TURN.02「ズッコケ・トリオ(その1)」
彼らが向かうミッション。それは『地上の廃棄研究所エリアにて出現する機械モンスターを40体近く討伐せよ』という上級依頼であった。
モンスターも大量に出る上に経験値アイテムも使用中。かなりのレベルアップが約束されることもあって一同のモチベーションは全開だ。
「さぁああっ~~、お待ちかねぇ~! 敵が来るぞぉ~~!!」
「「了解ッ!!」」
ミッション・スタート。三人の下へマシンモンスターが一斉に襲い掛かる。
「よいっしょっと!」
機械モンスターは物理に強いという事もあって魔法や設置武器など特殊な装備を持ってくることが推奨されている。しかしそんな不利条件下であっても、ホッパーは足技を駆使して次々とモンスターを討伐していく。
「固い……固いぃっ! でもっ!!」
ホッパーの職業は三つあるというダンサー職の【トリック・ダンサー】。
「俺のキックは”魔法”なんだッ!! 魔法であり物理である意味不明なこのキックを食らえーーーッ!」
技がほとんど蹴り主体のコンボファイターなのだが……他のダンサージョブと違ってこちらのキックは攻撃力が若干低い代わりに“魔法属性付与”という特殊な力がある。そのおかげもあってか不利対面を作りづらいのが取り柄である。
なんだかんだ文句言いながらも、ダンサージョブはある程度使いこなせるようになったホッパーは見事なキックコンボでロボット型のモンスターを蹴り倒していく。
ちなみに彼のレベルは現在69。目標のレベルまではまだ遠いらしい。
「それ! どんどんいくよっ!」
ユーキはレベルは81と三人の中ではかなり高い。
主な武器は二丁拳銃に二刀流ナイフ。ダークヒーローらしく若干の悪党らしさが目立ち男子には凄く人気の高い職業である。当然、ダンサー職の派生ということもあってキック主体の戦いも健在。
ある程度のジョブはレベルマックスにしていたというユーキ。その中でもダンサー職はとても楽しくて気に入っていたようで……ヒーロー職の解禁日にはレベルの条件を満たしていた為に勝手に解禁されていたのである。
ダークヒーローというジョブを本人はかなり気に入っているようで、それからはあまり変えていない。
「それじゃあぁ、ホッパーに続いて私も行くぞぉおーーーッ!」
一体のロボットがオーバーヒート状態で突っ込んでくる。それに対しても、ユーキは慌てる様子見せることなく、必殺技のスキルを発動する。
「【ダークネス・ヒーロー・キック】ゥウウーーーッ!!」
それは近代のヒーローらしいキック技。男子に人気がある理由の一つでもあるスキルである。
「とどめぇーッ!!」
その場から一歩も動かず、迫ってきた敵に対して蹴りを腹部に突き入れる。
或いは回し蹴りによる範囲攻撃の二つのパターンを持つ技。しかもキックの最中は画面が暗転する演出が入り、キックには紫色のイナズマのエフェクトが入るなどとにかくカッコいい演出がてんこ盛りなのだ。今回は前者のパターンだ。
「えへへ~、どうよっ!」
ユーキは出し惜しみすることなく豪快にヒーロー必殺技を決めてみせた。
「……別に羨ましくない……羨ましくなんか」
「あっ、また拗ねた」
ヒーロー感たっぷりのユーキの姿を見てホッパーは再び怨念を込めている。もしかしなくても嫉妬と羨望のヒステリックである。
「いじけるなよォ~。カケルだって頑張れば私みたいになれるんだぞ~? 今はネチネチ言ってないでバトルに集中するっ! ホラっ! 頑張って私を目指せっ!」
「自慢か!? いやがらせかっ!? なんか知らないけどすっごいムカつくぅ……!」
ハンカチがあったら泣きながら噛んでるかもしれない。
「だけどユーキの言う通りなので戦闘に集中するっ!」
「そうだー! その意気だーーっ! カッコイイぞ、カケルーーーッ!」
「ちょっと面倒だからスルーしてたけどさぁ!? だから本名で呼ぶなッ!!」
実際、彼女の言う通りそこまで遠い話ではない。ダンサー職をある程度扱えるようになった彼もいずれ辿りつけるだろう。
【スーパー・ヒーロー】
ダーク・ヒーローの対となる正統派ヒーロー。彼のあこがれる特別上位職へと----
そのためにもまずはダンサー職のレベルを上げていく。
経験値アップアイテムを使っているこの間は暴れなくては損である。一つまみでも多くの経験値を得るためにホッパーは嫉妬と怒りに身を任せて、マシンを蹴り壊していくのだった。
「よっしゃ! メグ! そろそろ回復お願い!」
「分かった!」
メグ。レベルは75で職業は見た目通り白魔術師のホワイトメイジ。
回復や味方の能力アップ。少し離れた位置から光属性の自衛魔法を発射するなど完全なサポート型。
「……詠唱開始」
このゲームの魔法使い職には特徴がある。
それは一部のプレイヤーには面白いと公言されているが、大半のプレイヤーからは効率がどうのとか恥ずかしいだとか言われているシステムが存在する。
『潰えぬ誇りに、祈りと祝福を……【ヒール】!』
そう、魔法は詠唱を行わないと発動しないのである。
時間もかかるし手間がかかるという意味で定評は悪いが、その分威力や能力も他のスキルと比べると圧倒的な数値を叩き出している。
叫ぶのが恥ずかしいのに関しては……もう慣れるしかないと言われる始末である。
必殺技スキルを使い、体力もある程度低くなり始めていたユーキへのサポートを行う。ユーキの体力ゲージと必殺技ゲージがみるみる回復していく。
「うぉおおお……力が漲る生き返るぅううっ! 次はバフをお願ぃいっ!」
「どんどん行くよっ! 私に任せなさいなっ!」
メグは次の魔法の準備に取り掛かった。
(俺とユーキが前衛で暴れまわり、後方のメグがサポートをする……隣は心強いし、背中も安心できるっ! 完璧なフォーメーションなんだ! 俺たちはッ!!)
ホッパーはユーキに文句を浮かべながらも信頼を寄せている。後方でバックアップを担当しているメグに対してもだ。
同じ中学の仲良し三人組の連携は結構なものだ。完成しきったフォーメーションで数多くの高難易度ミッションをクリアしたものである。
「詠唱開始!」
穴がないフォーメーション。傍から見ればそう見える。
『光の破弓よ! 悪しき者にいきゃりをあちゃえっ』
「「あっ」」
----ただ一つ。
致命的な弱点。結構大きめな穴を除けば。
「あっ」
魔法の詠唱にはこういったシステムがある。
詠唱を間違えれば、当然魔法は発動することなく不発になる、と。
「ぬほぉおおおおおーーーー!?」
サポートが飛んでこなかったことにより、無防備で敵の陣営の中へ突っ込んでいく羽目に。防御力が圧倒的に足りず、ユーキは敵からの一斉射撃を諸に浴びる羽目に。
飛んで行ったユーキは綺麗に吹き飛んで戻ってくる。そのまま彼女は尻を突き出しながら地面で倒れる。プスプスと黒い煙を巻き上げながら。
「うわぁああーーーッ!? 大丈夫か、ユーキィイーーーッ!? ていうかまたかっ! またやったのか、メグーーーッ!?」
ある程度攻撃が緩くなったところでホッパーは慌てて回復アイテムのポーション片手にユーキの方へと走っていく。折角回復したというのにさっきよりも致命傷を浴びてしまっていた。
「ごめん! ごめんなさい! まことにごめんなさぁあーーいいいいいーーーッ!!」
メグも杖を片手に全速力でユーキの下へと走ってきた。
「にははは……そういうウッカリなミスをするメグも可愛いもんだぜ……がくっ」
「「ユーキィイイイーーーーーッ!!!!!」」
二人の悲鳴は誰もいない研究所エリアでエコーと共に響き渡った----
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