第446話 不穏の漂う名代領主の屋敷です
ルヴオンスクで、クルリラ第三王弟妃と面会したスベニアムは、かなり気疲れした様子で、執政館を後にした。
「(マズイな。あんな抜け目のなさそうな女性とは……殿下がココを任せるわけだ)」
本物の教養を積んだ、上流階級の令嬢―――所詮は貴族の財力と権力に甘やかされて育った者だろうと、どこかで侮っていたことは否めない。
「(どうする? ……ルヴオンスクを遠巻きに見るルートでも、アレに気付かれないでエルネールを運べるか? いや、難しいだろう……となるとやはり、この辺りでコレを用いて空を通すか)」
ペイリーフから貰った魔法道具は、飛距離の限界があると聞いている。高度が取れるので、一度空まであげてしまえばその荷を見つけられる事はなく、また追手の手は届かない。
だが飛ばせる距離が長くないのであれば、まずさらった後にこのルヴオンスクの警戒に引っかからないところまでは何とか陸路を運び、そこからルヴオンスクの上空を飛ばしてマンコック領まで、というのが理想的。
「(コロックの死が近い。もう悩んでいる暇もない。ならばそれで行くしかない)」
スベニアムは腹をくくる。ルヴオンスクを出た後、馬車をマンコック領ではなく、南へと走らせた。
しかし彼が足を止めたのはコロックやエルネールのいるルクートヴァーリング中央に入る前の、俗に北部地域との境と言われる場所に位置したフーオという小さな村だった。
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その翌日。
名代領主コロックの屋敷で、アイリーン、エイミー、ヘカチェリーナが話を交わしていた。
それは他でもない、ヘカチェリーナが母エルネールが狙われている可能性をアイリーンにも伝えるためだ。
「じゃあ、そのマンコック家っていうのがエルネールさんを?」
「うん、狙ってる可能性大。っていうかさらう気満々、みたいな」
マンコック家当主、スベニアムがこの屋敷最寄の町でそのための人員や手はずを整えていたのは、その後の調査でまず間違いないと判断。
さらに、その人員が最近、水面下で妙に動きを見せているという情報も、ヘカチェリーナは掴んでいた。
「……パパの死期が近いし、きっと死んだ時のゴタゴタをチャンスだって思って仕掛けてくる気なんじゃないかなーって。なんでママを狙ってるのかまでは分かんないんだけども」
「エルネールさんが美人だから、っていう事とかじゃなくて?」
つまりアイリーンが言いたいのは、エルネールに惚れている異性が彼女を無理矢理にでも自分のモノにしようとしているのでは? ということだ。
しかしヘカチェリーナは首を横に振る。
「そーゆーんだったら、まだ段階を踏むと思うんだよねー。パパが亡くなって、少し時間が経って色々落ち着いてから、まず正式にプロポーズの手紙とかよこしてきて、それで断られてようやく力づくー、ってな感じでさ」
しかし、相手はすでにさらう気満々で人手を用意しているときている。
こじらせた恋路の成就というセンにしてはあまりにも拙速だ。
「いくらウチが地方貴族の下領の家柄だっつっても、今はもう殿下に名代領主も任されてて、娘のアタシは殿下の専属メイドなワケだから、もしママを攫うなんて事したら、下手すると王家が動くレベルで一大事にもなっちゃいかねないんだよ」
「確かに。そんな事になったら、きっと殿下も黙っていないと思うのですよ」
エルネールは単なる地方貴族ウァイラン家のぽやぽや美人夫人ではない。その立場は今や王弟の名代を務めた者の家族。しかも娘は将来込みで王弟に差し出されているも同然の専属メイドである。
これに手出しする事の意味が、いかに辺境貴族といえども分からないはずがない。
「じゃあ、そのスベニアムっていうのには、旦那さまやお義兄さま達を敵に回してでも、エルネールさんが欲しい理由があるってことになる?」
「うん、そうだと思う。……ちょっとヤバそうだよね」
その意味では、アイリーンが父が亡くなる前に合流してくれたことは、ヘカチェリーナにとっては大変ありがたい。
彼女ならいかなる男が相手でも敵じゃない。スベニアムがどんな屈強な誘拐下手人を用意したところで、母を護り切れるとヘカチェリーナは安堵していた。
「―――も、申し上げます、お嬢様。コロック様の御容態がっ」
「! ……すぐ行く、ママは?」
「はい、すでにお側に……」
「おっけ。一応、屋敷の周りを注意しといて、ヘンな事たくらんでるのがいないとも限らないから、警備厳重にね」
「かしこまりました、担当の者にはしかとお伝えしておきます」
メイドから連絡を受け、3人はコロックの病室に急ぎつつも静かに向かう。
この時、アイリーンも死に立ち会うかもしれないという緊張ゆえか、気づけなかった。
そのメイドが、彼女らを見送ったその後ろで、口元を邪悪に
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