M.V.P.s ヒーローになるには経験が足りないのでダンサーを極めてます。
九羽原らむだ
Welcome to the M.V.P.s!!
TURN.01「ダンシング・ヒーロー(その1)」
俺、現役中学生である
テレビの朝方によく見かける特撮番組。ちょっと大人っぽい内容、子供達の憧れのヒーロー像……常日頃にカッコよさを増していく変身ヒーローがとても大好きだ。
『カッコイイなぁ……!』
虜だった。俺は目をキラキラさせながらヒーローを応援し続けた。
小学生からずっと見続け、その熱は今もなお冷めることはない。中学生ともなれば、そういう子供っぽいものは馬鹿にされるから卒業する者も多い中、俺はそんな向かい風なんか目もくれずに見続けている。
『ヒーローはどんな時もカッコいい……どれだけの時間が過ぎても色あせることはない。どうしていつもカッコいいんだ……!
ヒーローとはカッコイイからだ。そんな単純な理由だった。
憧れの存在を前にして目を逸らす事なんて出来やしない。学校でどれだけ馬鹿にされようと俺は毎週欠かさず録画を残して放送を見ている。変身ベルトも毎月のお小遣いを貯金して購入したりしている。
誕生日プレゼントもゲームやスポーツ用品なんかじゃなく、決まってヒーローグッズだった。両親からも『本当に好きだね』と少し呆れられたりもした。
『……俺にもなれるかな』
ヒーローになりたい。
『テレビのヒーローみたいな。カッコイイ男にっ……!!」
将来の希望に一つ、デカデカと書いてやった夢。先生やクラスの皆からは笑われたけど絶対に諦めきれない夢だった。真剣に目指したい夢だった。
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意識のフルダイブを可能とした、VRのファンタジーオンラインゲームを御存じだろうか? ここ最近になって、そんなアニメや映画みたいなゲームが公開された。
世界でも有名な対戦機能付きRPGアクションゲーム。その名を【メトロポリス・ヴァリアブル・プレイヤーズ】。通称【
この作品の特徴は壮大な世界観に数え切れぬイベントの数。
かなりの数の種族数と200を超えるであろうジョブ数。世界一ジョブの多いゲームとネットニュースやテレビで話題になるほど全世界で有名な作品であった。
俺もそのゲームは二年前くらいからやり始めた。理由は簡単だ。
このゲームには存在するのだ。俺の憧れている職業……ヒーローの存在が。
俺はヒーローになりたい。
これはずっと変わらない夢。意地でもかなえてやりたい夢。
ゲームの世界であってもいい。とにもかくにも俺はヒーローという存在になりたかった。
------【
このゲームでも結構な中級プレイヤーには食い込むようになった俺は今----
「くらえっ!!」
豪快な蹴り。きちっとした腕捌き。
「俺の攻撃からっ……!!
愉快なスナップ。気軽なステップ。
「誰も……っ」
攻撃するたびに流れるのはヒーローならではのテーマソング……ではなく、ヒップホップなリズム。俗にいう処刑ソングや挿入歌なんあじゃない。
「逃げられないんだよッ!!」
プレイヤーネーム【ホッパー】。ヒーローを目指す俺はこのゲームで-----
「【トリック・ステップ】ッ! お前にこの攻撃がかわせるか!!」
軽快なダンスで敵を翻弄し、リズムに乗りながらの蹴りのコンボ攻撃。そんなトリッキー全開な謎の職業。
「カッコいいだろ!? カッコいいって言えぇーーーーッ……!!」
-----ストリートで踊る的なダンサーの職業をやっています……
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それっぽいセリフで誤魔化して参りましたが、これが彼の現状である。
そうだ。ヒーローではない。ダンサーです。ヒップホップとかタップダンスとかコサックとかそういうダンスをするあのダンサーです。踊り子です。
「……はぁ」
中級者専用ステージの森林エリア。その場にいるはずの魔物は全員退治し終えた少年は一人、座り心地の良い切り株に腰おいて溜息をもらしていた。
「だぁあああーーーーッ! こんだけ敵を倒しているのに全ッッッ然ッ、レベルあがらないんだけどーーーッ!?」
頭にバンダナを巻き、ロングにブカブカなズボン。頭にはヒーローのお面。そしてヘソ出しのキャミソールとかなり異色な服装をしている。ダンサーの世界では演出的な意味でよく見かけるかもしれないが、この世界では少なくとも異質。
少年は絶叫していた。
頭上には『ミッション・CLEAR』の文字が表示されている。ステージをクリアしたことへの歓喜の叫び、ではないようだ。
「……なんでだよっ」
今でも幻聴気味に聞こえてくる愉快なリズム。
もう体が覚えてしまってるのか、それともそのジョブ特有のニュートラルなのかは分からないが……そのリズムにそって体がステップを軽く踏もうとしている。
「どうして……!」
軽くターン。ポーズも決めたところで少年は一言。
「なんでヒーロー職を得るためにィイッ!!」
とりあえず、なぜ彼がヒーローではなくダンサーというジョブを選んだのか。
その真実を皆さんにお伝えしましょう。
「ダンサー職を全部レベルマックスにしないといけないんだよォーーーーーッ!!」
彼に待ち構えていたのは難問。謎条件という理不尽。
人差し指を天に突き立てた少年の絶叫は、山もないのに山びこが帰ってくるほどの大音響でございましたとさ。
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ミッションが終わったため、ホッパーはプレイヤー達の本拠地となる高層発展都市【メトロポリス】へと帰還する。ソシャゲでいうホーム画面的なそんな場所だ。
「ただいまっ、と」
ファンタジー世界の上空を移動する空中都市であり、似たような街が他に10個近く存在する。元々は三つだけだったのだが新エリア解放と共に、この本拠地も増えて行ったのである。俗にいうサーバーというものである。
「はぁ……疲れたぁあああ~」
ホッパーは街へ到着するなり、噴水広場のベンチに腰掛ける。今でも足は小刻みに韻を踏んでるし、隙を見せれば口が勝手に口笛を吹き始める。
やはり、これはダンサーというジョブの仕様なのかもしれない。戦闘以外、ぼーっとしている最中で勝手に体がリズムに乗って動き出すシステムになっている。
「さすがは上位職。経験値アップボーナスやイベントでもない限り、そう簡単にレベルは上がらない……か。いや、ボーナスは触れるだけ振ったんだけどさ……はぁあああ、しんどぉおお……心折れちゃいそう~、くじぃ~け~そ~う~……」
その溜息は最早、世界の崩壊を前にし絶望する難民レベルのものだった。
目のクマ全開、その姿はまるでゾンビというか。クビを宣告された中間管理職のサラリーマンというか。とにかくもって覇気も生気もない。
改めて彼の紹介をしよう。彼はホッパー。
特別上位職である【ヒーロー】を目指す14歳の頑張り屋の少年である。
「もっと豪快に経験値くらい上げてもいい気がするんだけどぉ~……いやでも、簡単になれたらなれたで達成感がないか。こういうのは『やり切った!』って気持ちになれるのが大切だし……でもぉ~、流石に遠すぎるよぉ~……」
上位職を出す条件として、まずは最低条件としてレベルを上げることだ。レベルはジョブごとによって別扱いされており、レベルの上がり幅はその職業が上位職であるかどうかで変動する。上位職になると求められる経験値量がとにかく多く難しい。
彼はレベルを上げるために難しめのミッションをいくつか受けていたようだが……それでもなお、なかなかレベルは上がらないようだった。
「ジョブレベルクリアまで、あと28……ほかに隠し条件があるとは聞いたけど果たしてそれがなんなのやら……あぁあ、明智小五郎とシャーロック・ホームズが知り合いにいてくれたらなぁ~」
そんなことで名探偵の腕を借りるなとツッコミが入りそうだ。
まだまだ先の見えぬゴールを前に真っ青な表情。今も聞こえてくる愉快なリズムが最早呪いに聞こえてくるようで余計に体に疲労が蓄積されていく。
「……うがあああーー!! こんなんじゃダメだ! 全然ダメだぁあああっ!!」
頭を掻きまわしながら、ホッパーは空に叫んでいた。
「ヒーローは最後まで諦めない! 一度心が折れても立ち上がってまた戦う! こんなことでナイーブになってたらまた近所のイジメっ子と先生に馬鹿にされるっ! 気合を入れろホッパーッ! 俺は立派なヒーローになるんだよっ! ふんすっ!!」
「あっ! おーい、カケル~!!」
そんな中。一人絶望から戻ろうとするホッパーに声をかける少女が一人。
「いたいたぁ~! ごめんごめんっ!約束の時間を私から提案したのに遅れちゃって! 部活が思ったよりも長引いたんだ~!! ねぇねぇ聞いておくれよぉ~、先生ったら酷いんだよ~。部活終わる前、急に昔語りなんか始めちゃってさ~? 」
黒いレザーのショートパンツに赤と黒のストライプシャツ。そこに羽織るのはマントを思わせるボロボロの黒いコート。
赤いメッシュが特徴的な黒の長髪の女の子が手を振りながら、ホッパーへと歩み寄ってくる。謝罪と愚痴の両方をもらしながら。
「……言うな」
「え?」
何かつぶやいた。少女はそれに対し、首を傾げた。
「ここで本名で呼ぶなぁああーーーーっ!!」
それは至極当然の説教。ホッパーは鬼に形相を浮かべて少女を追う。
「ひぃいいい!! 繰り返し、ごめーーーんッ!!」
少女は申し訳なさそうに声を上げながらも全速力で逃げていた。
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