TURN.09「ヴィラン同盟(その2)」


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「「ただいま~」」

 ギルドハウスへ帰ってくるユーキとメグの二人。

 何やら頭に可愛らしいアクセサリーが飾られている。花のかんむりだ。

『ただいま』

 エイラも部屋に入ってくる。マシナリーというロボットの体であっても心が乙女なのか頭には二人同様にかんむりが飾られていた。

「おお、お帰りなさい」

 一足先にミッションを終えて帰ってきていた暗日とホッパーの二人。

「ああ、お帰り」

 『プレイヤーバトルをバトルエリアにて二回行え』というミッション。

 ギルドメンバー以外の相手との交流をあまり得意としていない彼にとっては難問ではあったが……思いがけないエンカウントのおかげでクリアすることが出来た。

 ミッションをクリアしたことで経験値も貰い、レベル上限も近づき始めていた。

『むっ? どうしたんだい暗日? 今日はいつにもまして機嫌がいいけど。メッチャほっぺがツルツルじゃん』

「いやぁ~、久々にはしゃいでしまいましてなぁ~。まだそのテンションが落ちないのですぞぉ~。ほ~っほっほっほ」

 暗日は照れ臭そうに頭を掻きまわしながら笑っている。

 ……アレから暗日とヴィラー・ルーの戦いは二十分近く続いていた。

 互いに追随を許さない攻防戦。指名手配プレイヤーとだけあって流石の実力であるヴィラー・ルーであるが暗日もそれに遅れていない。

 あまりにも長すぎる戦い。ホッパーと叉月はその間、世間話をするくらいに余裕があった。

「あはは……」

 そのせいかホッパーは疲れ切っていた。

 喜怒哀楽のどの感情も感じさせない無の表情。余計な感情を戦いに持ち込まないようにと身構えるその姿勢はまさに明鏡止水。口は楽しそうなことばかり喋っていたが、実際の彼の表情は……まさしく戦士だった。

 いつもとは違う暗日を前に格好良さと同時恐怖も感じていた。昔は一体どんな人物なのか。謎が深まるばかりで余計に不安が高まる。

「ねぇねぇ! 何があったかのか教えてよ!」

「うんうん!」

 暗日のテンションの高さの理由を知りたくて、一人戸惑っていたホッパーの下にユーキとメグが擦り寄ってきた。

「……ああ、実は」

「それはそれは数時間前の話にござる」

 隠す理由も別にないので今日一日の事を互いに話すことにした----


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 -----メトロポリス3のダウンタウンエリア。

 ギャングやチンピラなど不良な集団が集いそうな秩序なき街並み。

 悪人キャラだとか、そういった類が好きなプレイヤーは結構な数がここへ遊びに来る。周りを見渡せばスーツ姿のギャングキャラに、中二病をこじらせているようなダークヒーロー的デザインのキャラクター。中には世紀末を生きていそうなザコみたいなキャラも複数いる。


 怪しい雰囲気が漂うこの街にもギルドハウスは当然存在する。

 危険な匂いがするこの街の路地裏。物騒なギルドが集う裏ストリートのさらに奥へ進むと……そのビルは存在する。


「戻ったぜ」

 オンボロビルの5階。バチバチと弾ける電光板があったり、サビが生えまくっている鉄骨がゴロゴロ転がっていたり、あたり一面タバコのヤニでギトギトになった壁が目立ったりと……廃墟らしさが目立つ怪しい雰囲気の室内。

 叉月はニヤついた表情浮かべながら部屋に入る。

「やっと戻ってきやがったか……おせぇんだよ。待ちくたびれたぜ、俺は」

 綿と骨組みが顔を出してしまっているソファーに一人、紺色のミリタリージャケットを着た男が座っている。白髪の短髪を掻きむしりながら苛立っているようだった。

「おやおや、お早い集合ですね【オーヴァー】さん。良い心遣いで」

「お前達が遅いんだ!」

 部屋に入ってきたヴィラー・ルーに向かって何者かがドロップキックをかます。

「いたたァアアアアーーーーーっ!?」

 蹴り飛ばされた彼はそのまま近くにあったゴミ袋の山の中へと顔を突っ込む。ただでさえ掃除されていない部屋のせいか、あっという間にあたり一面に埃が舞い散る。

「ほほぉ~。後頭部にクリティカルと来たなぁ、こりゃ。しかもギリギリセーフのラインで攻めてやがる。更にやるようになったな?」

 メトロポリス内での戦闘は御法度である。その判定ギリギリ……らしい一撃をかました何者かに叉月は拍手していた。

「……10分の遅刻。デコから骨がはみ出るまで頭を地面に擦り付けて謝れ」

 ここにいるメンバーの中で誰よりも小柄な少女。

 まるでビキニのような黒い毛皮。頭には犬の頭のデザインのフード。腕はヒューマンにしては尖った爪が特徴的。ボロボロのマントを靡かせ少女は苛立っている。

「いやぁ、すみませんねぇ~。ちょっと面白いイベントがあったもので」

「好きにやれって言ったのは俺だけどよォ~……長引かせる真似はするんじゃねぇよ。おかげで俺まで遅刻だぜ。割って入るかマジで迷ったぞ」

 今日の予定を忘れて自分の楽しみだけを優先して暴れまわったヴィラー・ルーに対して叉月は頭を掻きまわしていた。呆れているようだった。

 とはいえ指示をしたのは叉月本人。強く言えないのがつらいところだ。

「……揃いましたね。四天王の皆様方」

 四人が集結。それを確認したところで部屋の陰から一人……執事服を身につけ、老眼鏡をかけた老人のキャラクターが姿を現す。

「お二人の遅刻に関してはあとでペナルティを与えます」

 老人は笑顔でそれを告げる。

「マジかよ。つら」「これは手厳しい」

 叉月は頭を抱え、ヴィラー・ルーは笑顔で頬を掻いていた。反省という念は浮かべていないように見える。

「リーダーの方は?」

「今日は別のお仕事が」

「……あぁ、やっぱりか。ご愁傷様」

 ミリタリージャケットの男の質問にも老執事は軽く答える。回答を聞いた叉月は両手を合わせて頭を下げていた。その横でヴィラー・ルーも真似していたりする。

「ですので我々だけで話を進めていきましょう」

「結局はいつも通りってことだな」

 近くに落ちていたパイプ椅子を拾い上げ、即効で組み立てると叉月はそれに腰掛ける。

「よっこいしょっと」「ふんっ」

 ヴィラー・ルーは立ちながら老人の方を向き、黒毛皮服の猛犬少女はカーテン付きのボロボロベッドに腰掛け正座をする。

「では始めますぞ」

 老人は老眼鏡をくいっと上げる。

「我ら【RED EYESスカーレッド・アイズ】の談義を」

 叉月。そしてヴィラー・ルーが所属するこのギルド。

 それは、こメトロポリス3でも有名な“悪役キャラ”達が属しているという上位ランカー常連のギルド。



 RED EYESスカーレッド・アイズ

 赤い瞳を持つキャラクター達。自身の掲げる悪に誇りを持つ者達。

 泣く子も黙る“悪役同盟”である。

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