TURN.07「キミがヒーロー(その3)」
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数年後。彼らが中学生になってから半年近くたった後の事だった。
『きゃっ……』
体育館裏。一人の女子生徒が連れ込まれていた。
『まったくよぉ~。虐めてほしくなかったらお金を持って来いっていってるのに、どうして持ってこれないのかなぁ?』
『お前の家、金持ちなんだろ~? 十万くらい余裕で持って来いよ~』
中学生になってからもまだ子供っぽさが残る年頃。むしろ思春期手前になって余計に制御が利かなくなることもあり虐めはより激しさの増すものへと変わり始める。
『そんなことしたら泥棒だよ……出来るわけないよ』
『なーに口答えしてるんだぁ!?』
地面に足をつけ、震えている少女の髪を男子生徒が握りしめる。
『お前は悪党じゃないって言いたいのかぁ? 違うだろぉ、この髪ぃ?』
薄い金髪。塗髪剤を使ってるわけでもない地毛だ。シャンプーで綺麗に整われている髪を乱暴に引っ張り少女を苦しめる。
『お前、外国人とのハーフだから日本人って言ってるけど。実はそれ嘘なんだろぉ? 日本語もたまに怪しいし、入学してすぐの頃はすっごくカタコトたっだしなぁ!』
『嘘つきは泥棒の始まり! つまりは泥棒なんだろ!? 変わらねぇって!』
この少女はちょっと良いとこのお嬢様らしく育ちも良い。しかし入学してすぐに男子生徒のいじめの的にされてしまったようだ。
父親と母親は仕事が忙しいため娘に構ってる暇がない。故に彼女がいじめられているという事実に耳を傾けない。彼女本人も喧嘩などするような身ではないために的となってしまっていた。
『じゃあ、お仕置きしようかねぇ!』
『うっ……』
サンドバックにでもしてやろうか。
女性相手だろうと容赦ない乱暴な仕打ちが少女を襲おうとしていた。
『待てぇえええ、お前等ぁああああッ!!』
そんな光景に一人の男子生徒が駆けよってくる。
『相手は女の子だぞ! 俺が相手になってやる!』
中学生となった椎葉翔だ。
今も特撮ヒーローやヒーローアニメを見続けている彼はその正義心の強さからか、こういったいじめを目の当たりにすると進んで助けに入るようになっていた。
『さぁ、来い! お前等全員、しばき回して、』
『うるせぇエセヒーローッ!』
いじめっ子のパンチが頬に入る。クリーンヒット。
『ぐっはぁ~ん!?』
そう。当時と比べてハートは強くなり、こういったいじめに助けに入るようにはなった。だが
残念ながら喧嘩は強くなっていないし、体もひ弱なまま。こうやって返り討ちにあるのが日常茶飯事になっていた。翔は綺麗にズッコケた。
『うぐぐ……ば、ばかな……最近筋トレを始めた上にジョギングまでやってるんだ……鍛錬に鍛錬を重ねてきたのに成果が出てる気がしねぇ……ッ!!』
『おらっ、どうした立てよ』『おらおら!』
地面を転がっている翔に対し、いじめっ子たちが一斉に蹴りを入れていく。
『待って! やめてぇえ!』
金髪の少女は止めようと叫ぶがそれは止まる気配がない。翔はただ、いじめっ子のサンドバックにされるだけだった。
『待てまてーい!』
そこへまた一人、助け船がやってくる。
『何やってんでぃ! 男達が首数揃えて滅茶苦茶とぉ!』
どこぞの時代劇の真似だろうか。だとしてもちょっと言葉遣いに難があるがそんなこと気にもせずにやってくる女子生徒。
『翔をイジメたな! ならお前たちは私の敵だなぁあ~~!?』
西都友希だ。何年たとうとその活発さもお人よしも変わらない。その場へダッシュするために風でめくれるスカートの中からスパッツがビックリするくらいに見えている。そんなことを気にもしないところが彼女の少年っぽさをより意識させる。
『やべっ! 西都だ! しばかれる!?』
『逃げるぞぉおおーーーー!』
そこら辺の男子よりも喧嘩が強いと評判の西都友希。それを見る也、腰を引いて全員逃げてしまった。
『ぶーっ、根性ないなぁ。あんなに間抜けに腰引いて、尻振って逃げてさ~?』
逃げていく男子生徒を前につまらないと友希は不貞腐れていた。
『あ、あの……! 大丈夫……?』
男子生徒がいなくなった。いじめから解放された女子生徒は慌てて地面にボロ雑巾のように転がっている翔へと声をかける。
『いたたたっ……俺は、平気です。えへへ……君は……?』
『う、うん。大丈夫……』
力なくも少女はそう答えた。
『あはは……悪い、友希。また情けないところ見せちまったなぁ』
申し訳ない表情を見せながら助けに来てくれた友希へと顔を向ける。
小学校時代のあの一件以降。翔と友希は意気投合し、それから一緒にヒーローを語り合う仲になった。友希のほうからも最近はやりの深夜のヒーローアニメについて話を振ってきたりなど、おかげで世界が広がった。
誰もが認めるマブダチとなっていた二人。ピンチに駆けつけてくれた友希に対し翔は頭を下げて謝罪を入れる。
『全くもぉ~。いいかい、翔~! もっと、こう腰を入れないと! 相変わらず拳を入れるときにへっぴり腰なんだから! 男が情けないぞ~』
『ぐぐぐっ、何も言えねぇチクショウがっ……』
姿勢からなってないと正直な意見。そこから正直に指摘し合える仲にまでは発展していた。
『そこまで言わなくなっていいだろ! そこまで!』
鋭く伸ばした人差し指が友希の頬に食い込んでいく。
『駄目ですぞ~、女の子に助けられてるようじゃ~』
『ぐぬぬぬ~!!』
男が情けない。確かにそれは間違いない。
言い返せない翔にとって、この人差し指がせめてもの抵抗と足掻きであった。
『……この事、先生にも親にも相談しないのか?』
『先生に喋ったら、もっと痛い目に合わせるぞって脅されて……それにパパもママも忙しくて、私の話を聞いてくれなくて』
『よし、分かった』
ポンと翔は胸を叩く。
『じゃあ何かあったら俺達に相談しろ。助けに来てやるから』
『そんなこと言って、また私に助けられないようにね~』
『そこぉおっ! 静かにぃいいっ!!今、俺がカッコつけるところっ!』
『はぁ~い。空気が読めなくてすまんなぁ~』
友希は口笛を吹きながら、子供らしく怒鳴りつける翔の言葉を流していた。
『いたっ……』
少女が声を上げる。
『……ちょっと見せろ』
ついさっき、この少女が男子生徒の手によって押し倒されているところが見えていた。その際に膝を強く地面にぶつけていたのは覚えている。
剥き出しの膝には擦り傷が出来ていた。砂利も傷口に入っていて、見ているだけでも痛々しい。
『保健室まで連れて行くから、乗って』
『えっ、でも……』
『いいから』
戸惑う女子生徒を翔は無理矢理背中に乗せた。歩くだけでも結構厳しそうな傷口。彼女を背負った翔はそのまま保健室へと連れて行く。
『ふっふ~、男らしいところ見せたねぇ』
『黙ってろ』
変な茶々を入れるなと翔はムキになって睨みつけた----
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----小学校から出会って以来、ずっとこうして一緒にいた。
そしていつも友希に助けられっぱなしだった。
彼にとって、彼女はヒーローのような存在だった。
「あいつにばっかり、頼るわけには行かないからな。俺、男だし」
昔の事を思い出し、また少しナイーブになっていた。
彼がヒーローを目指す理由。皆の役に立ち、皆を助ける最高のヒーローになりたいという気持ちは勿論である。だが、それよりも。
「今度は、俺があいつを助けてやらないと」
いつも助けてくれたユーキの役に立ちたい。
今度は自分が彼女を助ける番だと、強くそう願ったのである。
「……といっても、ゲームの話だけどさ」
ゲームの中で役に立っても現実世界の自分はどうにも変わらない。翔はその現実を前にちょっと寂しさを覚えてしまう。
「でも絶対強くなってみせる。たとえゲームでも」
ただこんな願いを覚えてしまうのも、ゲーム世界でも彼女に助けられっぱなしという事実があるからだ。せめてこのゲームの世界では彼女に負担をかけすぎず、一緒に肩を並べて戦えるくらいには強くなりたいと思ったのだ。
「……本当に仲が良いんだね。二人とも」
メグ。本名は【
そうこの少女は……当時、翔と友希に助けられた女子生徒である。
あの一件以降、恵は二人と行動を共にするようになり、いつの間にか仲良くなっていた。いじめも二人の存在あってか次第に影を潜めて行った。
保健室へ運んでもらう最中。翔と友希が口にした言葉は覚えている。
『『困ったときは頼ってもいいからね』』
いじめられっぱなしだった彼女にとって……その言葉は救いだった。
「私も」
メグもこうして、一つ淡い気持ちを秘めている。
恩返し。と言えばいいのだろうか。
「……私もいつか、二人の役に立ちたいな」
そっと彼女はそう呟いた。
「あ! いた! おーい!!」
予定通り、山岳エリアから帰ってくるユーキとエイラ。ユーキは二人の無事を喜んで、元気いっぱいに手を振っている。
「あっ! やっと来た! おおーーいっ! 大丈夫だったか~~!?」
それに対し、ホッパーも手を振り返す。
助けられ、助け合ってきた三人の仲良しトリオ。
今日も彼等はそれぞれの思いを胸に、ゲームであれど全力でミッションに挑んでいくのだ-----
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