TURN.03「ギルド【スター・ライダー】(その2)」


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 -----三日後。そのイベントはようやく訪れた。

 経験値大量獲得。とんでもない数のモンスターの有象無象が牙を剥くスペシャルステージ。専用の高原エリアへ次々と戦士が集い始める。

 ここは複数のパーティーが同時出撃となる。全員で協力してクリアを目指すのだ。

「【トリック・ステップ】! ほっ、はぁああッ!!」

 小さいモンスターに大きいモンスター。プレイヤーを発見するたびに群れを成して襲い掛かってくるモンスターを前にホッパーは冷静な対処を続けていく。

『うん! 良い感じだよ!』

「またダンスの腕に磨きがかかりましたな!」

 前方でダンスを踊りながらのキック技を繰り返すホッパーと共に前衛を張っている暗日とエイラは機敏な戦闘能力を褒めたたえる。二人仲良く親指を突き立てて。

「『ダンスが上手くなった』って誉め言葉は嬉しくないんですけど!? でも、ありがとうございますッ!!」」

 スーパーヒーローになるためにダンサージョブをやっているだけであり、別にダンサーを目指しているわけではない。二人の言葉に反論をしつつも明らかに上昇しているダンステクニックで敵を蹴り倒していく。あとお礼は言う。

「ふふっ。君ならきっと素敵なダンサーになれるよ。ホッパー君」

「リーダーまでぇ!? ああ、もう! リズムが狂う!!」

 スキルゲージを回復させるため、専用のポーションをガブ飲みする。

 彼らがやってきたのは上級ステージだ。ちょっとでも油断を見せれば一瞬でモンスターの大群に飲み込まれてゲームオーバー。ペナルティにてイベントステージ介入まで二時間近く待たないと行けなくなる。

 貴重なイベントを無駄にするわけには行かぬと次々モンスターを倒していく。なにせスノーハイトが経験値上昇アイテムまで使ってくれているのだから。

「よいしょっと! メグ、回復お願い!」

「任せて!」

「絶対噛まないでね! お願いだから!」

「心配し過ぎだよ……!」

 馬鹿にしないでほしい。メグは頬を膨らませながらも詠唱を開始する。

「ついえにゅ誇りに……」

「んもぉおおおおっーーー!?」

 豪快にミスった彼女にツッコミを入れつつ、回復を間に合わせるためにポーションを速攻で飲み干したユーキ。ムキになると彼女は詠唱を失敗するようだ。

「はっはっは、今日も君のご友人は平和でござるなぁ」

「はい。いつも仲良しです……あはは……」

 間抜けを晒している二人を前にホッパーは恥ずかしい思いをしていた。

 魔法使いというジョブを綺麗に再現したシステムであるが故に滑舌が試される。衣装が可愛いという理由でホワイトメイジを選んでいるメグであるが、あの天然さから向いていないのではないかと思ってしまう。

 現にこうやって一番大事なタイミングで援護が飛んでこないなんてよくあることなのだから。

「いやぁ、それにしても~」

 チラっと自身の経験値ゲージを確認する暗日。

「本当に上がらないですね。レベル」

「そうなんでござるよ~。ちょっとばかりケチでは? と思った次第」

 このゲームの最大レベル上限は現在200。既にレベル100を超えている暗日の話では100を超えた途端にとんでもない数の経験値を所望されるらしく、普段のミッション程度ではそう簡単にレベルが上がらないという。

『行くぞ! 道をあけろ魔物ども!』

 ガンサバイバーというジョブのマシナリー・エイラ。

 突貫用装備として両肩のミサイルポッドだとか、両手のガトリングガンだとか、足に装備されたプラズマアンカーだったりとか……テンションマックスでエイラがフルバーストを前線で続けている。

「大地を食らう絶氷よ。万物を飲み込み、大地を圧し砕け! 【アブソリュート・バイト】!!」

 ブラックメイジの中でもかなり上級の魔法を使い、後方から襲い掛かるモンスターの群れを一掃するスノーハイト。大地から現れた無数の氷の牙が小さなモンスターに大きなモンスター、低空飛行を行うモンスターと幅広い敵を貫いていく。

「とはいえ」

 二人の活躍により次々と消えていくモンスター。おかげで経験値が次々と加担されていく。

「あの二人がいると捗りますなぁ~。経験値がウッハウハでござるよ」

 主に暗器による一対一が主流のシノビ。ステルス機能など対人戦に特化した職業である暗日はそんな二人を前に笑っている。楽ができることに笑っているのだ。

「はい、おかげでジョブ経験値がかなり溜まります!」

 トリックダンサーのジョブレベルも結構な経験値を求められる。しかし、ここにいる全員の協力のおかげであっという間にレベルが上がっていく。強豪二人の大活躍を前に感謝感激。

「『こらっ! 二人とも楽しないっ!』」

「「はーい!」」

 ホッパーと暗日は二人そろって敬礼で返事をした。

「……あの二人もくればよかったのに」

「仕方ないさ。多分、レポートとか発表とか忙しんだと思う。それと確か、今年から就職活動もあったような」

 他にもいるというメンバー。その二人のリアルは大学生なのらしいが、レポートの提出に追われているらしく彼らの集合日には手が出せないと返答。

「しっかりとリアルの方も大切にしてもらわないとね……私みたいにならないことを祈ってるんだよ。あははは」

「リーダー。真冬孤独のクリスマスモードに入ってます。帰ってきて」

 またもスノーハイトの目が死に始めた。戦闘中はせめて意識を保ってくれとユーキの懇願がこだました。

「……しかし」

 暗日は目の前の敵を忍者刀で切り捨てる。

「特に変わり映えのないイベントステージ……何かあるのでござろうか?」

「運営もそれっぽいメッセージは載せてたんですけど……攻略班も必死になって探してるみたいです」

 ホッパーは敵を蹴り上げながら暗日に答える。

 今回のイベントはいつもと変わらない経験値大量獲得のイベントである。

 告知。そのイベントバナーにいつも違う一文が見えた。



 “今回のイベントに隠しステージの存在……? まだ見ぬ敵が君達を襲う”。



 凄くひっそりと。大々的には取り上げられていない追加要素の一つ。

 このバナーに惹かれて一同は集結。本気になって攻略をしているのだ。

「もう少ししたら新しいイベントが始まると運営が告知していたようだが……今までとは違うストーリーイベントとのこと」

「もしかしたら、今回のこの追加要素はそのイベントの伏線かもしれないってね」

 フルバーストで大暴れしているエイラ、そして上級魔法を扱うスノーハイトの巻き添えにならないようホッパーと暗日、そしてユーキの前衛組はモンスターの群れから一度距離を取っている。

「もうすぐ第三ウェーブが終わる。第四ウェーブまでの休憩時間にステージを探し回ってみよう」

 このイベントは耐久戦だ。時間経過により次のステージへと移動する。

 残り時間はあと十秒近くだ。モンスターの群れはスノーハイト達に任せ、ホッパー達は自衛に専念する。もう間もなくだ、5,4,3,2,1……

「攻撃がやんだ!」

 モンスターの群れの攻撃が一度なくなった。第四ウェーブまでの休憩時間だ!

「よし! 突撃しましょう!」

 何処が怪しいか。既にスターライダーのメンツは目星をつけている。

 モンスターは主に向こう側の山岳エリアからやってくる。初心者は勿論、あまり人数の多くないギルドは袋叩きにあうため、その付近には近づかないようにする。しかし、強豪がそこを上手く制覇してくれるかどうかが、この大量経験値獲得イベントクリアのカギとなっている。難易度が上がれば尚更である。

 一同はあえて、その危険エリアに踏み込んでいる。

 一番前にエイラを配置。残りの前衛は後方支援であるメグとスノーハイトを護衛しつつ、最も怪しい山岳エリアへ。次のウェーブが始まる前にとダッシュ。

 次のウェーブまで一分近く。山岳エリアに踏み込み、モンスターの大量発生により囲まれる前に奥へと向かって行く。

「……うん」

 立ち止まる。これ以上は進入禁止エリアになっている。

 そのギリギリのラインまで近寄ってみると……はあった。

「予想通りだったよ! 皆!」

 スノーハイトは高らかに宣言する。



 -----巨大な門ワーム・ホール。紫色の歪みが虚空に発生している。

 おそらくここが……みんなの言う隠しイベントの入り口、なのかもしれない。

「突撃!」

 スノーハイトの伝令。

 最前線のエイラが特攻。残りのメンツも謎のゲートへと飛び込んだ。

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