TURN.02「ズッコケ・トリオ(その2)」
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-----プレイヤー本拠地。メトロポリス3。
敵モンスターが一切現れない安息の地。プレイヤー達にとって交流の場である空中高層都市へと一同は帰ってきた。そのまま喫茶店へと直行する。
「やったなメグ。またやっちゃったな、メグ」
「ごめんねユーキちゃん! 本当にごめんッ!!」
テラスのテーブル席。メグは両手に手を付けて何度も謝っている。彼女は出せる限りの声を振り絞って何度も頭を下げる。
「まあまあ、メグが噛むのはいつものことだから」
「本当にごめんなさーいッ!!」
ユーキの何気ない真実がメグの心へ更にクリティカルを与えた。メグは大泣きしながら何度も何度もユーキに謝罪を入れていた。
「トドメをさしてどうするんだよ」
ホッパーはクリームソーダに口をつけながら呆れていた。
そう、三人のフォーメーションの弱点というのも……メグがよく詠唱を緊張で噛んでしまうところにある。そこでトラブルが生じて誰かが危険な目に合う。ここまでがお約束となっているのだ。
「ん? 味、変わった、か?」
ゲームの世界で本来ならば食事をすることはできないのだが----このゲームはなんと食事を出来てしまう。
リアルの空腹を満たすことは出来ない。しかし料理や飲み物にしっかりと味っぽいものを感じる。食べた感触と何かを食べたという満足感をちょっぴり感じるのだ。
何処か甘い何かを感じなくもないデータのクリームソーダにホッパーはこれまた一口つける。
「メグの失敗がどうとかはおいといて! どう? レベルあがった?」
「おかげさまで結構あがった。レベル上限解放ミッションも目の前になった」
レベルマックスは結構先。しかし上級難易度のミッションに大量の敵キャラ討伐。そこへクリア報酬の経験値、何もかもがウハウハだった。
美味しすぎる経験値の雨あられのおかげでゴールにはそれなりに近づけた。こればっかりはミッション提供者のユーキとそれに同行した二人に感謝をする。
「それはよかったねぇ~! 私のおかげだなっ!」
ユーキは笑顔でホッパーに微笑みかける。えへんと胸を張って。
「……ふんっ。お恵みをありがとうございやした~っと」
「照れてるねぇ。照れてやがるねぇカケル~。このこの~」
「だから本名で呼ぶなって!!」
メグの失敗もそうだが、このユーキの失敗もあと何回続くか。正直永遠に続くんじゃないかと不安すら覚えていた。
「ねぇ、そういえばカケル君」
「ホッパー!」
「ごめん~~~……!」
これまた失敗してしまったとメグは申し訳なさげに頭を下げる。
「カケルだけ名前がリアルと違うから、こういう失敗が起きるんだよ~?」
「だから! プレイヤーネームでも本名を使う方が珍しい!OK!?」
彼の言う通り、ゲームの世界くらいはリアルとは違う世界を体験したいために違う名前を使用する人が多い。自分なりに考えたカッコいい名前だったり可愛い名前だったり、アニメやゲームに映画のキャラクターの名前を使ったり、ちょっとシャレの効いた面白い名前だったりといろいろだ。
ところがユーキとメグはリアルの名前。本名をそのまま使っているようである。
「だから俺は悪くない~っ。名前を変えるのは逆にお前達だ~。べぇーー!っと」
そういう失敗云々については知らんとホッパーは言い切って見せる。舌を出しながら馬鹿にするように。
「いいじゃん! ユーキって名前カッコよくってさ!お母さんからもらった大切な名前なもんで!」
「カッコいいって……女の子ならもっと可愛らしい名前くらいつけてろってんだ」
「あれ~? もしかして、私のことを女の子って意識してる?」
わざとらしく、ユーキはモジモジとしてみせる。
「んなわけあるか。お前みたいなオトコ女」
「ぶーっ、素直じゃないのー」
不貞腐れる様にユーキは机に伏せた。拗ねているのか分からないがホッパーを困らせようとしている事だけは分かった。彼はその手には乗らない。
「……でもピッタリな名前だよな。元気なお前には。俺も嫌いじゃないけど」
「そういうカケルも良い名前だぜ~? 夢に翔るって意味でしょ~?」
「知らん」
付き合いも長いため意図を組んだホッパーはいじけるユーキを受け流していた。
「あれ、運営からメールが来てる?」
そんな中、ふと開いたメールボックスの異変にメグが気づく。
「えっと、何々……初級者エリアにて上級者用のモンスターが配置されたミスによる緊急メンテナンスのお詫びとして、経験値と経験値獲得上昇アイテム、ジョブ経験値獲得アイテムを差し上げます。だって」
昼頃にメンテナンスがありました。このようなお知らせがログインしてすぐに届いたのは覚えている。
「あれ、ということはもしかして?」
ユーキとメグはメールを開いたことにより大量の経験値と同時にお詫びアイテムを受け取ることができるようになる。今この場でそのアイテムに一番恩恵があるとすれば、だ……。
「おおっ! おおぉおーーーーっ!!!」
もう目の前、ジョブ経験値上限手前が近づいていたホッパーだ。
メールボックスを開き、速攻でアイテムを使用する。
「うぉおおーーーーーっ!!」
「「おおおおーーーーーっ!?」」
立ち上がるホッパー。そんな彼の姿に目を輝かせながら声を上げるメグとユーキ。
同時、レベルアップの効果音が鳴り響く----
トリック・ダンサーの最初のレベル上限へ到達した特別な効果音。思いがけないタイミングでのレベルアップにホッパーは大歓喜。
「よっしゃ! よっしゃ! やったやったやったッ!! よぉおおおーーーしっ!!」
「「おめでとーーーー!!」」
「あざーーーーっ!!」
最初のゴールへ見事到達。ホッパーは両手を上げて喜んでいた。女子二人の心からのお祝いの言葉もいただいたので快くお礼を述べる。
「よし、上限解放ミッションも出てきた!」
このミッションを受諾し攻略することでレベル上限が開放。そこからは二回目の上限解放を目指す。それが終われば条件達成となる。
「それじゃあ、そのミッションも今日のうちに終わらせちゃう~?」
「勿論!」
今日はそのミッションを終わらせて解散とする。手伝えることならなんでも手伝おうとユーキとメグはスタンバイしている。
ミッション上限解放ミッションの大半は魔物討伐や特定のアイテムの収納など。それほど時間もかからないミッションが多いので、このメンツなら速攻で終わる事も間違いない。早速、ホッパーはミッションのクリア条件を確認した。
「……え?」
「どうしたの?」
「あぁ、いや。うーん……」
クリア条件を開いた矢先。ホッパーの顔色が悪くなったような気がした。
「これぇ……なんだけどさァ~……」
ホッパーは表示された上限解放ミッションの内容を見せる。
「……あぁあ~。そういうえばこういうのあったわ~。懐かしいなぁ~」
「うわ~……」
二人ともどこか気まずそうな表情でホッパーを眺めていた----
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----メトロポリス。街中の噴水広場。
「ほっ……はっ!」
大量のプレイヤーが街中で集まってる中、そのど真ん中でホッパーはトリック・ダンサー特有のスキルであるダンスを披露している。
「くっ……! どうしてこんなことをっ……!」
注目を集める。当然、いろんなプレイヤーから注目を集める。
実をいうと引っ込み思案なところがあったりするホッパー。こうして視線を集めてしまう行為をしてしまうことに対して、あまりの恥ずかしさにしかめっ面でダンスを続けている。
「くそっ……!!」
何故このような自殺行為を行っているのか。それはミッションに理由がある。
『メトロポリス噴水広場にてダンススキルを30回使用せよ。』
なんと魔物討伐もアイテム収納も全く関係がない。送り込まれたミッションはパフォーマーなジョブらしく客寄せパンダじみたミッションであった。
「はい、わんつーさんっし! もう少しだ頑張れーッ!」
頑張って地獄のダンススキル30回発動をしているホッパーを元気づけようと、ユーキは最前線で掛け声を上げている。
「えっと、わんつーさんっし!」
メグもユーキに合わせて、合図を送る。エールのつもりのようだ。
「うぐぐぐぅ……! ありがとうだけど、逆効果ぁああ……!!」
そんな二人の気遣いが余計に恥ずかしくなってしまう。
一部のプレイヤーは彼の行動の意味を理解している。そう理解していながらもその行為に対して笑い出す輩もいれば、『がんばれー』と母親のように応援するプレイヤーも数人いる。
本当ならこういうミッションは人の少ない平日の昼間にやるのが効率が良いのだが……現役中学生であるホッパーにそのチャンスはない。
おとなしく人の多い時間帯にこうして踊り明かすしかないのだ。
「絶対にっ! 絶対にぃいいいーーーっ!」
何回目なのか。最早数える事すらやめたダンススキルが終了。
「ヒーローになってみせるからなァアアアーーーーーーーッ!!!!」
最後の決めポーズとしてピースサインを自分の目に添えるという最高に恥ずかしいポーズと共にホッパーは思いの丈を叫び散らした。
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