TURN.04「アンダー・ワールドへ(その2)」
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「うっ、ううう……」
ブラックアウトした世界。反転し、目の前には見慣れたマイルームの天井。
黒い砂塵が降り積もる固い地面の感触は背中にはなく、振り向いてみればそこにあったのはフカフカの白いベッド。見渡せばラベンダーのアロマが心地よい空間。
「やられたかぁ~……やっぱ一撃死、だよなぁ……」
ヒットポイントがゼロになったため、リスポーン地点へと強制転送されたのだ。
リスポーン地点は登録したメトロポリスの特定の広場か、ギルドのマイルームの好きな場所に設定できる。アイテムボックスとか、その他の機能がすぐ近くに存在するギルドマイルームの方がお得なのでホッパーはここを選んでいた。
「ん? 通話呼び出し?」
どれだけ遠距離にいてもログイン状態であるならば携帯電話と同じ感覚で音声通話をすることが出来る。表示された通話ウィンドウにて応答のボタンを押す。
『カケル! 大丈夫!? 生きてる!?』
『痛くなかった!?』
ユーキとメグの心配そうな声が聞こえてくる。
「……ゲームなんだから死にはしないよ。でも、ありがとう」
大げさだと笑うが、ホッパーは心から心配してくれた友人二人にお礼を言う。
(まぁ。正直死ぬかと思ったけど……リアルなんだよなぁ……死ぬほど痛いってわけじゃないけど、このチクっとした電流みたいな感覚)
このゲームは攻撃を受けた時にそれに伴ったダメージ感覚まで味わう事が出来る。さすがに精神的ショックや肉体的疲労を及ぼすレベルにまでは至らないが、ダメージを受ければ受けるほど体の自由が利かなくなり始め、若干の苦しさが生じ始める。
現に黒い甲冑に斬り捨てられた瞬間。あっという間に体の自由が利かなくなり、胸に伝わってきたダメージの感覚を少しだけ浴びた。
『よかった。無事みたいだね……ほっ』
「スノーハイトさんも心配し過ぎです。ゲームなんですから」
ギルドマスターも結構過保護なところがあるのか無事を確認できてホッとしている。彼女の立場的なこともあって中学生と年下の彼らには特別甘いのかもしれない。
「さっきの黒い甲冑は?」
『……さっきの戦闘は撤退致した。今の戦力、そして攻略情報もない状況では突破は不可能だと考えて』
ボスイベントが発生しても尚、ゲートは開いたまま。
いつでも撤退できるように設定されていた。やはり今回のイベントは今後の何かに関してのお披露目会だったのかもしれない。
「あぁ……俺たちの負けって、ことですかぁ……ごめんなさい。足を引っ張っちゃって」
『そう気に病むことはありませぬぞ。ナイスプレイでござった』
それなりにこのゲームをやっているスノーハイト、暗日、エイラでさえも攻略は困難と判断したボスキャラ。今までとは桁違いに強いモンスターを前に動揺しているようにも見えた。
今回は本当に仕方ないという、暗日からのフォローが身にしみた。
『しかし強かったですなぁ~』
『本当だよ。調整間違ってるんじゃないかって思った』
あまりの強さにエイラも調整ミスではないかと思っているようだ。暗日もその強さにはただ一言、そう述べる以外に他はなかった。
『あのゲートに突入した地点で経験値イベントの方はクリア扱いになっているみたいだね。あのステージから撤退しても特にミッションクリアも失敗の表示もされなかったから報酬は受け取れました』
『いや、あんなムチャクチャな強さで一方的に負けさせられる上に報酬なしとか言われたらクソゲーだよ』
さすがに運営にも人の心があったようで一安心だとエイラはボヤいていた。
「そうですか……いやぁ、よかった……」
あのイベントが経験値以外無駄にはならなかったことにひとまず安心する。
『あのボス、一体何だったんだろうね』
今後のイベント。それに関係するものなのか。
『私たちもそちらに戻る。ボスの事について、ちょっと話をしてみたいですし』
そこで通話は切れた。数十分もたたないうちにギルドマスターとそのメンツはこのマイルームに戻ってくるはずである。
「……」
ベッドから起き上がる。リスポーン地点にてコンティニューしたことにより、体の自由は戻っているし、体も軽くなった。
こういうダメージ感覚まで程よく再現できるようになったゲーム業界。久々のゲームオーバーでそれを実感しながらも、彼はギルドハウスのリビングへと顔を出す。
「だぁああああ~~、悔しいなぁあああ、もーーーう……」
頭を掻きむしりながら、ホッパーはソファーに寝転がる。
「ま~た、足引っ張っちゃったなぁ~……」
皆に頼り切りだったような気がして何処かやるせない気持ちを浮かべたホッパーは弱音を漏らす。
「失格だなぁ、これじゃ。ヒーローなんて程遠い」
人を助けるどころか迷惑をかけて、助けられている。
「ゲームの世界でも、こんなんじゃ……」
とことんマイナス思考に陥っていた。
将来の夢もこんな失態ばかりじゃ程遠い。そんなネガティブな考えばかりが頭によぎっていく。
「……ふんっ!」
力強く頬を叩く。
それといったダメージ感覚はない。だが若干の刺激は伝わってくる。
「へたれるなッ! 挫けるなッ! ここで落ちはしないだろっ! 俺ッ!!」
勢いよく立ち上がり、両手拳に力を入れて胸を張る。
「諦めはしない。俺は絶対になるんだ。皆を助ける最高のヒーローに」」
久々のゲームオーバーで気分が滅入るどころか、むしろスイッチが入った。
「……今度こそメグをちゃんと助けて、今度こそユーキの役に立つ!」
誰もいないリビングで……普段誰にも言わない気持ちを口にする。
それはその胸に秘めたヒーローとしての志。
「かかってこい、未知なる敵ッ……! 加納翔のっ! いやっ! ホッパーの本当の戦いはこれから始まるんだからなっ! ここで終わりとは言わせないぞ! ふんすっ!!」
まずは魔物大量討伐でパンパンになった手持ちアイテムを整理する。
ホッパーは近くにあったアイテムボックスへ手持ち品の収納を開始した。明らかにわざとらしく、力強く足踏みをしながら部屋へと戻っていった。
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