第7話
(7)
おかしな話になったと静子は思った。兄の遺作を取り戻しに来たはずだったが、それを取り返す為に絵のモデルになってほしいと頼まれた。
ハンドバッグの中で財布を取り出そうとした白い手は何もつかめす、そのまま何かを探している。
それは答えかもしれない。
静子は目の前に立ち、こちらを見ている二人を交互に見た。
――どうすべきか?
視線を外して兄の向日葵を見た。
この兄の遺作ともいう絵のタイトルは知らない。
瀬戸は『夜に咲く向日葵』と言った。
それは成程な、と思わないでいられない。
確かに亡くなった兄は少なくとも妹の自分から見ればそう見えないこともなかった。むしろ画家という同質の才能を持ち合わせている指摘の分だけ、自分よりも踏み込んだものがあった。
この絵は不運なことに家の土蔵から持ち出されてしまい、先程訪れた天満の画材屋に流れ着いたのだ。
父は神戸で輸入商をしていたが負債を抱え倒産。やむなく屋敷もろとも売りにだした。自分は東京の親類宅から大学へ通っていたが、それを聞いて神戸に戻ると邸宅だけでなく家具類一切も邸宅のついでとして売りに出されていた。土蔵にあったこの絵も価値が付くだろうということで卸問屋に流れていた。
驚いた静子はそれらの売り先をその後一軒一軒探していくうちに、大阪のとあるところで売りに出されてるのを知り、その店で絵を買い戻そうとしたところ、その絵が既に無いことに気づいた。
「ああ、その絵ですね。天満の顔見知りの画材屋の主人にタダ同然の値段で渡しました」
それを聞いて驚いた静子は急いで教えられた天満の画材屋に行った。
それが話のつまり、今こうして目の目にあるのだった。
――今は亡き兄の遺作である作品
静子は薄く瞼を閉じる。
静子がどうしてもこの絵を取り返したい理由があった。
それは父の倒産で散り散りになりそうな家族の絆を守るため。
瀬戸は自分が見る限り、嘘を言うような人物ではないように見えた。
(その為には・・)
静子はこの取引に応じる必要があると思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます