TURN.01「ダンシング・ヒーロー(その2)」
「はぁ、はぁ……ギリギリ追いつけねぇ……!!」
「ぜぇ、ぜぇ……人間の怒りの底力半端ねぇ……さすがだよ、陸上部のエースである私にギリギリでもついてこれるなんてさ……!!」
数分後、二人はメトロポリスの片隅で息を荒くし、座り込んでいた。このゲームにはスタミナ機能があり、走り続ければ現実世界のように疲れる仕様となっている。
結局あのままメトロポリスの街中で追いかけっこをしたのである。負い目があるとすれば少女の方だ。リアルを忘れて遊ぶ、それが一つの楽しみであるVRMMOの世界で彼を本名の名前で呼べば、そりゃあもう。
「……まったく!もうこの失敗何回目だよ!」
ホッパー。前にも話したが、本名を
本名で呼ばれたことに対しまだ怒ってるのか。ある程度呼吸が整ったところで彼は両手を腰につけて怒鳴りつけてくる。
「だってさぁ~。その理由は何となく察してほしいというか」
「この世界でもリアルの名前使ってる方が珍しいんだからな! お前たちが特別なの! そこを理解してる!?」
「えへへへ。ごめん♪ 私に免じてさ!」
「何様だよ! お偉い様かよ!!」
反省しているのかしてないのか。ホッパーは呆れながらもこれ以上は深く叱りつけないようにする。ネチネチ続けてはちょっとカッコがつかないからだ。
「次は気をつけろよ! 【ユーキ】ッ!!」
「は~い! 次回は気を付けるぜいっ! 相棒っ!」
ホッパーに話しかけたこの少女の名前はユーキ。
このゲーム内のフレンドだけの関係ではない。リアルでも仲良しの幼馴染である。見ての通り自由人でうっかり屋。陽気すぎてよく振り回される。
リアルでは彼と同じ学校で陸上部のエース。将来有望と噂される、ちょっと高嶺の花な女の子だ。こうして空いてる時間は気分転換にM.V.P.sに顔を出して、ホッパーと遊んでいる。
「さてとさてと! ところでどう? ヒーローへの過酷な道の進歩の方は?」
「……見ての通りといいますか。山あり山あり山ありなわけで」
「ブレイクタイム・ゼロかよ。マジで過酷やな。まぁ頑張りたまえ」
「……他人事だな。まぁ他人事なんだけど……だけど何だろう。本当に納得いかないというかなんというか!!」
ホッパーは両手を閉じ頬を膨らませ唸っている。
心の底から悔しいと言わんばかりの涙目の視線。それは各アバターの頭上に表示される[キャラ名][レベル]、そして……[ジョブ名]へと向けられている。
「ん~?」
そのジョブ名を----特別上位職【ダーク・ヒーロー】。
(どうして、コイツが俺より先にヒーローにぃいっ……!!)
ホッパーが目指している【ヒーロー】とは鏡合わせともいえる存在のジョブ。彼女は既にホッパーの言うゴールへと到着しているのだった。
「……別に羨ましくないも~ん。いずれ、俺もお前みたいになるもん~」
「うわ~、またやつれおった~」
ユーキは笑みを浮かべながらホッパーの頬に人差し指を突きたてる。『やめろよ』というホッパーの懇願など無視しながら。
「しょうがないなぁ~。遅刻したお詫びに私のミッションに付き合ってくれない? 欲しいアイテムの素材があってさ~」
「待てよ。なんでお詫びでお前のミッションに付き合うことになる?」
何故、肉体労働に付き合わないといけないのかと愚痴を吐く。
「まあまあ、お詫びというのは……コレだぜ、相棒~?」
ユーキはアイテムボックスの中から、一つだけアイテムを取り出した。
それは謎のカプセル。回復アイテムや能力上昇アイテムとは違うものだ。
「そ、それってぇええーーーー!?」
ホッパーはカプセルを前に声をあげる。
「経験値上昇カプセルッ! しかも課金ガチャ限定で出てくるレアな方のやつ! 大盤振る舞いの300%アップだぜぇーーーーー!」
ユーキが胸を張って告げたレアという言葉。
このゲームにおいて経験値上昇アイテムはそうそう出現しないアイテム。課金ガチャを回すか、特別なイベントをクリアするか。それと運営のお詫びの品とかでしか貰えないものだ。
ユーキが取り出したのはその課金ガチャのラインナップの中でもかなりレア度の高い貴重なものだ。持ってる人物がかなり限られる品なのである。
「行くっ! 行きますぅ! 行かせてくださいぃっ! 今日の遅刻にその他もろもろの失態はすべて水に流して差し上げましょう!」
ホッパーは目を輝かせながら、喜んでついていくと返事をした。
「やったぜ! 契約成立! 話が早くて助かるぜ親友!」
「やっぱ持つべきは優しい友だよな! 親友!!」
「「えへへへへ~~っ!!」」
契約成立。二人はその場で元気よくハイタッチをした。
アイテム一つでチョロいとか言ってはならない。彼は純粋なのだ。
「ところで二人だけで行くのか?」
そうと決まれば早速メトロポリス中央のミッションカウンターへ向かうとする。二人は満面の笑みを浮かべながら歩きだした。
「【メグ】も連れて行く。そろそろログインするんじゃない?」
「おっ、メグもくるのか?」
【メグ】。二人が口にしたプレイヤーネーム。
もしかしなくてもリアルの友達だ。
「あっ、来た来た!」
噂をすれば、だ。出発前にメールを送ったのかメグという人物は二人を見つけ出したようである。
二人の視線の先、大きな杖を持った魔法使いの少女がコチラに走ってくる。
「ごめん! 遅くなっちゃって……!」
ログインしてからすぐに走り出したのか既に息を大きく切らしている。運動神経はあまり良い方ではないようだ。
真っ白なローブを身に纏い、ローブの下には魔法学校の制服のような可愛らしい衣装が見えている。暑くなったのかフードを脱ぐと、淡い金髪が風に靡く。
「大丈夫大丈夫~っ、というわけでカケルもついてくるのでよろしく~♪」
「え! カケル君も来てくれるの!?」
メグと呼ばれていた少女は目の色を輝かせる。視線はホッパーの方へ。
「よろしくね! カケル君っ!」
この上ないくらいに喜んでいる表情。活発なユーキとは違ってとても大人しめの少女の笑顔はとても柔らかで心地の良いものだ。
「だぁああああかああぁぁああらぁあああああッ!!」
そんな柔らかな表情とユーキの満面な笑みに……制裁が下る。
「本名を呼ぶなって言ってるだろォッーーー!? わざとかっ! わざとなのかっ!? わざとだなァッ!?」
人差し指をナイフのように何度も突き立ててはひっこめるを繰り返す。二人の柔らかな頬に何度もその制裁はぷにぷにと。
「「うわぁあああっ、ごめぇえーーーーんっ!!」」
ユーキは笑いながら、メグは本当に申し訳ない表情を浮かべながら。
ウッカリなのかワザトなのか。
まるでコントのようなやり取りがかれこれ数分近く続いていた。
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