TURN.04「アンダー・ワールドへ(その1)」
準備は万端だ。回復アイテムを使い、ヒットポイントもスキルゲージもマックスの状態で一同は隠しステージへと踏み込んだ。
「ここは……?」
彼らの目の前に広がったのは見たことのないステージだった。
血に染まったような深紅の空。水も草木も何一つ存在しない、所々で溶岩らしき何かが噴き出ている大地。そして、向こう側の景色がうっすらとしか見えなくなる真っ黒な砂嵐が立ち込める世界。
「もう見るからに魔界。ザ・魔界って感じ」
「そうだねェ、魔王の城っぽいのも見えるし。笑い声が幻聴で聞こえてきそう」
「あわわわ……魔界ってなったら怖いモンスターとか出てくるんじゃ……!」
ホッパーとユーキも見たことのないタイプのステージを前に困惑している。メグに至ってはこれから何が起こるのだろうかと震えあがっている。
「ふーむ、マップデータを見る限りこの周辺から先には行けないみたいですね」
進行可能なエリアを見るがこのエリアのみ行動可能。黒い砂嵐の向こうに見えるのは城のようなシルエットと鬼の面に見えなくもない山岳の羅列。そこへ向かうことは叶わないらしい。
「新ステージの先行公開かな?」
「一応、退路であるゲートは開きっぱなし……ふーむ、ステージを見せるだけですかな?」
だとしたらガッカリではある。大したご褒美もなく、それといった戦闘もないとなれば拍子抜けもいいところだ。
「待ってください暗日さん。イベントのバナーには『今までにない脅威があなたを襲う』って書いてありました。となると、もしかしたらなんですけど」
『……ボスイベント、という可能性も否定できないわけだ』
ホッパーからの指摘。エイラもその可能性を考えて身構え始める。
「おっと」
スノーハイトがズレていた帽子の位置を戻す。
「……正解、かもしれない」
黒い砂嵐の先。そこからユラリユラリと誰かが近づいてくる。
---黒い甲冑の騎士だ。
ここにいるアバターキャラクターの全員と比べると、1.5倍くらいの大きさの巨大な戦士が一人、戦場へと姿を現した。
「レベル不明。名前も不明……か」
スノーハイトはモンスターと思われる騎士甲冑の頭上のステータスを見るが、レベルはクエスチョンマークで表示され、同じく名前も不明で表示されている。
全くもって未知数のモンスター。上級者プレイヤーのみが足を踏み入れることを許される戦士のみに用意された舞台と敵というわけだ。
『何はともあれ先手必勝!』
背中のブースターを展開。銃火器の全てをリロードしたエイラが先陣を切る。
『まずはありったけを浴びさせる!【バースト・ショット】!!』
両肩のミサイルポッド。そして両手のヘビーガトリングガンを一斉掃射。目の前に現れた巨人に対してフルバーストを叩きこむ。
流れ弾によって抉れる地面。そして直撃したミサイルによる爆風。固まった溶岩のように真っ黒な地面から大量の砂埃が空に舞う。
『さぁ、どうだ?』
一度武装をリロード、砂埃が晴れるまで様子を見る。
……人影は現れる。倒れてなどいない。
あれだけの弾丸を浴びようと、黒い騎士はゆらりゆらりと前進を繰り返すのみ。
『減ってない!? あれだけブチ込んだのに!?』
頭上に表示されているHPゲージを確認するがダメージを受けている様子がない。無傷でピンピンしている。
[OLL KILL(殲滅を開始する).]
黒い騎士甲冑は機械音声ともまた違う抑揚のない言葉を漏らす。
-----同時。騎士の手に現れたのは漆黒の剣。
「気をつけろエイラ! 斬撃だッ!!」
あたりに舞った砂埃を吹っ飛ばす強靭の一振り。魔力が込められた剣から放たれた斬撃波の刃がエイラに向かって襲い掛かる。
『なんの! バリアフィールド展開!』
マシナリー組にのみ使用可能なバリアフィールド。このサブウエポンのおかげで結構な耐久力を誇るのがこの種族の強みだ。フィールド展開にはスキルゲージを使うのが難点ではあるが……やられてしまうくらいなら背に腹は代えられない。
フィールドを展開し、斬撃波を迎え撃つ。
『……ぬぅううううッ!?』
だが、しかし。
『ぐぁああっ……ば、ばかなっ……!?』
バリアフィールドを貫通。黒い刃は容赦なくエイラの胸部に直撃。
----HP減少。
レベル123であるために結構な体力であるはずのエイラのヒットポイントがあっという間に即死寸前の赤ゲージにまで突入する。
「エイラさん!? 今、回復を!!」
メグは急いでヒールの詠唱を開始する。次の一撃を食らえばあっという間にゲームオーバーだ。状況は刻一刻を争う。
「暗日、ホッパー、ユーキ! 時間を稼いで! でかいのを叩きつけるッ!」
マシナリーのフルバーストが通らなかった。ともなれば生半可な魔法を叩きこむ程度ではダメージを与えることは出来ない。
今使える最大級の魔法を撃つにはかなりの詠唱時間を保持するため、その時間稼ぎを受け持つよう一同に指示を送る。スノーハイトは切り札を放つつもりだ。
「引き受けた!」「了解!」
お披露目会。にしてはタダモノではないモンスターの出現に一同の緊張感も高まる。暗日とユーキの二人が先陣を切って騎士に向かって突撃する。
「俺も……! 俺だってぇええ!!」
足技のコンボを駆使して動きを固めればチャンスはある。ダンサー職ならではの強みを叩きこむため、ホッパーも二人に続いて黒い甲冑騎士へと挑む。
「まずはその巨躯の動きを封じさせてもらおう! 雁字搦めにさせる!!」
暗日の暗器攻撃には敵を状態異常にする特殊攻撃も存在する。確率ではあるが結構な成功率で敵に麻痺と猛毒のいずれかを与えるものが多い。
「【
暗器攻撃。クナイによる攻撃で連続攻撃を仕掛ける。
「【アサルト・レイジ・ブラッド】ッ!」
ユーキもダブルダガーで攻撃を仕掛ける。拳銃による攻撃は全く意味がないと感じたためにナイフを選択した。全身しながら滅多切りを仕掛ける。
胸部と背中、二人同時に挟み撃ちで攻撃を放ち続ける
[KILL(愚か者の断罪を開始する).]
しかし、黒騎士は怯むことなく剣でその場を一閃。
「おっと!?」「うぅっ!?」
エイラが直撃を受けてギリギリなのだ。マシナリーより耐久値の低いヒューマンがあの攻撃を受けるものならタダではすまない。即時に回避する。
「ダメージは……やっぱり通っておりませんな。麻痺も通っていない」
「どうすればいいの!? とんでもなく強いよっ! コイツ……!!」
「目的を忘れてはなりませんぞ、ユーキ殿。我々の目的はあくまで時間稼ぎ……もう間もなく、スノーハイト殿の一手が黒騎士に降りかかるッ!!」
白兵戦ではどうにもならないのかと焦るユーキに警告。
もう間もなくこの場は……危険地帯となる。
「凍てつく世界。静止する時。鼓動なき生命の連鎖。大地の悲鳴は空へ届くことは許されず、空の涙は大地へは至らない。今、再び、無へと還し、再誕を祝福せよ。称賛なき幸福にて、この世界に無名の終焉を!!」
今までと比べてかなり長い詠唱時間。魔力のチャージも終わり、スノーハイトが今撃てる最大級の氷結系黒魔術を撃ち放つ。
「【エンド・オブ・ゼロ】!!」
ブラックメイジが撃てる最大級の魔術。スキルゲージの九割を使用するド迫力の魔術を黒い甲冑に向けて撃ち放つ。巻き添えを食らう前にと前衛の戦士達は一斉にその場から撤退する。
----凍り付く。大地から芽吹く氷の大樹が黒い甲冑を飲み込んでいく。
次第に氷は大きくなっていき、その場一帯の地面を真っ白なスケートリンクのように固めていく。巨大化していく氷は次第に圧縮されていき、対象を押し潰そうとしていく。
----氷が砕け散る。空から粉雪が舞い降りる。
身も凍るような冷気を前に、メンバーは一斉に身を構えた。
「さぁ、どうだ……」
スノーハイトは視線をそむくことは絶対にしない。敵の安否を確認するために。
[KILL(愚か者達への制裁を続行します).]
ヒットポイントゲージ。いまだに減らず。
あれだけ豪勢な魔法を前にしても……黒騎士には傷一つついていない。
「無効、だって……!?」
最大級の魔術をもってしてもダメージ無効。今までにない展開にスノーハイトも唖然とする。
「嘘だろ!」
「メグ!? エイラさんは!?」
「回復できたけどっ……!」
どうしようもない。このままでは全滅は必至。焦る一同のことなど気にもせずに黒い甲冑騎士が剣を振り上げる。
「迫ってくる! 私たちをしとめるつもりなんだ!!」
「させるかっ!」
ダメージは通らなくても攻撃を止める事だけは出来るはず。
「【バッド・スタンピング】ゥウウッ!!」
トリック・ダンサーが使用できる状態異常付与のキック攻撃を顔面へと放った。
[……KILL(敵を殲滅する.)]
その一瞬。当然、ダメージは通らない。
(やっぱりだめかっ……!?)
このまま反撃を食らっておしまいか。ホッパーは苦い表情を浮かべた。
----だが。
(あれ……?)
頭上に表示される状態異常。
防御力ダウンが……一瞬だけ表示される。
(状態異常が通った!?)
[KILL(殲滅)]
状態異常の確認をしたと同時、黒い甲冑の攻撃を正面から受けてしまう。
「うっ、くっ、……」
即死。ホッパーはそのまま地面に叩き落されてしまう。
-----目の前の世界がブラックアウト。身が一瞬で軽くなる。
GAME OVER.
リスポーン地点へと転送が開始された。
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