第443話 もっと早くに駆けつけるべきです
ロイオウ家は辺境のルクートヴァーリング地方北端にあって、もっとも弱小と言えた。
逆の南端にて下領を治めるウァイラン家同様、ルーツはそこそこあれど、歴代の当主はいずれも優れた人物ではなかったらしく、今よりも力を持っていた事はなかった。
弱小なれど安定して堅実であると言えるが、小さいとはいえ領主を務める者として、富貴にありつけないというのは悲哀である。
貴族の集まりなどに出かけていっても存在感は薄く、低くみられるどころかどこの誰と自己紹介してみても、首をかしげられるのが常。
そんなロイオウ家に幼い頃より不満を持ち続けていたのが、今代の当主であるハルバ=ルトン=ロイオウであった。
「―――つまり、こちらの助けになりたい……というわけですか」
「はい、それゆえこのハルバ=ルトン=ロイオウ。少しでもお力添えできるようにと、
ロイオウ領に入ってすぐ。街道の脇でごく簡単に会見場を設けて、僕はハルバと面会していた。
「(ここで何としても王弟に覚えよくあらねばー、って必死さが伝わってくる。まぁチャンスだと思ってるんだろうけど……さて、どうしたものかなぁ)」
ロイオウ家は、この北の辺境にあっても特に弱小なのは既に分かっている。普段から肩身の狭い思いをしているだろうし、どうにかして隆盛をってとこなんだろうけども……
「(うーん、これは……コウモリ、かもしれないな)」
あっちへフラフラ、こっちへフラフラ。その時々の状況に応じて付く相手や態度を変える。そんな匂いがする。
そもそも、このルクートヴァーリング地方の領主は僕だ。下領の領主は言い方は悪いけれど、そんな僕のお目こぼしで今の地位や領地を治めさせてもらっている。
なのでルヴオンスクでのバン=ユウロスの馬鹿な独立宣言をした頃に、本当なら駆けつけるべきだ。
にもかかわらず、静観していて今になって兵を引き連れて加勢します、っていうのはおかしい。
「(前提として領主の僕に従うのは当然で、下領の人たちが自分を主体に行動するっていうのが間違ってるんだけどなー……んー)」
おそらく彼も、エルフとは少しばかり繋がりがあるはずだ。
あの狩人のコダが、ロイオウ領主と面識があることは分かっているから、彼を通じて本格的でないにしろ、エルフ側とのコネクションは絶対あるはず。
「……では、ハルバ=ルトン=ロイオウ。
「はは、お任せを」
多分、こっちが不利になったらエルフ側に利便を図る……もしくは、こっちの味方に入っておいて、内側から色々とするかもしれない。
「(弱小の悲哀は分かるけど、あっちもこっちもツバつけとこうは、どこからも一番嫌われるパターンなんだけどねー)」
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ともあれ僕達はトーア平原に到着し、陣を敷いた。
「右翼前方にロイオウ軍500を配置致しました。イオ兵長はその後方に500でもって布陣しておいてください―――ロイオウ軍の監視・イザという時の抑え役です……」
「! ハッ、かしこまりました、お任せください!」
「中央前面の1000は僕が指揮します。ユカー伍長は500でその後方についてください」
「!! ハイ、殿下の背中を御守りいたしますっ」
「左翼前方のやや丘になっているところにハーノ少尉、500で配置を。左翼後方はオップ伍長、500で控えておいてください」
「「ハハッ! 殿下の仰せのままに!」」
総勢3500。布陣もまずまず悪くないはずだけど、問題は落ちのびてくるエルフの数だ。
「セレナーク妃将ら2000が撃退したという過激派エルフの一派は、およそ600だったと報告が上がっています。そのうち半数は死傷しているとの事ですから、戦える戦力は実質300ほどという事になりますが……」
「? 何かご懸念が?」
こういうところで察しが悪いのは、やはり人材の差だ。
ルヴオンスクにマンコック家が攻めて来るとは思わないけれど、一番固めなくちゃいけないので、そこにデキる人材を全部置いてきたのは失敗かもしれない。
今ここにいる主だった者は、一番階級が高いハーノ少尉でも、僕が言わんとしている事にまるで思い至ってない様子だった。
「途中で新手が合流し、敵数が増える可能性を、僕は懸念しています」
ハーフルルの町でセレナが撃退した時、彼らは山中の魔物を利用してこなかった。つまりいつかの時みたいに魔物をコントロールして利用することはエルフには出来ないということだ。
おそらくは、あくまでもある程度の誘導が限界なんだろう。
なのでエルフが戦力として魔物を用いて来る可能性は、現状ではかなり低い。
だけど……
「そもそも北の山岳地帯に潜んでいたエルフ過激派一党がどれだけの数がいたのか判明していません。今回、ハーフルルでセレナーク妃将が撃退したのが全てだと思っていると、予想外の敵に対応できなくなるでしょう……敵は
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