第485話 魔物使いと巨亜人です
近代化されていない文明においては、自然が豊かなのが当たり前だ。
なので、一度追手の及ばない距離をあけてさえしまえば、いくらでも隠れ逃げることはできる。
『……さて、これからどうしたものか』
山の中に逃げ込んだ “ 守護神 ” は、特に今後の方針もなければ頼りとするモノもなく、とにかく見つからないようにと
もう “ あの女 ” から逃亡する生活をしたのは、どれほど前だったか? マンコック家に居候するようになり、安定した居場所を得て以来ではあるが、意外と野に生きるコツは覚えているもので、寝食に困るような事もない。
しかしながら、下手気に動き回ることはしたくはないので、どうにか安定した居場所を手に入れ、再びのエルネール獲得に向けた地固めを行いたいと、“ 守護神 ” は考えていた。
しかしアテがない。いかに人に限りなく近づこうとも、その身はまだ人とは呼べないモノだ。
当然、人里に降りる事は不可能。それどころか近づくこともままならないだろう。
『ふむ……気取られずに居られるとすると、まずは山深き場に洞穴でも求めるべきいか……』
深い森を移動。日々の糧は、そこらの野生動物なり木の実なり、たまたま遭遇した魔物なりで十分。
とにかく場所だ。落ち着いて居られる居場所が、何よりも必要―――探し求めること数日経ったある日、 “ 守護神 ” はそれらと遭遇した。
「げぇ!? ば、ばけものっ!?? ちくしょう、ここに来て殺られてたまっかよォ! おい、お前ら! ” 俺を守れ ” っ」
驚くことにその人間は魔物を使役している。普通ならまずありえない話だ。
『ほう、人間に従う魔物とは珍しい。我も相応に長く生きているつもりだが、初めて見るな』
「しゃ、しゃべっただぁ!? な、なんだ、なんだってんだオメーは??」
会話が通じる―――それがどれだけ大きなことか。
『我に名はない。かつて我をかくまっていた者たちは “ 守護神 ” と呼び崇めたがな……それで、お前の名は何という?』
「お、俺か? 俺はベンってモンだ」
その人間―――ベンは、“ 守護神 ” の質問に答えた。
自分が何者で、何をしてきて、どうして今ここにこうして至り、魔物を使役できているのかなど全てを。
『声刻……なるほどな、人間はそのような技術を生み出すに至っているか。まぁ、如何様にせよ、お前も後ろ暗い道を走って来た者ということだな』
「ま、まぁな。けどコイツらがいるんで、まだそこまで苦労はねぇし、城でくすねた金目のモンがあるんで、まだしばらくは何とか―――」
少し緊張のほどけて来たベンに、“ 守護神 ” は目を見開いてその姿を改めて見た。
『(ほう……悪しき道なれど、魂は悪くないモノを持っている男だ。声刻とやらはきっかけに過ぎず、魔物どもも本心より半ば、打ち解けている……)』
「な、なんだよ、俺をジロジロ見やがって……や、やっぱ殺るってぇか!?」
半分虚勢じみた態度で強がるベンに呼応するように、伴う魔物達も恐怖はあれど戦う姿勢を見せる。
その様子に思わず “ 守護神 ” は口元を緩ませた。
本人には自覚はないようだが、どうやらこのベンという人間にはある程度、人間に対して親和性のある魔物であれば、従えられるような天性の才能があると、確信していた。
『ベンとやら、我と協力しないか?』
「……へ? きょ、協力だぁ??」
いきなり何を言い出すんだと、拍子抜けしたような間抜けな声をあげるベン。
この手の人間はキチンと丁寧に話をすれば、通じると “ 守護神 ” は判断した。
『そうだ。我は故あって―――まぁ、この見た目から分かるであろう、公に目につく場で活動するわけにはいかぬ身……だが、我にも成し得たい事がある。そのためには人の世における活動は必須なのだ』
「あー、つまりなんだ。オメェがやりづれぇ部分やら何やらを、俺に代わりにやってもらいってぇって事か?」
『ああ、その解釈で合っている。そして我は、お前に知恵と力を与えよう』
するとベンは、途端に怪訝な表情を浮かべた。
知恵と力―――ベンから見れば “ 守護神 ” はデカいバケモノでしかない。力はともかくとして、巨亜人のその姿から有益な知性を持っているとは考えにくいのだろう。
『……これでもイチ貴族の家を繁栄させた実績がある。故に “ 守護神 ” などと呼ばれたのだ』
「はーん……なるほどな。じゃあよぅ、試しに1こ、その知恵とやらを貸してみちゃあくんねぇか? その結果で判断させてくれってのは、ダメか?」
『その慎重さと頭の回転の速さは素晴らしいな。愚鈍な者よりよほど良い。我を前にして自身の利益を考え、取引きに条件をつける胆力も気に入った』
「! ……へ、オメーこそ、一瞬で俺の考えてること見透かすたぁ、知恵ってぇのも期待させてもらえそーだなぁ?」
こうして意外な二人は出会った。
ベンの数奇な運命は周り始め、“ 守護神 ” は再起のとっかかりを得るのだった。
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