TURN.10「ぼくたちのメモリー」


「よいしょっと、これで全員……だな」

 緊急ミッション発令。内容は『貨物列車内に現れたモンスターを一層せよ。』

「どうだ~? そっちは終わったか~?」

「はーい! 終わりましたー!」

 貨物列車の操縦席からホッパーとユーキの二人が手を振って戻ってくる。

「うし! 割と早く終わってくれたな」

「ハッハッハ、もうこれくらいの上級レベルは楽勝ってところかい!」

 ミッション発令の報告を街中で確認した矢先、たまたまログインしていたゴーストとJACKの二人がミッションを受ける。そしてギルドのログイン状況を確認した際、ホッパーとユーキの姿も確認したため誘ったのだ。

「はい! 俺、成長出来てる……ですよね!?」

 アイテムドロップも上々、経験値も美味い。全員参加型ということもあって左程難易度は高くないのだが……最高レベルを回復アイテムに頼らずクリアできるようになったのを見て、二人の成長を感じている。

「コイツの戦い方もわかってきたし! コンボも安定してきたし! 後はこのままスーパー・ヒーロー目指して一直線というか! あははは~、なんて~」

 ぐっとホッパーは両手に力を入れる。わざとらしく笑ってもみる。

 徐々に上限レベルへと近づいていく。次の上限解放ミッションに備え、ホッパーは気合を入れているようだった。

「随分とダンサー職に慣れてる感あるな? いっそのこと、そっち一択で攻めてみるのもありじゃないのか?」

「いーやーでーすーッ!!」

 JACKの冗談へホッパーは力強く反抗した。本末転倒甚だしいのだから。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 ミッションを終えた一同は電車を降りる。

「終わったら近くのメトロポリスに降ろされる、か。なんというかリアルなところ再現するのはよろしいところではあるんだが面倒くさいんだよな。ここのメトロポリスには今のところ大して用事はないんだし」

 一同が下りたのはメトロポリス5。スター・ライダーが活動している拠点とは全く別の場所。それといって用事はないために移動用の列車を一同は待つ。

「しっかし、よく考えるよな。絶対安全の街中にダンジョンを作る方法とかさ」

「街の外から帰ってきた貨物列車に魔物が張り付いていて繁殖。面白い発想だよ、ホント。確かにそこならダンジョン化も簡単だろうしね。列車は街の外に移動するるし」

 街中にはダンジョンが存在しないという設定である。活動拠点は戦闘禁止という絶対のルールが存在するからだ。故に街中に実は地下墓地があるのだとか、銀行がハイジャックされるだとかそういう設定は絶対に現れない。

 だがこれだけ造りの良いグラフィックで出来た街なのだから、ここで戦闘も繰り広げてみたいという人も少なくない。その要望に応えたのが闘技場だったりするのだが……それでも、違うスリルを味わいたいという声が多かった。

「あとはミッション終了後に降りる場所を選ばせてくれてもいいと思うんだけどな。次の電車まで……げっ、15分後、地味になげぇぞチクショウ」

 その結果、生まれたミッションが貨物列車の奪還である。

 外からやってきた貨物列車が乗っ取られている設定。街を背景に高速で駆け抜ける疾走感が人気だったりする。

 というのは建前だったりして。人気の理由はもしかしなくても報酬だろう。

「これでまたギルドに貢献は出来ましたかね」

「リーダーは絶賛社畜中だからコッチでレベル上げといてやらないとな……たまーに萎れた声でインしてくる時とかあるけど、どれだけ忙しいか目に見えてわかるよな」

「スノーハイトさん。三日前もヘラってましたよね。宇宙から来た怪物を沢山乗せた隕石が地球に落ちる数時間前みたいな顔してましたよ」

「絶望ってか」

 ゴースト今頃仕事に追われているスノーハイトを想像する。日によっては給料も発生しないサービス残業もあると聞く。本当に大丈夫なのだろうか。

 暗日はコンビニで店長をやっているために日によって忙しさはバラつく。エイラはそこまで忙しくはないとは言うが……やはり暗日達と一緒で来る日が限られている。

「大変なこって。私はそうならないようにしないとな」

「おいおい、ちゃんとした場所に就職しねぇと再来年には俺達がそうなるんだぞ」

「うぐっ……嫌なこと思い出させやがって……」

 ゴーストとJACKももうすぐ就職活動に入る。息抜き程度にこのゲームには数回入ってくることにはなると思うが……それでも頻度は下がるだろう。

「そうなったときはお前達がギルドを支えるんだぜ?」

 悪戯の矛先は後輩の二人へと向けられた。

「うわー、急にハードルを上げてきましたねー」

 そうは言いつつもユーキは否定的な面を見せていない。

 ギルドメンバーがどれほど活動したかでギルドのレベルは上がっていく。中学校生活に高校生活、まだそれなりに余裕がある学生陣がこのギルドを引っ張っていく形になる。

「まだお前達が中級のジョブすら解放していないペーペーの初心者だった頃が懐かしいよ、ホントにさ」

「わかるわかる。ベイビーで可愛かったよねぇ」

「ウチは割と上級ギルドだし? 初級者ってそういう場所は入りづらいだろ? それくらいガッチガチの初心者だったもんな、お前たち」

 少人数で上級ギルド。メンバーもかなりの腕利きばかりだったのを見ると、そのチームは初心者お断りの空気が若干流れていた。そういうつもりはなくても。

 上級のギルドはミッションのノルマだとか重苦しい制約があったりする。その風潮もあってか当時、スター・ライダーはなかなか新規のメンバーを取り入れることが出来なかったそうな。

「エイラが誰か連れてきてさ。アイツに引っ付いて歩いてくるお前たちが初々しくて面白かったのなんの。ホッパーに関してはコミュ障全開だったしな」

「ド直球で言わないでください……」

 人とコミュニケーションをとるのが苦手なホッパー。そこらに対して反論するつもりはないがダイレクトに言われるとやはり傷つく。

 喋っていると電車が到着した。一同は電車に乗り込んだ。

「そういうお前もかなりのコミュ障でしょーが。知ってるぞ~? この間、コンビニのレジの人に道を聞こうとしたら緊張しすぎて噛みまくってた話」

「なんでお前がそれ知ってんだ!? リークは誰だ!?」

 このゴーストという女性プレイヤーもリアルはコミュニケーションが苦手なようである。

「懐かしいな~。最初、クリアしたいミッションがあっても難しいのがあって……救難信号を上げてもなかなか誰も来なかったし」

「初心者のミッションを手伝っても、報酬が美味しくねぇからな」

「その時にエイラさんが来てくれたんだよね。困ってる初心者は放っておけないって」

「あー、そうそう。アイツ、変に大人ぶるところあるからな。ヒーロー気取りだ」

 ゴーストとJACKの二人はエイラとはネット上の友達らしい。

 もともとは携帯のソーシャルゲームで知り合ったらしく以降はチャットをしたり、オフ会であったりなど交流を深めている仲だそうだ。

「ウチらも世話になったしねぇ」

「それから何度か助けてもらって……その途中でギルドに誘われたんだよね。今後の成長もそうだし、私たちの活動次第でギルドのレベルも上がるから、お互い条件はいいでしょうって」

「んでギルドに来てみれば、かなりの上級ギルドであんなにガチガチだったと」

「あははは……面目ない」

 エイラに誘われ連れてこられてみるとそこにいたのは上級プレイヤーばかり。

 いきなりハードルの高いギルドに連れてこられたこともあって、ホッパーとメグは勿論、ユーキでさえも緊張していたほどだ。恐縮だったのだ。

「でも皆さん凄く優しくて、色々教えてくれて……ようやくここまで強くなれましたから!」

 上級プレイヤーたちのアドバイス。そして活動。

 それぞれの努力も実って、ユーキとメグはそれぞれ上級職を解放することに成功した。ホッパーはまだ目的のジョブを解放していないがゴールは近づいている。

 ゴーストとJACKの言う通り、間違いなく成長しているのだ。

「いつかお礼をさせてくださいね!」

「お、俺も……!」

 ホッパーもスター・ライダーのメンバーには感謝をしている。

「じゃぁ、お前達がオフ会出来るくらいの年齢になったら、飲み会一回分奢ってもらおうかな!」

「うわっ、年下に奢らせるとかサイテー……」

「冗談だからガチ引きすんな。首すっとばすぞ」

 JACKとゴーストの漫才は今も続く。

 

 懐かしい話だった。

 一同は当時の事を振り返りながら第3メトロポリスへと帰っていった----

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