TURN.03「ギルド【スター・ライダー】(その1)」


 オンラインゲーム。これだけ大規模なものであり、かなりのプレイヤー数。

 フレンド機能も当然あり。ここまでの機能があるならば……当然、オンラインRPGアクションゲームには欠かせないコンテンツが存在する。


 一種のチーム。【ギルド】だ。

 三人以上のプレイヤー初めて結成できるようになる。アップデートが重なってついに“合計170人”までの大群を作り上げる事が出来るようになり、組織レベルのチームを作れてしまえるようになった。すごい!


 プレイヤー達の憩いの場・メトロポリス。

 多くの空中都市にはギルドハウスとして使用できる物件が大量に存在する。

 街の表通りに存在する一軒家や路地裏などに存在する秘密基地のようなもの。ところどころ目に入る巨大なタワーの部屋。中には飛行船や戦艦などの空中要塞系ギルドなど……夢は広がるばかりなのだ。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 とまぁ、そんなわけでイベント開始数日前。

 ホッパー達もイベントについて話し合うために、ギルドハウスへと赴いていた。

「「「こんにちはー!」」」

 メトロポリスへログインしたところでいつもの三人は秘密基地タイプのギルドハウスへと移動。表通りから少し離れた路地裏には存在する。

 ひそかに隠された階段。それを下っていくとパスワード式の扉があり、それを解読することでついにその入り口は現れる。

 表札のようなものには【スター・ライダー】と書かれている。メンバーしか知らないパスワードを入力すると、一同は現れた扉をくぐり秘密基地へ。

 ホッパー、ユーキ、メグの三人は一緒のギルドに所属している。三人仲良く、さほど広くはないリビングにて元気よく挨拶を返す。

「……あら、いらっしゃい。ふふっ、今日も三人は元気だね」

 ギルドハウスのリビングに一人、少女が腰かけている。

 まるで氷のように冷たそうな水色の髪。ちょっと特徴的な帽子に、粉雪のエフェクトが眩しい白青のミニスカートドレス。ユーキやメグのアバターキャラクターよりも身長の小さなキャラクターがちょこんとソファーに座っている。

「スノーハイトさん! こんにちは!」「こんにちはです!」

 ユーキとメグは元気よく挨拶をする。元気いっぱいに頭もさげる。

「こんにちは。ホッパーさんも」

「ああ、はい、こんにちは……」

 あまり人付き合いが得意ではないのかネットの世界であろうと他所他所しい態度。礼儀正しい少年なのはわかるが、そこには普段の彼と違って緊張感が滲み出ていた。

 この少女の名は【スノーハイト】。ジョブは白らしさゼロのブラックメイジ。ホワイトメイジであるメグとは違って攻撃型の魔法使いである。レベルは123。そして、ギルド【スター・ライダー】のマスターである。

「今日はお仕事お休みなんですか?」

 ユーキもソファーに腰掛けると、スノーハイトへ質問する。

「ううん、これから夜勤かな。掲示板に書かれてあったイベントの会議にだけ参加しておこうかなって思って」

「お仕事お疲れ様です……やっぱり忙しいんですか?」

「あはは……この時期は、そうだね……当たり前のように残業がある癖にタイムカード切らされて残業代出ないし、台風の日だろうと仕事出ろって言われるし、休日に書類だけ持ってきてほしいって言われて、いざ言ってみれば流れのままタイムカード刺されて出勤扱いされたし……なんなんだ、あの仕事。本当に一体」

 途端、スノーハイトの目が死んだように輝きを失った。粉雪のエフェクトもより強くなったというか。もみあげ部分の髪を咥えながらブツブツとつぶやき始める。

「ド、ドンマイです。リーダー……」

「ユーキちゃん達はしっかり勉強して綺麗な会社に就職するんだぞ~。私の二の次は踏まないようにしてくれたまえ……あはははは~……」

 地雷を踏んでしまったような気がしてならない。そうだ、リーダー・スノーハイトは現実では社会人なのだ。ブラックな会社の歯車なのである。

 ユーキの慰めを快く受け取ると同時に忠告もしておく。皆もゲームはいいが、勉強も怠らないように。スノーハイトお姉さんとのお約束である。

「さて! ここはM.V.P.sだ! 現役中学生に社会の闇を見せる時間は終わり!」

 ギルド用の掲示板。そこにはイベントについてのユーキの書き込みがあった。

 このゲームは自身のEメールアドレスを登録しておくと、。掲示板などに新しい書き込みがあった際にメールが入るようになっている。掲示板の書き込み内容をメールで確認したスノーハイトは集合へとかけつけたようだ。

「今回のイベント、結構美味しいからね。ホッパー君には嬉しいんじゃない?」

 イベント内容はただのモンスター退治と大して珍しくはない内容。だが経験値や貰えるアイテムが美味しいため、行く価値は十分にある。

「イベント期間中は奇跡的に休みが何個かあるから顔出せるよ。手伝いもしてあげられるから遠慮なく呼んで!」

「大丈夫なんですか? お仕事の疲れとか」

「寝てばっかりじゃ体が鈍っちゃうからね! それにリーダーなんだから顔も出さないと! 気にしなくて結構! 任せなさい!」

「「「ありがとうございます!!!」」」

 現役中学生の三人は社会人スノーハイトからの心強い言葉に頭を下げざるをえなかった。礼儀には礼儀で応える。

「それに最近のイベント。何事もないように見えて今後のビッグイベントに関係する隠し要素があったりするからね……こんなの聞いておいて、長年このゲームをやってる身として黙って見逃すわけにはいかないよね?【暗日アンディ】もそれを聞いて駆け付けたみたいだし」

「然り」

 途端、声が聞こえる。

「「「え?」」」

 三人は一斉に声のした方向へ。自身たちの頭上、真上へと視線を向けた。

 ……天井にはコウモリのように人がぶら下がっている。

 見てお分かりの通りの忍者の装束。必要以上の事は口にしなさそうな雰囲気を放つクールな男性忍者がぶら下がっている。

「いたんですか……いつから?」

「ずぅーーーーーと最初からいましたぞ~」

 ホッパーの言葉に暗日は一瞬含み笑ったような表情で返事を返した。

 彼の名は【暗日アンディ】。ジョブは見ての通り忍者。

 レベルはスノーハイトと同じ123。このギルドのサブマスターでもある。

「ほら、拙者の事は気にせずどうか続けなされ」

 暗日は天井から動こうとしない。どうやらそのまま会議に参加するようである。話を進めるようにと暗日は片手を振った。

「それと、自分もイベント開催期間は日勤のバイトがほとんどでございますが……夜には普通に参加できるから混ぜさせてもらいますぞ」

「やったーーーッ!」

 ユーキは喜んで手を上げる。

「スノーハイトさんと暗日さんが加わるなんて心強い!」

 二人ともM.V.P.sではランキングに何回か乗ったほどの強豪だ。そんな二人が忙しい合間を縫って参加してくれる。二人の心遣いに感謝する。


『私も参加するけど、よろしいかい』

 ギルドハウスの専用マイルームから、またもギルドメンバーがやってくる。

 ……その人物は他の皆と違って、アバターキャラクターに違いがある。

 全身機械。まるでアニメのロボットのような格好をしていた。声も機械音声で特徴がある。出っ張っている肩に細めのフォルム。ところどころ見える赤いラインが攻撃的な黒いデザインのロボットキャラ。敵キャラなイメージが強め。

 このゲームには俗にいう”種族”というものも存在する。

「あっ! エイラさんまで!!」

 ロボットを見るなり、メグも声を上げる。

「エイラさんも来てくれるの!?」

『勿論さ、スノーと暗日も参戦するなら尚更ね』

 【エイラ】。職業は近距離射撃殲滅戦仕様の“ガンサバイバー”。レベルは二人と同じ123で種族はマシナリー。つまりは機動兵器だ。

 種族によって戦闘スタイルもジョブも異なる。この幅広さもM.V.P.sの醍醐味だ。

「……あの二人は来れないんですか?」

 他にもメンバーが“二人”いるようだが、約束の時間になっても姿を現さない。ユーキは首を傾げ一同に問う。

『あの二人なら結構前にログインしてきて伝言を貰ってるよ。この時間は二人とも用事があってこれないから会議だけやって時間を決めておいてって。参加できるようなら掲示板に返事を残しておいて、無理だったら二人で別の日にイベント攻略に行くって言ってたよ』

「そうですかぁ……わかりました!」

 用事で来れないのなら仕方ない。リアルは大事である。

 事情を聴いたところで、今集まれるメンバー全員での会議が始まる。

「それじゃぁ……始めようか」

 スノーハイトはどこぞのアニメの司令官っぽく両手を絡み合わせ、笑みを浮かべる。集合時間、そしてイベント攻略と話を進めていく。

 ギルドメンバーたちの緊急会議は人知れず静かに決行された。

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