第482話 秘密の子供を儲ける意味です
遥か昔から、庶民と貴族という身分階級はあり続けてる。
そして身分に差があるという事は、庶民と貴族の血筋は決して交わりはしない。特に社会上位者である貴族達が、それを許すはずがないからだ―――表向きは。
「ほ、本当に私めが……そんな、よ、よろしいのですか!!?」
「ええ、クーフォリアさん、殿下は貴女にそれを御所望しております。それが何故かはお分かりになりますね?」
あまり感情を表に出さない、淡々としたタイプの性格であったクーフォリアさん。
だけど、僕が絡むとすっかり感情豊かになっていた。
エルネールさんの救出を終え、今後の方針が決まったのでコロックさんの喪を弔う必要もあるから、北方から引き揚げて来た僕達。
屋敷で出迎えてくれた家人の中、クーフォリアさんに僕とエルネールさんの2人だけで面会して、彼女の今後の処遇を伝える。
「表向きは、僕の後宮後見人となるエルネールさんの専属メイドとなっていただきますし、もちろんお仕事もしかと務めていただきます。ですが同時に “ 支子 ” を身籠っていただこうと考えています―――聞くまでもないとは思いますが、秘密は」
「はいっ、お墓の下まで持って参り、一切を漏らしは致しませんっ」
鼻息が荒い。顔が赤い。目がランランと輝いてる。
普段とは大違いの喜びよう……なんだか戦闘を期待したアイリーンを見てるような気分だ。
『 支子 』―――ささえご。
簡単に言うと、家の主人が仕える家人に産ませた子供だ。
前世の世界じゃ聞いた事ないから、この世界独特のワードなんだと思う。
その主な役目は仕える家の次代の
なぜそんな事をするのかというと、貴族が信頼できる家人や側近を確保するためだ。
元々、上流階級者の家のメイドや執事ら仕える者たちは他の貴族の、家や土地を継げない三男や四男、あるいは婚期を逃した三女四女といった者達がなる事が多い。
けど、それはもう少し古い風習で、現在では一般庶民からでも見どころある人間が貴族の家で働くパターンは普通になりつつある。
しかしその場合、信頼や信用という面において、やや問題がつきまとう。
庶民上がりは社会的立場の弱さゆえに、よく貴族の工作員として他家に奉仕者として送り込まれるなど、政治的に利用される事も多いんだ。
そこで上流階級の貴族達が誰からという事もなくはじめたのが、支子。
その家の当主自身が判断し、信頼おけるメイドなどを孕ませ、仮に娘が生まれた場合ならその子をメイドとして教育し、母娘二代に渡ってその家に仕えさせる人材とする。
もちろんそれは当人達だけの秘密だ。産まされる相手は御当主様から信頼されている人間であるという
一方で産ませた貴族は、秘密とはいえその子供は自分の血が流れていること=血縁者になるため、妻との間にできた自分の子供達に仕えさせる者としてはこれほど安心できる者もいない、というわけだ。
「(クーフォリアさん自身の出自は一応は数字爵の貴族令嬢だけど、家は完全没落しちゃって跡形もないし両親も他界してる……エルネールさんも信頼しているメイドさんだし、エルネールさんのお腹の子供の秘密も共有してる人だし、支子をお願いするメイドさんとしては一番最適だ)」
もし彼女の家が、数字爵とはいえ完全没落していなかったら、一応は貴族家なのでまだ、僕のお嫁さんの1人に迎える方法はこじ開けられたかもしれない。
だけどエイミーの時と違って、彼女の家は貧困からの夜逃げっていう、最低限の責任や義務からも逃げた末の没落だ。
残念ながら貴族家としての復権は不可能……そうすると今のクーフォリアさんは完全に庶民と同じだ、お嫁さんの1人に迎えるのはかなり難しい。
「クーフォリアさん、これは大変なことです。もし少しでも貴女の気が乗らなければ取りやめ―――」
「いいえ! ぜひ、ぜひともお願いひましゅ!!」
「(? あれ、なんかヲタク気質っぽい雰囲気が?? 普段は結構色々と内に押し込んでるタイプかな?)」
機械のようにすましておいて、実は心の中で色々とヲタクな思考してるとしたら、なかなか面白いキャラクターだ。
むしろヘンに真面目な性格よりも分かりやすくて、秘密を共有するにはより最適だとさえ思う。
「クスッ……クーフォリアさん、はしたないですよ?」
「ハッ!? ……も、申し訳ございません、つい取り乱しを」
エルネールさんが本当に楽し気に微笑む。
うん、エルネールさんとの相性も良さそうだし、この人選は正解だと僕は思う。
「(実質、お嫁さんみたいなものだし、アイリーンたち正式なお嫁さん達が内掘りだとすると、彼女みたいな立ち場は外堀りみたいなものかなー)」
もしかすると意外と自分の家人を非正規な関係の女性達に産ませた子で固めてる貴族とか、探せばいそうだ。猜疑心の強い人なんかは特に外から家人を雇いたがらないだろうし。
「(さて、クーフォリアさんの件はこれでオッケー、と。問題としてちょっと難しいのは……
できれば
けど、それを実現するにはクーフォリアさんの場合よりも問題が多いから、それをどうクリアするかで、僕は悩んでいた。
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