TURN.08「ようこそデンジャー・ゾーンへ(その2)」


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「……」 

 ギルドハウスのリビングにて、ホッパーは依頼書片手に震えている。

「どうしたでござるか。ホッパー君」

 何やら困ってるように見えるホッパーに暗日が声をかける。今日は朝のバイトのだったためホッパー達がログインしているその時間帯に顔を出せたようだ。

「スーパーヒーローになる前に終わらせておかないといけないミッションがあるらしくて、それを受けたんですが……」

「どれどれ」

 依頼書を暗日が手に取り、それを読み上げる。

「ふむふむ……『上級者向けバトルエリアにて、プレイヤーと二人バトルせよ』ですか。おおう! 中々厳しいミッションですな」

 バトルエリアは全部で中級者向け・上級者向け・無差別級の三つが用意されており、バトルフィールドも森林や洞窟、廃墟の城に古代遺跡に軍事基地と様々なエリアが用意されている。

「バトルは全然いいですけど……その」

 上級者向けのステージともなれば、結構なバトルジャンキーの強者たちが集結する無法地帯である。ルール無用のサバイバルゾーンと呼ばれるだけあって、そこへ足を踏み入れるのには勇気がいるのである。

「強い人はもちろん、ガラの悪い連中もウジャウジャいるとの噂。リアルファイトの喧嘩だったら骨身一つ残っているかどうかも分からない無法地帯でもありますからのぉ~」

「うぅうう~! 暗日さん、余計に不安な事言わないでよぉお~」

 上級者向けは主にレベル100以上が推奨となっている。

 このゲーム、厄介なところとして中級者と上級者向けのエリアにて入場の際にレベル上限制限こそ存在するが、『このレベルを超えていないといけない』という最低条件は存在しない。そのためもあってか初級者がこのエリアに連れてこられ、初級者狩りをされるという事象もよく耳にする。

「そんな感じであまり良い評判聞かないから……怖くて」

「魔境ですからなぁ……お友達は何処へ?」

「女性限定ミッションにエイラさんと一緒に行った」

 今日はゲリライベントにて女性限定のミッションイベントがあるらしい。ユーキとメグはエイラを連れてそっちに行ったため、ホッパーはお留守番をしていたようだ。

 その間にスーパーヒーローになるための条件を果たそうと思った矢先にこんな凶悪なミッションを叩きつけられたわけである。

「あの二人ならついてくるとは思いますけど……無法地帯って言われてるステージに女の子を連れて行きたくないというのが」

「紳士でござるなぁ。ホッパー君は」

「こ、怖いのは誰だって嫌でしょ……」

 ほっほと笑う忍者を前にホッパーは照れてそっぽを向く。贅沢かもしれないがその優しさは女性にとっては結構嬉しいものであると暗日は笑う。

 それにあのエリア、ユーキはともかくメグは絶対に怖がる。それでも無理してついてくるかもしれない。

「……よし! ここは自分が胸を貸しましょうぞぉ~!」

 暗日が胸を叩く。かっかと笑いながら。

「バトルエリアへの入場が多かったために経験は多い方にござる! ここは先輩の胸をどうぞお借りになられよ!」

「本当ですか!?」

「本当にござる!」

 輝く目を見せながらホッパーが立ち上がる。暗日は即座に『本当』と返してくれるものだからテンションも上がる。くす玉がパカンと開く映像が頭によぎっていた。

「さぁ、そうと決まれば行きましょうぞ~~~!」

「わぁああ~~~いッ!」

 暗日とホッパーは二人スキップをしながらギルドハウスを出る。

 希望に満ち溢れた二人はいつもの落ち着いたテンションと少年らしいテンションからかけ離れたシュールな光景となっていた。


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 ------上級者向け専用バトルエリア。廃墟の城。

 M.V.P.sの世界は『現実世界の地球に謎のモンスターたちが大量発生し世紀末と化してしまった近未来』が舞台となっている。この城は所謂、手放された世界遺産ともいえるような舞台になっている。

「あわわわ……」

 しかも入場した時間帯が時間帯。リアルタイムで朝昼夜が反映されるため夕方に入場したこのエリアはあまりにもホラーチックで物騒な雰囲気になっている。

 スキップを踏んでいたほのぼの雰囲気は何処へ行ったのやら。ホッパーは暗日の後ろでガクガクに震えている。

「怖いのは分かるでござるが、引っ付きすぎると動きづらいですぞ」

「ごめんなさい……でも……」

 突然誰かが飛び出してきそうな雰囲気が怖くて仕方ない。

 それにこの上級者ステージ。先程も言ったがレベル100以上が推奨されている。ホッパーはレベルが100未満であるために相手次第では瞬殺される可能性もある。油断ならない状況だからこそ怯えるのも無理はない。

「自分から離れないようにするでござるよぉ。何処から敵が来るか……むむっ!」

 ----不意、金属音が鳴り響く!

「分からないでござるからな!」

 いつの間にか、暗日の手にはクナイが取り出されている。

「うわわわっ!?」

 暗日は何者かからの攻撃を受け止めていた。突然の奇襲にホッパーは思わず距離を取る。

「へっ! やっぱ受け止めやがったか!!」

「この『脚』はッ……!!」

 ヒールのついた鋭さ目立つ靴から放たれる飛び蹴りを受け止めている。攻撃を受け止められた謎の人影は一旦距離を取り、物陰に隠れたようだ。

「敵襲……! 敵が来たんだっ!!」

 ホッパーは少しだけ距離を取る。さっきのように引っ付いたままだと暗日の戦闘の邪魔になるからだ。

 謎の襲撃者の登場と同時に暗日のプレイヤーバトルが発生した。

 相手のレベルはまだ表示されない。最初の数秒はステータスが見えないように何かしらのスキルをつけているようだ。

「ホッパー君! あまり離れすぎないように!」

 影に隠れて敵の姿がよく見えない。唯一分かるのはその攻撃は暗器を使ったものではなく、拳に脚とストレートな肉弾戦。

 武器を手に持っている暗日を相手に圧倒しかけている。相手の職業は拳法家絡みであることは間違いない。

「【牙狼拳ガロウノケン】!」

 またも襲撃! 片手を突き出し、暗日を吹っ飛ばす襲撃者!

「くぅ……!」

 間一髪攻撃を受け止めきったが暗日の体力ゲージが三分の一近く減らされる。直撃していれば即死している可能性もあった。

「はっはっは……これは手ごわい」

 急所に当たれば致命的なダメージを与えるスキル。しかもあれは特別上位職が身に着けることが出来る特殊スキルであることに暗日は気づく。


「やはりおぬしでござったか?」

 影の中より姿を現す襲撃者。スキルも解けたのか……名前と体力ゲージ、そしてレベルも表示される。


 レベル130。見た目は黒い長髪に和服のような衣装。そのプレイヤーネームは---



「【叉月さつき】」

 メトロポリスに貼り出されていた指名手配プレイヤーの名前。

 バトルエリアにて大量にプレイヤーを討伐したバトルジャンキーの名前であった。

「……あぁそうだよォ!」

「ぬうぅ!」

 迫りくる叉月。それに構える暗日。二人の拳が再び重なろうとしていた。

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