつけるホッパー。相手が女の子であろうと馴染みである彼女相手になら敵意だって容赦なく向ける。
「 ひぃっ!? こ、この職業はヒーローじゃないよ!? カケル君からすれば、うらやましくも何ともでしょ!?」
「いやー? 私から見れば、朝に放送されている女の子向けヒーロー番組のヒーローそのものだったよ~? それ以外は深夜の美少女ヒーローだとか? ドジは多かったけど以前と比べて勇ましくなってたし、まるで相棒みたいで」
「ユーキちゃぁあああん! 火に油を注がないでよぉおおお!!」
ユーキの余計な茶々が余計にホッパーを不貞腐らせる。
気のせいか徐々にホッパーは震えながら涙目になっているような気もする。ダンサーという職業の監獄にとらわれる少年にとって、その一言一言が深いダメージになっているのだろう。
「違うから! 違うからぁ~!! だから、こっちを見てカケル君! 私を見てっ!」
「ぶ~、っだ」
「うぇえええーーーーん!!」
メグもまた涙目で必死にホッパーの声を呼ぶ。それに対し態度を改めないホッパー。何ともまあ可愛らしい絵面だことか。
悪戯心全開だったユーキに悪魔の羽と尻尾が生えているように見えてしまう。相変わらず小悪魔な彼女の策略によって二人は振り回される一方であった。
「……ん?」
何気ないコミュニケーションを取り合っている中、メールの効果音が鳴る。
「ん? 俺にもメールか?」
それはユーキだけではなく、ホッパーも方にも届いた。
「私は……届いてない?」
メグ以外にところに届いたメールを二人は同時に開く。
差出人はNPCからではない。ということはイベントが発生したとかそういうわけではない。
----送信相手はプレイヤーからだった。
「えっと何々……送信者の名前は『刺客』ゥ~?」
「『お前たちと決着をつけに来た』……?」
ボソボソと、ホッパーのユーキの二人はメールを読み上げる。
「!!」
途端、ホッパーの目つきが変わる。
「二人とも伏せろ!!」
メールをまだ確認の途中、何が起きたのだろうかと油断していたユーキとメグの二人を慌てて押し倒した。
-----三人の頭上に“弾丸の雨霰”。
「ううぉおおおおーーー!?」「きゃぁああーーーーー!?」
マシンガンだ。何処か遠くから数百発の弾丸が発砲されたのである。その弾丸はホッパー達三人を狙っていた。
「うぐぐぐぐぐぐぐぐっ!?」
何発か弾丸がホッパーの背中を掠めていた。徐々にダメージが減っているがそこは根性で耐えていた。
-----数秒後。やがて銃声がやみ、静かになる。
「いってててて……大丈夫か、二人とも?」
そっと起き上がり、無事かどうかホッパーは問いかける。
「う、うん。ありがとう、カケル君」
「だからカケル言うなっ」
「いってぇええ……えぇえ? なにぃ~?」
横で頬をつねられているメグとしかめっ面のホッパーは放っておいてだ。何が起きたのか今もなお理解できていないユーキは周囲を見渡し、状況を確認する。
「ねぇカケル」
「だからホッパー」
「今それいいから」
「よくない」
いつもの流れではあるがホッパーはそれを譲る気はないようである。
「……襲撃ってわかって私たちを庇ってくれたよね? もしかして何が起きたのか状況を理解できてるってこと?」
「あぁ。送信者のIDを見て何となく察した……そういうことだろ?」
ホッパーの視線は別の方向へ。誰もいない木陰へと向けられている。
彼の言葉はユーキではなく別の誰かに向けられているようだ。
「-----避けたか。まぁ今のは挨拶代わりだけどなァ」
「そうそう。挨拶代わりだ」
ホッパーの視線の先。その木陰から二人の人影が現れる。
「やっぱり……!」
立ち上がったホッパーは“敵”に対し、身構える。
「へっ。血眼になって身構えやがって……どうよ? 調子はよぉ~? スーパー・ダンサーのホッパー君さぁ~?」
真っ白い短髪。ボロボロのミリタリージャケットにチェーンが大量にまかれたズボン。鋼鉄製のグローブを身に着けた男の顔は傷だらけ。ただでさえ痛々しいその顔を引っ搔き回しながら、その少年はホッパーを見て笑っている。
「……ユーキ、今日こそ倒す」
もう片方は水着のような黒い毛皮の衣装を羽織った女の子。犬の顔のフード。両手に爪をはやした小柄な少女がユーキに対し殺意を向けている。
----ヴィラン同盟に所属していた少年少女の二人。
二人の刺客が、今。
ホッパー達に対し、PKまがいの奇襲を仕掛けてきたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます