TURN.09「ヴィラン同盟(その1)」
ホッパーと叉月のプレイヤーバトルが始まった。
とはいえレベル差がある。まだ上級者の域に達してないホッパーと指名手配プレイヤーの叉月。そのレベル差は実に50を超えている。
バトルをする相手に条件などない。この戦場に足を踏み入れた地点で皆が平等。
どんな手段を使おうと。どんな状況であろうとも。出会ってしまったのなら戦ってしまうのが当たり前。それこそがこのバトルエリアの定義である喋っている叉月であったが。
「どうした? そんなへっぴり腰じゃモンスター相手にも後れをとるぜ?」
明らかに叉月はホッパーを相手に加減をしていた。
それどころか彼の実力を測ると同時、プレイヤーバトルのいろはとやらを発言通り教えるつもり満々のスタンスだった。
「こ、これならっ……」
「瞬きしまくってても避けられる攻撃ばかりだぜ! 一撃ってのはこう入れるんだ! こうやってなァアアッ!!」
ホッパーの攻撃を軽く防御し受け流し、ところどころで直撃は免れないといけない一撃を叩きこんでくる。
「くっ!?」
ダンサー職ということで結構な回数の近距離戦を経験した彼にはそれだけのスキルと反射神経が身についていた。
(おっ避けたか。いいねぇ、前と違って見切りがいい。暗日が叩き込んだか?)
叉月は反応しやすいようにスピードこそ落としているがそれでも即座に反応するのは難しいはずの一撃である。上手く避けている彼を内心で褒めていた。
「だが防御の姿勢ばかりじゃ戦いってのは勝てないんだよ! 一人前なのは逃げ腰だけか? もっと腰を入れろ!! おらぁっ!」
ユーキと全く同じような発言で煽りを入れてくる。防御してばかりじゃ勝機を逃すぞと叉月は指をくいっと曲げる。『かかってこい』と言ってるつもりなのだろう。
(やっぱり……強いな……!)
指名手配プレイヤー叉月。
(あの頃から! ずっとっ……!)
実はこの男とは----少し、特別な関係だったりする。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
-----一年前の事だった。
それは彼がユーキとメグに誘われて、初めてM.V.P.sの世界に足を踏み込んだ時の話である。
『うわっ!?』
彼はチュートリアルを少しとばしてしまったのだ。
モンスター退治のミッションに関しての説明は全部聞いていたが、プレイヤーバトルに関してはそんなにすることはないだろうとスキップしてしまったが故に……
『まんまと騙されやがって!!小学生か、あるいは中学生か! ガキは騙しやすくて楽できるからいいぜ!』
バトルエリアの侵入についてのアレコレを聞き逃したホッパーは案の定、例の初心者狩りプレイヤー達の犠牲にあってしまったのだ。
ログインしてすぐ、初心者の助けになりたいとすり寄ってきた男たちがホッパーをバトルエリアに誘導。そしてある程度奥地に入ったところで本性を現し、彼を追い詰め始めたのである。
『さてと、特別報酬&チュートリアルで貰ったアイテム一式をいただこうか!』
『高く売れるんだよなぁ~。後で手に入らないからな! きししししっ!」
男たちが拳を鳴らしながらニヤニヤとホッパーに近づいてくる。
『ひっ……!」
『随分と楽しそうなことしてるじゃねーか』
そんなピンチの時。ホッパーの下へと現れたのが----
『俺も混ぜろよ』
----叉月であった。
『『ひぎゃぁああーーーーーーーーーー!!!!!!』』
一年前から巷で有名であったプレイヤーバトラーの叉月。
彼は現場に現れると……ホッパーを狩り殺そうとしていたプレイヤー二人を一瞬で葬ってしまった。得意の拳法で。
『……おい』
『ひッ!』
今度は自分の番かとホッパーは震えていた。もう恐怖しか感じられなかった。
『知らない人についていっちゃ駄目だって学校で習わなかったのかよ。ほら立て』
伸ばされた手は攻撃の一手ではなく……救いの手。
『友達と待ち合わせでもしてたか? そいつらがやってくるまで一緒にいてやるよ。あとわからないことがあったら何でも聞け。一からちゃんと教えてやるからさ----」
バトルエリアの外へと連れて行ってやるというエスコートの印だった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ホッパーにとって、叉月は命の恩人にも近い人だった。
無事、ユーキの下へ連れられ、その後は二度と会うことはないかと思っていた。
----しかし、以外にも彼とは何度か会う機会があった。
ユーキ達とこのゲームを続けて数年。なんやかんやあってスノーハイトのギルドに誘われ、色んなプレイヤーと交流を深め……その最中、なんとギルドのサブマスターである暗日がメトロポリス3の指名手配有名プレイヤー達と知り合いだったなんて衝撃的なニュースがあったのだ。
どうやら昔、暗日は叉月&ヴィラーと一緒にヤンチャしてたらしい。
そんな一件もあって、何度か再会することもあったりと驚いたものである。
第一印象は怖いプレイヤーと思っていたが……初級者狩りから助けてくれた事や、こうして可愛がってくれる件もある。ホッパーは彼の事を”頼りがいのある先輩の一人”としてとらえるようになった。
「隙が甘いぞ! コラァ!!」
今もこうして、何かしら気をかけてくれているようである。
「……っ!」
ホッパーはそれに答えようと、スキルを発動する。
「!?」
叉月の攻撃はホッパーに対し無力化される。彼の腕はホッパーの足に絡め取られ、そのまま反撃の一撃を頬に貰う。豪快な蹴りだった。
「おっと……」
叉月に結構なダメージが通る。
「キックによるカウンター技……という事はカポエラファイターのレベルはクリアしてるってわけか。中々ユニークなスキルを選んだじゃねえか」
このゲームのジョブの面白いところ。
それは特定レベルに達するとそのジョブで覚えたスキルの一部を別のジョブへ引き継ぐことができるのだ。最大三つまで選ぶことが出来、そのシステムがより戦略を多彩にしてくれている。
「とても使いやすいし……決まりやすいから!」
トリッキーなキック技が多いというカポエラマスターには一つ貴重なカウンター技があった。カウンター技に恵まれていないダンサー職に移動した際も反撃の一手としてそれを組み込んでいたようだが……どうやら上手くいったようである。
「よし、やった! 叉月さんにダメージを入れられた!」
手加減されてるとはいえ一撃通った事が嬉しかったのかホッパーは一瞬ガッツポーズをとる。
「だが、やっぱりまだ腰が低いな」
回復アイテムなど使うこともなく、叉月は再び距離を詰める。
「……!」
カウンタースキルの連続使用は出来ない。カウンター成立時、そこからは10秒近くの
「何度も言わせんな。そんなに逃げてばっかじゃ……首を取られるぜ?」
構えるのは両手。その手のひらは“何かを押し出す”ように広げられている。
(しまっ……!?)
彼の発動しようとしたスキルが何なのかを理解した時には既に遅かった。
「【
突き出された両腕。そこから敵を押しつぶすような空圧が襲い掛かる。
一種の波動技だ。目に見える波動の範囲は相当広く……バックステップで回避しようとしたホッパーの体を安易に捉えてしまう。
「うあああ……っ!?」
直撃、空圧により体が後方へ飛ばされる。岩石へと叩きつけられた。
……ホッパーの体力ゲージは一気にゼロ。戦闘不能状態に陥ってしまった。
「スノーハイトと暗日のところにいるだけあって結構強くなったじゃねぇか坊主」
バトル終了。勝利宣告の通知が来たと同時、叉月はアイテムボックスから回復アイテムを取り出す。
蘇生アイテムだ。体力ゲージがゼロになっても10秒以内であれば蘇生アイテムの使用など受付時間がある。他プレイヤーからの恵みを受け取ることも可能だ。
「ううっ……やっぱ強いや」
「当然だ。どれだけレベル差と経験差があると思ってるんだよ」
とはいえバトルエリアでそれをやるプレイヤーは早々いないと言われている。
しかし叉月は蘇生アイテムのカプセルを開き、中身の液体を対戦相手のホッパーへとガブ飲みさせた。
「ぷはっ!」
「はい、おはようさん」
体力ゲージマックス。起き上がったホッパーに叉月は挨拶をした。
「だが前よりはしっかりと強くなってるぜ。胸を張れよ」
「……ありがとうございます」
「さてと。残りはあの二人だが」
叉月とホッパーは二人で古代城のバルコニーに出る。
「いーひひひひひっ! やりますねぇ! 暗日さんッ!」
「ほっほっほ。ヴィラーさんこそサイコパスさによりキレが増しておりまして」
バルコニーに出ると二人はそこから見える城の中庭を眺める。
水のなくなった壊れた噴水。無造作に生える雑草。ところどころに落ちている甲冑を来た骸の群れ。そんな戦場の真ん中で。
「お前もプレイヤーバトル勢に戻ればいいのにねぇ!」
「ほっほっほ。今は別の楽しみがございますからなぁ」
戦闘のスペシャリスト。バトルエリアでのプレイヤーバトルは勿論、メトロポリスで行われるスタジアムのバトルでも結構な勝利数を記録しているヴィラー・ルー。
そんな彼を相手に不慣れと言っておきながらも暗日は追随を許さぬ戦いぶりを見せている。エンジンが入ったようで二人の戦いはいまだに終わる気配がない。
「……アレ当分終わらねぇな。試合時間ギリギリまで続くぞ、たぶん」
「ええぇ……」
この二人の戦闘が終わった直後、ホッパーのミッションは終了となる。それが終わるまで高みの見物ということになる。
「俺、たまに暗日さんって実は怖い人だったんじゃないかって思う事があるんです。叉月さん、何か知ってるんじゃないですか?」
「神のみぞ知るとだけ言っといてやるよ」
叉月は彼の事を知ってるようだが口止めされているようだ。
謎多きサブマスター。
忍者である彼の正体はその職業通り謎が多かった。
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