第十章:昇魂転生の機
第466話 お嫁さん?が到着です
僕たちがトーア谷の入り口から3分の1ほどのところで長期戦の構えでバーサーク・エルフ達とやり合っていると、ソレは現れた。
「だーんーなーさーまーっ!」
「! アイリーン??」
連絡でルヴオンスクに入ったことは聞いているから、アイリーンがこの戦場に来たことは、それほど驚きじゃない。
ただアイリーンの性格を考えると、流れ的にさらわれたエルネールさんの方に当たるべく、マンコック領に向かうかもと思っていたから、この谷のほうに現れたのが意外だった。
「それに何ですかその、えーと」
「すみません、殿下。我々には触れないいただけますと……」
アイリーンが連れて来たのはビキニアーマー部隊。
だけど着用しているビキニアーマーは、僕と結婚したての頃、アイリーンが着用していた一番はじめのヤツよりも、装甲―――つまり肌の覆い隠しが少ないタイプの、本当に色気に寄せた感じのデザインだった。
もちろんそれは、裏を返せば彼女達自身にとっては恥ずかしいことこの上ない恰好なわけで。
僕はそれ以上、ビキニアーマー部隊の面々に羞恥を感じさせないよう、アイリーンに向き直った。
「それでアイリーン―――……っ、アイリーン、もしかして……」
「! あれ、えーとえーと、旦那さま……私、どこかヘンですか??」
うん、やっぱりそういう事ね。
「いいえ、ヘンではないですよ。
途端にビキニアーマー部隊からキャーッという声、近衛兵士さん達からヒューとこっそり口笛めいたものが聞こえる。
周囲からは、王子様が自分のお妃に歯の浮く口説き文句の1つも投げかけているように見えるのかもしれないけど、僕のお嫁さんは、僕の言葉の意味をちゃんと理解して、ちょっとバツ悪そうな苦笑いを浮かべていた。
「(でも、ここまで精度が上がっているなんて……アイリーンが真面目に練習していた証拠ですね)」
そう今、僕に対峙しているアイリーンは本物のアイリーンじゃあない。
<アインヘリアル>
僕が自分のスキル<恩寵>でアイリーンに与えたスキルによる分身体だ。
(※「第129話 王弟殿下のスキルです」など参照)
「それでそれで! あんまり
その言い方から僕はピンと来た。
たぶん本物のアイリーンはここからかなり離れたところにいる。さすがにこの精度で<アインヘリアル>を遠く離れた場所で活動させるのは、かなり時間が限られるんだろう。
「そうですね、アイリーンも来てくれたことですから、作戦を変えることにしましょう」
・
・
・
正直、この<アインヘリアル>が、どれくらい戦えるかは操作してるアイリーン本人にも未知数だろう、だからどこか焦っている。
下手すると、途中でいきなりドロンッと消えちゃいかねない。
「ォオオオオ……」
「ガァアオオオン」
「グアァアアオオオ!」
「うっわー、ひっどい事になってるねー。まー、魔物に蹂躙された村とかよりはまだマシかなー」
谷を封鎖するように敷いた防衛陣の柵の上に立って、バーサーク・エルフ&兵士たちの様子を見る。僕達もそれなりに頑張って倒してきたものの、まだ400体以上は余裕で残ってる。
「この地形ですからなかなか討伐も進みません。加えて息のある女性エルフが混ざっていることもあって、乱戦に持ち込む事も憚られてしまい、時間がかかっているのが現状ですね」
「うん、この戦場は軍隊じゃあちょっと厳しいかな。じゃ、旦那さま達は少し待っててね、軽く減らしてくるからー」
まるで何てこともないと言わんばかりに、
当然、バーサーク達はすぐに反応し、襲い掛かる―――が
ドガッ! バギャッ! ズドッ、ドザシュッ!!!
「ギャアアオオオッ!!」
「ググアアァッ!!」
「オグァアアオオォォン!!!」
襲い掛かる端から地面に倒れていく。
「……す、すご」
「さ、さすがアイリーン様……」
「つ、強い……」
たった1人で、バーサークだけを仕留めていく<アインヘリアル・アイリーン>。
しかも倒れるその巨体が、地面に伏している女エルフ達には一切かぶさらない。
その戦いぶりに、彼女が連れて来たビキニアーマー部隊も、僕の下でこの谷でこれまで戦ってきた兵士さん達も、ただただ唖然としたまま見続けていた。
「(やっぱり焦ってる……けど、消える感じはしないなー。もしかして制限とかじゃない?)」
焦りが<アインヘリアル>を維持するのが難しいとか、そういう理由じゃないとしたら、もしかするとマンコック領の方で何かあったのかもしれない。
もしそうだとしたら、こっちを早めに収束させるべきだろう。
「僕達もいつまでも呆けているわけにはいきません。手分けしてアイリーンに続きましょう」
女エルフの救護、アイリーンが届かない端の方の敵を駆逐。
アイリーンがいくらケタ違いの強さでも、それで全てが足りるわけじゃない。この場でやる事はいくらでもあるんだ。
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