第513話 脅威の魔物達が怖れ従うトップです




 魔物側、ケンタウロス部隊後方5km地点。

 有象無象の様々な魔物達およそ3500体ほどが軍列を成して待機していた。



「馬野郎ドモは、戦ってルってのに、オレたちハまダじっトしテるのカ?」

「命令ダ、仕方ナイ」

「退屈ダゼ、マッタクヨー」


 今回の王国領シャムダン地方へのアースティア皇国攻撃軍の主力である彼らは、完全に暇を持て余している。

 すでに敵地が伺える距離まで寄せていながら、戦闘は先鋒部隊のケンタウロス達だけで、自分達は待機させられ続け、士気も落ちていた。


「シャンとしロ! いつ命令が来ルかわかラないんだぞ!?」

 魔物達の中でも一回り大きな隊長らしい風貌の亜人系魔物が、配下を一喝する。

 しかしながら、彼らの暇な気持ちも分からんでもない。自分だって本音では思いっきり暴れたいのだから。


 ……そもそも魔物たちは、群れて軍事行動を取るのにはその気性や気質的に向いてはいない。好き勝手に暴れ、やりたいように戦うモノだ。

 知能が高まろうがその点は変わらない。なので待機させ続けられている彼らは、かなりのストレスとフラストレーションがたまりつつあった。



「まぁ、“ あの方 ” に逆らっタらドうなるか、わかっタものデはありませんからね……」

 先鋒部隊のケンタウロス達とはまた少し違った、副長っぽい雰囲気の半身半馬の魔物が、恐ろしいと言わんばかりに呟きながらやってきた。


「ケンタウロス達が、不興を買ってお仕置きされたかラな……一瞬で3分の1が雷に撃たレ、炭になったそうだ」

「「「……」」」

 それを聞いた、不満を漏らしていた魔物達は青ざめて軽く震えた。


「そうなりタくなければ、今はおトなしくしテいましょう。鬱憤はタめにタめ、イザトいうトきに爆発させればいいデすからね」



  ・

  ・

  ・


「フウー、部下どもを抑えルのも楽じゃない……助かったぞ」

「なに、私も副長デすからね。務めをはタさなけば “ あの方 ” にしかられテしまいますよ、それこそ」

 好き勝手する魔物達が、ここまで集団行動に従っているのも “ あの方 ” がすべての魔物達の頂点にいるからだ。


 配下でいる限り、どこの部署の誰であろうとも “ あの方 ” の不興を買うことに繋がる真似は決してできない。


「 “ あの方 ” は寛容かつお優しいが、お怒りになラレルとこロに触レてしまうと、このうえなく厳しいかラな……」

「ええ、トテも恐ろしい方デす。しかしお強い…… “ あの方 ” の威光の下にいれば、ぜったいに間違いないトいえるほドに」

 それには隊長も強く同意する。


 魔物達の中、強さに自信のある者は定期的に “ あの方 ” に逆らおうとする事がよくあるのだが、そのたびに思い知らされるのが、圧倒的という言葉すらまったく追いつかないほどの絶対的な強さである。


 アイツならもしかして―――そう思わされるほど強力な魔物が、“ あの方 ” と対峙しても1分と持たずにその命が消されるのだ。


 その方法は様々で、単純に物理でぶちのめされた者もいれば、強大な魔法で潰された者、はたまた何をしたのかすら分からないで滅された者もいた。


 共通しているのはいずれも、戦闘時間がほとんどかかっていないこと。

 加えて “ あの方 ” はワンアクションしかしないで相手を倒していることだ。



「長い支配の間、ほとんどの主だった魔物は、その強さを直に見ていル……」

「下っ端デすら半数は知っテいますからね……逆らえるはずもありません」

 広大な不毛の大地に我が物顔で存在している全ての魔物達の統率は、絶対に壊れず、抜けることのない “ あの方 ” というくさび1つでなされている。

 いかなる歴史的偉人も権力者も、決して叶わないほど偉大な御方だ。




 その御方が今回、すぐ近くまできていてこの戦争を見物なされている。


 ―――逆らえるわけがない。

 逆らおうなんて考えるバカは勝手に死ねばいい。周囲を巻き込むことなくそのまま好きに殺されてくれればありがたい。



 3500の魔物達は、1体1体が人間の兵士30人以上に匹敵するほどの力がある。

 そんな魔物達でさえ、足元どころか爪先の微かな爪アカにすら勝てないと断言できるほどの強者――――それが “ あの方 ” なのだから。



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