第442話 王弟殿下の戦力展開です
アイリーンがヘカチェリーナ達と合流していたその頃――――――北端地域は対エルフの機運が高まりつつあった。
暴走した若い過激派エルフ達による実際の襲撃は地域領民に衝撃を与え、そしてエルフという存在に対する悪い印象が一気に高まりかけた。
しかし、その市井の流れは前もって予測できていたから、上手く抑えるための手はずは準備済み。
1日と長引くことなくうまく抑えることに成功した。
「クララのおかげで、民が暴発的にならずに済みました。ありがとうございます」
「いやですわ殿下。手立てを講じられていたのは殿下ではありませんか、
確かにその通りなんだけどクララは貴族令嬢だ。庶民の気持ちや意をくみ取って、上手く抑えるには少し不安があった。
それでも庶民と貴族の差を実感して欲しかった僕は、あえてクララに人々の対エルフ感情の過度な悪化を防ぐのを担ってもらった。
失敗も覚悟の上だったけど、僕の不安をよそに、驚くほどクララは上手くやってくれた。
「ですが殿下。エルフへの感情の悪化を抑えるのは本当によろしいんですの? むしろ悪化させた方が、エルフへの対応がしやすくなるような気も致しますけれど……」
「ええ、単純にエルフ全てがどうしようもないほどの敵でしたなら、それでも良かったかもしれません。しかし古くは過激派と縁を切り、王国に
この辺りは官民、あるいは政民分離とでもいうべきか。前世でもよくあった話だ。
とある国が軍事的に侵略を開始したとして、その国の民衆全てが悪とするのは全体視が過ぎる。
ただ、だからといって今回、僕は完全にエルフに対する人々の悪感情を抑えることはしなかった。
なぜなら……
「(悪いのは、ソレを決めて実行に移した国の統率者や権力者であって、かの国の民には罪はなしって
頭ごなしに悪とするのは違うけど、警戒することまで損なってはいけない。
こういうのはどこまでもバランスが大切で、どっちかに振り切ってしまうのは絶対に危険でダメな結果をもたらすんだ。
「ともあれ、人々が過激派エルフの攻撃を認識してしまいましたからね。僕達も次の行動に移っていかないといけません」
・
・
・
セレナがハーフルルの町で行動を起こした過激派エルフに対応しているその間に、僕たちはルヴオンスクからロイオウ領の境に向けて残り7500のうち、3000を進めた。
ルクートヴァーリング地方北端の地形上、セレナが蹴散らしたエルフ達は北の山岳地帯へと逃げ帰る可能性が高いが、その際のルート取りとしてロイオウ領を通過するパターンがあるためだ。
「(……問題は、そのことをほのめかすように伝えてきたのが、狩人のコダだという事だけど……)」
彼の狙いや目的がまだ読めない。
エルフや北端3下領のどれかに完全に味方している様子もない。二重スパイ的ではあるようだけど、そう見せかけておいてやはりどこかと真に繋がっているパターンも捨てきれない。
「ルヴオンスクに4500を残し、マンコック領の監視に500、ハーフルルに2000、そしてここに3000……」
一番怪しんでいるマンコック領向けが一番少ないのは、いい感じに勘違いしてくれたらラッキーだからだ。差し向けてる兵の頭数の差から、王弟殿下はロイオウ領を一番疑っている、と思い込んでくれたらいいなぁ、という程度のことだけど、こういうちょっとしたことが意外と引っかかってくれたりもするから侮れない。
「……イオ兵長。ロイオウ領主に先触れを、領内へ軍を入領する旨を伝えさせてください」
「ハッ、かしこまりました殿下!」
ルヴオンスクにクララと、ひとしきり目ぼしい人材は今回おいてきた。なのでこの3000には僕の補佐に最適な人がいない。
自分の采配だけで動かさなくっちゃいけないから、細々したところにも気を付けないと。
「ユウバ一等兵。騎兵20を連れて先行し、道中の調査をお願いします。エルフ過激派が表だってこのルクートヴァーリング地方内に攻撃を仕掛けてきた以上、油断はできません」
「はいっ! お任せください!」
まだ若い士官に、訓練が十分とはいえない領内で募った兵士さん達。
各任を与えても、十全にこなせるとは限らない。
そこらへんも見越した上で運用していこう。
「ロイオウ領内に入りましたら、トーア平原でまず陣を張ります。考えられるエルフの撤退ルートはこの平原を出口とする、トーア谷を通るはずですので」
エルフ達を山岳地帯に引き上げさせない事にしたのは、山の中だと王国軍の方が絶対的に不利だからだ。
軍隊を運用しやすい平原地だからこそ、エルフを容易く迎え撃てる。
山中だと隊列を組めないので、軍の力は大きく落ちるし、エルフ側は山中でのゲリラ戦に慣れているだろう。
「(攻撃行動を取って来た以上、もう戦いは避けられない。山中に逃げ込まれるにしても、ここで戦力の立て直しが不可能なくらいのダメージは与えておかなくちゃ、後々が辛くなる)」
僕がそう考えていると、先触れに出したはずのイオ兵長がもう帰って来た。何か急いでいる様子で。
「殿下、申し上げます! ロイオウ領内、街道上にてハルバ=ルトン=ロイオウ氏が、……その、兵500ほどを引き連れており、殿下をお迎えに上がった、と……」
「!」
その報告を聞いた時、僕は怪訝に思ったことを隠さなかった。
出迎えるのに500の兵を伴っているというのが妙で、しかもいくらこっちが王弟だからって、領境まで出向くのはおかしい。
これが兵は最低限の護衛2、30人程度で、ルヴオンスクにいる内に僕を訪ねて来るんだったらまだ分かるんだけど―――
「(―――さーて、相手さんは一体どういうつもりなのかなっと?)」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます