第504話 最前線と後方の仕事です
ワァァァー!
ギャアギャアッ!
グォォオオオオン!!
王国兵士たちの気勢と、多種多様な魔物たちの鳴き声。
立ち込める戦いの様相はゴーフル中将を喪失した前後で大差はない。
「上の変更による大きな混乱がなくて何より。だが……なるほど、現場は思いのほか混沌としているな」
メイレー侯爵は戦線を維持するために防壁のように築かれている、南北に長い長城の上層階より、最前線の様子を眺めていた。
本日付けでこの戦場の総大将に着任したばかり。なのでまずは現状把握に努める。
「はっ。幸いにも現場には経験の多い部隊長が数多く配備されておりますれば、指揮には大きな乱れはございません、メイレー特将。ですが御覧のとおり、魔物の軍勢は多種多様によって構成されており、その戦い方は一貫せず、好き勝手に暴れるがため戦いが始まりましたらならば、どうしても乱戦状態が基本となってしまうのです」
小隊規模で固まって戦うならともかく、それ以上の人数で固まって戦うのが難しい。連携はしずらく、兵士たちの戦いぶりはいかにも気力体力の消耗が激しそうだ。
「ローテーションを組んだとて、交代も容易ではないか。想像こそしてはいたが……さすが、厳しいものだな」
これでは作戦もなにもあったものではない。
この長城から先は不毛の地が広がっており、起伏もあまりない。
身を隠せるような満足な森も見当たらなければ、山どころか小高い丘もほとんど見られないのでは、部隊を密かに回り込ませるなどの動きも取れない。
「はい。真正面からぶつかり合う事しかできません。それゆえ我が方はどうしても消耗が避けられないのです」
説明を行う現地の下士官もどこか疲労感をにじませている。
先が見えないまま全力のぶつかり合いを続けるしかない現状は、何ともし難い。
メイレー侯爵は納得する。
ゴーフル中将が退いても現場の士気が下がらない理由は、総大将の存在意義がこの戦場では薄いのだと。
「(総大将だけではない。参謀をはじめ、本来ならば作戦や策略を練るべき者も、お手上げだからだ。戦術レベルの命令しかできないが、それも混戦乱戦が当たり前の戦場では、現場の経験豊富な部隊長たちで事足りる……―――よくない戦の流れだ)」
軍の頭脳が麻痺させられ、手足が考え不要で動いている状態。
これでもし、頭脳が働かなければならない状況を突如として突きつけられた場合、対応に支障がでるのは明らか。
魔物側がそこまで狙っているとは思い
「とにかく情報だ。魔物側の動きを注視するのみならず、軍内部の兵の動きについても把握を徹底せよ。部隊の配置、移動などは特に常に知る必要がある。まずは配置転換を進め、最大限の戦闘効率化を図る!」
これだけ乱戦混戦を続けていれば、部隊配置もメチャクチャのはず。
一見すると満遍なく兵が戦場に散らばっているように見えるが、非効率な戦闘を強いられているところも少なくないだろう。
メイレー侯爵は、まず敵に対して自軍が最大限有効に戦えるよう、整理することを目指す事にした。
――――――最前線後方、アーツ・シューク砦。
「当初の目的であるメイレー侯爵の最前線への送り届けと、ゴーフル中将との役職入れ替え、そして中将の診察も終えました。なので本来なら僕達はここで王都へと帰ることになるのですが、もう少し留まろうと思います」
それは、中将の身に起った不可解な症状についての原因を調べるためだ。
ヴァウザーさんの最終的な見解では、自然に発生した病の類であるならば、中将1人だけがそうなっているのはおかしく、他に誰も中将と同じ症状を発症している者がいない事から、人為的に何かされた可能性が高い、とのこと。
ならその何かした誰かさん、あるいはそれに対する確定的な何かが判明するまでは最前線の王国軍を調査―――
「わかりマシた。私めに何かデきる事はアリますか?」
「ゴーフル中将からは現状、更に何かが分かる可能性はないのですよね?」
「はイ。精神面での問題は、調べルにも出来る事ガ限られテしまイまス。これ以上、中将サンを調べマシても、何か分かルことハもう無イでショウ」
ちなみにゴーフル中将は念のため、第三防衛圏の砦まで下がってもらい、そこで静養してもらっている。何か危険な病原菌でも持っててもいけないし、一気に王都に帰ってもらうにはためわれるからだ。
「ヴァウザーさんには、前線で重傷を負った兵士さんの治療をお願いします―――というのは建前で、その兵士さんを詳しく調べて欲しいのです」
実は既に、メイレー侯爵と打ち合わせして最前線で戦う兵士の中で怪しそうな者は、集中的に治療に当たらせるという名目で、このアーツ・シューク砦に下げさせて欲しいとお願い済みだ。
以前から勇者ジェイン一行や、シャーロットの "
特に、魔物側と通じている兵士さんがいるという話は、調査を重ねてほぼ確実と言えるところまで情報がきていた。
「……まだ公にする段階ではありませんが、色々と怪しい部分をこれから暴いていきます」
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