TURN.11「戦え!我らがダブル・ヒロイン!(その1)」


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 一日に五つほどランダムにミッションが与えられ、それをクリアすると少量の経験値と回復アイテムなどが貰える。やるかやらないかがプレイヤー次第だがやっておいて損はない。

 これはとある日のデイリーミッションを消化中の時の話である。

「終わったー?」

「俺は終わったよ」

 ホッパー・ユーキ・メグの三人組はデイリーミッションをこなしていた。

 いくら少量とはいえ経験値なのに変わりはない。一円に泣く者は一円に泣く。こうやってコツコツと稼いでいくのが大事なのだ。ログインしてすぐに三人はデイリーのミッションに取り掛かっていた。

 ミッション内容は『どれかクエストに一回出る』『特定の敵を二十体倒す』『敵の攻撃を数回ガード』するなど一つクエストに出れば何個かこなせる内容ばかりだ。

「メグは……手こずってるな」

「だねぇ~」

 ホッパーとユーキは視線を向ける。

「えぇ~いッ!!」

 ホワイトメイジ。白魔術師の彼女は“杖”で敵を殴っている。

「メグの職業で”あのミッション”は……ちょっと大変だよな」

 ミッションには敵を『物理攻撃で敵を五体倒す』などがあるのだ。

 ホワイトメイジは後方支援がメインとなる職業だ。攻撃魔法があるにしてもそれが封じられたとなれば……こうして杖で直接しばくしかない。

「なんというか。絵面が完全にトチ狂った魔法使いだよね……」

「はぁ、はぁ……終わった……!!」

 地道に杖で殴って逃げるを繰り返した彼女もデイリーをクリアしたようだ。カスみたいなダメージばかりで気が遠くなる作業だったが無事終了した。

「よし! これで全員終わったね!」

 デイリーミッション完了。ユーキは両手を上げてリラックスをする。

「だな。ボチボチ経験値大量のミッション探しに行こうっと」

 このダンサー職と早めにおさらばしたいホッパーも片腕を回し始める。

「はぁ、疲れた……ん?」

 そっと顔を上げると、メグのもとに一通のメールが届いている。

「何だろう?」

 アップデートのお知らせなどが届いたのかと確認してみるがメールの差出人はNPC。つまりは何らかのイベントである。気になったメグはメールを開いてみる。

「えっと……『おめでとう。君は【マジカルフェアリー】の素質がある。ぜひとも可憐な君にその力を与えたい』って」

「「マジカルフェアリー!?」」

 ホッパーとユーキの二人が顔色を変えてメグの下へと駆け寄ってくる。

「え!? どうしたの!?」

「やったじゃんメグ! それ! 使だよ!!」

 メグが不意に開放したその職業は“魔法使い職の特別上級職”なのだという。ユーキのダーク・ヒーローばりに特別な職業だ。

「俺も少しだけ聞いたことあるけど……確か近距離戦用の高速魔法とか、空中浮遊による高速離脱とか、一対一でも至れり尽くせりな話を聞いたことが」

 【マジカルフェアリー】。

 その名の通り、人間の魔法使いというよりは“妖精そのもの”になる。

 HPが他の職業と比べて更に低くなるデメリットがあるが……戦闘において近距離戦にも対応できるようになり、何より一番の見どころは“空中浮遊スキル”による戦場離脱。後方支援のために安全圏へ移動出来たり、戦闘に加勢したりなど楽ちんだ。

「そうなの!? い、いつの間に条件を果たしてたんだ……」

「さっきの物理攻撃とかが関係してるのか? 明らかにそのタイミングだったけど」

「どうする? 今から試してみる?」

 このゲームは職業を解放するとその場で変更することが出来る。今この場でホワイトメイジからマジカルフェアリーに転職出来るということだ。

「う、うん!」

 特別上級職。その名の通り、どこか特別なオーラを放つ不思議な力。

「それっ!」

 まさか自分がなれるとは思っていなかったとメグは目を輝かせている。新しい職業を前に心を躍らせながら承認のボタンを押した。




「……ん?」

 ----だが、その途端だった。事件が起きたのは。

「……んんっ?」

 メグの体が光り出す。

 気が付けば衣装が変わっている。


 

 半透明の羽のエフェクト。手袋やニーソックスを思わせる光が纏わりついている。

 ……言い方を変えれば、恐ろしいほど露出が多い。

「~~~~~ッ!?」

 ホッパーは顔を真っ赤にして目を逸らす。

「わーお」

 大胆な衣装を前にユーキも思わずニヤついた表情で声を上げる。

「ひいゃぁああ~~~~ッ!?」

 メグに至ってはその破廉恥な衣装に耐え切れず、その場に座り込んでしまう。真っ赤な顔は今すぐにでも泣き出してしまいそうだ。

「な、なんだよ! その格好!?」

 両手で目元を隠しながらも、隙間からチラりと見てしまっているホッパー。

「分からないよ!? 何なの、この服!?」

 恥ずかしがり屋なメグにとって、その衣装は拷問以外の何物でもない。

「あちゃー……それがなんだねぇ~」

 このゲーム。少し不憫な点が一つある。

 特別上級職に限らず、ジョブを装備した瞬間は“特典としてプレゼントされる衣装”へ強制的に切り替えられるのだ。メグが身に着けた露出の多い衣装はマジカルフェアリーの初期衣装のようである。

「困ったなぁ~。着替えちゃったら、ギルドハウスかショップエリアに行かないと着替えられないしぃ……」

「この格好で!? 無理だよ、無理!! 死ぬ! 恥ずかしさで十回は死ぬ!!」

 涙目で見上げるメグは力一杯に首を振る。

「ユーキちゃん……実は知ってて促した、なんてことないよね……?」

「いやぁ~そんなことないよォ~? それよりも早く着替えるなら移動しないと」

「無理無理無理無理ッ! こんな姿で街を歩くなら死んだ方がむしろマシだよッ!!」

 彼女にとってその衣装を着るだけでも拷問である。今すぐにでも着替えたいのにわざわざ人前に出ないといけない更なる拷問が待っている。

 あまりに可哀想でならなかった。ユーキの策略であったのか。

「ううぅ……カケル君、まじまじと見つめないでよ~……」

「カケル言うな! あと見てません~!!」

 身内とはいえ、男子にみられるのも我慢できなかった。ホッパーもその露出の多さに戸惑っているようだった。

「うーむ。ゲームとはいえそこまで恥ずかしがるとは……どうしようかなぁ~? 何か良い手はあるものか」

 何はともあれギルドハウスまで連れて行かないといけない。じゃないと着替えられない。ギルドハウスの方なら人の多いショップエリアに行くよりは被害は少ない。

「……よしカケル、手伝って」

「ナ、ナニヲッ!?」

 裏返った声でホッパーは叫び出す。

「もしや意識してる~? 大丈夫だよぉ、メグを抱きしめながら移動しろとか言わんからさ~」

「ちょっと黙れッ!!」

 図星を突かれたがため、更に甲高い声が響くのだった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 ……街中。夕方という事もあって人が増える時間帯。

「はーい、とおりますよーっと」「通してくださーい」

 たった二人で隠せるはずもないがその身を隠してあげるしかない。

 ユーキはコートを広々と広げ、ホッパーは『こっちを見るな』とガンを飛ばす。

 正直、余計に注目を集めるかもしれないが一人で歩くのが嫌だというメグのワガママだ。出来るだけの事はやる。

「あと、どのくらい……?」

「もうちょいだぞぉ~。あとちょっとだから頑張れよォ~……?」

 慎重に。慎重にギルドハウスまで連れていく。人気のないルートを限りなく使って。

「……よっしゃついた!」

 そしてようやく辿り着いたギルドハウス。

「はぁ……怖かったぁ……」

 メグは安心したのか深く息を吐いた。

「ほら、早く着替えよう。カケルの視線もあるしねぇ~?」

「!!!」

 自分の身を素早く隠し、彼女は顔を真っ赤にしたままホッパーを睨みつけていた。

「人を破廉恥呼ばわりすんなッ! それと呼吸をするようにカケル言うなッ!!」

「普段呼吸をするようにその名で呼ぶし、仕方ないよねぇ」

 ホッパーも突かれた図星に逆らえず声を荒げるのみ。思春期手前の彼は立派な男の子である。当然意識もしてしまう。

「ささっ! ワガママなカケルは放っておいて部屋に入ろう!」

 一悶着しながら、ユーキはギルドハウスの扉を開いた。


「あっ、三人とも。おかえり」

「おお、今日もお元気そうで」

『やぁ、こんにちは』

「フルメンバー揃うって珍しいな」

「だなぁ~!」

 フルメンバー。今日に限って全員の出迎え。



「「あっ」」

 マジカルフェアリー・メグ。

「……~~~~~~~~~~~~ッ!!!!!」

 ギルドハウスに悲鳴がこだまする。

 人生において、今までにないほどの自殺願望が芽生えた瞬間であった。

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