第488話 保護エルフの集合住宅は実験も兼ねます
――――――ウァイラン領内のとある建設現場。
そこでは、ある施設が急ピッチで建設されていた。
「設計は致しましたが、その通りに造れるかは難しいかもと思っていましたが、なかなかどうして、良い感じに工事は進んでいるようですね」
正直、僕は期待してはいなかった。
この世界の建築技術や常識からすると、ちょっと無茶をお願いしてしまったかなと、後から後悔したくらいだ。
なにせ1度地面を掘って柱や壁の土台をより固め得るための、いわゆる基礎工事を徹底して行ってもらうよう、計画を立てた。
だけどこの世界の基本は、地面に上に直置きで建てる。わざわざ敷設面積すべてを掘るなんて事はしない。
「設計と計画を聞いた時、面白そうだったからボクが現場向けの詳細な指示書を別途用意して渡しておいたからね。キチンと従ってくれてさえいれば、殿下の設計通りに完成できるはずだよ。でもさ―――」
言いながらリジュムアータは建設中の建物を見回した。
「―――うん、よく思いつくよね、こういうの。殿下はやっぱり変わってるね」
「そうですか?? むしろ思いつきで工事をさせてしまってるのは、少し気が引けているくらいですよ」
この世界の建物の基本的な建設の流れは、一番下に重量ある建材を配置して、その上に組み上げていく形だ。
例えば完全石造りの家屋の場合、大きくて重い石材を壁の最下段や床下に敷き、その上にレンガや石タイルを積み上げて壁などを組んでいく。
完全な石造り以外の、木材を組み合わせた形式や、土壁を取り入れるもの、木材のみのもの等々、どんなタイプであっても、基本は一番下に一番重い建材を敷くというのが、建築の常識になっている。
だけど今回、僕が作らせているモノは違う。
まず建設予定地を5mほど掘り下げさせ、基本の支柱の底をその掘り下げた場所から建てる。
さらに岩や砂、土を上手く織り交ぜて地面を埋め固め、深さ2mほどのところで間取りの仕切りに沿って、長方形に整形した巨石を敷く。
その上に石造りの壁や床を敷設する。この時点で外見や内観はこの世界でもよくある総石造りの建物になるわけだけど……
「内装は堅土を塗っての木張りで、外装は漆喰……よく資金を出してくれたもんだね、
「はい、およその事は聞き届けてくださる母上様ですが、今回はさすがに難色を示されるのではと思っていましたので、そこのところに関しましては僕も少し驚いています」
今回、僕が建設させているのは、前世でいうところのアパートやマンションなんかの集合住宅だ。
上は5階建てだけど、部屋数が多い分、建物の規模は結構なモノになる。
そんなモノを、手間のかかる基礎工事含め、壁や床にしても貴族の邸宅並みにかなこだわって作らせている。
当然、建設費は普通の建て方よりも、0の桁が2つ3つ違ってくる。
しかも、そんな建物を何のため、誰のために作っているかといえば―――
「トーア谷で保護した、本来なら
いかにひどい目にあった可哀想な女性たちとはいえ、彼女らはれっきとした、王国に攻め込んできた侵略者だ。
国の立場的に言えば、保護対象ではなく収監対象になる。
「皇太后様も、彼女達には利用価値があるって考えてるんだろうね。それにこの建物にしても、今後の建築技術への実験的な意味を持たせてるって事だし、何より殿下がお願いしたら、あの人はそうそうNOとは言わないだろーねぇ」
リジュムアータの言う通り、母上様ならよっぽどの事をお願いしても聞き入れてくれるだろう。
だけど、正直にいえばあまり頼りにしたくはない。
もう結構前のことだって言っても、シャーロットにした闇の教育の事をはじめ、節々に何だかグレーで不穏な部分が、母上様には垣間見える。
万が一、母上様がよからぬ事を考えたり、企んでいたりしたとして、そこに巻き込まれる可能性を高めないためにも、僕自身がなるべく自力で多くを成せるようにならなくちゃいけない。
「(依存度が高いと、イザって時も距離を置けなくなるしね……)」
母上様が悪いことをしている、とは思いたくはないけれど、貴族社会はどこでどんなドロドロした繋がりや動きがあるか分かったもんじゃない。
ショタっこで非力というだけじゃなく、王族としてもまだまだ僕は未熟だ。
レイアをはじめ、まだ見ぬ子供達も含めた未来の家族のためにも、しっかりと自分で立てるようになっていかなくちゃね。
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