TURN.08「ようこそデンジャー・ゾーンへ(その1)」


 M.V.P,sエムヴイピーズの世界。このゲームの主な目的は二つある。

 まずは色んなプレイヤーと協力し、世界で脅威となっているモンスターと戦う事。各自自由に受けられるフリーミッション以外にも種族別でストーリーミッションが用意されていたりなど、かなりの大ボリュームである。

 それともう一つ。このゲームには一部プレイヤーの楽しみもある。

 このゲームのジャンルにはこう書いてある。『オンラインアクションRPG & バトルアクション』と。

 ----そうバトルアクション。バトルということはつまりは対人戦。

 このゲームではモンスターと戦うミッション以外にも、プレイヤー同士でバトルを行うデュエルモードも搭載されているのである。


 主にプレイヤーバトルを行う場所はメトロポリス内のスタジアム。もしくは、それ専用に用意されたバトルエリア。

 つまりはメトロポリスの外の指定エリアのみとなっている。プレイヤーバトルに勝利した側は報酬が貰え、勝ちが多ければメトロポリス内のランキングにも表示されることもある。一種の有名人になれたりする、かも?


 ただ、こういったゲームにてプレイヤーバトルを行うのが嫌なプレイヤーだって当然いる。そのこともあってか初心者専用のマニュアルやチュートリアルには『プレイヤーバトルを行いたくない場合は指定エリアに絶対に入らないようにしよう』と注意書きをつけてある。これもあってか報酬目当てのプレイヤーキラーとやらの削減には成功している。


 ……とはいえ、あくまで削減に成功しているだけだ。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「うわぁああ!? な、なにするんだッ! あぁっ! あぁああああっ!?」

 プレイヤーバトル推奨エリア。モンスターがはびこる薄暗い森林エリアにて一人の初級者プレイヤーが悲鳴と共に消滅してしまう。

「ひっひっひ! 美味いもんだねぇ~!! ポイントあっざぁ~~すッ!!」

「とはいえレベル1相手なら流石にこんなものか。ある程度ミッション終わってレベルの上がった初級者を狙う方がちょうどいいか……しょっぺぇしょっぺぇ~」

 このゲーム。一つだけ問題点がある。それはが出来るのだ。

 そのせいもあってかプレイヤーバトルの存在を知らずにゲームを始めてしまうプレイヤーもいる。一応チュートリアルの内容と全く同じマニュアルがメニュー画面にていつでも読めるのだが……そう読む人はいないだろう。

「じゃあ狙ってみるよ~? それともメトロポリスに戻って初心者勧誘してみるかぁ~? やっぱ親切心って大事だろぉ~?」

「なぁにが親切だよ。教えることは教えて、大事なことを教えずにキルしてポイントを奪っちまうなんて大した悪党だぜ」

「受講料だよ! 受講料!! 悪い大人についていったらいけないって受講料じゃねぇーかよぉ! 金くらい貰わないと不公平だろうが! ぎゃひひひひひひっ!!」

 こうして一部陰湿なプレイヤーが初級者を指定エリアへと誘導し、そこで即刻プレイヤーキルをかましてボーナスアイテムを得ろうとする輩が存在するのだ。

「そうと決まれば! とっとと次のプレイヤー探そうぜ~」

「そうだな。プレイヤーバトルで得られるアイテムはオークションで高く売れるからなぁ~。稼げるうちに稼いどかないとな! 初心者歓迎キャンペーンで人も多いし稼ぎ放題だぜ!!」

 初級者狩りのプレイヤー達が大笑いしながらその場を去ろうとした。大量のポイントをくれるだろう大きな魚を釣りに行くために。


「お~い、待てよ~」

 その二人を呼び止める声。真上の木の幹から聞こえてくる。

「せっかくバトルエリアに入ってるんだ。赤ん坊の手をひねるショボい遊びばっかやってないで。たまには刺激的なバトルもしてみねぇか?」

 男性なのか女性なのか。どちらか分かりにくい甲高い声。

「きっひひひ。私のバトル相手にちょうどいいエサ……げふんげふんっ! 腕のあるプレイヤーと見込んで是非ともお相手してほしいねぇ」

 もう一人は明らかに男性だと分かるが初級者狩りを行っていた二人よりも陰湿で姑息そうな笑い声が聞こえてくる。

「なんだぁ? 俺らに言ってるのかぁ~?」

「誰だ、テメェら……んっ!?」

 木の幹から覗き込んでる人影を見た途端に一人の顔色が変わる。

「こ、こいつらってぇ……!?」

「おいおい、そうブルってんじゃねぇよ。とっとと始めようぜ? ポイントは1000くらい賭けてやるよ。こんな大量ポイントの獲得なんて滅多にないぜぇ~……お前らも賭けろよ。不公平って言葉は嫌いなんだろ? なぁ~~~?」

 一人は拳を鳴らし、笑みを浮かべる。

「アカデミー賞も白目を剥いて絶句するようなロードショーをねぇ」

 一人は両手に持っていた刃物を鳴らす。

 二人同時、木の幹の上から初級者狩りを勤しんでいた二人のプレイヤーへと襲い掛かった。

「「ぎゃああああぁああああッ!!!」」

 あまりにも情けなく滑稽な叫び声がバトルエリアの森林にこだました。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 -----メトロポリス3。商店街道。

「ダリィな。ハチミツ百二十個納品ってなんだよ……! 依頼主はハチミツでチョコレートフォンデュ紛いなことでもする気かぁ!?」

「ハッハッハ。胃がもたれそうだねぇ」

 商店街では時折特殊なミッションがゲリライベントで発生する。その中には入手困難な素材アイテムやレアアイテムが獲得できるチャンスも含まれているため、結構なプレイヤーが腕を振るって、そのミッションに参加しまくっている。

 スターライダーのメンバー、ゴーストとJACKも発生したイベントの参加権を見事勝ち取り実行に映ったようだが……その想像以上に過酷だった納品数を前に発狂しながらのプレイとなっていた。

「しかも敵まで強いと来た。なんだ、この面倒なマラソンは?」

 蜂の巣の回収。まずは近くにいる“ハニーファミリー”という蜂の大群を仕留めなければならない。さもなければ回収どころではないのである。

 ハニーファミリーは猛毒攻撃やデバフ攻撃を大量に仕掛けてくるため回復アイテムの消費も半端ではない。ケースバイケースが成立しているかも怪しい仕事だった。

「だが! おかげでレアアイテムゲット! 頑張り屋には報いあれってね」

 ゴーストが手に持っているのはレアな素材アイテム。

 今は必要ない状況であっても回収しておく価値は充分にあるものばかりだ。

「ありがとな、手伝ってくれてよ」

 ゴーストは後ろを振り返る。

「いえ、ゴーストさんやJACKさんもよくお手伝いしてくれますので」

 さすがにこの数の納品ともなれば協力者が欲しいということになり、たまたまログインしてきたホッパーが協力してくれたようだ。

 いつもギルドのメンバーを困らせている二人。とはいえギルドメンバーが困ってる際には愚痴を吐きながらも手伝ってくれる為に中学生組には慕われている。口調が悪かったりと嫌な面はあるがそれなりに人柄はよいのだ。この二人は。

「はっは、よいこだねぇ! 大きくなったらコイツみたいにはなるなよ?」

「さっき報酬で火炎瓶貰ったんだけどよ。どのくらいの火力か見たいから、丸のみしてみる気はあるか?JACKさんよォ~」

「ここで花火になるのはゴメンだねぇ~」

 くだらない喧嘩。ガミガミとJACKの挑発に対して牙を剥く彼女の姿にホッパーはどうしたものかと苦笑いを浮かべていた。


「……おい、見ろよ。また懸賞金あがってるぜ」

「うわぁ本当だ。相変わらず恨み買われてんなぁ……」

 数人のプレイヤーがメトロポリスの街道の掲示板前で足を止めている。

 その掲示板はNPCからの依頼が貼り出されていたり、今後のイベント内容についてのお知らせが記されているものではない……が搭載されている掲示板だ。


「相変わらずだなぁ。【絶殺秘拳サイレント・アサシン叉月サツキ】と【サイコキラーのヴィラー・ルー】」

 “指名手配システム”。

 プレイヤーバトル指定エリアにて大量のプレイヤーキルを行った人物がこの掲示板に張り出される事があり、そのキルした人物の数によって報酬金として懸賞金がかけられる。つまりは結構なプレイヤーから的にされるということだ。

 一部プレイヤーからすれば厄介すぎるシステムのため、この指名手配システムに関しては『指名手配にされてもいいか』という設定がオプションに存在するため、それをオフにしておけば指名手配に貼り出されることはない。なのでこのシステムをオンにしてる人物はよほどの物好きかバトルジャンキーと言われている。

「俺達は戦いたくないもんだねえ……」

「狂ったように強いって噂だしな。プレイヤーバトルガチ勢おそろしいわ」

 プレイヤー達は掲示板を後にし、その場を去っていく。関わりたくはないと。

「プレイヤーバトルねぇ~」

 掲示板を眺め、貼り出されている二人のプレイヤーを見る。


 ----絶殺秘拳サイレント・アサシンの叉月。

 黒い長髪の人物。顔つきは男性のようにも見えるし女性のようにも見える。東洋の男性衣装を身に着け、目元にはコマドリのような化粧が軽くついてるためより目つきが鋭く見える。身長はホッパーより少し高いくらいか。


 もう一人はサイコキラーのヴィラー・ルー。

 茶色い丸眼鏡をかけた紳士服の男性キャラクターだ。ニタリと見せる歯茎が気持ち悪く、シルクハットはより不気味な紳士らしさを演出している。


 二人とも身長が高め。懸賞金もかなり額が表示されていた。

「そんな面倒で物騒なもん、私にはむいてねぇな」

「おいおい、ギルド内で一番物騒な奴にそれ言う資格ある?」

「お前をギルド一物騒な顔に変えてやろうか?」

 挑発ついでに返ってくるゴーストからの突っ込み。

 喧嘩しているように見えるが若干笑っている様に見えるあたり、本当に仲が良いのかもしれない。この二人は。

「しかし、懲りないな……コイツラ」

 指名手配犯二人を見て、呆れたようにゴーストは息を吐く。

「……あっ!」

 指名手配に貼り出されているプレイヤー。

 その写真を遅れて見たホッパーは何やら反応を見せていた。

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